『キレイゴトぬきの農業論』
久松達央
農家が農業の話をしているだけなのに、ネット系ベンチャーのプレゼンテーションでも聞いているかのような印象の本です。本書の読書体験を一言で表すとそんなふうになります。そこにはステレオタイプな寡黙な農家のイメージもありません。日本一話の上手い農家を自負する著者が作り出しているのは、安全なだけの無農薬野菜でも環境に優しいだけの有機野菜でもなく、新しい農業なのです。
マーケティングの潮流は狩猟型のものから農耕型のものへとここ数年で大きく変貌を遂げています。だからこそ農業を営む者が農業の論理をきちんと突き詰めてマーケティングを実践すると、最先端のものになることに気づいた時、本書の面白さがわかるでしょう。農学部に在籍している大学生にはぜひ読んでほしいオススメの本です。
『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスへ』
田中ひかる
生理(医学的には月経)の本はこれまであまりなかったような気がします。アメリカでパルプを砕いた紙綿を用いた生理用品コーテックスが発売されたのは、第1次世界対戦後の1920年頃キンバリークラーク社によってでありました。それに遅れること40年、日本でアンネ株式会社といった会社が生まれます。アンネ株式会社の語源は、あのアンネ・フランクです。
アンネの日記の中に、生理について「面倒くさいし、不愉快だし、鬱陶しいのにもかかわらず、甘美な秘密を持っているような気がします」というセンテンスのあることが決定打になったそうです。この辺りが女性社長の抜群のネーミングセンスですね。時代に先駆けたベンチャー企業の歴史としても、今では当たり前になってるイメージ戦略的な広告のプロトタイプとしても、それにもちろん生理用品の問題点や将来についてもと、どの角度から見ても面白い本になっています。広告業界に従事する社会人は必読の本ではないでしょうか。
『イベリコ豚を買いに』
野地秩嘉
イベリコ豚はスペインの黒豚だ。イベリコ豚はいつもどんぐりを食べている。こういう認識しかない人は多いと思います。だいたいがイベリコ豚について知ってはいても勘違いしてる日本人が多いらしいのです。このことは日本で BSE が出た頃に高級和牛に代わる食料としてイベリコ豚が日本に紹介されて認知された背景も関係してるようです。
本書はスペインに行く著者が、悩み自分へのダメ出し、それに様々な人との出会いと挑戦と冒険の物語になっています。イベリコ豚を一緒に追いかけていたつもりが、いつのまにか仕事とは何かの本質についても考えさせる一冊となっています。仕事に悩む社会人におすすめの本です 。ちょっとやそっとじゃ諦めちゃいけない!そんな気にさせてくれる本です。