「君の膵臓をたべたい」は読んだけれど、そのほかの作品はまだ……という人は多いと思う。けれど住野よるの本当の面白さは、キミスイの先にある「痛みを抱えたまま、それでも誰かとつながろうとする」物語の積み重ねにこそ見えてくる。
ここではデビュー作から最新作まで、青春と恋愛、そして“生きづらさ”を描き続けてきた住野よるの主要作を11冊にしぼって紹介する。年代や気分に合わせて読み進めていけば、自分の過去の痛みや、まだ言葉になっていない気持ちに、静かに灯りがともるはずだ。
- 住野よるとは?──“無敵の青春小説家”の素顔
- おすすめ本12選
- 1. 君の膵臓をたべたい(デビュー長編・映画化作品)
- 2. また、同じ夢を見ていた(「幸せ」をめぐる優しいファンタジー)
- 3. 青くて痛くて脆い(理想と現実がぶつかる、大学生の復讐譚)
- 4. よるのばけもの(いじめと自己嫌悪に向き合う、夜の教室の物語)
- 5. か「」く「」し「」ご「」と「(“見えてしまう”高校生たちの群像劇)
- 6. 麦本三歩の好きなもの(図書館女子の“なんでもない”幸福)
- 7. この気持ちもいつか忘れる(音楽と異世界が交差する恋愛長編)
- 8. 腹を割ったら血が出るだけさ(“愛されたい”が暴走する青春群像)
- 9. 告白撃(30歳手前、大人げない“大人”たちの告白大作戦)
- 10.歪曲済アイラービュ(世界滅亡前夜をかき集めたジェットコースター連作)
- 11.恋とそれとあと全部(“不謹慎な旅”が見せる、恋と世界の輪郭)
- 12.よるのばけもの(双葉文庫で読み返したい、夜の教室の物語)
- 関連グッズ・サービス
- まとめ──“痛さ”ごと抱きしめる読書体験を
- FAQ
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住野よるとは?──“無敵の青春小説家”の素顔
住野よるは、高校時代から執筆を続けてきた小説家だ。2015年に『君の膵臓をたべたい』でデビューし、同作は累計300万部を超えるベストセラーとなった。2016年の本屋大賞では第2位に入り、実写映画・アニメ映画・オーディオブックと、大きな広がりを見せた作品でもある。
その後も『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』など、10代の心の揺れや、「幸せとは何か」「人とどう関わるか」といったテーマを、まっすぐで少しひねくれた視線から描き続けてきた。2023年の『恋とそれとあと全部』では小学館児童出版文化賞を受賞し、「無敵の青春小説家」というキャッチコピーにふさわしい存在感を確立している。
プロフィールや年齢などは「本より作家が目立つべきではない」という理由から非公表だが、その代わりに作品のなかでは、登場人物たちの弱さやずるさまで含めて、とことん赤裸々に描き出す。読んでいると、ときどき「ここまで言葉にしてしまっていいのか」と胸がざわつく。そのざわつきこそが、住野作品の魅力のひとつだと言っていい。
10代の読者にとっては「今まさに抱えている痛み」を、20〜30代の読者にとっては「かつて通り過ぎたはずなのに、まだどこかに残っている痛み」を、そっと撫でながら言語化してくれる。
おすすめ本12選
1. 君の膵臓をたべたい(デビュー長編・映画化作品)
『君の膵臓をたべたい』は、ある高校生の「僕」が病院の待合室で拾った一冊の文庫本「共病文庫」から始まる。持ち主はクラスメイトの山内桜良。そこには、自分が膵臓の病気で余命いくばくもないことが、淡々と書きつけられている。タイトルだけを見るとショッキングだが、物語のトーンはむしろ明るく、軽やかだ。死がすぐそばにあるからこそ、日常の一コマ一コマがやけに色鮮やかに見えてくる。
この作品の読まれ方として有名なのは、「タイトルに対する印象が、読み終わったときまったく変わっている」という点だろう。最初は残酷な黒いユーモアに見える言葉が、最後には、あまりにも切ない愛情の言い換えになっていると気づく。タイトルの意味を理解した瞬間、胸の奥に溜め込んでいたものが一気に音を立てて崩れ落ちるような感覚がある。
物語は「過去」と「現在」を行き来しながら進む。高校時代の桜良との日々と、教師になった“僕”の現在が交互に描かれる構成のおかげで、桜良の死は最初から決して覆らない。救いのない状況がわかっているからこそ、ふたりが交わす何気ない会話──コンビニ帰りの雑談、旅行の計画、クラスメイトとの距離感──が、読者にとっても貴重な「もう二度と戻れない時間」に変わっていく。
この小説のすごさは、「特別な誰かと出会えれば人生が変わる」といった単純なメッセージに落ち着かないところにある。桜良は決して完璧な天使ではなく、わがままで、残酷なところもある。無口な“僕”も、最後までうまく気持ちを言葉にできない。それでも、ふたりが互いの「普通じゃなさ」をぶつけ合いながら、少しずつ世界の見え方を変えていく過程に、読み手は自分の青春のはしっこを重ねてしまう。
読後には、ただ泣くだけで終わらない、妙な静けさが残る。桜良のような存在がいなくても、今そばにいる友人や家族との時間は、いつでも失われうるものだ、と身体で理解してしまうからだろう。高校生から大人まで、恋愛小説としても青春小説としても読めるが、特に「自分なんてモブだ」と感じているタイプの読者には、かなり刺さる一冊だと思う。
2. また、同じ夢を見ていた(「幸せ」をめぐる優しいファンタジー)
『また、同じ夢を見ていた』は、「人生とは、」が口癖の少し大人びた小学生・小柳奈ノ花(なのか)が主人公だ。成績は良く、先生たちからも評価されているけれど、クラスではどこか浮いている。そんな奈ノ花が、ある日「南さん」「アバズレさん」「おばあちゃん」、そしてしっぽのちぎれた一匹の猫と出会う。彼女たち(と猫)との会話を通じて、「幸せとは何か?」という問いが、少しずつ形を変えて目の前に現れてくる。
三人の“女の人”と一匹の猫は、それぞれ年齢も生活もまったく違う。家庭の事情を抱えた若い女性、どこか荒っぽい口調で生きている「アバズレさん」、静かに昔話をするおばあちゃん。奈ノ花は彼女たちの話を聞きながら、自分なりの「人生とはこういうものだ」という定義を更新していく。そのプロセスが、読者にとっても自分の価値観を見直すワークのようになっている。
物語が進むにつれて、三人の女性たちの過去や痛みが少しずつ明かされていく。奈ノ花が投げかけるまっすぐな質問は、ときに残酷なほど本質的だ。「どうして、そんなに自分を責めるの?」「それでも幸せって言えるの?」。彼女のことばに、読者自身が問われているように感じる瞬間が何度もある。
この作品は、いわゆる“どんでん返し”よりも、「ああ、そういうことだったのか」とゆっくり腑に落ちるタイプの物語だ。ラストに向かうにつれて、バラバラだったエピソードが一本の線で結ばれていく感覚が心地よい。気づけば奈ノ花の「人生とは、」という口癖の響きが、最初と最後でまったく違って聞こえている。
小学生が主人公なので、文章もやさしく読みやすい。それでいて、大人の読者が読んでも十分に手ごたえがある。「子ども向けの本かな」と侮って読むと、いつのまにか自分の過去の後悔や、誰にも言えなかった感情を思い出して、静かに胸が痛くなるはずだ。
学校に行くのがしんどい子、家の居心地が悪い子、あるいは、そういう時期を通り抜けてきた大人たちにとって、「あのとき欲しかった言葉」がちゃんと物語のなかに用意されている。優しくて、ちゃんと痛い一冊だ。
3. 青くて痛くて脆い(理想と現実がぶつかる、大学生の復讐譚)
『青くて痛くて脆い』は、大学一年生の「僕」楓と、理想に燃える女子学生・秋好寿乃の出会いから始まる。授業中に子どものような理想論を堂々と語ってしまう秋好は、周囲から浮いた存在だ。誰かの意見に反対しないことを信条としてきた楓は、そんな彼女をつい受け入れてしまう。二人は、自分たちの理想を叶えるための秘密のサークル「モアイ」を立ち上げるが、やがてそのサークルは肥大化し、別物の組織へと変質していく。
物語が始まる時点で、楓と秋好の関係はすでに壊れている。楓は四年生となり、「モアイ」からも離れている。かつて二人で作ったはずの秘密結社は、いつの間にか就活支援サークルのような、「無難で社会的に褒められる活動」をする団体に変わっていた。楓は、自分がかつて共犯者だったことを認めたうえで、「モアイ」を壊すことを決意する。
この小説は、青春小説に見せかけた復讐譚だ。楓の語りは、ずっとねばついた恨みと後悔にまみれている。読んでいて、決して気持ちのいい主人公ではない。それでも読み進めてしまうのは、「理想を掲げていたはずが、いつの間にか自分も“普通の側”にいる」感覚に、心当たりのある読者が多いからだと思う。
秋好は「明日世界が変わるかもしれない」と本気で信じていた人物として描かれる。その青さは痛々しいほどだが、同時に、彼女の存在が楓や周囲の人間に残したものは、簡単に否定できない。楓が「結局、秋好は嘘をついた」と感じる瞬間と、「あの嘘を本当にするために動き出す」瞬間が同じ人物の中に同居しているところに、この作品の複雑さがある。
大学生にとっては、サークル内の人間関係や就活の空気感があまりにリアルで、ひやりとする場面が多いだろう。社会人にとっては、「かつて自分にもあった理想」や、「あのとき見なかったふりをした違和感」が、痛いほど掘り起こされる物語になる。
読後には、「変わらないこと」と「変わってしまうこと」のどちらが正しいのか、簡単な答えを出すのをやめたくなる。正しさに決着をつけるのではなく、ただその葛藤を抱えたまま生きていくしかない、という感覚に落ち着いていく。その意味で、かなりハードな青春小説だが、「キミスイの次」に踏み込みたい人にはぴったりの一冊だと思う。
4. よるのばけもの(いじめと自己嫌悪に向き合う、夜の教室の物語)
『よるのばけもの』の主人公は、中学3年生の安達。彼には、人には言えない秘密がある。夜になると身体から黒い粒が流れ出し、八つの目と六本の脚をもつ“ばけもの”の姿に変わってしまうのだ。ある夜、宿題を忘れて学校に忍び込んだ安達は、誰もいないはずの教室で、ひとりの女子生徒──クラスでいじめられている矢野さつき──と出会う。彼女は安達の正体をすぐに見抜き、驚くほどあっさりと受け入れる。そこから、夜の教室での奇妙な共犯関係が始まっていく。
安達は、いじめの「加害者側」の一員でもある。完全な主犯ではないが、矢野がいじられる空気を笑ってやり過ごし、自分もその場にいた。だからこそ、夜の教室で彼女と二人きりになったとき、安達の心にはどうしようもない罪悪感と自己嫌悪が渦巻く。ばけものの姿は、彼自身の「こんな自分は人前に出せない」という意識のメタファーでもある。
夜の教室で交わされる会話は、昼間の教室では決して口にできないことばで満ちている。矢野は、ただの「いじめられっ子」ではなく、他人の残酷さも、自分の弱さも、ある程度わかったうえで生きている人物として描かれる。安達は、そのことに気づくたび、自分がいかに誰も見てこなかったかを思い知らされる。
この作品の怖さは、教室の空気描写のリアルさにある。明確な暴力だけでなく、「何となく笑う」「沈黙する」「視線を外す」といった些細なふるまいが、誰かを追い詰める加担になってしまう。その「グレーゾーン」の恐ろしさを、住野よるは容赦なく書いている。
同時に、物語は決して救いのないものではない。安達が自分の卑怯さを直視し、矢野と対等に話そうとする過程には、小さな希望が積み重なっている。人は完全に善にも悪にもなりきれない、という前提に立ったうえで、「それでも何を選ぶか」というところに光を当てていく。
いじめの描写があるので、読むタイミングは少し選ぶかもしれないが、「何もしていない自分」を責め続けている人には強く響く。中高生にも届く文体で書かれていながら、テーマはどこまでも大人だ。
5. か「」く「」し「」ご「」と「(“見えてしまう”高校生たちの群像劇)
タイトルからして独特な『か「」く「」し「」ご「」と「』は、「心の中が少しだけわかる」特殊な能力をもった高校生5人の物語だ。彼らは誰にも言えないその力を隠しながら、受験や恋愛や家族の問題に向き合っている。能力といっても、世界を救うほどの派手なものではない。他人の感情が記号に見えたり、心の声が断片的に聞こえたりと、本当に「ちょっとだけ」だ。その半端さが、かえってリアルな人間関係のもどかしさを浮かび上がらせる。
面白いのは、彼らの能力が「隠し事」であると同時に、人間関係を円滑にする「各仕事」としても機能しているところだ。タイトルの二重の意味に気づくと、作品全体の見え方が変わってくる。人の心が読めてしまうからこそ踏み込みすぎない優しさもあれば、読めてしまうのにあえて見ないふりをする卑怯さもある。そのどちらも、現実の人間関係の中で私たちがやっていることだ。
5人の視点が交互に切り替わる構成なので、最初は少し戸惑うかもしれない。ただ、読み進めるうちに、それぞれの「かくしごと」が少しずつ重なり合い、やがて一つの大きなテーマに収束していくのがわかる。誰かの何気ない行動の裏に、別の人物の必死な決意が隠れていたりして、「あの場面はそういう意味だったのか」と何度か読み返したくなる。
能力もの、学園もの、と聞くと軽いラブコメを想像しがちだが、この作品のトーンはかなり真面目だ。とはいえ説教くさくはなく、むしろ会話劇のテンポの良さに引っ張られているうちに、自然と自分の「人との距離の取り方」に思いを巡らせてしまう。
自分の本心を言葉にするのが苦手な人、他人の顔色をうかがってばかりいる人には、特に響くだろう。「察してほしい」「察しすぎる」人間たちが、それでもぎこちなく関係を結び直していく姿は、読者にとってささやかな救いになる。
6. 麦本三歩の好きなもの(図書館女子の“なんでもない”幸福)
『麦本三歩の好きなもの』は、それまでの住野作品とは少し違うトーンをもった日常小説だ。主人公は、大学図書館で働く20代女子・麦本三歩。特に大きな野心もなく、仕事もそれなり、友人との旅行やおいしいものが何よりの楽しみ。そんな「どこにでもいそうな人」の、なんてことのない一日一日が、連作短編集のかたちで描かれていく。
この作品には、ドラマチックな事件はほとんど起きない。図書館カウンターでの小さなやりとり、先輩との雑談、ふとしたミス、休日の食べ歩きや温泉旅行――ページをめくっても、世界が一変するような出来事は出てこない。それなのに、読み終わるころには「自分の日常も案外悪くないのかもしれない」と思えてくる不思議な本だ。
三歩は、いわゆる“ほわほわ系”のキャラクターに見えるが、頭の中ではかなり色々なことを考えている。めんどうごとを先送りにしたり、失敗をネタにして笑ってしまったりもする。完璧ではないが、その不完全さごと愛おしく感じられるような描かれ方をしているので、読者はいつの間にか彼女の親友のひとりになったような気分になる。
また、三歩を取り巻く周囲の人々の描写も秀逸だ。怖いけれど頼りになる先輩、真面目な同僚、お酒の席でだけ本音をこぼす友人……。彼らとの細かなやりとりの積み重ねが、「社会人としての居場所」のあたたかさと窮屈さの両方を伝えてくれる。
仕事に疲れているとき、何かを頑張る気力が出ないとき、こういう本に救われることがある。「成長」や「成功」といったわかりやすい物差しからいったん離れて、「好きなものがたくさんあるから、毎日はきっと楽しい」という三歩のスタンスに触れると、自分の暮らしの中にも同じような種がいくつも転がっていたことに気づける。
社会人読者にとっては、キミスイよりもむしろこちらのほうが“刺さる”という人も多いと思う。夜、仕事終わりの一杯のお茶のような本だ。
7. この気持ちもいつか忘れる(音楽と異世界が交差する恋愛長編)
『この気持ちもいつか忘れる』は、ロックバンド・THE BACK HORNとのコラボレーション小説として話題になった作品だ。毎日が退屈で、クラスメイトを内心見下しながら暮らす男子高校生・カヤが主人公。16歳の誕生日に出会った謎の少女・チカは、自分は“異世界の住人”だと語る。二つの世界で奇妙なシンクロが起きるなかで、カヤの心には、これまで感じたことのない変化が生まれていく。
異世界といっても、派手なバトルや魔法が飛び交うわけではない。むしろ、二つの世界のズレが少しずつ明らかになっていく過程が、静かなホラーのような緊張を帯びている。チカの言動にはどこか危うさがあり、読者は「これは本当に恋愛物語として終わるのだろうか」と不安になりながらページをめくることになる。
カヤは典型的な“拗ねた高校生”だ。世界を斜めから見ていて、何かを本気で好きになったり、誰かに期待したりすることを避けている。そんな彼が、チカとの出会いによって少しずつ感情を露わにしていく姿は、微笑ましいというより、むしろ痛々しい。好きになればなるほど、不安も増えていくからだ。
音楽とのコラボ作品らしく、文章のリズムや場面転換のタイミングに、どこか曲の構成を思わせるところがある。静かなイントロ、疾走感のあるサビ、アウトロの余韻。読み終わったあと、タイトル通り「この気持ちもいつか忘れるのだろうか」と自分の過去の恋を振り返ってしまう読者も多いはずだ。
恋愛小説として読むこともできるし、「自分の退屈を壊してくれる他者」に出会ったとき、人はどこまで変わる覚悟を持てるのか、という成長物語として読むこともできる。THE BACK HORNの楽曲を知っている人なら、歌詞や曲調とリンクする瞬間にニヤリとできるはずだが、バンドを知らなくてもまったく問題なく楽しめる。
8. 腹を割ったら血が出るだけさ(“愛されたい”が暴走する青春群像)
最新作のひとつ『腹を割ったら血が出るだけさ』は、タイトルからして強烈だ。主人公格の女子高生・糸林茜寧は、友達や恋人に囲まれ、書店でのアルバイトにも励む「リア充」な日々を送っている。だがその実態は、「愛されたい」という感情に縛られ、ひたすら“偽りの自分”を演じ続ける苦しい毎日だった。そんな茜寧の唯一の逃げ場は、自分にそっくりな主人公が登場する小説『少女のマーチ』を読む時間だけ。その本に出てくる〈あい〉にそっくりな人物と街で出会ったことから、物語は大きく動き出す。
「腹を割って話す」という言葉は、本来は誠実さの象徴だ。しかしこの作品は、そのフレーズの裏にある残酷さを容赦なく暴く。心の内をさらけ出したところで、出てくるのは血だけかもしれない。それでもなお、他者と関わらずにはいられない人間たちの姿が描かれる。
茜寧の周囲には、ありのままの自分を誇る青年、自らのストーリーを作り続けるアイドル、他人の失敗ばかりを探してしまう少年など、「愛されたい」気持ちをこじらせた人物たちが集まってくる。彼らは皆、自分のどこかが欠けていることをうすうす自覚しながらも、その欠けを認めるくらいなら、むしろ他人を傷つけてしまうタイプの人間だ。
読んでいてしんどい場面も多いが、そのしんどさから逃げずに描き切っているところが、この作品の魅力でもある。SNS社会のなかで「いいね」や承認に振り回されてきた読者ほど、自分の姿を重ねてしまうだろう。
同時に、救いがまったくないわけではない。誰かが誰かの“物語”になってしまう危険性と、それでも誰かの物語を愛さずにはいられない人間の性を、住野よるは最後まで見つめている。タイトルにたどり着いたとき、そこには単なる絶望ではなく、「血が出ることを知ったうえで、どうやって関わるか」という問いが残る。
9. 告白撃(30歳手前、大人げない“大人”たちの告白大作戦)
『告白撃』は、主要人物が全員社会人という、少し大人寄りの恋愛小説だ。三十歳を目前に婚約した有永千鶴は、長年自分への恋心を抱き続けている親友・響貴に、あえて告白させて「失恋」させるという、とんでもない計画を立てる。願いはひとつ──彼が想いを引きずらず、前に進めるようになること。その大人げない作戦に、学生時代からの共通の友人・果凛も巻き込まれていく。
設定だけ聞くと、かなり自分勝手なヒロインに思えるかもしれない。実際、千鶴の行動は褒められたものではない。ただ、この物語の肝は、「ものわかりのいい大人」たちが抱え込んできた本音を、どうやって外に出すか、というところにある。千鶴も響貴も果凛も、社会性を身につけ、空気を読み、波風を立てないように生きてきた人間だ。その結果、誰かの恋心も、誰かの本当の願いも、見なかったことにして積み重なってしまっている。
「告白撃」というタイトルには、告白することが、誰かの心に弾丸を撃ち込む行為でもある、というニュアンスが込められている。撃たれる側だけでなく、撃つ側も傷つく。そのリスクを承知でなお、言葉にしなければならない感情があることを、この作品は描いている。
学生時代の回想シーンと、三十代目前の現在が交互に描かれる構成は、『君の膵臓をたべたい』を思わせる部分もある。ただ、こちらのほうがより「現実寄り」だ。誰も死なないし、世界も終わらない。その代わり、仕事や結婚、将来の不安といった、生活の重さがしっかりと物語に組み込まれている。
大学時代の友人グループとの関係性に、もやもやを抱えたまま大人になってしまった読者には、かなり刺さるはずだ。「あのときちゃんと話しておけばよかった」という後悔を、もう一度やり直すための物語として読むこともできる。
10.歪曲済アイラービュ(世界滅亡前夜をかき集めたジェットコースター連作)
『歪曲済アイラービュ』は、「世界の終わり」というありがちなモチーフを、思い切りポップでくだけた質感に歪ませた一冊だ。底辺YouTuber「こなるん」が生配信で宣言するのは、「世界滅亡までのカウントダウン」。その予言が本当かどうかは最後までわからないまま、「世界が本当に終わるかもしれない」と勝手に確信してしまった人たちが、それぞれの「最後の行動」に走り出す。物語は、いい子でい続けた女子高生、心の底では悪魔みたいな教師、幼なじみの前で自傷的な行動を繰り返す大学生、職場の先輩に料理を習う会社員、妻に愛の音楽を奏でる青年……といった人物たちのエピソードが次々と切り替わる連作短編集になっている。
面白いのは、誰もが「まともであること」に疲れきっている点だ。学校で、職場で、家庭で、空気を読み、正論を守り、波風を立てずに生きてきた人たちが、「もしかしたらもう終わるのだから」と、急に自分の欲望や本音に忠実になってしまう。その暴走ぶりは、笑ってしまうほど極端なのに、どこか身に覚えがある。常識から外れようとするときの心細さと高揚感が、そのままページのスピード感になっている。
どのエピソードも単体で読めるが、読み進めるほどに、世界観のつながりやモチーフの反復が見えてくるつくりだ。「終わる」からこそ本音が出る人、「終わる」ことを利用して他人を支配しようとする人、「終わる」と思うことでやっと生き始められる人。終末予言を巡る人間たちの反応の違いが、ブラックユーモアをまといながらも妙にリアルで、笑っているうちに少し冷や汗がにじむ。
住野よるの既刊作に親しんでいる読者にとっては、『か「」く「」し「」ご「」と「』のような“ちょっと不思議な設定を持った青春もの”とは違う方向への振り切れ方に驚かされると思う。だが、世界のルールが少しだけねじれた状況で、人間の本音と「普通であろうとする顔」がぶつかり合う構図は、やはり住野作品の地続きにある。優しいだけの物語では物足りなくなったタイミングで手に取ると、「ああ、この作家はここまでやるのか」とニヤリとさせられるはずだ。
連作短編集なので、一気読みでも、気になるタイトルだけ拾い読みする形でも楽しめる。仕事帰りの電車で一章だけ読む、寝る前に一話ぶんだけ読む、といったリズムにも合う。ふと顔を上げたとき、自分の毎日がどれだけ「まとも」に縛られているか、少しだけ測り直したくなる一冊だ。
11.恋とそれとあと全部(“不謹慎な旅”が見せる、恋と世界の輪郭)
『恋とそれとあと全部』は、タイトルの通り「恋」だけにとどまらない物語だ。語り手は、下宿仲間でクラスメイトの女子・サブレに片想いしている男子・めえめえ。夏休み、しばらく会えないはずのサブレと、なぜか夜行バスで遠くの町へ向かうことになる。目的は、サブレの祖父の家を訪ねること。ただしその旅には、ふたりにしかわからない“ちょっと不謹慎な目的”がくっついている。親戚の死、残された家族、そこで語られる「死んでしまった人」の話。特別な四日間の旅が、恋心だけでなく、世界の見え方の「あと全部」を変えていく。
めえめえとサブレの関係がいい。告白もしていない、付き合っているわけでもない。でも、ただの友だちとも言い切れない微妙な距離。その絶妙な空気を、住野よるは会話のリズムと沈黙の長さで描いていく。夜行バスの車内、初めて降り立つ見知らぬ街、祖父の家の縁側。場面ごとにふたりの温度差が少しずつずれていく感覚が、読んでいてとても生々しい。
サブレは「死」に強い興味を持つキャラクターとして描かれるが、単なる“病んだ女子高生”ではない。誰かが消えてしまったあとに残る時間や場所に、どうしても目を向けてしまう人だ。めえめえはそんな彼女を、理解したいような、理解できないままでいてほしいような気持ちで見つめている。その揺れが、旅先での会話のひと言ひと言ににじむ。
この小説の良さは、「恋」というラベルを、かなり慎重に扱っているところにある。めえめえの感情には、恋心だけでなく、同情や尊敬、憧れや嫉妬のようなものも混ざり合っている。それを一つの言葉でまとめてしまうことの危うさを、物語全体がそっと指摘してくる。タイトルにある「それとあと全部」という言葉は、まさにそのモヤモヤした領域を丸ごと抱きとめるためのフレーズだ。
旅の行き先や“不謹慎な目的”の詳細は、多くを語らないほうがいい。読み進めながら、めえめえと一緒にサブレの過去や家族の事情に触れていったほうが、ふたりの関係の変化がじわじわと染みてくる。夏の夜の空気、バスのエアコンの冷たさ、地方都市のコンビニの光。そんな細部が、若いころの一度きりの旅の感触を思い出させてくれる。
「片想い小説」として読むこともできるし、「誰かの死を通じて、自分の生き方を考え直す物語」として読むこともできる。『君の膵臓をたべたい』を読んだ読者には、あの作品の“10年後の答え合わせ”のような読後感が待っているかもしれない。恋をしている人にも、恋に疲れた人にも、それぞれ違う場所に刺さる一冊だ。
12.よるのばけもの(双葉文庫で読み返したい、夜の教室の物語)
『よるのばけもの』は単行本で発表されたのち、双葉文庫版として改めて多くの読者の手に届くようになった。夜になると八つの目と六本の脚、四つの尾を持つ“ばけもの”の姿になってしまう中学生の安達が、忘れ物を取りに入った夜の学校で、いじめられっ子のクラスメイト・矢野さつきと出会う。誰もいないはずの教室で、化け物の姿のまま矢野に正体を見抜かれてしまうところから、物語は静かに転がり始める。
双葉文庫版で読み返すとまず感じるのは、この物語が「ホラー」ではなく、徹頭徹尾「教室の話」なのだということだ。安達の化け物化は、もちろんファンタジー的な設定だが、読み進めるほどに、彼の自己嫌悪や罪悪感の象徴のように見えてくる。いじめの輪に加わってしまったこと、何もしてこなかったこと、そのすべてが夜の姿を醜くしているように感じられ、読者も一緒に胸が苦しくなる。
矢野は、昼間の教室では「空気が読めない」「うっとうしい」と扱われる存在だが、夜の教室ではまるで別人のように饒舌で、よく笑い、よくしゃべる。「夜休み」と名付けた時間を、自分の心を保つために使っている。双葉文庫版の軽いサイズ感でページをめくっていると、その姿が余計に身近に感じられ、自分のクラスにもこういう子がいたかもしれない、とふと考えてしまう。
文庫になったことで、持ち歩いて少しずつ読む読者も増えたはずだ。通学電車のなかで読むと、窓に映る自分の顔が、昼の安達に見えたり、矢野に見えたりする瞬間がある。自分は本当に「何もしていないだけの人」だったのか、それとももっと加害側に近い位置にいたのか。ページを閉じたあとに、そんな居心地の悪い問いが残る。
単行本で一度読んだ人が、双葉文庫版で読み返すと、当時気づかなかった会話の棘や、何気ない描写の意味に改めてハッとさせられるはずだ。中学生・高校生が初読するのにももちろん向いているが、「あのころの教室」をすでに通り抜けてしまった大人こそ、文庫をポケットに入れて夜のカフェや電車で読みたい。いじめをテーマにした物語は数多くあるが、「加害者でも被害者でもない自分」をここまで正面から問い詰めてくる作品は、やはりそう多くない。
関連グッズ・サービス
本を読んだ後の学びを生活に根づかせるには、生活に取り入れやすいツールやサービスを組み合わせると効果が高まる。
1. 読書量を一気に増やしたいなら:Kindle Unlimited
住野よるの作品は文庫・電子書籍で揃っているものが多いので、サブスク型の読み放題サービスと相性がいい。特に「キミスイ以外も順番に追いかけたい」と思ったとき、紙で揃えるか電子中心にするか悩む人は多いはずだ。
夜寝る前にベッドで1話だけ読む、通勤電車で数ページずつ読み進める、といった細切れ読書との相性もいい。端末ひとつで積読を抱えられる感覚は、一度慣れると手放しがたい。
2. 耳で味わう青春小説:Audible
感情の機微が細かい住野作品は、声優やナレーターの声で聞くと印象ががらりと変わる。とくに『君の膵臓をたべたい』や『また、同じ夢を見ていた』のような一人称語りは、耳から入ると主人公の「心の声」に直接アクセスしているような感覚になる。
通勤時間や家事の時間を読書タイムに変えたい人には、かなり心強い味方になる。夜の散歩をしながら『よるのばけもの』を聴く、なんて楽しみ方もできる。
3. じっくり読みふけるための「お供」たち
住野作品は感情が揺さぶられるシーンが多いので、家で読むなら落ち着ける環境づくりも一緒に整えたい。湯たんぽ代わりになる着心地のいいルームウェアや、香りのよいハーブティー、ドリップコーヒーなど、自分なりの「読書セット」を決めておくと、ページを開くだけで心が読書モードに切り替わる。
特に、『麦本三歩の好きなもの』シリーズを読むときは、温かい飲み物とお菓子を用意しておきたい。三歩の「好きなもの」リストに、自分の好きなドリンクを勝手に並べてみるのも楽しい。
まとめ──“痛さ”ごと抱きしめる読書体験を
住野よるの作品を並べて眺めると、「痛さ」と「やさしさ」が常にセットで描かれていることに気づく。死に向き合う物語でも、いじめや自己嫌悪を扱う物語でも、恋愛のこじれを描く物語でも、必ずどこかに「それでも誰かとつながりたい」という小さな願いがある。
その願いは、決してきれいごとではない。しばしば自分勝手で、他人を傷つける。『腹を割ったら血が出るだけさ』や『告白撃』のように、大人になっても不器用なままの登場人物たちを見ていると、「人間はそう簡単に成長できない」という現実も突きつけられる。
それでも、物語の最後に残るのは、じんわりとした温度だ。自分の過去の痛みや、今の生きづらさを、少しだけ違う角度から見つめ直せる感覚。読書を終えて日常に戻ったとき、教室や職場の景色がわずかに違って見えれば、それだけでこの11冊は十分すぎるほどの役目を果たしていると思う。
- 気分で選ぶなら:『恋なくし』『恋とそれとあと全部』系統が好きなら、まずは『君の膵臓をたべたい』とセットで
- じっくり読みたいなら:『青くて痛くて脆い』『腹を割ったら血が出るだけさ』『告白撃』で、理想と現実・大人の恋に向き合う
- 短時間で読みたいなら:『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『麦本三歩の好きなもの』シリーズから、気になる一冊を
どの本から読んでもかまわない。ただ、どれか一冊が心に残ったなら、ぜひ時間をかけて残りの作品たちにも手を伸ばしてほしい。同じ作者の別の物語が、意外なところで響きあいながら、自分の中の“まだ言葉になっていない気持ち”を掘り起こしてくれるはずだ。
FAQ
Q1. 初めて読むなら、どの一冊がおすすめ?
もっとも王道なのは、やはり『君の膵臓をたべたい』だと思う。読者の年齢を問わず、ストレートに感情を揺さぶってくる物語でありながら、過去と現在を行き来する構成や、タイトルの意味の回収など、物語としての完成度も高い。もし「泣けるだけの本はちょっと……」と感じるなら、『また、同じ夢を見ていた』のほうが、やわらかい読後感で入りやすい。
Q2. 中学生・高校生が読んでも難しくない?
文体そのものは読みやすく、中高生でも十分に手が届く。むしろ教室や部活、大学サークルなどの空気感がリアルなので、「今まさに当事者」のほうが共感しやすい場面も多い。ただ、『青くて痛くて脆い』や『腹を割ったら血が出るだけさ』は、テーマがやや重く感じられるかもしれない。最初は『キミスイ』『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』あたりから入って、慣れてきたら他の作品にも広げていくといい。
Q3. 社会人になってから読んでも楽しめる?
むしろ社会人になってから読み返すと、見えるものが変わるタイプの作品が多い。大学サークルの理想と現実を描く『青くて痛くて脆い』や、社会人の恋と友情を扱う『告白撃』、働く日常を描く『麦本三歩の好きなもの』シリーズなどは、仕事や生活に疲れているタイミングで読むと、かなり刺さると思う。10代のころに読んだ作品を、大人になってから再読するのもおすすめだ。
Q4. オーディオブックや電子書籍で読む価値はある?
住野作品は一人称視点のものが多いので、オーディオブックとの相性がいい。通勤や家事の合間に『君の膵臓をたべたい』や『よるのばけもの』を耳で追うと、主人公の心の声により近くなる感覚がある。電子書籍については、ハイライトやメモ機能を使って「刺さった一文」を残しておくと、あとから見返す楽しみが増える。上で紹介したKindle UnlimitedやAudibleも、そうした読み方にうまくフィットする。














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