2025-12-09から1日間の記事一覧
就活の違和感、SNSで誰かと比べ続ける疲れ、「多様性」と言われても自分はそこに入っていない気がする生きづらさ。朝井リョウの小説は、そんなモヤモヤを一度も言語化したことがない人の胸ぐらを、静かに、しかし容赦なくつかんでくる。 彼の物語を通して世…
ことばが形を変えて見える瞬間がある。意味だけでなく、手触りや匂いのように立ち上がるときだ。黒田夏子の作品は、まさにその“変容”を読者に体験させる。物語というより、記憶の粒がこちらの内側に入り込んでくるような感覚。その静かな震えを、どこかで求…
息が詰まるようなホラーも、胸が熱くなる異世界ファンタジーも、同じ筆から生まれている。その事実に気づいたとき、小野不由美という名前はただの「好きな作家」から、自分の読書人生をかたちづくる一本の軸へ変わっていく。怖い話が読みたい夜にも、長編シ…
教科書の戦国時代は、年号と合戦名が並ぶだけの「遠い世界」に感じやすい。けれど和田竜の小説を開くと、泥の匂い、潮風、鉄砲の硝煙、笑い声や罵声までが一気に立ち上がってくる。 弱くて情けない殿様、怠け者の忍者、気性の荒い海賊の娘、そして歴史の片隅…
異世界の物語なのに、読み終えると自分の暮らす世界の匂いや手触りが、少しだけ違って感じられる――上橋菜穂子の作品には、そんな不思議な余韻がある。剣と魔法の冒険だけでなく、病や政治、先住民、家族の記憶まで巻き込んで、「人が生きるとはどういうこと…
戦後日本の空気を切り裂くようにデビューし、政治・文学・思想のあらゆる領域で議論を起こしてきた石原慎太郎。その出発点にあるのは、若さゆえの焦燥と苛烈さだ。作家の息づかいが浮かび上がるように丁寧にたどっていく。 石原慎太郎とは? おすすめ本20選 …
中村文則の本を開くと、最初の数ページで日常の床がすっと抜ける感覚がある。犯罪、暴力、宗教、国家、死刑制度――重たいテーマばかりなのに、活字は驚くほど平静で、むしろ静かな熱だけがじわじわと読み手の奥に入り込んでくる。 読んでいて楽しいというより…
戦国の城に閉じ込められた武将の推理から、静かな高校生活に潜む「日常の謎」、背筋が冷たくなる暗黒短編まで。米澤穂信の作品世界は、とにかく振れ幅が大きい。 代表作が多すぎて「どこから読めばいいか分からない」という人のために、今回はジャンル別の入…
大切な人とすれ違ったまま時間だけが過ぎていく感覚や、「あのとき言えなかったひと言」がいつまでも胸に残る感覚に覚えがあるなら、西川美和の本はきっと刺さる。映画で知られる彼女は、小説とエッセイの中で、人と人のあいだに漂う沈黙や、うまく言葉にな…
日常のすぐ隣にある痛みや孤独に気づいたとき、そっと寄り添ってくれる本を探す人は多い。柳美里の作品は、そんな「声にならない声」をすくい上げ、読者の胸に静かに落としていく。読んでいると、自分の奥に沈んでいた何かがふと動き出す瞬間がある。 柳美里…
「君の膵臓をたべたい」は読んだけれど、そのほかの作品はまだ……という人は多いと思う。けれど住野よるの本当の面白さは、キミスイの先にある「痛みを抱えたまま、それでも誰かとつながろうとする」物語の積み重ねにこそ見えてくる。 ここではデビュー作から…
虐待、戦争、貧困、偏見。重くて目をそらしたくなるテーマなのに、読み終えると不思議と人を信じたくなる――中脇初枝の作品には、そんな手触りがある。言葉にしてしまうと壊れてしまいそうな子どもや大人の心を、昔話の語りのようなやわらかさでそっとすくい…
読後しばらく、胸のあたりが静かにあたたかい――宮下奈都の本には、そんな余韻が残る。派手な事件も奇抜な仕掛けもないのに、日常の景色が少しだけ違って見えるようになるから不思議だ。この記事では、小説とエッセイをまぜながら、宮下作品の世界にじっくり…
人が生きるうえで避けられない「孤独」や「関係性の痛み」を、ここまで精緻に書ける作家はそう多くない。平野啓一郎を読むと、自分でも気づいていなかった心の襞がそっと開いていくような瞬間がある。恋愛、家族、死、テクノロジー、そして“個人とは何か”。…
「あのとき、ああしていれば」と何度も思い返してしまう夜があるなら、川口俊和の物語はきっと刺さる。過去は変えられないのに、それでも人は後悔を抱えたまま前に進むしかない――そのどうしようもなさと、かすかな希望を、彼の小説は何度も描き直してくれる…
現実のどこにも“事件”なんて起きていないのに、ページをめくるほど胸の奥がざわざわしてくる。高瀬隼子の小説には、そんな奇妙な体験がある。日常からほんの数ミリずれただけの出来事が、人の輪郭を変えてしまう。そのズレや歪みを、彼女は丁寧な観察と、と…
生きづらさに名前をつけられないまま抱えている読者に、市川沙央の言葉は鋭く、しかし妙に温かく刺さる。日常の奥底に沈んでいる欲望や不安が、思いもよらない形で浮かび上がる瞬間がある。その揺れを一度知ってしまうと、もう後戻りできない。 市川沙央とは…
ふと本を開いたら、いつのまにか登場人物の隣に座っている。気づくと笑っていて、ちょっと痛いところまで一緒に見せられる。それが三浦しをんの小説の怖さであり、心地よさでもある。 ここでは代表作からエッセイまで、物語のタイプ別に20冊を厳選。最初の一…
人生がしんどくなった夜に、ふと読みたくなる物語がある。誰かを失ったり、仕事や家族に疲れきったり、「もう少しだけ優しい世界」を確かめたくなったりしたとき、木皿泉の本は、派手ではないのにじわじわと体温を上げてくれる。本やドラマで名前は知ってい…
日常のどこかに潜むズレに、ふと足を取られることがある。羽田圭介を読むと、その“ズレ”がじわじわ増幅して、笑いとも不安ともつかない感覚になっていく。自分の内側が少しずつ軋む、その音まで聞こえてくるようだ。 彼の作品を辿ると、現代の孤独、倒錯、欲…
観光ガイドに載っている京都とは別に、路地の陰や鴨川のほとりに、もうひとつの京都があるのではないか――そんな気配を濃密に感じさせてくれるのが、森見登美彦の小説だ。阿呆な大学生の迷走、黒髪の乙女への片想い、狸や天狗や得体のしれないケモノたち。現…
歴史の闇を真正面から見据えながら、それでも人の生活やささやかな希望を描き切る作家はそう多くない。深緑野分の小説には、戦争も暴力も理不尽もはっきりと出てくるのに、読み終えたあとに残るのは「人はここまで誠実に生きられるのか」という静かな感動だ…
人と人との距離感に少し疲れたとき、自分には何もない気がしてしまう夜に、小野寺史宜の小説はそっと隣に立ってくれる。派手な事件も奇抜な仕掛けもないのに、読み終えるころには「自分の暮らしも捨てたものじゃないな」と思えてくる不思議さがある。この記…
生き方の不器用さが、そのまま文章の鋭さになることがある。西村賢太の作品に触れると、その剥き出しの切っ先に指を切ったような感覚が残る。過去を隠さず、理想化もせず、ただ「こんなふうにしか生きられなかった」という事実だけが紙面に残る。その不器用…