日本では特定の宗教を信仰する人が少なく、祈りというとすぐに宗教を連想しがちですが、宗教の差に関わらず、祈りの根底はどれも同じような気がします。
日本は八百万の神という通り、万物に魂や精霊が宿るという精霊信仰もありますし、結婚式はキリスト教式、神前式、お墓に入るときは仏教と様々な形で神や仏の存在を身近に感じている国民ともいえるでしょう。
今回は、そんなカトリックなど、宗教の差を越えた普遍的な祈りについての本を紹介いたします。
巡礼者たち(新潮クレスト・ブックス)
エリザベス ギルバート(著)(新潮社)
12編の短編集。人の数だけ人生はあり、正直に生きるが故に悲しい運命を背負った人間たちが描かれています。巡礼者といっても、この小説の場合は、人生を生きていくうえでぶつかる出来事や、新たな土地を目指す人という意味で使われています。
今の自分ではない自分、ここではないどこかを求めて彷徨う人々。何かを乞いながら、願い続けながら生きていき、大地に足をつける安心感。どの話も粒ぞろいのはずれなしの短編集です。
ギタンジャリ(レグルス文庫)
ラビンドラナート タゴール(著) (第三文明社)
アジア人初のノーベル文学賞を受賞した作品。インドが生んだ天才詩人タゴール。その文章はひとつひとつがきらめくように流れ、謙虚で素朴、清らかで深い愛に溢れています。注釈と解説、英語訳もついた完全版。神に捧げる詩として書かれたものですが、宗教の壁を越えて訴えかける大きな喜びと美。綺麗な言葉を紡いだ夢のような詩です。
ファミリー・ライフ(新潮クレスト・ブックス)
アキール シャルマ(著)(新潮社)
インドからアメリカに移住してきた一家。優秀で将来を期待された兄がプールでの事故で脳に損傷を受けてしまう。介護にかかりっきりでヒステリーな母、アルコール依存症の父、怪しげな民間療法を薦めては去っていく身勝手な人々。
弟のアジェは祈ることと書くことで癒しを求める。重々しい内容ですが、あっさりとした淡々とした語り口で進められる作者の自伝的小説。フォリオ賞・国際IMPACダブリン文学賞受賞作品です。
祈りとは言葉を与えた愛の形。自分のためではなく、愛おしいだれかのために。自然に、大きな宇宙に。
生きとし生かされているものすべてに祈りをささげていきたいと思わされる本です。多様的な文化背景を学ぶことによって、より広い視野をもつことができるでしょう。