今回オススメさせていただくのは浅井リョウの『何者』です。就職活動が舞台の小説になりますので、社会人にも大学生にもおすすめの本となります。
『何者』
就職活動は、生まれて初めて学力だけではなく、自分自身をジャッジされる場所になります。今まで親や学校の庇護のもとに生きてきた大学生にとっては非常に無慈悲で困難な現実と言えます。自分がどうしても入りたい企業があったとしても、それが人気企業であれば厳しい選考を勝ち抜かなくてはいけません。そして、勝ちぬけなくても内定を取るまでその戦いは続くのです。
学生とSNSについて
そんな過酷な状況であるので、大学生はなんとか自尊心を保たなくてはなりません。心が折れてしまったらその時点でゲームオーバーなのです。そこで作品中に登場するのがSNSなのです。SNSを利用することによって、なんとか頑張っている自分を保つ。
発信することによって頑張っている自分を維持しようとするものもいれば、そういった人間を俯瞰した安全地帯から見下すことによって弱い自分を維持しようとするものもいます。SNSと承認欲求というのは直結するものです。SNSで承認されることによってなんとか自分に安心感がもてるという人は現実にも数多くいます。
そして、就職活動というのは実際に自分が承認されるかどうかという厳しい現実なのです。その二つのものが重なり合うことで生まれる悲喜劇がこの作品の面白いところでもありました。
ここがおすすめ
物語の終盤にある仕掛けがあります。それは安全圏から見下していると思っている読者が、当事者としてひきづり込まれるというものです。小説を読む上で怖いことは、絶対にこんな嫌な人間にはなりたくないと思うような登場人物と自分自身がそうたいして違いがないということが理解できた時です。その時人は呆然としながらも、本を閉じて再び、厳しい現実に直面していくことになるのです。小説を読む醍醐味というのはそういったところにあるのではないでしょうか。