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【九段理江おすすめ本】まず読むべき代表作3選|芥川賞『東京都同情塔』から最新作まで完全ガイド

言葉は誰のものなのか。誰がそれを所有し、どこまで自由でいられるのか。九段理江の小説を読むと、そんな根源の問いがじわりと胸の内側に広がる。彼女の作品には、未来と過去の境界が揺れ、身体の輪郭が曖昧になり、言語そのものが変容する瞬間が刻まれている。読んでいるこちらの輪郭さえ一度溶かされるような感覚がある。

今回の記事では、九段理江の代表作3冊を取り上げ、それぞれの魅力を“体験ベースで”案内していく。読み終えたとき、あなた自身の言葉の扱い方が、ほんの少し変わっているはずだ。

 

 

九段理江とは?

1990年代生まれ。2020年代以降の日本文学を語るうえで欠かせない新鋭作家だ。デビュー直後から独自の文体が注目され、〈言語〉〈身体〉〈歴史〉〈テクノロジー〉を大胆に横断する作風で、文学界の空気を一変させた。AIやアーキテクチャ、母娘関係、動物と人間の境界など、一見バラバラの主題を扱っているようでいて、奥には常に“言葉とは何か”という軸がある。

文学賞の受賞歴もとび抜けている。『Schoolgirl』で第73回芸術選奨新人賞、『しをかくうま』で第45回野間文芸新人賞、そして『東京都同情塔』で第170回芥川賞。どの作品も挑発的で、読者の思考と言語感覚を揺らし続ける。

彼女の作品が現代人に刺さる理由は、SNSやAIによって言語が高速に消費される時代に、あえて言葉を“手でさわりなおす”ような書き方を示してくれるところだ。読むほどに、私たちが普段どれだけ言葉に無自覚でいたのかを思い知らされる。

ここから、主要3作品の厚みあるレビューへ進もう。

おすすめ小説3選

1. 東京都同情塔

第170回芥川賞受賞作。未来の東京にそびえる“同情塔”を舞台に、人々が言葉を発する前に〈許可〉が必要となる社会が描かれる。生成AIによる監視・補完された文体、建築物としての塔の存在感、それらが呼応するように物語が進む構造は、読んでいて胸の奥がざわつくほど鮮烈だ。

物語の背景にあるのは、不寛容と監視が極限まで肥大化した世界だが、九段理江はそれを単なるディストピアにはしない。むしろ彼女が照らすのは“言葉の自由を守るにはどうすればいいか”という、人類が避けられない問いだ。巨大な塔を見上げる主人公の感覚がそのまま読者へ移植されるようで、ページをめくる指が止まらなかった。

特に印象に残るのは、語りのリズムだ。AIが校正したような文体と、主人公自身の揺らぎのある語りが交錯し、二重の声が響き合う。読んでいるうちに「私は誰の言葉で考えているのか」という方向へ思考が逸れていく瞬間がある。こうした読書の“逸脱感”は、九段作品では特に強い。

読後に残るのは、暗さや絶望ではなく、不思議な解放感だ。塔は社会の象徴であると同時に、自分の中にある“言葉の檻”でもある。そこから一歩外へ踏み出す勇気をもらえるような感触があった。電子書籍での読書とも相性がよく、Kindle Unlimited で繰り返し読み返したくなる。

2. Schoolgirl

太宰治『女生徒』を大胆に本歌取りし、現代の母娘関係に置き換えた意欲作。ここには、ただのオマージュや翻案ではない“剥きだしの現在”がある。九段理江は、太宰の少女の声を借りながら、現代の少女が抱えるモヤついた孤独、母との同居空間の密度、スマホ画面の光の冷たさまでも精密に描き出す。

冒頭の息の詰まるような語りのテンポが、とにかくクセになる。何かが壊れそうで、でも壊れない日常の縁をなぞるような感覚。母娘の間に漂う“静かすぎる秘密”が、ゆっくりと輪郭を帯びていく。その過程があまりにリアルで、読んでいるこちらまで知らない記憶の奥を触られるようだった。

併録されている「悪い音楽」も見逃せない。こちらはデビュー作で、九段文体がまだ粗削りで、それがかえって瑞々しい。声にならない思春期の感情が、こすれたような言葉で書き留められていて、読後に胸がつんとした。

この作品は、ティーン世代だけでなく、大人の読者が読むからこそ痛みが深く刺さる。母と娘、言葉と沈黙、呼吸と抑圧。関係の“綻びの場所”を探すように読む人におすすめだ。音声で聴くとまた違う息づかいを感じられて、Audible とも相性がいい。

3. しをかくうま

馬と人間の歴史を縦横無尽に走り抜ける、壮大な文学実験のような一冊。九段理江は本作で、線形の物語をあえて拒み、馬の視点・人間の視点・歴史的時間が入り混じる構造を採用している。読み進めるほど、時間がねじれ、身体の感覚がずれていく。そんな奇妙な“乗馬感”のような読書体験が魅力だ。

特別なのは言語の扱い方だ。彼女は馬の身体感覚を、人間語の文法の外側に置きながら翻訳しようとする。その“翻訳の揺らぎ”が、物語全体をエネルギーで満たしている。ときに走り出したくなるような疾走感、ときに立ち止まらされる重み。ページごとに風景が全く異なり、読むたびに別の作品として立ち上がる。

野間文芸新人賞を受賞した理由が、読めばすぐにわかる。これは単なる歴史小説ではないし、動物小説でもない。言葉の限界を書き換える試みそのものだ。読み終わったあと、自分の中に眠っていた“身体の記憶”のようなものが蘇る感覚があった。

 

関連グッズ・サービス

作品世界の濃度が高い九段理江の本は、読む環境づくりで没入感が大きく変わる。ここでは読書体験と相性の良いツールを紹介する。

  • Kindle Unlimited:九段作品の文体は電子書籍とも相性がよい。暗闇の中で光だけ読むと、文中の“視界の揺れ”が研ぎ澄まされる。
  • Audible:声で聴くと、九段理江のリズムの妙がさらに浮き上がる。移動中にも浸りやすい。
  • Prime Student:学生なら特に作品テーマとの相性が良く、読書習慣と一緒に登録しておくと世界が広がる。

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