人は、ともすると現在の状態だけで、他人を評価しがちの部分があります。
その人が、これまでどんなことを経験して今に至ったか、そういうことを想像せずに済ますことがあるものです。
自分の人生だけでは想像力が足りない、そう思ったときにオススメの本をご紹介します。
『戦争をくぐりぬけたおさるのジョージ 作者レイ夫妻の長い旅』
戦争をくぐりぬけたおさるのジョージ―作者レイ夫妻の長い旅 (大型絵本)
著・ルイーズ・ボーデン
「おさるのジョージ」というシリーズを知っていますか?作者は、レイ夫妻。ドイツ生まれのハンスとマーガレットのふたりです。「おさるのジョージ」の絵本はアメリカで出版されましたが、本ができるまでの道のりは、長くきびしいものでした。ヨーロッパで戦争が始まり、ふたりは自転車でパリを脱出。スペイン、ポルトガルを通り、船でブラジルへわたり、アメリカにたどりつきました。
長い旅の間、荷物の中には、おさるのジョージの絵が大切にしまわれていたのです。
ナチスの侵攻を逃れて、戦火のパリを脱出したH・A・レイとマーガレット夫妻。その波乱に満ちた旅の詳細を描くノンフィクションです。夫妻が残した手紙やノートや写真を数多く収録されていて、生き生きとしたイラストとともに、時代の雰囲気までも伝えてくれる貴重な本です。
『西遊記』
著・呉承恩
昔むかし、海のかなたにある高麗国で、高い山の不思議な石から1ぴきのサルが生まれました。名前は孫悟空。筋斗雲に乗って空を飛び、72通りの術を使いこなします。三蔵法師のお供をし、ブタの猪八戒、妖怪の沙悟浄とともに、インドまで経典を取りに行く旅に出かけた孫悟空に、思いがけないできごとがつぎつぎにおこります。
長い長いこの旅は、まさに波瀾万丈。16世紀に中国でつくられた物語ですが、今も多くの人に読まれています。
時代も舞台背景も、現代の子どもたちには遠いものですが、しっかりした冒険物語の骨格をもち、テンポのよい展開でいつの時代にも子どもの心をとらえることでしょう。
『ほこりまみれの兄弟』
著・ローズマリー・サトクリフ
両親が亡くなり、10歳の少年ヒューはひとりぼっち。意地悪なおばさんの家から逃げ出しました。道連れは犬のアルゴス、そしてお母さんが大事にしていた鉢植えのツルニチニチソウ。めざすのは、お父さんが話してくれた大学の街、オックスフォードです。とちゅうで旅芸人の一行と知り合いました。芝居を上演しながら旅をする、自由ですてきな人たちです。
ヒューも、女役で舞台に立ちます。ふくらんだスカートをはいて、優雅におじぎをし、クジャクみたいな悲鳴をあげて、舞台をかけぬけるのです。
英国児童文学を代表する作家の若いころの作品です。16世紀、エリザベス1世の統治のもとで大国となろうとするイギリスが舞台の、古風な作品ではあるが、さまざまな人との出会いの中で自分の進むべき道を選択する主人公の姿には、時代を超えた普遍性が感じられます。
波乱万丈の人生という言葉ではとても済まされないような経験を本から読み取ることで今後の人生にもなにかの糧になることでしょう。
もともと読書の喜びというものは、他人の人生を、しかもいくつもいくつも経験できるというところにもあるのですから。