就活生、大学生の方は本を読んでいますか?
就活の面接やES、自己分析はもちろん大事ですが、
実際の社会人が何を読んでいるのか、何を不満に思っているのかを分析する上で、人気ビジネス書を読むのは非常に有効です。
新卒市場ではなかなか教えてくれない「社会人の現実」。
「辛かったら転職」が当たり前の世の中ですが、実際の社会人が読んでいる本で、進路について考えてみるのがおすすめです。
今回はそんな就活生、新社会人に向けたおすすめ本を紹介します。
- 1.やりがいある仕事を市場原理のなかで実現する!
- 2.日本の課長の能力
- 3.失敗から「学んだつもり」の経営
- 4.内部告発 潰れる会社 活きる会社
- 5.経営の力学—決断のための実感経営論
- 6.もう、不満は言わない
- 7.ドラッカーとトヨタ式経営—成功する企業には変わらぬ基本原則がある
- 8.変革を定着させる行動原理のマネジメント—人と組織の慣性をいかに打破するか
- 9.世界でいちばんやる気がないのは日本人——成果主義が破壊した「ジャパン・アズ・No.1」
- 10.「世界標準」経営—強い企業を創る戦略発想
- 11.リーダーの資質
- 12.ぶれない—骨太に、自分を耕す方法
- 13.ムダな仕事はもう、やめよう!
- 14.会社文化のグローバル化—経営人類学的考察
- 15.非常識経営の夜明け 燃える「フロー」型組織が奇跡を生む 人間性経営学シリーズ2
- 16.プロフェッショナルプレゼン。 相手の納得をつくるプレゼンテーションの戦い方。
- 17.フォーカス・リーディング 「1冊10分」のスピードで、10倍の効果を出す いいとこどり読書術
- 18.意欲格差
- 19.サラリーマン「再起動」マニュアル
- 20.未来を予見する「5つの法則」
- 21.自分をグローバル化する仕事術
- 22.日本型「企業の社会貢献」—商人道の心を見つめる
- 23.村上式シンプル英語勉強法—使える英語を、本気で身につける
- 24.「わかる」と「納得する」—人はなぜエセ科学にはまるのか
- 25.91%の社員は「ムダ!」である
- 26.21世紀の国富論
- 27.コラボレーション組織の経営学
- 28.ベンジャミン・フルフォードのリアル経済学
- 29.日本的人事管理論—組織と個人の新しい関係
- 30.全体最適の問題解決入門—「木を見て森も見る」思考プロセスを身につけよう!
- 31.企業の社会的責任(CSR)の徹底研究—利益の追求と美徳のバランス-その事例による検証
- 32.[実学・経営問答]人を生かす
- 33.壁を壊す
- 34.なぜ、できる人から辞めていくのか?
- 35.いま、すぐはじめる地頭力
- 36.没落からの逆転—グローバル時代の差別化戦略
- 37.サラリーマンのための大学教授入門−なるためにすること、なったらしなくてもいいこと
- 38.中堅崩壊—ミドルマネジメント再生への提言
- 39.パーソナル・グローバリゼーション—世界と働くために知っておきたい毎日の習慣と5つのツール
- 40.偽装管理職
- 41.京都花街の経営学
- 42.企業市民モデルの構築—新しい企業と社会の関係
- 43.新訳経営者の役割
- 44.不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか
- 45.法律より怖い「会社の掟」
- 46.部下を壊す上司たち—職場のモラルハラスメント
- 47.リスク過敏の内部統制はこう変える!
- 48.無形資産価値経営—コンテクスト・イノベーションの原理と実践
- 49.経済学の再生—道徳哲学への回帰
- 50.内部告発が社会を変える
1.やりがいある仕事を市場原理のなかで実現する!
渡邉正裕
光文社
著者の言うように、確かに「やりがい」探しができにくい時代です。
筆者の言う「ビジネスの単位が小さいほうが経営を学べる」ということも私の実感と同じです。大企業はセクショナリズムが激しく、全体を俯瞰して物事をみる習慣が無いし、根づいていません。同じ管理職を比べてみても大企業の方が幼稚な感がするのは私だけではないでしょう。
日経の記者時代の著者の振る舞いが書かれていますが、著者の考え方は真っ当です。マスコミほどスタッフ部門が遅れている組織はないだろうと思えるほど遅れています。本当は記者であるほど、世の中に敏感でなければならないはずですが、イメージとは異なり偉くなるほど怠慢と化していきます。筆者の記者時代もそれらの祖語に嫌気がさしたのでしょう。
後半は、自らの仕事としての「もがき」が文章に表現されているようでした。意外にユニークな本でした。
2.日本の課長の能力
梅島 みよ
日本経済新聞出版社
本書は人材の能力を評価するアセスメントの結果を基に、日本の中間管理職である課長の能力や特性を、アメリカとの比較で分析しているものです。その分析を1971年以来40年間も行っていたらしく、それらの膨大なデータから日本の課長の能力が浮かび上がってきます。
課長の特徴として、「討議や資料から的確な情報を掴み取り、それらを総合して判断する明晰な知力を持ちます。そして仕事に活力を持って持続的に取り組む人々」らしい。しかし、リーダーシップと計画組織力は低い傾向があるらしいです。また、ストレス耐性に関しては日本よりもアメリカの方が高い結果も記されています。
日米比較から、「適所適材のアメリカ人、適材適所の日本人」という分析は面白いです。その他、様々な観点が見え隠れしており、それを知るだけでも面白いです。
3.失敗から「学んだつもり」の経営
清水 勝彦
講談社
いわゆる「失敗学」を基にした書籍です。著者は「失敗から学ぶ」ことと「失敗から学んだつもり」では、一見曖昧ではありますが、その差は大きいといいます。そして、失敗の因果関係を説明すれば「学んだつもり」であるとし、失敗してから学ぼうと努力しても、もう遅いと断言します。
一般に、失敗から学ぶということは頻繁に言われていますが、本当に企業は失敗から学んでいるのかという疑問から本書の解説は始まります。では何故「失敗から学んだつもり」になるのかという観点から、筆者は、失敗の原因分析およびその因果関係を判断した基準も、ベースにある考え方が同じであれば、解明した修正点も役に立たないからであると論じます。つまり、想定されなかった動きの「気づき」「発見」を通じて、「見方をかえる」ことが、「失敗から学ぶ」ことにつながるという主旨です。
人間は過去の経験から物事を考えていきますが、失敗を通じて本当に学んでいたのか、学んだつもりになっていたのか、もう一度振り返って考えてみる良い機会を本書で得たように思います。
4.内部告発 潰れる会社 活きる会社
諏訪園 貞明, 杉山 浩一
辰巳出版
数多くある内部告発に関する本の中で、より分かりやすく、ある種ノウハウ本のように気楽に読める内容の本であると思います。
第1部は企業不祥事を摘発する立場から解説しており、第2部は主に自らの組織に発生した場合の対処法に関する内容になっています。
事例も多く盛り込まれていますが、基本となるのは経営者の姿勢や意思決定です。
かなり重要な内容も、このように噛み砕いて書かれていると、初めて読んだ人にとっても理解促進に役立つのではないでしょうか。難しい参考書を読む前に、まずは本書を一読しておくと良いかもしれません。
5.経営の力学—決断のための実感経営論
伊丹 敬之
東洋経済新報社
経営の様々な観点を「力学」として捉えた傑作です。作用と反作用の関係や、横並び、エントロピーの力学など、その視点はかなりユニークなものとなっています。中でも、第8章の「カニは甲羅よりも大きな穴を掘れ」は、大変理解しやすい例え話となっています。
個人的には、企業の社会的責任が問われている今、著者の提示する第12章「お天道様に恥じない経営」は、興味深く読ませて頂きました。終章での「経営の公理」もまた、簡潔に本質を言い当てていると感じられます。
「力学」というツールを巧みに利用しながらも、大変参考になる考え方を提示しており、久しぶりに感動を与えてもらった感があります。
6.もう、不満は言わない
ウィル・ボウエン
サンマーク出版
基本的には不満を言うことは、結局自分に帰ってきてしまうということでもあり、不満を表にあらわすことは不合理を招くという解釈です。その不満を如何に口にしないようにするかという点で、手にブレスレットをすることで、常に意識させることに繋がります。そして最初は、不満を言えばブレスレットをした手から逆の手に付け替えることで、更に意識を与え続けます。
著者は21日間続けるように仕向けますが、それで本当に不満を口にすることが減っていくのかは、私自身実行していないだけに、まだ半信半疑です。
ただし、不満を言わず常にポジティブに考え、行動を起こす人は、総じて明るい性格であるように、私の周りの人間からは、そううかがい知ることができます。
7.ドラッカーとトヨタ式経営—成功する企業には変わらぬ基本原則がある
ドラッカーとトヨタ式経営―成功する企業には変わらぬ基本原則がある
今村 龍之助
ダイヤモンド社
ドラッカーとトヨタ生産方式の共通点に関して、ドラッカーの言葉を引用しながら論理を整理しつつ述べられています。
現在においてトヨタのやってきたことは、至極真っ当なことでもあり、日本を代表する企業となり、賞賛されていることも本書のような論点を強調することに繋がっているのでしょう。
しかし、私自身もドラッカーの本は多数読破し、その考え方の先見性と卓越した考え方に共感したものの、本当にそれとトヨタがイコールなのかは疑わしいと考えています。
本書は、ドラッカーの言動を改めて再確認するにはもってこいの本でもあります。
8.変革を定着させる行動原理のマネジメント—人と組織の慣性をいかに打破するか
変革を定着させる行動原理のマネジメント―人と組織の慣性をいかに打破するか
中島 克也
ダイヤモンド社
基本的には、学習心理学の分野を利用している内容です。行動への動機づけをきちんと行うことで、社員の行動を意図した方向に持っていくことができるということです。
著者はそのために、「承認」というプロセスを重要視します。これは、その人の存在意義を明確にさせるため、常にフィードバックとして作用させることが必要と説いています。
本書の中では「慣性」ということにも着目しています。これは、人、職場、会社がある種伝統とでもいえる文化(行動様式)を持っており、単身で変革しようとも、馴染んでしまい易く、なかなか変革が難しいのです。トップのコミットメント等の手段は書かれてありますが、私はそれでもまだ弱い(インパクトが足りない)と感じています。著者による更なる示唆を希望してやみません。
9.世界でいちばんやる気がないのは日本人——成果主義が破壊した「ジャパン・アズ・No.1」
世界でいちばんやる気がないのは日本人――成果主義が破壊した「ジャパン・アズ・No.1」 (講談社+α新書)
可兒 鈴一郎
講談社
タイトルの基は、米国の大手人事コンサル・タワーズペリン社の「グローバル競争時代の人事マネジメント」という調査結果です。そして、著者はそこから「管理職の質の問題」を重視しています。要点は、管理職は偉い人ではなく、部下にやる気を起こさせる人であるかという点です。
本来部下のモチベーションを上げることに尽力すべき者が、逆にやる気をそいでいることに、著者は警笛をならしています。「行動科学を知らない日本人上司」という項がありますが、これは日本の多くの企業に当てはまる事実と思われます。
本書は北欧系のビジネスに精通している著者の経験も述べられており、最後まで「とらえどころ」としては面白い内容を提供してくれます。
10.「世界標準」経営—強い企業を創る戦略発想
堀 紘一
PHP研究所
堀紘一氏が、まだBCGに居る頃に書かれた本です。読み終えてみると、マネジメントに関する限り、未だイノベーションは起こっていない感じがしました。何故なら、1997年に書かれた書籍ではありますが、まだまだ最新刊としても十分通用する内容であるからです。
確かに事例は、やや古めかしさを感じます。「大企業にプロデューサー制」等は、現代のプロジェクトマネジメントのはしりかも知れませんが、未だにプロデューサー的にはなっていません。ずばり「コアスキルのどの部分が足りないかは、プロマネ個々人の問題より、会社の特質によるところが大きい」というのは、全くその通りです。また、組織学習能力を高める上での障害として考えられる要因(p.143)も、明らかにその通り、納得ができるものです。
11.リーダーの資質
稲盛 和夫
PHP研究所
本書は、リーダーシップにも様々な観点もしくは要諦があることを示しています。特に中坊公平氏の司法を通したリーダーシップは、私のなかなか知らない「二割司法」 の問題など、新たな観点を知ることができました。また中坊氏を通じてレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を引用した言葉に深い感銘を受けた次第です。
大前研一氏からは方向転換には自己否定ができるリーダーが必要であることを知りました。そして自ら自己否定ができない日本の現状もうなずける内容です。
中曽根康弘氏からは政治を通したリーダーシップの観点から、特に歴史を知ることの重要性を指摘しています。北岡伸一氏もそれに続き、徳川幕府後期では人材登用の硬直性があり、有能な人材を登用できていないことが、西郷や大久保のような人材が輩出できなかった要員と説いています。そして「学問」がリーダーの条件とし、自ら考えることの重要性を述べています。
12.ぶれない—骨太に、自分を耕す方法
平山 郁夫
三笠書房
日本画家の平山郁夫さんの書です。著者のひととなりを知ることのできる本でもあります。
最初に記述されている「「底辺」を広げると「高さ」が生まれる」という内容は、本の後半の「いつも「キラリ」と光らせる」という内容にも引用されていますが、底辺を広げる「部品みがき」、つまりその地道な取り組みが大きな成果の基となると説いています。
また、歴史を学び、教養を身につけることが人間の器を大きくすることにつながることなど、人生の先輩からの貴重なアドバイスと捉えると、納得させられることも多いです。また、ぶれないためには、右も左も知り、真ん中をも知る。そして自身を知ることができるという旨の解釈も実にユニークです。
著者が得た人生観を、たった一冊の本ではありますが、その本から自身の生き方と比較できる喜びを味わえます。
13.ムダな仕事はもう、やめよう!
吉越 浩一郎
かんき出版
基本的に著者の主張には大賛成です。
無駄な残業というよりも、根本的に作業能率が低すぎるのです。本来、まともに(ある程度集中して)仕事をしているならば、欧米よりも遥かに抜きんでた成果がでるはずではないだろうかと思ってしまいます。著者は日本のホワイトカラーを「肉体労働者」と指摘しますが、確かに現状を言い当てているように思われます。
論理的思考力の弱さやGNN(義理、人情、浪花節)もその通りです。
実際にやろうと思えばやれるのに、それを「できない」と捉える企業も多いと思いますが、多くは「ムダ」を「やりがい」と勘違いしているのではないでしょうか?会社のトップも含め、特に労務や人事は、一読して、本腰で「ムダ」を無くして欲しいものです。
14.会社文化のグローバル化—経営人類学的考察
大阪東方出版
経営学や社会学から企業の文化に関して捉えた書籍は多いですが、本書は人類学、あるいは経営人類学とでも称する観点から企業、特に海外進出をしている企業を丁寧に探求しています。
本書は、序論での解説に魅かれ購入した。特に「ウェーバーを疑う」という内容以降は、新たな観点を頂いた思いです。
本書は章立てごとに、ヤオハン、カルフールから回転ずし、醤油など、面白い題材について書かれています。私自身は、以前MBAでのマーケティングの課題で、カルフールを扱った関係で、本書のカルフールの中国進出に関する内容は、中国国内での受け止め方という観点から大変興味を持って読ませて頂きました。
また、最終章の方法論的アプローチに関する論文も、組織と個人や事例研究を交えたものであり、大変よい論文でした。
15.非常識経営の夜明け 燃える「フロー」型組織が奇跡を生む 人間性経営学シリーズ2
非常識経営の夜明け 燃える「フロー」型組織が奇跡を生む 人間性経営学シリーズ2
天外 伺朗
講談社
基本的には、「フロー経営」、「燃える集団」、「長老型マネジメント」に関する記述です。サッカー日本代表の岡田監督に関してもマネジメントの観点から記述されており、その内容は興味をそそります。後半には、その前のトルシエ監督についても考察しているが、トルシエその人が本当に意図したかどうかは別として、その行動なりを考えてみると、実は「深い」意味があるということも理解できます。
著者がつとめていたソニーが経験した転落の道のりとして、ジャック・ウェルチの考え方への追随、ここでは特にEVA(経済付加価値)重視の手法への傾倒と論じている点は面白いです。
内容の濃密性ではちょっと物足りないですが、簡単に読めてしまうところは大変よいと思います。
16.プロフェッショナルプレゼン。 相手の納得をつくるプレゼンテーションの戦い方。
プロフェッショナルプレゼン。 相手の納得をつくるプレゼンテーションの戦い方。
小沢 正光
インプレスジャパン
プレゼンを商品と捉え、クライアントに対してどのように解っていただくかという視点で書かれています。
プレゼンに関しての書籍は多くありますが、ここではプレゼン作成のテクニカルな内容ではなく、何のためにプレゼンを行うか、プレゼンへの心構えなどが盛り込まれています。
著者は博報堂でプレゼンの実践を積んできたことから、プレゼンで用いるフレーズなど、クライアントが理解してくれる点に重点を置きます。
これからプレゼンを行うことになる若手のサラリーマンにとっては、その緊張をほぐす意味においては一読も意味があるでしょう。
17.フォーカス・リーディング 「1冊10分」のスピードで、10倍の効果を出す いいとこどり読書術
フォーカス・リーディング 「1冊10分」のスピードで、10倍の効果を出す いいとこどり読書術
寺田 昌嗣
PHP研究所
本書は、早く本を読みこなすにはどのようにすればよいかという視点で描かれています。ただし、単に読むだけではなく、そこから何を得るのか、それをどう活用していくのかといった本質をつかみ取ることの重要性も合わせて説いています。
さらに、内容理解に対して単に一度読んで終わるのではなく、読み重ね、つまり2度3度読んだ上で理解することも説いています。
個人的には、この本で描かれた読書の方法は、彼の場合の一つのメソッドであり、それが自分にとってベストな手法であるかは不明です。やはり、最終的には自分にとって一番の手法を自ら見出すべきでしょう。
18.意欲格差
和田 秀樹
中経出版
既に格差の問題は様々なところで言われていたことではありますが、ここでは個人のモチベーション、つまり行動する源としての意欲そのものに格差が生じてきているとする捉え方にオリジナリティがあります。
格差の一つは、教育の格差。親の学歴に準じて子供の学習意欲や学習環境が変わるという内容です。二つ目は敗者復活が不可能という格差。これは正社員として就職できなかったフリーターは、その後もフリーターのままであるという統計上の数字が物語るという意です。
それらに合わせ要因としては、団塊世代の敗北感や、マスコミの影響などが登場します。更に格差は、地方の格差として、都会に出ようという意欲など生じず、意欲なく地元志向に陥る若者が発現されると分析しています。また、その地方には高学歴者の受け入れに叶う仕事がなく、二極分化の構造は様々な面に及んでいることが読み取れます。
19.サラリーマン「再起動」マニュアル
大前 研一
小学館
著者の指摘している点は、確かに現実を言い当てていることが多いです。「残業代稼ぎ」のメンタリティも、「優秀な人でもフリーズ」もその通りです。大きな組織の中に居ると、いること自体が心地よく、そのために外を見ないために比較することなく、入社の時は優秀な者が、知的怠惰となり、やる気も失った死んだ目を持つに至ります。企業の突然死は、企業そのものも原因がありますが、それを構成している個人にも大きな原因があるのでしょう。
特に興味を持って読んだのは、第4章と第5章です。数社共同の人事シェアードサービス会社が設立されているなど、定形化された業務に関しての革新は速いスピードで進んでいることを改めて確認させられました。第5章では、メディア関係に関して語られていますが、私自身はメディアほど経営能力に長けた戦略人材は少ないと考えています。著者の指摘にもあるとおり、通信が放送を飲み込むという認識を持ってないところが、もはや時代遅れの感があります。
20.未来を予見する「5つの法則」
未来を予見する「5つの法則」~弁証法的思考で読む「次なる変化」~
田坂 広志
光文社
文章の簡潔さの中に、時代を読み解くヒントが沢山盛り込まれています。
内容は、既に著者がかつて述べているものの総まとめ的であり、その中でも鍵となる概念は、「螺旋的発展」と「原点回帰」、「未来進化」です。歴史を学ぶとそこから新たなトレンドというものを予見することができ、法則のようなものです。
また、「「量」が、一定の水準を超えると、「質」が、劇的に変化する」という主張も十分に理解できます。我々の身近なものでも(私自身の体験でも)、英語の単語量や会話を聞く時間がある程度超えると、今まで何を言っているのかわからなかった映画の会話が、ある時、何となく映画の会話が聞き取りやすくなっていたりすることがあります。小さい頃の自転車に乗れるようになった時、鉄棒の逆上がりができるようになった時などなど、ある時突然できるようになる経験は確かに感じ取っています。
21.自分をグローバル化する仕事術
天野 雅晴
ダイヤモンド社
日米の仕事の仕方、とりわけコミュニケーションの取り方の違いなどを実体験を通じた観点から述べられています。そのキーワードは互いの意見を尊重しつつ共存を図る多様化でしょう。
一つ参考になった点は、シリコンバレーでは学会に参加することも学習の一つであると考えられている点です。学ぶべきところと最先端に出くわすところ、そして何よりも研究者や実業家との人脈の広がりが、自身の目的に対して大きなプラスになっていると感じています。
本書でも、多様化社会では会社を超えたネットワークを重視しています。多くの人は社内でのコミュニケーションなど「社内」にこだわりますが、本書でも述べられているとおり、「チャンスは会社の外にある」という指摘は納得できます。
22.日本型「企業の社会貢献」—商人道の心を見つめる
青木 利元
東峰書房
昨今、社会的貢献ないし社会貢献という言葉は、「貢献」という言葉に秘められる積極性という響きから、多くの企業で用いられてきています。本書においても、まず最初に企業の社会貢献の定義として、経団連の「本業以外に、本業とは別に」という言葉を強調した上で、「企業の社会貢献活動とは、営利を目的とする企業が行う社会の利益を目的とした非営利の活動(p.8)」と、定義しています。
本書の展開として、ナンシー・ロンドンの『日本企業のフィランソロピー』という著書を引用し、近世日本の商人道について考察しています。これから石門心学、渋沢栄一らをはじめ現代までの倫理や社会的貢献活動について述べられています。特に利益と社会貢献の関係については、現代でもホットな研究対象にもなっており、有用な見解を得ることができます。
23.村上式シンプル英語勉強法—使える英語を、本気で身につける
村上 憲郎
ダイヤモンド社
グーグルの日本法人社長の書いた英語の本ということで、大変ユニークな勉強方法が掲載されています。
単語の増強法は、参考になると感じます。英語を使ってない最近では、かなり単語に自信がなく、単語があやふやであると、文章すら出てこないことになったり、変な言い回しをしたりと、影響が大きいですが、本書の単語の増強法は、参考になると感じます。熟語は「捨てる」と言い切るところも面白いです。
英作文ではなく「英借文」で乗り切るという視点は、目から鱗です。テンプレートがあれば、簡単に応用できる点で有用なアドバイスでしょう。
語学力が落ちてきていることに気がつきながら、何もしていない自分が少し恥ずかしい思いですが、まずはできることからやってみようと思った次第です。
24.「わかる」と「納得する」—人はなぜエセ科学にはまるのか
松井 孝典
ウェッジ
わかることとは一体なんだろうか。そのような疑問に関して様々な観点から述べられています。
最初は科学的な「わかる」に関して、とても科学的とはいえないニセ科学からスタートする。この手のニセ科学的話は、マイナスイオンは「身体に良い」をはじめ多くの事柄が現在もまことしやかに信じられています。著者は科学的(合理的)思考の欠如と断言しますが、現在の多くのものはその科学的(合理的)思考そのものが何かを理解し得ていません。
本書の第2部は、松井、山折、鷲田の討議である。そこでは宗教や哲学の関係から「わかる」と「納得する」とは何か、そしてその違いが論議されます。西欧との比較などの観点もあるが、中でもユニークな視点として「レンタルの思想」という内容に興味をひかれました。
各々が違う分野の研究者が、ある事の探究のために対談すること自体、大変面白く感じた次第です。
25.91%の社員は「ムダ!」である
梅森 浩一
講談社
外資系の人事を行ったいた著者が、サラリーマンを辞め、その後またサラリーマンとして外資系人事部に戻る経験から、サラリーマンの居心地という点をまず最初にあげています。
そして、今必要とされているものは、無難に仕事をこなす人間よりも、エンゲージメントな社員であることを強調します。それは積極的行動、他者との差別化、仕事への万全の状態保持等です。
本の中で著者の上司がチャレンジ(リスクをとる)しなかったことを残念であるという旨の内容が記述されていましたが、この考え方と本書で引用されている指標において「仕事への意欲が最低な日本人」なる結果が妙に合致しています。日本企業の多くは自らの責任でリスクをとれるマネージャー人材は育成されておらず、その分、人材のストレッチ(能力の向上等)が少ないということでしょう。
26.21世紀の国富論
原 丈人
平凡社
著者はビジネススクールの罪の部分としてROEなどの指標に偏った経営ないし経営手法というものに違和感を抱いています。現在では一面ではそのような部分もあるものの、多くは短絡的な考え方とはなっていないと私は考えます。
私も著者の社会の発展の根本に技術やインフラが大きく影響しているという論には賛成です。また、昨今の製造業軽視の見方に、一石を投じている点は高く評価したいです。さらに優秀な人材を世界中から日本に来てくれるように社会の志向を変えていく点も重要です。
世の中が益々短期志向に向いている中、長期的な視野を持つことの重要性が本書で説かれている点こそ最も大切なことです。そして著者の視野が発展途上国におけるインフラや利便性を含めた生活の向上に向けられていることに、素直に感動した次第です。
27.コラボレーション組織の経営学
日置弘一郎
中央経済社
個と組織、キャリアなど、簡潔に良くまとめられた内容です。特に第3章の「なぜ会社をやめるのか」は、職務と責任の動態モデルならびに分離モデルの提示が理解し易く、J(日本)柔軟貸借モデル、動態的イレギュラーなど図解イメージは直観で理解できます。もしかしたらオリジナルは参考文献に挙げられている書籍からの引用かも知れませんが、日本企業の職能と責任を説明するためのツールとしては、大変有用であり活用できると考えます。
全体的にテキスト風ではあえりますが、読み物としても十分な視座を与えてくれるものであり、人的資源管理論や組織論の一部など、参考となる部分は多いです。
28.ベンジャミン・フルフォードのリアル経済学
ベンジャミン・フルフォード
日経BP社
本書は、最初に市場が健全ではないことに触れ、レバレッジや証券化などをその現況としています。確かに、現在の市場は短期的な利潤の獲得に明け暮れ、健全ではないと判断する者は多いです。
本書は経済学には騙されないように多くの視点からその理由を挙げますが、そもそも経済学は、基本的にモデル化をしてから考察するわけであり、そのモデル化が現実とかなりの隔たりを今日もっているということの証明でもありましょう。
本書の中で面白いのはGDPやGNPのPをプロダクトではなくピラミッドのPであるという視点です。成長率が伸び景気が良くなることは、ピラミッドが早く大きくなることを示し、逆の場合は底辺が拡大しピラミッドを支えている労働者が疲れ、生活水準も下がることを意味するそうです。
全体的にユニークな視点から経済事象をみているため、飽きずに読める内容となっています。
29.日本的人事管理論—組織と個人の新しい関係
太田 肇
中央経済社
コア人材にとって重要な能力として多くの企業が挙げているのは「変化への柔軟な対応力」、「創造性」、「論理的な思考」であるそうです。
著者は、わが国ではプロセスといっても成果につながる具体的なプロセスではなく、意欲・態度に象徴されるように抽象的なレベルでとらえる傾向が強いといいます。既に労働時間と貢献度の相関が薄れているにも関わらず、その評価軸として単純に「長時間労働は貢献度も大きい」と暗黙に決まっていることが多いとします。確かに現状を言い当てていると思われます。
本書は、成果主義と現状の企業の人事制度の齟齬など、多くの視座を与えてくれます。また特に、欧米企業より日本企業のほうがチームワークが良いという常識は崩れつつあり、特に前例のない仕事や新しいプロジェクトに取り掛かるとき、日本型のチームは機能しにくいとされます。結果として「変化への柔軟な対応力」や「創造性」、「論理的な思考」といったコア人材そのものが育成されず、居ても少ないといったところに繋がっているのでしょう。
30.全体最適の問題解決入門—「木を見て森も見る」思考プロセスを身につけよう!
全体最適の問題解決入門―「木を見て森も見る」思考プロセスを身につけよう!
岸良 裕司
ダイヤモンド社
日本の企業の中で、全体最適を真に考えている企業は多いのだろうか?いまだにセクショナリズムで仕事をしている企業は多いのではないだろうか?
この本は、どこか中高生向けのマンガでわかる○○風のカエルの挿絵と、図が頻繁に掲載されています。しかし、その問題解決法は的を得ています。企業における問題は、様々なところに広がり、あたかも対処療法でなんとかなる錯覚をもあたえますが、これを全体として捉えると、ことの本質や根本的な病巣を発見できることもあります。
本書は、その問題解決のプロセスをツリー図を駆使しながら簡潔に説明しており、そのフレームワークを学べるだけでも価値があります。
31.企業の社会的責任(CSR)の徹底研究—利益の追求と美徳のバランス-その事例による検証
企業の社会的責任(CSR)の徹底研究 利益の追求と美徳のバランス―その事例による検証
デービッド・ボーゲル
一灯舎
企業の社会的責任は、最近ではもはや当たり前のように各企業のHPなどでうたわれています。しかし、それが本当の社会的責任といえるのか、本書を読むとその様々な視点を提供してくれるでしょう。
本書は特に企業の社会的責任が採算に合うのかという点で、合う合わない双方の主張に加担するわけではなく、実にバランスの良い論述で展開されており、その主張には共感する部分は多いです。ただし、現在でもその実証性においては、明確な結論は出ていません。
さて、企業の社会的責任は、その持つ範囲があまりに広いことをあわせて物語っており、これからCSRを研究、ないし学ぶ人には大変良い教材として利用価値の大きい書籍となるでしょう。
32.[実学・経営問答]人を生かす
稲盛 和夫
日本経済新聞出版社
本書は、現在経営を営んでいる者たちの実践の中でつきあたる課題や、自分はまっとうに経営していると思っているにもかかわらず、見過ごしていることを、問答として稲盛氏の回答を得る形で進められます。
理念や哲学も大切な要素ですが、それでも経営は、利益が上がることが大切と諭すなど、あくまでも基本に忠実な内容です。最近は「利益」を度外視に、理念などを論じる経営を実践する論者が多い中、きちんと押さえておかなければならないことが語られていることは重要です。
「価値判断というのは、実は人格を投影したものなのです」と、さらっと言ってのけるところにも素晴らしさを感じてしまいます。経営者も、経営者でない人も、一読してみては如何でしょうか
33.壁を壊す
吉川 廣和
ダイヤモンド社
壁を壊すという本題の通り、著者は職場の物理的な「壁」をも壊すところから物語は始まります。
「「べき論」はいらない。「やり抜く」ことこそ仕事」など、この本の中には、実体験が教訓として記されています。我々の周りにも「べき論」では達者だが「何もやらない」人は、企業のトップからボトムに至るまでゴロゴロしています。本の内容に付け加えれば、そのような人ほど、「やり抜く」あるいは「やり抜こう」としている人に対して嫉妬したり、妨害を企てたりするわけで、組織の中は伏魔殿です。
組織改革も「考え方」の違いが大きく影響することを、この本は物語っています。「書類を作れば作るほど、その人は仕事をしていない(p.114)」は、全くその通りと思います。この不要な資料作成のために、どれだけの「無駄な労働に対する給料」が払われているか、上司が納得する資料というQ&A的な1回の資料作成のために、無駄な思考とアホな回答に、どれだけの資源が使われたか・・・などなど、身近に思い当るところは数多くあります。
34.なぜ、できる人から辞めていくのか?
小笹芳央
大和書房
全体的に良くわかる内容です。人材の流動化もある程度進んでいる現状もありますが、基本的には、このまま会社に残っても、得られる技量が限られていたり、なによりモチベーションを維持できるものがなくなってくる影響が多いです。
以前は、企業との方向性の違いから辞める人がいると理解していましたが、最近は自身が企業を通してどのような社会貢献ができるのか、あるいはできないのか、そして企業内で得られる技量は、企業内だけでしか通用しないものなのか、グローバルにもたええるものなのか、といった大きな価値観の違いが大きいです。そこに本書でも述べられている通り、評価や風土など、個人と企業とのギャップが乖離したままであることは大きな理由のひとつでしょう。
会社がその人物を必要としているのか、その個人も会社を必要としているのか、昨今の人間関係のように、極めて希薄な状況も、辞める人が多くなった要因のように本書を読んで感じてしまいました。
35.いま、すぐはじめる地頭力
細谷 功
大和書房
本書の内容は、前著『地頭力を鍛える』の、結論から考える、全体から考える、単純に考えるという内容を軸として展開します。
仮説思考をカーナビを例に説明したり、トンネルを作るときに、不細工に貫通している方が良いか、完璧だけど断続的に彫られている方が良いのかといった、イメージしやすい類例が多く、理解度が増します。
フェルミ推定は、最近良く知られてきていますが、要はどのような考え方で結果を導いたのかが問われます。つまりは、考えたのか否か、そして考え方のロジックはどうかというのが、今の社会では試されています。
比較的簡単に読めてしまうものなので、本書を読んで、サラリーマンの埋もれた地頭力をもう一度取り戻すきっかけをつかむと良いかも知れません。
36.没落からの逆転—グローバル時代の差別化戦略
榊原 英資
中央公論新社
著者の書籍からは、意外な発見をすることが多いです。今回も著者が松岡正剛の書籍を読んでいるとは意外でした。
本書は、まずマスメディアの話題から入ります。私も最近のマスメディアは物事の表面だけ取り繕って、深く探求されたものが少ないと考えています。番組一本視聴するよりも、その分本を読んだほうがよっぽど良いと思ってもいます。
本書では、日本と英国の違いの観点から、歴史的な事象をもとに多くの考え方を導いています。特に江戸時代を「富と権力が分離された極めて平等な社会(p.52)」という視点は、面白い見方です。確かに日本では、権力を持つのは武士階級だが、富を持っていたのは豪農、豪商、としての地主や商人です。
本書で共感を覚えたところは、「同化の過程で異質なものがなくなる(p.174)」です。これは国もさることながら、企業においても、グループにおいても同じ面をもっています。確かに強さであり弱さであるのだが、多様性を受け入れないのでは、根本的にグローバルな発想も貧弱になると考えます。
37.サラリーマンのための大学教授入門−なるためにすること、なったらしなくてもいいこと
サラリーマンのための大学教授入門-なるためにすること、なったらしなくてもいいこと
川村 雄介
ダイヤモンド社
企業組織とは異なり、大学運営、ガバナンスなど特異性や、著者の勤める大学のほんわかとしたムード、入試時期の忙しさ、夏休みの過ごし方等、話題としては面白く拝見できました。
大学教授というのは、自身の研究成果(論文等)と教育者としての成果(生徒の学力向上)の両立が難しいと感じてはいましたが、それに大学運営上の制約が、本書で示されるとおり多いとなると、なかなかシンドイかもしれません。
この本では、丁度、国立大学が法人化されて直ぐのときであり、そのことに関する大学内の揺らぎなどが幾分多く占められているように感じられましたが、その後の続編があっても、また面白いのかも知れません。
38.中堅崩壊—ミドルマネジメント再生への提言
野田 稔+ミドルマネジメント研究会
ダイヤモンド社
成果主義導入により、本来日本企業の活力の基とされた、ミドル・アップアンドダウンマネジメントの核となるミドルが覇気をなくし沈滞しています。そのような現象を野田氏は中堅崩壊と表現し、その再生をシャープやGE,トヨタ等の企業のミドル育成の事例や考え方から解決策を模索します。
その一つの処方箋として示されているのが、プロジェクト・マネージャーとして活躍するプロジェティスタ(イタリア語)という役割です。シャープの「緊プロ」に近いとされますが、本当にミドルの復活を目指すためには、本書でも触れる通り、社長直轄的な位置づけで、その期待と評価をするしかないでしょう。
中堅の責任回避的マネージが進むおり、「任せることと、任せっきりは違う(p.337)」という内容が挿入されていることには意義あると感じます。
本書は分厚いですが、総じて読みやすく仕上げてあります。
39.パーソナル・グローバリゼーション—世界と働くために知っておきたい毎日の習慣と5つのツール
パーソナル・グローバリゼーション―世界と働くために知っておきたい毎日の習慣と5つのツール
布留川 勝
幻冬舎メディアコンサルティング
著者の問題意識は、多くの人が心に抱いていても、表に出しにくいことだったかも知れません。日頃から会社(日本)の外を眺めてみると、これからの人材の有り様も大きな変革を味わうことは十分理解できます。
多様性の中で、価値ある人材として生きていけるかという点で、本書がいうグローバル人材やマインドセット、英語(完璧さを求めるのではなく、流暢さを求める)など、眺めてみては如何でしょうか。
これからは国や企業が人材を育成するのではなく、逸早く自身が明確なビジョンを抱いて、行動することが最善であり、そのためには自身を変革することをためらわず行う必要があります。そのように感じたら、本書を読んだ価値があると思います。
40.偽装管理職
ポプラ社
「名ばかり管理職」という名称がマスコミで紹介されていますが、その内容に関する様々な管理職の不当な扱いがその経緯とともに語られています。本では、管理職とは本来法的には管理監督者と呼び、労働基準法によると次の3つが挙げられるとのこと。
1.自分で自由に出退勤ができる。
2.人事権を持つなど、経営と一体化した立場にある。
3.立場にふさわしい待遇・報酬を得ている。
もしかしたら、世の中の多くの管理職は、上記3つを言葉の上では満たしているように規定はされても、実際は疑わしいことも多いのではないか、そう感じた次第です。
企業にとっての活力の基であるはずの人材(人財)が一番弊害を受けており、そのために力を発揮できないということは本当に悲しむべきことです。
41.京都花街の経営学
西尾 久美子
東洋経済新報社
京都花街を経営学としてみてみる面白い視点の書籍です。
「一見さんお断り」程度は知っていても、その仕事をシステムとしてみると摩訶不思議な世界でしかなかったものが、図解を含め大変よく理解できます。それと同時に、京都の文化というものを知ることもできます。
花街での仕事は、「高い信頼性」に基づいたものであり、そのための知恵が活かされていることには驚きでした。
本では、ところどころコーヒーブレイク的に挿入されているトピック(例:「「舞妓はん」に変身!」など)も大変面白いものでした。
違う世界を知る楽しさという点では、大変興味を持って読ませていただきました。
42.企業市民モデルの構築—新しい企業と社会の関係
葉山 彩蘭
白桃書房
本書は著者の博士論文がベースになっています。本書で用いている三戸公氏の「随伴的結果」という視座は、企業の社会的責任論を論じるときのフレームワークに使用すると、万能でありかつ分かり易さの点で絶大です。
著者はCSRを社会的責任論、応答論、正義論の変遷と捉え、これを著者の論じる企業市民論に統合しました。同じようなものでは高田馨著『経営の倫理と責任』において、同様に3つのCSR論を考察し整理した上で、氏の主張する社会的責任論に統合したことと似ています。
前半の論理的な展開に比べ、後半のSRI等の説明は現状追認的になっており、やや論理的検証には欠けますが、その分、第6章での複眼的管理としてまとめられている点は評価できます。
43.新訳経営者の役割
C.I.バーナード, 山本 安次郎
ダイヤモンド社
最初はその難解な訳に四苦八苦しました。二度目は出来るだけ自身の経験と照らし合わせながら著者の述べる場面を想像しながらなんとか読みました。
この本の出版は古いですが、現在も書店の本棚に鎮座しているのには理由があるのでしょう。それは著者が実学として経験に基づいた知見から考察している点にあります。経営関係の学術論文にも多く引用されているのは、この経営の実践に即した実学と、経営学者などが述べる学術的な点との整合性が常に必要ないし問題になるからでしょう。
今回特に注視したのは、「道徳水準と責任とは同一ではない」ということです。現代の企業で言えばコンプライアンスや内部統制、企業倫理の限りをつくしても、それは企業の責任とは同一ではないということであり、問題はそれが機能し、実効性があるということが確認されたかで本来の責任として働くということでしょう。
44.不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか
不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)
河合 太介, 高橋 克徳, 永田 稔
講談社
職場のギスギス感などを構造的要因や組織のタコツボ化(緩やかな職域から厳密な範囲設定への変更)、成果主義などの現状認識をした後、社会心理学的知見から考察します。次にグーグルをはじめ数社の組織内コミュニケーションのあり方などの事例を示しています。最後に、ギスギスした職場を是正すべく知恵を提示しています。
しかし、私見ですが、言葉では理解できても、実際に是正するためにはハードルが高い感も否めません。
問題は、職場での相互認知というか、職場での自身の存在意義が段々と薄れてしまう現状が、是正に向かせようとしないのではないかと思います。この本では、社内SNSを活用した組織も紹介されていますが、そもそも同僚や上司など、身近な人が何に興味を持っているのか、どのような考えをしているのかさえ理解できていないコミュニケーションのなさが多くの組織に背景として横たわるのでしょう。
45.法律より怖い「会社の掟」
法律より怖い「会社の掟」―不祥事が続く5つの理由 (講談社現代新書 1939)
稲垣 重雄
講談社
基本的には、社員は会社という共同体内で、対人関係重視の中に身を置いており、見えない規範が跋扈していること。共同体といってもその性質は官僚制ではなく「イエモト」型であり、必ずしも経営者の意向が下まで浸透しないこともあることなどを述べています。
また著者は、共同体化はコンプライアンス教育に真実味を帯びさせない元凶(p.147)と指摘し、共同体の陰陽を指し示します。この本のおもしろい視点として、入社希望者の責任と題して、かつて不祥事を起こした企業が、その情報を教訓として捉えているのかという観点で、HPに掲載されているのかで評価しています。そこでは、評価の良いのが三井物産、ついでヤマトホールディングスなどが挙げられ、落第としてトヨタ自動車としています。トヨタと言えば良い点は上げることができますが、ネガティブな批判はあまり聞かなかったため、観点が違えば評価も違うことが良く理解できる次第です。
46.部下を壊す上司たち—職場のモラルハラスメント
金子 雅臣
PHP研究所
モラルハラスメントや職場でのいじめに関するドキュメンタリーといった非常に重い内容が記されています。
読み進めるごとに気分がパッとしない内容に、途中で読むのを止めようかと思った次第であるが、何とか全文を読んでみました。
ほんの小さな言い争いや、ちょっとしたトラブル、さらにそれに関する対応などで、思わぬ事態に陥ってしまうことが良くわかります。職場でのコミュニケーションが少なくなった昨今、相手のことを思う心の余裕すらなくなった職場において、コミュニケーション能力の欠乏、感情や根性でマネジメントを仕切っていく状況など、多くの企業が抱えている現実を浮かび上がらせています。
読後は重い気分に陥るが、これが現代の企業が抱える大きな問題なのでしょう。日頃、円満な職場に居る人々も、このような現実があるということを知るには本書にトライしてみるのも良いかもしれません。
47.リスク過敏の内部統制はこう変える!
戸村 智憲
出版文化社
本書は、昨今の日本版SOX法や内部統制に関して過剰に反応していると思われる企業の受け止め方や方針に関して、そもそも何のために導入するのかを明確に述べています。内部統制は経営そのものであり、経営戦略や企業の目的遂行のための施策を実行するための表裏の関係であると解しています。
また、「「誰に」従うかではなく、「何に」従うか」といった言葉を通して簡潔に理解できるように考えられており、内部統制に詳しくないものも、その本質が理解し易く配慮されていることがわかります。第2章では内部統制に関して「ラーメン屋の行列」や「ラーメン屋」に例えて語られている点はユニークさを感じました。
本書は、内部統制に関して通常の参考書などとは異なる視点からアプローチしており、内部統制に無知な方であっても、十分に理解できる内容と思われます。
48.無形資産価値経営—コンテクスト・イノベーションの原理と実践
寺本 義也, 原田 保
生産性出版
知識という無形資産を、企業の中で活用し、コンテンツの充実のみではなく、それをコンテクストから付加価値を提供していくその創出について書かれた本です。
そしてコンテクスト・イノベーションの方法として、価値転換、主体変換、関係転換、行為転換の4つのステップをスパイラルに回していくことを提唱します。その上で、各々のステップを実践している企業を例として解説を加えています。
現在の企業はある意味、コンテンツのみの提供や創造に力を入れていますが、コンテクストの充実にはあまり力を入れてきませんでした。消費者に如何に重要なサービスであるのかという仕組みつくりは今後も重要になってきます。
著者は、自由で自在な精神をもち、自ら自らを取り巻く世界とを、絶えず捉え直し、多様なコンテクストを柔軟にかつ機動的にイノベーションできる人と組織こそが求められると結論づけています。
49.経済学の再生—道徳哲学への回帰
アマルティア セン, Amartya Sen, 徳永 澄憲, 青山 治城, 松本 保美
麗沢大学出版会
経済学と倫理学の接点を語るためには通過しなければならない近代の学者の説として、セン教授の所論があります。
明らかに近代の経済学は倫理学とは袂を割ってきました。確かに経済学の合理性追求はモデル化を良しとし、高度な数学を用いて解析してきた感はあります。
センは、経済学の更なる発展のためにも、倫理学が必要であると説きます。しかし、現代の数字ありきの経済から、情としての倫理というわけではありません。本書では厚生経済学、とりわけパレート最適をめぐる批判的考え方は圧巻です。畳み込むように論理展開がなされ、大変読み甲斐があります。
経済学や倫理学にある程度精通していなければ読みにくいところもあるかもしれません。でも本書の翻訳内容は全体の3分の2程度でありますが、残りの3分の1は、人名・用語解説と参考文献で占められます。経済学と倫理学にまたがる研究を行っている初学者にとっては、大変親切な配慮です。
50.内部告発が社会を変える
桐山 桂一
岩波書店
薄手の冊子ですが、現状の内部告発に関しての企業や社会の受け止め方が端的にわかる内容です。
本書は再生紙の偽装からはじまり、様々な不正のアウトラインをなぞります。
そして内部告発をした先駆者たちの人生をも垣間見えます。それらから現状の公益通報者保護の甘さや問題点を指摘しています。現状では告発者を守ることはできていません。
その分、日本はまだまだ内部告発に関しては成熟された社会とは程遠いのでしょう。「イギリスでは、もし内部告発者に報復したら、その上司を措置する規定を設けている会社もあります。不正を隠すような上司は、措置して当然だという発想です。そして、実際に内部告発者を昇格させたりもしています。」という文章に、日本との比較が良く現れています。
就活前にはこの記事もおすすめです。