2025-12-08から1日間の記事一覧
人生にちょっとだけ疲れたとき、でも大げさな励ましは欲しくないとき、瀬尾まいこの小説は不思議と呼び出される。大きな事件がなくても、人と人が静かに支え合う瞬間だけで、胸の奥がじんわりあたたかくなるからだ。血のつながらない家族、思うようにいかな…
家族、野球、仕事、政治、宗教――早見和真の小説は、どのジャンルでも「理不尽な現実にどう向き合うか」という一点に貫かれている。読んでいて胸がざらつき、同時にどこか救われる感覚が残る作家だ。 ここでは代表作から野球ノンフィクション、書店小説、エッ…
青柳碧人の本をどこから読むか迷っている人へ 昔話や童話の世界に突然「死体」が転がっていたり、数学やクイズがそのまま推理の武器になったり。青柳碧人の小説は、一見ポップで親しみやすいのに、読み終えると頭のどこかがじんわり熱くなる。不思議と読みや…
読むほどに、身体の内側で何かが軋むような感覚が残る。田中慎弥の小説には、どうにも抗えない「濁り」と「痛み」と「光」が同居している。切り裂くような文体の鋭さと、手触りのある土の匂い。それなのに、どこか懐かしい。そんな矛盾だらけの世界に足を踏…
忙しい日々の合間に、ふっと「おいしいもの」と「やさしい物語」に包まれたくなるときがある。小川糸の本は、まさにそんな瞬間にそっと差し出したくなる一冊だ。食べ物の温度、手紙の手ざわり、季節の光。小さなディテールを通じて、「生きていてよかった」…
がんばり過ぎてしまう人、周りの「普通」に押しつぶされそうな人、自分だけが場違いに思えてしまう人。寺地はるなの小説は、そんな読者の肩にそっと手を置いてくるような優しさがある。派手な事件も大きな奇跡もないのに、読み終えるころには、今日をやり過…
組織の論理と、自分の良心。そのあいだで引き裂かれる人間の姿にどうしても惹かれてしまうなら、横山秀夫は外せない作家だ。警察や新聞社、戦争末期の若者たちまで、極限状況に置かれた人間の「決断」をここまで徹底的に描き抜いた作家は多くない。 この記事…
誰かの日常のすぐ隣にあるはずなのに、気づくと足元がふっと冷たくなる――今村夏子の小説には、そんな“目に見えない揺らぎ”がある。読み進めるほどに、ありふれた日常が少しずつ異形へと変わっていく。その変化に抗うように目が離せなくなる。 この世界の壊れ…
学校が息苦しいと感じたことがある人も、家族の空気にどこかズレを覚えたことがある人も、辻村深月の小説を開くと「ここに自分の居場所があったのか」と思わされる瞬間が何度もある。ミステリーのスリルと、青春や家族小説の切なさ、そして現代社会への鋭い…
アイドルとしての姿を知っている人も、小説家としての名前から入った人も、加藤シゲアキの作品を続けて読むと「この人はずっと、人間の弱さと誇りの両方を書いてきたんだな」と実感する瞬間がある。華やかな芸能界や渋谷の街、高校の教室や戦後の地方都市ま…
軽妙で笑えるのに、最後には胸の奥を静かに殴ってくる小説が読みたくなるときがある。そんなとき、真っ先に思い浮かぶ作家のひとりが伊坂幸太郎だ。どんなに物騒な設定でも、人間を信じたくなる温度がかならず残る。このページでは、はじめて読む人から長年…
日常が少しだけ苦しくなったとき、ふと開いた一行に救われる。又吉直樹の作品には、そんな“不思議な寄り添い方”がある。笑いと孤独が同じ温度で流れ、湿った東京の空気や、人間のどうしようもなさが静かに浮かび上がる。読後、胸の奥に残るのは、重さではな…
誰にも届かないと思っていた心の声が、ふいに誰かに拾われる。その瞬間を描くのがうまい作家がいる。町田そのこの小説には、家族にも社会にも見放されたつもりでいた人たちが、別の孤独と出会うことで、かすかな光を見つける物語が多い。極端な悪人も、完全…
就活、教室、SNS炎上、家族旅行。どれも見慣れたはずの日常なのに、浅倉秋成の小説の中に放り込まれると、一気に“物語の戦場”に変わる。ページをめくるたびに伏線が回収され、読み終えたあとには「最初からもう一度読みたい」という衝動だけが残るはずだ。現…
言葉は誰のものなのか。誰がそれを所有し、どこまで自由でいられるのか。九段理江の小説を読むと、そんな根源の問いがじわりと胸の内側に広がる。彼女の作品には、未来と過去の境界が揺れ、身体の輪郭が曖昧になり、言語そのものが変容する瞬間が刻まれてい…
人間関係のざらつきや、女性の心のひだをここまで鋭く、時にユーモラスに描ける作家はそう多くない。日々の暮らしの中で言葉にできなかった感情が、柚木麻子の小説に触れた瞬間、するりと形を持ち始める。迷いを抱えたとき、読者は彼女の人物たちの息づかい…
自分の人生のどこかで、誰にも言えない痛みを抱えた瞬間がある。 宇佐見りんの小説は、その“言葉にならない瞬間”をきれいに整えようとせず、むしろそのままの姿で差し出してくる。読んでいると、胸の奥のほうがじわっと熱くなる。息が詰まるのに、同時にどこ…
生きづらさや罪悪感、孤独の影を抱えた人間が、どうやって再び歩きだすのか。 岩井圭也の小説には、そんな「人が生き直す瞬間」が、冷たい光のなかでそっと灯るように描かれている。 読む側の心にも、ふいに触れてしまう痛みがある。それでもページを閉じた…
東京で暮らしていると、たまに理由のわからない息苦しさに襲われることがある。仕事も家も、それなりに整っているはずなのに、スマホ越しに流れてくる誰かの生活と比べてしまい、胸の奥がざらつくような感覚。麻布競馬場の小説は、まさにその「名前のついて…