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【トリーズマン心理学おすすめ本】減衰モデルと特徴統合理論を学ぶ本10選【選択的注意の科学】

私たちは毎日、膨大な情報にさらされながらも、ごく一部しか意識できていない。なぜ「聞こえているのに聞いていない」ことが起きるのか――その謎を明快に説明したのが心理学者アン・トリーズマンだ。この記事では、彼女が提唱した「減衰モデル(Attenuation Model)」と「特徴統合理論(Feature Integration Theory)」を軸に、注意と知覚の関係を理解できるおすすめ本10選を紹介する。実際に読んで「注意の仕組みがわかる瞬間」を体感できた名著を厳選した。

 

 

トリーズマンとは?(減衰モデルと特徴統合理論の核心)

アン・トリーズマン(Anne Treisman, 1935–2018)は、選択的注意の研究を通じて人間の知覚過程を科学的に解明した英国出身の心理学者である。彼女の名を一躍有名にしたのは、1960年代に発表した「減衰モデル(Attenuation Model)」だ。

これは、ブロードベントの「フィルタ理論」を改良したもので、人間は入力情報の大部分を完全に遮断するのではなく、“減衰”させながら重要度に応じて柔軟に処理しているとする。たとえば、雑踏の中でも自分の名前が聞こえる「カクテルパーティー効果」は、完全遮断ではなく、注意の一部が残っているからこそ起きる――これがトリーズマンの洞察だった。

さらに1980年代には、「特徴統合理論(Feature Integration Theory)」を提唱。これは視覚注意のメカニズムを説明する理論であり、色・形・位置などの“特徴”が、注意を向けることで初めて一つの「物体」として統合されるとした。この理論は、認知心理学・神経心理学・人工知能の分野にも多大な影響を与えている。

トリーズマンの研究は、ブロードベントの理論を引き継ぎながら、ポズナーらの神経ネットワーク理論へと橋渡しをした。注意を「フィルタ」から「統合のプロセス」へと拡張した功績は大きく、今日の認知科学においても彼女の名は欠かせない。

おすすめ本10選(厚盛りレビュー)

1. From Perception to Consciousness: Searching with Anne Treisman(Oxford University Press)

 

 

トリーズマンの60年にわたる研究人生を総括した決定版トリビュート集。ブロードベントから受け継いだ「選択的注意」研究をいかに発展させたか、そして減衰モデルから特徴統合理論に至るまでの全過程を、同時代の学者が生々しく描いている。 ブロードベントのフィルタ理論が「すべてを遮断する」モデルだったのに対し、トリーズマンは“聞こえているけれど気づかない”という現実を的確に説明した。この本では、彼女の直感がどのように実験へと昇華されたかを、データとエピソードの両面から辿れる。ポズナーやカーネマン、ノーマンなど、彼女と交流のあった心理学者の寄稿も多数。心理学史を読むような面白さがある。

刺さる読者像:心理学を専門的に学ぶ人、または「知覚から意識への橋渡し」を研究テーマにする大学院生。ブロードベント→トリーズマン→ポズナーの流れを一次資料から確認したい人に最適。

おすすめポイント:単なる論文集ではなく、研究者たちの“知のリレー”を感じる構成。読後、「減衰」という一語が、科学的にも哲学的にも深い意味を持つことを実感できる。

2. The Psychology of Attention(Elizabeth Styles/Psychology Press)

 

 

注意研究の体系的テキストとして世界中の心理学部で採用されている。トリーズマンの減衰モデルを、ブロードベントやドイチ&ドイチのモデルと比較しながら丁寧に解説。各章の導入で「なぜこの理論が必要だったのか」が示されており、学習の流れがつかみやすい。 また後半では、特徴統合理論(Feature Integration Theory)を視覚探索研究の中で扱い、トリーズマンが提唱した「結合錯誤(illusory conjunction)」実験を詳細に紹介している。人間が“見る”とは何かを問う迫力のある構成だ。

刺さる読者像:心理学専攻の学生、大学院生、または教育・デザイン・HCI分野で注意理論を応用したい人。

おすすめポイント:この本を読むと、トリーズマン理論の背後に「人間の柔軟さと限界」を同時に見出せる。理論を単なる過去の知識としてでなく、“いまも続く実験的思考”として捉え直せる一冊。

3. Attention: Theory and Practice(Addie Johnson & Robert W. Proctor/SAGE)

 

 

心理学の授業や実験デザインの参考書として定番。ブロードベント、トリーズマン、ドイチ&ドイチ、ノーマン、ポズナーまでを一つの連続線として解説する。減衰モデルの意義を単に「中間モデル」としてでなく、“選択の柔軟性を説明する初めての理論”として再評価している点が魅力だ。 さらに特徴統合理論の章では、色・形・方位など異なる特徴がどのように統合されて「一つの対象」として知覚されるかを、実験図とともに丁寧に示す。心理学実験の入門書としても優秀。

刺さる読者像:心理学初学者から中級者。特に大学講義で注意研究を扱う教育者や研究指導者。

おすすめポイント:論理構造が明快で、理論の流れが頭に残る。読了後、“注意とは何か”を定義できるようになる。筆者も大学院時代、この本で注意研究の全体像をつかめた。

4. The Attentive Brain(Raja Parasuraman 編/MIT Press)

The Attentive Brain

 

 

トリーズマン理論を神経科学の視点から再構築した名著。注意がどのように脳の異なる領域で分担され、統合されるのかを解き明かす。特に、前頭葉と頭頂葉の連携が「特徴統合」に不可欠であることを示す章は、彼女の理論を“神経回路として理解する”手がかりになる。 ブロードベントの“情報処理モデル”が概念的だったのに対し、この書ではfMRIやERPのデータを用いて「減衰」「統合」という抽象概念を実際の脳活動として捉える。理論と実験が結びつく瞬間の興奮が味わえる。

刺さる読者像:認知神経科学・心理学・AI分野の研究者、または神経基盤から注意を学びたい読者。

おすすめポイント:トリーズマン理論の“神経的裏づけ”を知りたい人に必読。読み終えると、注意を「思考ではなく現象」として体感できる。神経心理学の現在を実感する一冊。

5. Inattentional Blindness(Arien Mack & Irvin Rock/MIT Press)

 

 

人間は「見えているものすべてを見ているわけではない」――この直感を科学的に証明した、知覚心理学の転換点。非注意性盲(inattentional blindness)という概念を提示し、注意が向けられない情報は、視覚入力として存在しても意識には届かないことを示した。 トリーズマンの減衰モデルを踏まえつつも、本書では“選択的注意の限界”を実証的に突きつける。注意が一瞬でも逸れたときに何が起こるか、実験写真を通して読者は実感できるだろう。 また、注意・意識・感情の関係についても考察が深く、AI視覚モデルの発展にも影響を与えた。

刺さる読者像:認知心理・臨床心理・教育心理など、注意の欠落が実生活に及ぼす影響を研究・実践する人。

おすすめポイント:「減衰」では説明しきれない“無意識的な盲点”を描き出す。読後、自分の注意の狭さにゾッとする。心理学の理論が日常感覚に直結する貴重な体験が得られる。

6. The Oxford Handbook of Attention(Anna C. Nobre & Sabine Kastner 編/OUP)

 

 

注意研究の“百科事典”とも呼ばれる大著。400ページを超える分厚いボリュームの中に、ブロードベント・トリーズマン・ポズナー・カスタンガら主要理論の比較と最新研究を収録する。 トリーズマンの章では、減衰モデルから特徴統合理論までの理論的発展と、その神経科学的支持がまとめられている。単なる理論史ではなく、近年のマインドフルネス研究や臨床神経科学への応用も解説。 多様な著者による寄稿により、注意を“心・脳・社会”の三次元で捉えることができる。

刺さる読者像:大学院生、研究者、または認知科学の最前線を俯瞰したい上級者。

おすすめポイント:膨大な知識を通じて、トリーズマン理論がいかに今も現役で引用され続けているかを実感できる。理論を終点ではなく“通過点”として位置づけたい読者に向く。

7. Attention, Space, and Action: Studies in Cognitive Neuroscience(Humphreys 他編/OUP)

 

 

空間的注意(spatial attention)の神経メカニズムをテーマにした学術論文集。トリーズマンの特徴統合理論を実験的に拡張し、注意が空間上のどの位置をどのように選択しているのかを検証する。 とくに興味深いのは、注意の“焦点”が移動する際の時間的コストを測定する実験。減衰モデルの「柔軟な選択性」を生理学的に裏づける内容で、脳波・視線・反応速度の多角的データを統合している。 理論を脳科学に接続する試みとして、ブロードベント〜トリーズマン〜ポズナーの流れを橋渡しする必読書。

刺さる読者像:心理学・神経科学・リハビリテーション分野で「注意と行動の接点」に関心のある人。

おすすめポイント:理論を“動き”として捉えられる稀有な一冊。読後、注意を「心の操作」ではなく「空間の制御」として感じられるようになる。

8. 注意:選択と統合(河原純一郎・横澤一彦/勁草書房)

 

 

日本語で読める数少ない「注意理論の総合書」。ブロードベントの初期選択説からトリーズマンの減衰モデル、さらに特徴統合理論・神経科学的注意モデルまでを一貫して解説する。 特筆すべきは、図解と実験紹介の丁寧さ。英語原典を読まなくても理論構造が理解できるよう工夫されており、減衰モデルと後期選択モデルの違いも視覚的に整理されている。 著者の河原・横澤は日本の注意研究の第一人者であり、原典研究の正確さも群を抜く。心理学専攻の学生が最初に読む邦書として最適だ。

刺さる読者像:心理学専攻の大学生・大学院生、教育現場で注意理論を活かしたい教員。

おすすめポイント:理論を「頭でわかる」から「図で理解する」へ。トリーズマン理論の整理に日本語で確かな道筋を与えてくれる。

9. 現代の認知心理学4 注意と安全(日本認知心理学会監修/北大路書房)

 

 

「注意研究を社会実装する」という視点から書かれた実践的心理学書。航空・交通・医療など、高リスク現場での“ヒューマンエラー”を防ぐために、トリーズマンの視覚探索理論や減衰モデルを応用している。 特に、視覚探索の負荷が高まるときに発生する見落としや錯覚を、注意の制御失敗としてモデル化しており、理論の社会的意義を再認識できる。 心理学が現場を変える力を持つことを実感できる構成だ。

刺さる読者像:産業・交通・医療などの安全管理職、ヒューマンファクター研究者。

おすすめポイント:トリーズマン理論を“安全を守る科学”に転用する試みが秀逸。読後、注意理論が日常生活の安全意識と直結していることに気づく。

10. 知覚と注意の心理学(ステファン・ファン・デル・スティッヘル/ニュートンプレス)

 

 

視覚心理学の第一線で活躍する研究者による一般向け新書。トリーズマンの特徴統合理論を、図版とイラストで直感的に理解できる。 「赤い丸」と「青い四角」を同時に見せられたとき、なぜ“赤い四角”を見た気になるのか――この「結合錯誤」の例を通して、注意が“知覚の接着剤”であることを体験的に示す。 軽妙な語り口ながら、ブロードベントやポズナーの理論にも触れ、心理学史としても読める構成だ。

刺さる読者像:心理学に初めて触れる一般読者、教育関係者、デザイナー。

おすすめポイント:読後、「見る」と「気づく」の違いが身体感覚としてわかる。理論を生活感覚で理解したい人にとってのベスト入門書。

関連グッズ・サービス

注意理論の学びを深めるには、本だけでなく「体験型の学び」や「デジタル読書」を組み合わせるのが効果的だ。特にトリーズマンの理論は実験映像や図解を伴うと理解が格段に進む。以下では、読後の実践や知識定着に役立つグッズ・サービスを紹介する。

  • Kindle Unlimited ─ 認知心理・神経科学関連の洋書・和書が豊富。『知覚と注意の心理学』のような新書や研究レビューも対象作品が多い。スマホやタブレットで図版を拡大しながら読めるのが強み。
  • Audible ─ トリーズマンの理論を理解するうえで「聞きながら学ぶ」効果は高い。注意を向けながら聴くことで、減衰モデルの“注意の移り変わり”を体感できる。通勤・通学時間の活用に最適。
  • Kindle Scribe Notebook Design 

    ─ 手書きメモ対応の電子書籍端末。注意理論の学習では図式を描いて整理するのが効果的。紙のノート感覚でブロードベント→トリーズマン→ポズナーの流れをまとめられる。
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     人体模型解剖 人間のニューロンモデル 2500倍拡大 神経系解剖モデル 実験室 医学教育ツール 学習キット

    ─ 神経心理学を視覚的に学ぶツール。注意の神経回路を立体的にイメージでき、学習効果が高い。子どもとの科学教育にも応用できる

筆者もKindle UnlimitedとAudibleを併用して、洋書を“耳で読む”練習をしている。難解な理論書も、繰り返し聞くことで理解が深まり、トリーズマンの「注意の統合」が自分の中でも起きている感覚がある。

 

 

まとめ:今のあなたに合う一冊

トリーズマンの理論は、単なる心理モデルではなく「私たちが世界をどう知覚するか」を問う哲学に近い。減衰モデルは“情報の選別”、特徴統合理論は“知覚の構築”――その両方を理解すると、注意の本質が見えてくる。

  • 気分で選ぶなら:『知覚と注意の心理学』(ニュートンプレス)
  • じっくり理論を学びたいなら:『From Perception to Consciousness』
  • 実生活で応用したいなら:『現代の認知心理学4 注意と安全』

注意の科学を学ぶことは、「集中力を取り戻す」ことにもつながる。あなたが次にページをめくる瞬間、それ自体がトリーズマンのいう“注意の再構成”だ。

よくある質問(FAQ)

Q: トリーズマンの減衰モデルは初心者でも理解できる?

A: はい。ブロードベントのフィルタ理論を少し理解しておけば十分。『注意:選択と統合』や『知覚と注意の心理学』は、実験図を交えてやさしく説明している。

Q: 特徴統合理論(Feature Integration Theory)はAIやデザインにも応用できる?

A: 可能だ。視覚探索と特徴統合の仕組みは、UI/UXデザインやコンピュータビジョンの研究でも参照されている。注意の焦点を誘導する設計に役立つ。

Q: トリーズマン理論はブロードベントやポズナーとどう違う?

A: ブロードベントは「情報の通過を制御するフィルタ」、トリーズマンは「重要度による減衰」、ポズナーは「神経ネットワークによる制御」。三者を続けて読むと注意理論の進化が一望できる。

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