イライラしたとき、落ち込んだとき。周りの人に愚痴や悩みを言ってすっきりするのは軽い問題だけ。
問題を抱えたときに自分ひとりの時間を持つことは冷静になったり問題を解決するためのひとつの手段です。そんなときに読みたい静かな温かさを味わえる本を紹介いたします。そっと心に寄り添ってくれる本です。
奇跡も語る者がいなければ
ジョン・マグレガー(著) (新潮クレスト・ブックス)
イングランド北部のある通りに住む人々の夜明けから夕刻までを詩的な文章で綴った本。一瞬一瞬のきらめく瞬間を拾い集めて、いくつもの出来事をつなげていきます。無名の市井の人々の日常のなかにぽつんと光る奇跡。その奇跡が時を経て繋がっていく未来。普段なら注目もされずに素通りしてしまうような一瞬のなかにその奇跡は生まれているのかもしれません。独特のリズムをもった文章が心に染みわたります。
停電の夜に
ジュンパ ラヒリ(著) (新潮文庫)
インド出身の著者による香辛料の香りがする短編集。
予め予告されている毎晩一時間の停電の時間、ろうそくをもって秘密ごとを語り合う夫婦を描いた表題作のほかにも、夫への秘密をタクシー運転手に打ち明ける妻の話など、日常に潜む切なさを表現した大人のための一冊です。ピュリツァー賞を受賞した著者による、それぞれの短編が香り立って一つの香りとなって、ひんやりとした空気のなかに人肌の温かさを感じる本です。
観光
ラッタウット ラープチャルーンサップ(著) (ハヤカワepi文庫)
タイ系アメリカ人作家の短編集。貧しさ故の苦しみや残酷さ。その中でも人が忘れない優しさやプライド。
環境に流されない人間の尊厳を感じさせる一冊です。タイの市井の人々の夢と現実を描いた秀作揃いの短編集です。喧噪や熱があふれるバンコクの町、海の美しさを味わえることができます。著者が消息不明になっているということで、新作が楽しめないのが残念。こちらを読みながら復帰を待ちたいです。
日常に退屈している方にも読んでもらいたい本です。温かさは意外に身近なところにあるのかもしれません。