辞書づくりの情熱を描いた「舟を編む」が大ヒットし、植物に恋したリケジョと料理人見習いの素朴な青年のピュアな恋愛を描いた「愛なき世界」も大ヒットしている三浦しをんさん。いろんな作風の著書がありますが、人の心を繊細に描き出す作家さんです。丁寧に重ねられた取材から積み上げられる人物像は、どの人も味のある人ばかり。何重にも重なる複雑な心境をリアルに描き出してくれ、読み手の心をつかんで離しません。
今回は、三浦しをんさんが雑誌のインタビューでおすすめされていた本を紹介いたします。三浦ワールドの断片が見つかるかもしれません。
長くつ下のピッピ
アストリッド リンドレーン (著) (偕成社)
子どものころの愛読書だそうです。想像力豊かで行動力があるピッピは三浦しをんさんのイメージにぴったり。自由でのびのびとした少女期を過ごされたのでしょうか。
サルと馬と一緒に9歳なのにひとり暮らしをして気ままに暮らしているピッピ。真面目なお友達や村人とのやりとりが楽しい物語です。大人からしたら、ちょっと危ない!とか協調性がない!と言われてしまいそうですが、個々の多様性を認める村人たちの大らかさにほっとさせられます。
大人になっても読み返したい名作童話です。
桜の森の満開の下
坂口 安吾 (著) (講談社)
愛と孤独、そして狂気。無頼派の坂口安吾は人間の理性ではとらえきれない心の奥底の葛藤を描き出す天才です。
こちらの文庫版は安吾の短編と中編13作集めたものですが、どの作品も一筋縄ではいかない人物が登場します。
ときに残忍に、そしてエロスの世界へと大幅にうごめく人間の心理。冷ややかに見守る自然の大きさとの対比が一体感となって臨場感が押しよせてきます。
ミステリー好きにもおすすめしたい純文学作品です。
世界の終りとハードボイルドワンダーランド
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)新装版 (新潮文庫)
村上 春樹 (著) (新潮社)
ハルキストのなかでも人気の高い初期の作品。現実であるハードボイルドと、幻想のワンダーランドの二つの世界が交互に展開をしていきます。かけ離れた二つの世界がだんだんと交錯し、最後にはまた少しずつずれていくという不思議な世界観。疾走感が強く、最後まで一気に読んでしまいます。
三浦さんは、中学生の頃に読んで衝撃を受けたそうです。
絶叫城殺人事件
有栖川 有栖 (著) (新潮社)
三浦さんが有栖川有栖さんの作品で一番面白かったと語っていた作品。犯罪社会学者の火村と推理小説作家の有栖川がコンビを組んで殺人事件の解明に挑む短編が収録されています。ドラマ化もされているのでご存知の方も多いかもしれませんが、文章で読むと伏線の回収の仕方が秀逸なサスペンスです。後味の悪さがまたクセになります。
紹介した作家さんのほかにも、泉鏡花さん、高村薫さんの作品も好んで読まれていらっしゃるとのこと。作中に描かれるどこか幻想的な風景描写や心理描写の繊細さはこれらの作家さんから影響されているのかもしれませんね。
これからもどんどん、新しい作品で私たちを楽しませてほしい作家さんです。