モンキーピークについて
登山サバイバル&パニック漫画
雪山登山などが舞台というと、「岳」や「孤高の人」が思い浮かぶ漫画ファンが多いでしょう。サバイバルやホラーとなると、これは意見も分かれますが「座敷女」、「カラダ探し」などでしょうか? では、この両方を合わせた作品となると、何を想像しますか?
実は、ありそうでなかったニッチなジャンルに目を付けた登山サバイバル&パニック漫画が「モンキーピーク」(原作:志名坂高次、作画:粂田晃宏)になります。
全話が登山中だけが舞台
「モンキーピーク」は漫画雑誌「ゴラク」に絶賛掲載中、2019年2月時点で単行本は9巻まで発売しています。その全話が登山中だけが舞台という、余計な要素が一切ないのが特徴でもあります。
よって、作品自体はとてもシンプルでどの”話”でも、猿に襲われているか反撃、或いは逃げ惑うばかりです。そして、進行具合も遅いですし、何だか同じような事が続くので、既視感を何度も覚えるほどです。
しかし、それでも死んだと思った男が生存していたり、騙し騙されたり、猿にくどいほど襲われたりが続くと、これらを全て含めたエンターショーに思えてきて、段々とこの作品に惹きこまれます。この症状が悪化すると、日常生活でも猿に襲われるのではと、冷や冷やしながら暮らす感覚に陥るほどで、そうなると完全なるモンキーピークマニア。それにしてもいくら漫画とは言え、会社生活の延長線上である単なるレクリエーションとしての単なる山登りで、こんなに同僚が殺され続けると誰が想像できますか?
不気味な猿軍団
早乙女を含めた、登山メンバーは常に恐怖と疲労に襲われ、対する不気味な猿軍団はとにかく元気で行き成り出現しては、不死身の肉体を駆使して執拗に襲い続けます。この裏には何があり、なぜ何人も殺されるのか? 登場人物に自分を当て嵌めると、また違った楽しみとなります。
あらすじ
社内レクリエーションとして岩砕山を訪れる
主人公・早乙女は、藤ヶ谷製薬の若手の一人。過去に親友や父親を亡くした経緯から、他人との距離感が掴めずに疎外感を感じている。そんな内面から社内でも浮いた存在だが、そんな彼と心を通わせる仲間も少なからずいるものの、大半は距離を置いている。社内のレクリエーションとして40人が岩砕山を訪れると、そこで待ち受けていたのは、猿の恰好をしたどこまでも凶暴な謎の集団だった。
謎の猿軍団に襲われる
猿軍団から逃げ続け、生きたまま山を下りるには、困難な道が待っている。体力自慢の早乙女も、同僚など仲間達を守りながら進むのは、日に日にキツクなる。猿軍団だけでも厄介なのに、藤ヶ谷製薬の面々はそれぞれが個性が強く、騙し合いや腹の探り合いばかり。
無事に下山果たせるのか?
孤立を強める早乙女を救い、信じてくれるのは親友・宮田、早乙女に淡い恋心を抱く林の二人ぐらい。同僚が一人減り二人減りと、猿からの攻撃を受けて死に絶えて消えていく。そこに食料や水が無くなる危機も訪れ、無事に早乙女や宮田は下山を果たせるのか?
登場人物
早乙女
人間関係に問題を抱える主人公。不器用で性格も難があるので、誤解を与えるが体力や行動力があり頼りになる。同僚のピンチには、自らのケガなどを恐れずに助ける気概をみせる。また宮田は唯一の親友で、心を通わせている。過去に、父親と親友を亡くした事を自分の所為だと悔やんでいる。
宮田
早乙女の良き理解者で同期の若手。序盤は今風の若者っぽい面もあるが、徐々に存在感を発揮して、早乙女を助ける役目を担う。仲間が何人も亡くなり、だんだんとグループリーダーに成長する。宮田、早乙女、林の三人が極限状態でも真っ当な人間としての心を持ち合わせて、ホッとさせてくれる。
林
宮田同様に序盤はあまり印象がなく、か弱い女性社員の一人といったところだが、ピンチになればなるほど女性は強いという事を思い出させてくれる貴重な存在。どことなく、早乙女に好印象を抱いているのは間違いなく、二人の関係性がどうなるかも、今後楽しみである。
”猿”軍団
早乙女を始めとした藤ヶ谷製薬社員を執拗に襲い続ける正体不明の謎の軍団でその数も不明。顔や体は巨大な猿のようだが、圧倒的な攻撃力だけでなく素早い動きや反射神経、崖から落ちたり反撃を喰らっても平気な守備力も備わっている。躊躇なく人を殺せる残虐性も備わり、常人では太刀打ちする事ができない反無敵の存在。
安斎
大学時代アメフト部なので、並みの大人の数倍は体力がありその性格も根っからのリーダー体質で体育会系。物事を冷静に判断を下すので、優しさや甘さがなく早乙女同様に仲間からは疎まれる存在ではある。それらは、未曽有の危機に陥った状況で、一人でも多く同僚を救うための行動である事を理解する者は少ない。
富久
藤ヶ谷製薬の新社長であり、今回の登山を企画した張本人でもある。物語序盤はリーダーシップを発揮して、部下でもある仲間を救おうと懸命になる。
長谷川
モンキーピークの重要人物。人事部長で、早乙女の良き理解者の一人。
飯塚
モンキーピークの重要人物の一人。表向きは皆に従う従順ぶりを見せるが常に腹黒。それが早乙女を始めとする藤ヶ谷製薬の社員にどう影響を与えるか?
八木満(兄)
中盤から登場する初の藤ヶ谷製薬の部外者で、かつ登山の達人。しかし、謎多き一面も当然あり一癖も二癖もある。その登山グッズを駆使して猿を攻撃する様相は、早乙女や安斎以上の能力が備わっているほど。天性の運動神経に、登山を極めた風格があり、早乙女や安斎ですら一目を置き、段々と皆の先頭に立つ事になる。
八木薫(妹)
謎多き八木兄弟の妹。兄を慕っているが、それは兄弟だからなのか?
藤柴
体力がある訳でも知力がある訳でもなく、猿に襲われたら真っ先に大ピンチとなるキャラだが、それでも何度も潜り抜けてしまう強運の持ち主。その背景にはある男が関係している?
おすすめポイント
この作品を最初は、猿から逃げるだけだと誤解をしていましたが、それと並行して伏線でもあるそれぞれの人間関係に着眼すると、さらに興味深くなります。
- 早乙女率いる純粋チーム
- 安斎率いる現実路線チーム
- 飯塚率いる悪だくみチーム
- 八木率いる登山チーム
- 長谷川率いる訳ありチーム
- 謎の無敵な猿チーム
チーム早乙女だけが、ある種のパワーバランスが取れた平等でまとまりもあります。各チームが時には手を結び、時には別行動、そして騙し合いや決別など、なぜ一致団結できないと思いますが、ピンチだからこそ普段の人間関係が余計にこじれるのです。謎の猿軍団を除き、チーム内でも主従関係が出来上がっていて、まるでSMのようでもあります。命令を出す方と、受け入れ従う方。これは漫画や小説など作品を作る上では欠かせられないですが、登山で襲われる背景を描きながらも複雑な人間関係にも焦点を置くのは、並みの作者では思い浮かばない構成力です。
藤ヶ谷製薬側にも謎のメンバー
それと、謎とする猿軍団ですが、実は藤ヶ谷製薬側にも謎のメンバーが多く、それぞれが抱える闇や問題を絡めさせていくかが、モンキーピークを読むにあたる注目点となります。信じてきた同僚が実は裏切りものであったり、猿の仲間なのか? 等々の伏線を拾っていくと、山登りの最中の起きた悪夢のような出来事と見過ごせず、全ては計画された必然であったと気が付きます。
読後の感想
9巻で序盤の伏線を回収
2019年2月時点で9巻まで発売され、そこまで読んだ感想としては、序盤の伏線を回収し、物語がクライマックスに近付きつつあるのを切に感じます。想像しなかった人物が猿側の仲間であったり、なぜ執拗に藤ヶ谷製薬の社員を攻撃するのかその理由が判明していきます。
”山”の舞台に拘っている
と同時に、モンキーピークが他の漫画と差別化に成功しているのは、徹頭徹尾、”山”の舞台に拘っているところでした。普通の漫画でよくある新章スタートや分岐点などは存在しません。ですから、1巻も2巻も9巻でも、相変わらず猿は不気味な存在で藤ヶ谷製薬の社員を恐怖で震い立たせる為だけに存在します。
「13日の金曜日」や「スクリーム」を思わせる
話が進むにつれて、仲間が一人減り二人減りと追い詰めれていく様は、映画「13日の金曜日」や「スクリーム」を思わせます。でも、登山という逃げられない状況と食料や水不足、寒さなど天候条件悪化の極限状態になるのは、モンキーピークの方が過酷だと読者に感じさせる事に成功しています。
1日目(1巻)~6日目(9巻)
物語を無理やり分けるなら、登山を開始して1日目(1巻)~6日目(9巻)までを描き、それぞれの夜になると山小屋なりテントや崖が舞台で、毎回猿に狙われるのがお約束になっています。確かに、手厳しく言うなら単調ですし想像通りの展開ですが、それでもドキドキハラハラするのは、猿が何匹いるか分からなくしている点や更なる謎の人物登場や、一致団結しなければならない藤ヶ谷製薬社員も常に問題と対立を抱えているのがミソとなります。
良い意味で「裏切られる」内容
まだ、物語は完結していないので評価をするのは早計ですが、個人的には良い意味で裏切られたお気に入りの作品となっています。性質の悪い人は、矛盾点などを指摘したり、想定内と一刀両断するのも簡単です。でも、漫画に対してどこまで、何を要求するかと考えると、十分合格点で支払った価格以上の娯楽を提供してくれたと感謝するほどです。
まとめ
漫画の王道から少しだけ外れ、恋愛やスポーツ、ギャグやグルメでもない、ちょっと風変わりな面白い作品を求めているなら、ピッタリなのが「モンキーピーク」です。パニックホラーらしく、猿軍団に追い詰められていく早乙女や宮田がどうなっていくのか? 本当に手に汗を握らせて、作品を読ませてくれます。