あの人は美人だ、かっこいい。いいひとそうな笑顔だ、怖そうな人だ。人の見た目や表情や仕草、食べ物のパッケージや広告など、視覚から入る情報で物事を判断することが多いと思います。
ある広告会社の調査によると、人間のコミュニケーションの93パーセントは視覚からの情報を得ているとの結果も。今回は、私たちの決断に大きな影響を与える「見るということ」について書かれた小説を紹介いたします。
白の闇
ジョゼ・サラマーゴ(著) (日本放送出版協会)
映画「ブラインドネス」の原作。突然伝染した目が見えなくなる病気。政府は感染を防ぐため、患者を隔離施設へと送る。見えないことから秩序が失われ、人々から理性は失われていきます。その中にたった一人、目の見える女性が紛れ込んでいて、人々を正しい方向に導いていくという物語です。倫理観や道徳について考えさせられるノーベル賞作家の渾身の一作です。
蔵〈上・下〉
宮尾 登美子(著) (角川文庫)
旧家の蔵元のお嬢様が小学校入学前に失明する病を患ったことが分かり、家族の強い絆をもって時にはぶつかり合いながらも生きる道を模索していく物語です。古き良き蔵元の世界、運命を受け入れて積極的に生きていくヒロイン。盲目になって嗅覚だけを頼りに女人禁制の酒蔵で持ち前の明るさで乗り越えていく姿は、昭和の古き強い女性像を思わせます。
爪と目
藤野 可織(著) (新潮社)
芥川賞受賞作品。父が不倫していることもすべて見えている三歳児と、なにもかも見えないようにすごしている継母。独特の二人称言葉で綴られる「わたし」と「あなた」に恐怖感を味わいます。無意識に見たいものは好きに解釈し、見たくないものは目を閉じている。真実がどこにあるのか、自分の見ている世界とは?心理的な視覚を味わう小説です。
カジュアルな英会話で「分かった」ということをI see(みたよ)という表現をするように、見るということは生理学的な視力の有無という意味と、心が通った、理解したという意味もあります。何かを見るということは、何かを受け入れるということなのかもしれません。