文豪
深沢七郎を読むと、きれいごとがはがれた場所で、人がどう生きてどう死ぬかが、やけに静かな声で迫ってくる。残酷さと可笑しみが同じ湯気の中に立ち上がる作家なので、代表作から順に触れるだけで、自分の「常識」の輪郭が少し変わる。 深沢七郎とは 深沢七…
梶井基次郎の文章は、感覚の鋭さと、知性の切っ先が同じ場所に置かれている。代表作『檸檬』の黄色い匂いから、『のんきな患者』の乾いた視線まで、短い頁の中に世界が凝縮されている。作品一覧は多くないのに、読後の余韻だけは長く残る。 短編を読んで「何…
川端康成の本を読んでみたいのに、『雪国』で挫折したままになっていないだろうか。あるいは学生時代に教科書で出会って以来、「いつかちゃんと読み直したい」と心のどこかに引っかかっている人も多いはずだ。 川端の作品は、ときに筋よりも「気配」や「余白…
三島由紀夫は、読後に「言葉が身体に残る」作家だ。初めてでも迷子にならないように、入口の小説から戯曲、評論まで、いま手に取りやすい主要作を20冊まとめて案内する。読む順番が変わるだけで、同じ作家がまったく別の顔を見せる。 三島由紀夫とは?──美を…
泉鏡花の作品を開くと、現実の輪郭が少しずつぼやけていき、こちら側の日常と、向こう側の幻想が静かに溶け合ってくる。物語そのものは短いのに、読み終えた後の体験が妙に長く残ることがある。自分も仕事に追われて気持ちが乾いていた頃、久しぶりに鏡花を…
中井英夫を初めて読んだとき、言葉の陰影の深さにしばらく動けなかったことを覚えている。こんなにも静かで、美しくて、どこか壊れている世界があるのかと驚いた。この記事では、Amazonで手に入る中井英夫の主要作から、実際に読んで強く残った9冊を紹介する…
尾崎紅葉を開くと、まるで空気が変わる。そこには明治の匂いと、人間の情念の温度がはっきり息づいている。恋の未練や嫉妬、後悔と執着――こうした感情は、時代を越えるどころか、むしろ現代人のほうが強く反応してしまう不思議がある。紅葉の文章には、人の…
働くことに疲れた日、ふと本棚に手を伸ばして開いたページから、人の息づかいが吹き込んでくる。小林多喜二の作品には、そんな不意打ちのような体験がある。語りかけるようでいて、どこか冷ややか。過去の物語のはずなのに、自分の暮らしに静かに影を落とす…
夕暮れの街を歩いていると、ごくたまに理由もなく胸がざわつく瞬間がある。知らない路地のはずなのに懐かしく感じたり、見慣れたはずのビルの影がふいに寂しさをまとったりする。その微かな揺れに気づくとき、いつも荷風の本を思い出す。 彼の文章は、遠い昔…
どこか後ろめたい気持ちや、家族や恋愛の中でうまく割り切れない感情を抱えたとき、ふと読み返したくなる作家がいる。菊池寛の物語は、そんな「言葉にならない部分」に手を伸ばしてくる。書かれたのは100年近く前なのに、今の生活の隙間にすっと入り込んでく…
忙しさに押し流されるように過ぎていく日々のなかで、ふと「静かな本を読みたい」と思う瞬間がある。国木田独歩は、その静けさの中に“人の心の影”をそっと置いていく作家だ。明治という遠い時代のはずなのに、独歩の文章を読むと、自分の胸の奥の“まだ言葉に…
小説の神様と呼ばれた志賀直哉を、きちんと「一人の作家」として味わいたい人は多いと思う。けれど短編が多く、版もいろいろあって「どこから入るべきか」で迷いやすい作家でもある。この記事では、代表的な短編・長編から随筆、入門ガイドまで、志賀直哉を…
堀辰雄の作品を開くと、日常の速度がふっと緩んで、胸の奥で固まっていた感情が静かにほどけていくように感じる。喧噪から切り離された場所で、心の深いところに触れられる読書体験が欲しい人にこそ、彼の17冊は確かな道になる。 人物紹介:堀辰雄について …
森鴎外の文章に触れると、心の奥に蓄えていた声がふいに揺れだす。時代も境遇も違うはずなのに、「ああ、これは今の自分のことだ」と思わせる瞬間がある。彼の物語は、声を荒げず、説明的でもなく、人の心のひび割れや温度をそのまま掬い取ってくる。 今回は…
織田作之助を読むと、不思議と街の湿度が戻ってくる。 誰かの生活音や、どこかの店の明かり、すれ違う人の息づかい。そういうもの全部が、小説を通して自分の内側に染みこんでくる。 「小説ってこんなに暮らしの匂いがするものだったか」と、ふと手を止めて…
夜ふと胸の奥がざわつくとき、なぜか中原中也の詩を開きたくなる。うまく言葉にならない不安や寂しさを、そのまま代わりに言ってくれるような感覚があるからだろう。読み終えたあと、世界が急に明るくなるわけではない。ただ、心のどこかに「自分だけではな…
恐さというのは、ただ脅かされることではない。静かな夜道にふと立ち止まってしまうとき、背後から吹きつける風の冷たさを妙に意識する瞬間。あるいは子どもの頃の記憶が突然よみがえり、胸の奥がざわつくあの気配。その“気配”そのものを言葉にしたのが、ほ…
自分の中にどう扱えばいいのかわからない孤独が沈んでいるとき、漱石の文章を読むと、その孤独の形がぼんやりと輪郭を持つ瞬間がある。胸の奥に溜まったざらつきが、ただの疲労なのか、それとももっと深い何かなのか、判断がつかないまま放置していた経験は…
中島敦を読むと、胸の奥にひやりとした風が通り抜ける瞬間がある。言葉が静かに沈んでいくようで、なのに視界が少し明るくなる。不思議な読後感だ。 人生わずか33年、短い時間に凝縮された透明なエネルギーが、今もなお揺れ続けている。 今回はその震えを、9…
日常の輪郭がゆらいで見える瞬間を求めて本を開く人にとって、夢野久作は避けて通れない作家だ。狂気の論理に迷い込む日もあれば、童話の皮をかぶった残酷さにぞっとする夜もある。その揺れ幅が、他の誰にも代えがたい読書体験を生む。 この16冊を通して、あ…
どんなに穏やかに暮らしていても、心の底に沈んでいる影がふいにざわつく瞬間がある。自分でも理由がわからないのに、静かに崩れていくような気配だけが胸の奥に残る夜。その「影」の正体を見つめたくなったら、谷崎潤一郎の本を開けばいい。光よりも闇のほ…
生きづらさに名前をつけられないまま大人になってしまった人は少なくない。太宰治の文章に触れると、その曖昧な“痛み”に急に輪郭が与えられるような瞬間がある。人前では平気なふりをしながら、心のどこかがずっと沈んでいる――そんな夜にこそ、彼の作品は静…
人の弱さや矛盾を、薄い紙の向こう側からそっと覗かれているような気分になる。芥川龍之介を読むと、毎回そんな静かなざわめきが胸に残る。短い物語なのに、日常の真ん中にぽたりと落ちてくる余韻が長い。読めば世界の見え方がすこし揺らぎ、その揺れがなぜ…
心がどこか乾いていると感じる日がある。理由は分からないのに、胸の奥だけがぽっかり空いて、世界の色が薄く見える瞬間がある。そんなとき、宮沢賢治の文章は驚くほど静かに染み込んでくる。難しくないのに深く、子どもにも届くのに、大人の傷にも触れてく…
乱歩を読むと、何かが静かに揺らぐ。 夜更けの部屋に座っているだけなのに、言葉の影がじわじわと広がり、 自分の中にあったはずの「日常」という輪郭が、ふっと薄れていく瞬間がある。 怖いのに、なぜか心地いい。 乱歩の文章は、ふだん胸の奥に押し込めて…