集中しているつもりなのに、なぜか大切な情報を見落とす――そんな経験は誰にでもある。この記事では、心理学者ドナルド・E・ブロードベントが提唱した「フィルタ理論(選択的注意)」を軸に、注意と情報処理の仕組みを理解できる本を15冊紹介する。実際に読んで「人間の認知の限界と賢さ」を体感できた名著ばかりだ。
- ブロードベントとは?
- おすすめ本15選
- 1. Perception and Communication(D. E. Broadbent/Oxford University Press)
- 2. Attention: Selection, Awareness, and Control ― A Tribute to Donald Broadbent(Oxford University Press)
- 3. The Oxford Handbook of Attention(Anna C. Nobre & Sabine Kastner 編/Oxford University Press)
- 4. Cognitive Neuroscience of Attention(Michael I. Posner/Guilford Press)
- 5. The Psychology of Attention(Harold Pashler/MIT Press)
- 6. Attention(Studies in Cognition/Harold E. Pashler 編)
- 7. 注意:選択と統合(河原純一郎・横澤一彦/勁草書房)
- 8. 現代の認知心理学4 注意と安全(日本認知心理学会 監修/北大路書房)
- 9. A Computational Perspective on Visual Attention(Laurent Itti 他/MIT Press)
- 10. The Invisible Gorilla(Chabris & Simons/Crown)
- 11. Attention and Performance XI(Routledge)
- 12. Attention, Representation, and Human Performance(Masmoudi 他 編/Psychology Press)
- 13. Attention: Theory and Practice(Addie Johnson & Robert W. Proctor/SAGE)
- 14. Inattentional Blindness(Arien Mack & Irvin Rock/MIT Press)
- 15. 知覚と注意の心理学(ステファン・ファン・デル・スティッヘル/ニュートンプレス)
- 関連グッズ・サービス
- まとめ:今のあなたに合う一冊
- よくある質問(FAQ)
- 関連リンク:注意と認知の心理学をさらに深める
ブロードベントとは?
ドナルド・E・ブロードベント(Donald E. Broadbent, 1926–1993)は、認知心理学の礎を築いた英国の心理学者だ。1958年に刊行された著書『Perception and Communication』で、人間の情報処理過程を“通信工学”の比喩で説明し、心理学を科学的な情報処理モデルへと導いた。 彼の唱えた「フィルタ理論(Filter Theory)」は、人間が受け取る膨大な刺激の中から一部を“初期段階で選択”して処理するという考えである。聴覚の「カクテルパーティー効果」などの実験により、我々の注意には限界があり、知覚の段階で不要情報を遮断する“ボトルネック”が存在することを示した。 その後、トリーズマンの減衰モデルやドイチ&ドイチの後期選択説など、多くの研究者がブロードベントの理論を発展させ、現代の認知神経科学にまでつながっている。 ブロードベントは単なる理論家ではなく、戦時中に航空心理学の研究を通じて「人間の注意がどのように限界に達するか」を実務的に分析した応用科学者でもあった。彼の業績は現在も、UX設計・安全工学・AIの認知モデル設計など幅広い分野で生きている。
おすすめ本15選
1. Perception and Communication(D. E. Broadbent/Oxford University Press)
ブロードベント本人による原典であり、注意研究の出発点となった歴史的名著だ。刺激入力→感覚記憶→フィルタ→短期記憶という情報処理過程を通信モデルとして表現し、人間の心をシステムとして解析した初めての試みである。1950年代の著作ながら、現在のAIやHCI研究にも通じる「情報の流れ」概念が明快に整理されている。特に、聴覚的選択課題(ダイコティック・リスニング実験)のデータを理論に接続した点が画期的だ。英文は古典的だが、構造が明快で英語学習者にも良い訓練になる。
刺さる読者像:注意研究や認知心理学の基礎を一次資料から学びたい人、あるいはAIやUX研究で“情報処理の起点”を押さえたいエンジニア。原典を読むことで、「なぜ現代の心理学が情報処理モデルを採用したのか」が実感できる。
おすすめポイント:実際に読むと、フィルタ理論が“直感的にわかる”瞬間がある。膨大な情報が流れ込む中で、私たちはどの時点で選択しているのか――という問いが、現代のマルチタスク時代にも通用する普遍的テーマとして響く。
2. Attention: Selection, Awareness, and Control ― A Tribute to Donald Broadbent(Oxford University Press)
ブロードベントの理論的遺産を総括するトリビュート論集。バッドリーやトリーズマン、ノーマンら彼の影響を受けた研究者が執筆し、選択的注意・意識・制御の三側面から再評価を行っている。認知心理学史をたどりながら、情報処理モデルがいかに神経科学や行動研究に接続されたかが明確に描かれる。序文では、Broadbentの人間性や研究哲学にも触れられ、単なる理論書を超えた“心理学史の証言集”でもある。
刺さる読者像:心理学史・認知科学・情報処理理論の進化を俯瞰したい大学院生・研究者。ブロードベントから現代の脳科学までの連続線を体系的に把握したい人。
おすすめポイント:読み進めるうちに、ブロードベントが「無機質な理論家ではなく、人間の限界と賢さを同時に信じた科学者」であったことが伝わってくる。特にバッドリーの記述には、研究仲間としての敬意がにじむ。
3. The Oxford Handbook of Attention(Anna C. Nobre & Sabine Kastner 編/Oxford University Press)
注意研究の百科全書的ハンドブック。フィルタ理論から空間的注意・視覚的探索・意識の神経基盤まで、700ページ超の分厚い一冊。ブロードベントの理論は第1部で扱われ、後半ではPosnerの神経注意ネットワーク理論との接続が語られる。章ごとの執筆者が国際的研究者で構成されており、最前線の知見を体系的に吸収できる。図版・実験パラダイムの説明も充実しており、研究デザインの参考資料としても秀逸。
刺さる読者像:認知心理学・脳科学の中級者以上。博士課程や研究者志望者、あるいは注意に関する専門講義を担当する教育者。
おすすめポイント:個人的には、ブロードベントの章を読んだとき「彼の理論がいまだに“現役”であること」に驚かされた。60年前のモデルが、神経イメージングの結果で補強されているという事実が刺激的だ。
4. Cognitive Neuroscience of Attention(Michael I. Posner/Guilford Press)
注意研究の巨匠マイケル・ポズナーによる決定版。ブロードベントのフィルタ理論を「神経ネットワークモデル」として再定義し、前頭葉・頭頂葉・帯状皮質など脳の領域ごとに機能的分業を説明する。Posnerの警告ネットワーク・指向ネットワーク・実行ネットワークの三分法は、Broadbentのボトルネック概念を神経的に可視化したものといえる。認知神経科学の文脈で読むことで、フィルタ理論が単なる“古典”ではなく、“神経的アルゴリズム”として進化したことが理解できる。
刺さる読者像:神経心理学・脳科学・心理学を横断的に学びたい研究者、医療系大学院生。 現代的な注意理論を神経基盤から理解したい人。
おすすめポイント:脳画像データや実験パラダイムの図が豊富で、読むだけで“頭の中で注意が切り替わる”ような感覚になる。Broadbentの理論を、脳の構造として体感できる一冊。
5. The Psychology of Attention(Harold Pashler/MIT Press)
パシュラーによる注意研究の古典的教科書。フィルタ理論の比較枠組みとして、選択的注意・分配的注意・資源理論を詳細に整理している。ブロードベント以降の主要理論を一望でき、学部〜大学院レベルの必携書。彼自身が「心理学における実験的手続きの美学」を重視しており、読者は“注意を測るとは何か”という哲学的テーマに直面するだろう。構成はやや硬いが、理論の地図として比類ない。
刺さる読者像:心理学専攻の学生、特に実験心理・認知心理学を体系的に学びたい人。学術書に抵抗のない社会人リサーチャー。
おすすめポイント:実際に読んでみると、注意研究が“抽象理論”ではなく“人間の限界を理解する方法論”だと分かる。ブロードベントの影響が章ごとに脈打っており、理論の血脈を感じられる。
6. Attention(Studies in Cognition/Harold E. Pashler 編)
『The Psychology of Attention』をさらに拡張した専門論文集。初期選択・後期選択・資源理論の比較から、視覚・聴覚・記憶への注意配分、実験方法論までを一冊に凝縮している。ブロードベントの理論を実験心理学的に再検証した章が多く、研究論文の読み方を学ぶにも最適だ。図表が豊富で、フィルタ理論の派生モデルを一望できる。
刺さる読者像:大学院で認知心理・実験心理を学ぶ研究者。理論とデータの接続を学びたい人。
おすすめポイント:ブロードベント以降の研究者がいかに理論を継承・修正してきたかが明快。初期選択説が否定された背景を追うと、心理学がいかに“データ駆動型科学”であるかが体感できる。
7. 注意:選択と統合(河原純一郎・横澤一彦/勁草書房)
日本語で読めるブロードベント系の決定版。知覚心理学・認知神経科学の両側面から、注意がどの段階でどのように選択・統合されるかを整理する。序章でブロードベント理論の位置づけを丁寧に解説し、第2章ではPosnerモデルとの比較が明快だ。国内研究者による翻訳・実験事例も豊富で、専門書でありながら読みやすい。
刺さる読者像:英語原典に抵抗がある読者、または心理学を専門的に学びたい日本語ユーザー。
おすすめポイント:読了後、「注意という行為」が自分の感覚の中で再定義される。フィルタ理論が日常の“集中力”にもつながることを実感できる。
8. 現代の認知心理学4 注意と安全(日本認知心理学会 監修/北大路書房)
注意の理論を交通・医療・産業安全へ応用する最新研究集。ブロードベントのボトルネック理論が、現実世界のヒューマンエラー分析にどう生かされるかを具体的に示している。日本の研究者による章が多く、事故防止や作業設計への示唆が豊富。
刺さる読者像:安全管理・人間工学・交通心理を学ぶ専門職。実務に理論を落とし込みたい人。
おすすめポイント:理論が「人を守るための道具」に変わる瞬間を感じる。ブロードベント理論の社会的意義を再認識できた。
9. A Computational Perspective on Visual Attention(Laurent Itti 他/MIT Press)
視覚的注意を計算論的にモデル化した専門書。ブロードベントの情報処理枠組みをAI・ロボティクスの視点で再構築しており、「選択的注意」をプログラムとして実装する手法を解説。Saliency Mapモデルなど、現代コンピュータビジョンの基礎となった概念も扱う。
刺さる読者像:AI、画像処理、HCI分野の研究者。心理学と計算科学を橋渡ししたい人。
おすすめポイント:ブロードベントの“人間を通信機のように見る視点”が、AIの眼に宿る瞬間を体験できる。理論が技術に息づく本。
10. The Invisible Gorilla(Chabris & Simons/Crown)
「ゴリラ実験」で有名な実験心理書。人は見えているつもりでも、多くを見落としている。ブロードベントの選択的注意理論を実証的に拡張し、日常生活の錯覚をユーモラスに描く。平易な語り口で一般読者にも読みやすい。
刺さる読者像:心理学初心者、ビジネスリーダー、教育関係者。
おすすめポイント:実際に読後、プレゼン中にどれほど相手の注意が逸れているかを自覚した。ブロードベント理論の“生きた教材”。
11. Attention and Performance XI(Routledge)
国際学会「Attention and Performance」シリーズの代表巻。フィルタ理論を基礎に、パフォーマンス研究へ展開する論文を収録。心理学史的にも価値が高い。
刺さる読者像:研究者、実験心理専攻学生。
おすすめポイント:古典を読むことで、自分の研究テーマが“どの文脈に立つか”を再確認できる。
12. Attention, Representation, and Human Performance(Masmoudi 他 編/Psychology Press)
表象・記憶・行動の三要素から注意を捉え直す国際論文集。Broadbentモデルが「パフォーマンス制御」としてどう生かせるかを再検討している。
刺さる読者像:応用心理学・人間行動科学の研究者。
おすすめポイント:情報処理を“行動の最適化”として考える姿勢に、ブロードベント理論の普遍性を感じる。
13. Attention: Theory and Practice(Addie Johnson & Robert W. Proctor/SAGE)
理論と応用を両輪で扱う中堅教科書。Broadbent→Treisman→Deutsch & Deutsch→Posnerという進化を図式化し、演習問題付きで理解を助ける。読みやすく実践的。
刺さる読者像:心理学学部生、教育現場で注意理論を教える講師。
おすすめポイント:通読後に「理論が現場で役立つ」と実感。フィルタ理論を“行動設計”に落とし込める。
14. Inattentional Blindness(Arien Mack & Irvin Rock/MIT Press)
「見えているのに気づかない」現象=非注意盲を初めて体系化した古典。Broadbent理論の“ボトルネック”を実験的に証明した意義は大きい。
刺さる読者像:心理・教育・安全分野の実務家。
おすすめポイント:読後、日常の「見逃し」が理論的に説明できる。注意研究を実感に落とし込む最高の一冊。
15. 知覚と注意の心理学(ステファン・ファン・デル・スティッヘル/ニュートンプレス)
一般向け新書。視覚・聴覚・意識の仕組みをやさしく紹介し、Broadbent理論を図解で理解できる。カラフルな図と実験例が豊富で、専門外の読者にも親しみやすい。
刺さる読者像:心理学初心者、教育者、ビジネスパーソン。
おすすめポイント:短時間で“注意の科学”の全体像がつかめる。入門に最適。
関連グッズ・サービス
学んだ理論を日常に活かすには、読書だけでなく体験を通じて理解を定着させるのが効果的だ。
- Kindle Unlimited:心理学専門書・英語原典の多くが対象。通勤時間に読み進めやすい。
- Audible:『The Invisible Gorilla』など聴覚的注意をテーマにした本を“耳で体感”。
- :図やモデルを手書きでメモでき、Broadbentの情報フローを自分なりに再構成できる。
まとめ:今のあなたに合う一冊
ブロードベント心理学の本は、自己啓発書とは異なり「なぜ人は注意を向けられないのか」を科学的に解き明かす。日常の集中力、マルチタスクの限界、情報洪水の時代を生き抜く知恵が詰まっている。
- 気分で選ぶなら:『The Invisible Gorilla』
- じっくり理論を学びたいなら:『Perception and Communication』
- 短時間で理解したいなら:『知覚と注意の心理学』
「見えているのに気づかない」という人間の不思議を、科学的に読み解こう。
よくある質問(FAQ)
Q: ブロードベントのフィルタ理論とは?
A: 人間は受け取る膨大な情報をすべて処理できず、感覚段階で“選択フィルタ”を通して必要な情報だけを意識に送るという理論だ。
Q: 初心者でも読める入門書は?
A: 『知覚と注意の心理学(ニュートンプレス)』が図解入りでわかりやすい。専門用語も最小限。
Q: フィルタ理論は現代でも有効?
A: 神経科学やAI研究でも基礎モデルとして引用されており、現在も有効な枠組みとされる。
Q: Kindle Unlimitedで読める関連書は?
A: 一部の心理学入門書・和書が対象。対象タイトルを確認して利用すると便利だ。
関連リンク:注意と認知の心理学をさらに深める
- ポズナー心理学おすすめ本【注意の神経ネットワーク理論】
- トリーズマン心理学おすすめ本【減衰モデルと選択的注意】
- ネイサー心理学おすすめ本【情報処理と認知革命】
- ギブソン心理学おすすめ本【生態学的知覚と環境情報】
- チクセントミハイ心理学おすすめ本【フロー体験と注意集中】
- ニューウェル&サイモン心理学おすすめ本【思考の情報処理モデル】
- バートレット心理学おすすめ本【記憶の再構成理論】
これらを合わせて読むと、ブロードベントの理論がどのように「認知科学」へ進化していったかが立体的に理解できる。















