夏の暑さはどこへやら。涼しい風と静かな夜の時間を過ごせる秋に読みたい純文学を紹介いたします。
一年のなかでも一番風情のある秋だからこそ、心に響くことばがストレートに届く時期だと思います。秋を彷彿とさせる清く美しい世界観にひたってみてください。
金色の野辺に唄う
あさの あつこ(著) （小学館）
大おばあちゃんの臨終から火葬場までの道のりで、それぞれの人生を振り返っていく連作短編集。
ごく平凡に生きてきたつもりでも、人それぞれの悲しみや苦しみ、秘密を抱えて生きていたり、生きていくということの重厚さ、命の重さを痛感させられる本です。核家族化が進み。現実味がない「死」を身近に感じることで「生」についても考えさせられます。金色の稲穂が風に揺れてざわざわと騒ぐ音が聞こえてきそうです。誰か大切な人を亡くされた方、思春期の子どもたちにも手に取ってほしい一冊です。
貴船菊の白
柴田 よしき(著) （祥伝社）
京都を舞台とした7編からなるしっとりとしたミステリー短編集。祇園や夏祭り、紅葉など京都の美しい風景やおいしそうな京料理が描かれています。
あたたかな気持ちになる話、ぞっとする話、思わず涙ぐんでしまう話などバラエティーに富んだ一冊です。表題作は、亡き妻との約束の地、京都の紅葉を見に連れて行ってと頼まれた場所が、夫の刑事が初めて事件を担当したときに犯人に自殺されたという因縁の場所だった。時間を経て明かされる真実と紅葉の紅さに目がくらみそうになる作品です。登場人物の心情が細かく描かれているので女性も感情移入しやすい作品です。
オー・ヘンリー傑作集〈1〉最後の一葉
オー ヘンリー(著) 飯島 淳秀(訳) （角川書店）
病床で窓の外を眺めながら「あの葉が落ちたら私も死ぬのね」というセンチメンタルで有名な表題作をはじめ、ことば遊びの短編、人間の愚かさを愛したからこそ書けるコメディタッチなものまで軽いタッチで描きながらも、著者ならではのキレのある文章が集められた短編集。
さらっと読めるのに、読むたびに感想が変わる心に響く一冊。通勤途中の読書にもおすすめの一冊です。
ほんのりとした哀愁を感じるのに、人の温かみに触れることができる作品を選んでみました。少し肌寒いこの季節、大切な誰かの温かさを思い出して安心できるような気持ちになる作品です。是非手にとってみてくださいね。
