『掏摸(すり)』
中村文則
本書にはかなり濃厚な性描写が含まれています。自分にはまだ早い、あるいはそんなもの読みたくないというあなたにはお勧めできません。目を覆いたくなるような暴力シーンもあります。殺人もあり、平気で人を陥れる腐った大人が次々に登場、健康的な大人は存在しない。母親の命令で万引きをする男の子の姿もあります。そもそもタイトル自体が反社会的な行為(すり)に嫌悪感を覚えるあなたにもおすすめできません。
世の中の闇など知らず天寿を全うしたいという方も、明るく前向きな物語を愛するあなたも普通の恋愛ものを読みたい気分のあなたも、怖い話を読むと夜中にトイレ行けなくなるあなたも読まない方がいいでしょう。
でもこれだけ言われると読みたくなりますよね。 この本を読んでいると胸がざわめきだすに違いありません。その振動はきっとあなたが自分を守ったり押さえつけたりする殻から抜け出し、あられもない世界と対峙するための糧となるでしょう。これから社会に出る大学生にぜひ読んでおいてほしい一冊です。
『さよなら、シリアルキラー』
B・ ライガー
シリアルキラーもののミステリーです。主人公は犯人でも刑事でもなく17歳の少年ジャズ。彼の父親は100人以上の殺人を行ったシリアルキラー、ウイリー・デント。ジャズが誰の息子であるか街にはよく知られていますが、それ以上に問題なのは父親が殺人の知識を折に触れて伝えていたことです。だから彼には加害者は何を考えて、どんな行動をしたか分かってしまうのです。では彼が警察に入り、その能力を使ってヒーローに…とはなりません。
自分の思いを引き継いで欲しい親の欲望と、自分は自分でいたいという子供の思いとの葛藤と愛をこの作品は、父親をシリアルキラーに設定することで私たちに見せてくれるのです。
『ボグ・チャイルド』
S ・ダウト
18歳、あるいは22歳といえば誰もが学校を卒業してどのように生きていくのか、自分の行く末を考える戸惑いや迷い希望に震える歳。そんなヒリヒリとした心を持て余しながら過ごすファーガスは、北アイルランドの政治的に複雑な状況にも否応なく巻き込まれていきます。1981年のこのファーガスの立ち位置は、自分一人では変えることのできないような複雑な状況にあります。そのような状況の中でどんな言葉で自分を保ち行動するのか、力のある物語はここ日本でも、東北の震災後のリアルな感覚と重ねられて今の物語として読むことができます。
どうしようもない状況で、すべてを投げ出したくなった社会人にもおすすめです。