「手紙」が物語のカギを握る小説といえば、誰もがまず思い浮かべるのは夏目漱石の「こころ」ではないでしょうか。
前半に登場した謎多き人物が、後半にその全てを手紙という形で独白する――その斬新な構成と展開は色褪せず人々を魅了し、今なお広く読み継がれています。そこで今回は、「こころ」以外にも実は手紙が重要なカギとなっている小説を、三冊ご紹介します。
友情
一冊目は「友情」(武者小路実篤著)。明治時代に戯曲家・小説家として広く名を遺した著者。その厳めしい名前から、なんとなく難しい内容の本だと誤解していませんか?実はこの小説、中身はとっても読みやすい恋愛小説なのです。美しい杉子に心を奪われる主人公と、それを応援する主人公の親友。しかし主人公は、杉子が親友に恋心を抱いていることを薄々感じ取っています…。
夏目漱石文学を継ぐ“三角関係”をテーマとしたこの小説。実際に本作中にも『それから』を引用していることから、著者の夏目漱石に対するリスペクトが感じられます。そして『こころ』と同様に、後半で公開される往復書簡に注目!!手紙という形で全てを解き明かすことでもまた、夏目漱石文学を踏襲していると言えそうです。まだ読んだことがない方も、ぜひ気軽に手に取って読んでみては。
つぐみ
二冊目は「つぐみ」(吉本ばなな著)。
1989年に発刊されるや否や大ベストセラーとなり、山本周五郎賞を受賞した作品です。海辺の街に暮らす病弱で美しい少女・つぐみ。しかし彼女の内面は、粗野で乱暴で毒舌でいたずらが大好き。主人公のまりあも、つぐみの家族も、日常的につぐみに振り回されています。そんなつぐみたちの住む街にやってきた恭一と、つぐみが出会ったことで物語は静かに動き始めて…。
この物語もまた、手紙がキーを握ります。お化けのポストに入っていた亡きおじいちゃんからの手紙、ラストに届けられるつぐみからの手紙…。特につぐみからの手紙は、淡々とした文面なのにも関わらず、不覚にも胸が熱くなってしまうことまちがいなしです。かつて読んだことがあるという方も、この機会にぜひもう一度手に取ってみてはいかがでしょうか?
ポプラの秋
三冊目は「ポプラの秋」(湯本香樹実著)。1997年に出版されて以来、世界10か国で翻訳されるなど、静かにそして広く読み継がれている珠玉の名作です。突然の事故で父親と死別し、心を閉ざした母親と共にさまよい歩く小学生の千秋。ある日ふと見つけた、庭に大きなポプラの木があるアパートで暮らすことになり、そこで大家のおばあさんと出会います。得体の知れない死への恐怖で、アパートから外に出られなくなる千秋。おばあさんは、「手紙を書けば、あたしが死ぬとき、あの世に届けてやる」と約束してくれます。そして、大きくなった千秋が知った真実とは――。
周囲にいた大人たちが幼い主人公に注ぎ続けた温かいまなざしと、堅く守り抜かれた秘密に、心が揺さぶられる名作です。物語のラストに封印を解かれる長い長い手紙には、言葉を失う衝撃を受けてしまうかも。読書フリークたちの中で長く根強い人気を持つこの一冊を、ぜひ一度手に取って読んでみては。
以上が、私がおすすめする「手紙がキーを握る小説三選」です。どれも内容の質が高い上に、驚くほど読みやすい作品ばかりです。ぜひ気軽に手に取ってみてはどうでしょうか。