韓流ブームも下火になってきましたが、文学界では韓国文学がちょっとしたブームになっています。もともと、日本文学に影響を受けてきた作家が多く、ソウルの本屋さんの半分は日本人作家の作品が翻訳されたものだとか。
IT化が進んでいる韓国では、紙の本はなかなか売れず、若手の作家はインターネット小説でブームになり文壇デビューすることも多いそうです。
今回は、日本語でも読める韓国の近代小説を紹介いたします。いろんな国のいろんな小説がどんどん翻訳されれば、より隣国を知る機会が増え友好関係を築けるひとつのきっかけになることと思います。
82年生まれ、キム・ジヨン
チョ・ナムジュ (著) (筑摩書房)
キム・ヨジンは日本でいうと「山田花子」のような平凡な女性の名前。そのへんにいる女性の代表として、韓国のリアルな男尊女卑をはじめとするさまざまな女性の悩みがつづられています。兵役があるからこそ大切にされる男子、女子が生まれると残念がられること、進学や就職、結婚、育児と女性側の負担の大きさ。
フェミニズムについては、韓国だけではなく、どこの国でも社会問題となっていることです。韓国で異例の100万部を突破し、映画化も予定されている作品。社会の不条理さに、性差に悩み続けている方、男性に読んでいただきたい作品です。
野蛮なアリスさん
ファン・ジョンウン (著) (河出書房新社)
急激な経済成長の裏に隠された社会問題を浮き彫りにした作品。家庭不和、虐待、格差社会など深い絶望感にさいなまれた女装ホームレスが現実と空想の世界を行き来しながら描き出さす問題作。悪夢を凝縮したような作品で、きらびやかな韓国のイメージとはかけはなれていますが、これもまた現実の一部なのです。
韓国日報文学賞をはじめ、さまざまな文学賞を受賞した韓国新鋭作家が描く祈りの物語です。
殺人者の記憶法
キム ヨンハ (著) (クオン)
連続殺人鬼・キム・ビョンスの独白という形で事件の真相を読み解いていく物語。記憶からこぼれおちてしまった空白をパズルを埋めていくように進められていく物語。現れては消え、消えては現れる泡のように。不思議な感覚にとりつかれる新しい視点で描かれる混沌とした作品。人気俳優たちによって映画化もされた韓国長編ミステリーの大傑作。
日本の小説と比べると、娯楽性が少なく、社会問題にもリアルに切り込んでいくスタイルは新鮮です。韓国文学を読む最初のきっかけになってくれればうれしいです。