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【堀晃おすすめ本19選】代表作『太陽風交点』『バビロニア・ウェーブ』から作品一覧で追う硬質ハードSF

堀晃のSFは、宇宙の広さを「気分」ではなく「手順」と「理屈」で手渡してくる。数字や装置の匂いがするのに、最後に残るのは妙に人間的な寒さと、理解が追いつかない余白だ。代表作から入り、作品一覧の枝分かれに手を伸ばすと、読書の背骨が少し強くなる。

 

 

堀晃とは

堀晃(1944-)は、日本ハードSFの核を担ってきた書き手だ。宇宙工学や情報システムの発想を、物語の飾りではなく骨格にして、現実の延長としての異常を描く。受賞で名前を知っても、読後に残るのは肩書きより「観測して、解釈して、間違える」人間の癖のほうだ。

初期から短編で鋭く踏み込み、結晶生命体トリニティの異物感や、遺跡調査員の冷えた視線のように、感情の手前で世界を測る語りがある。いっぽうで都市インフラを舞台にしたサバイバルや、マッドな科学エッセイまで幅が広い。硬質なのに、硬さだけで終わらない。そのバランスが長く効く。

堀晃おすすめ本20選

1. 遺跡の声(創元SF文庫/文庫)

辺境宙域の遺跡をめぐる連作で、調査員の視線は終始低温だ。遺跡は「古代のロマン」ではなく、分類不能な人工物として立っている。そこに同行する結晶生命体トリニティの異物感が混ざり、物語全体の温度がさらに下がる。

この本は、派手にひっくり返すより「ズレ」を積み上げる。観測したはずのものが、解釈の段階で別物に変わっていく。読者は理解しているつもりで読み進め、いつのまにか足場の材質が変わっていることに気づく。

連作だから、宇宙の不条理が反復される。その反復が効いてくる。短編の密度で、長編級の「宇宙の嫌さ」を育てる。読んでいるうちに、宇宙は広いというより、妙に狭く感じてくるはずだ。

トリニティは、かわいげのある相棒として機能しない。異種の知性として、こちらの言葉が届かない場所を持っている。その届かなさが、遺跡の不気味さと同じ方向に伸びていく。

長編の重さより、連作でじわじわ冷やされたい人向きだ。夜に読むと、窓の外の暗さが一段濃くなる。

2. 地球環(ハルキ文庫/文庫)

地球環 (ハルキ文庫 ほ 1-1)

地球環 (ハルキ文庫 ほ 1-1)

  • 作者:堀 晃
  • 角川春樹事務所
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巨大な有機脳コンピュータ群と国家規模の情報運用。設定だけ見ると派手だが、読み味はむしろ陰湿に落ち着いている。管理と認識の地獄が、短編連作でじわじわ濃くなるからだ。

面白いのは、知性が拡張されるほど自由になるのではなく、むしろ「管理」が強化されるところにある。思考する装置が増えたぶん、観測も、検閲も、計画も精密になる。精密になった結果、逃げ場が薄くなる。

社会SF寄りの硬さがあり、読後に残るのは爽快感ではない。むしろ、画面を見続けた目の疲れに近い感覚が残る。けれど、その疲れが現代の生活と繋がってしまうのが怖い。

短編連作だから、異様さを一気に飲ませない。ひとつずつ「まああり得るかもしれない」を積み重ね、気づいたときには別の場所に立たせる。日常のすぐ隣に、巨大な思考装置があるように感じさせる。

宇宙に飛ぶハードSFとは逆方向に、地上の情報環境で刺してくる堀晃を確かめたいときに強い一冊だ。

3. 太陽風交点(徳間文庫/文庫)

堀晃に入るなら、まずこの一冊の「冷たさ」を確かめたい。短編の連なりなのに、読んでいるあいだはひとつの宇宙に閉じ込められている感覚がある。物語が熱で押すのではなく、観測の線で輪郭を引いていくからだ。

理科室の器具みたいな言葉が出てくる。現象の名前が出てくる。その瞬間に、世界は説明されるのではなく「計測される」。だからこそ、読者の側で想像が勝手に走る。走った先で、突然、宇宙の暗い角にぶつかる。

短編SFは、尖ったアイデアで切り裂いて終わることがある。けれどこの本は、切れ味のあとに沈黙を置く。理解できた気がしたところで、理解が足りないことを思い出させる沈黙だ。

読みどころは、情緒を煽らないのに「ロマン」が残るところにある。人間の感傷ではなく、物理法則の側に寄ったロマン。夜更けに窓を開けて、遠い音を聞いているような読後感になる。

刺さるのは、科学の言葉が好きな人だけではない。むしろ、理屈が整うほど怖くなるタイプの人だ。整った説明が、世界の不穏を増幅する。その逆説を味わえる入口になる。 

4. バビロニア・ウェーブ(創元SF文庫/文庫)

太陽系近傍で発見された、常識外れに長いレーザー光束。これを「資源」に見立てた瞬間から、人類は宇宙の仕組みに指を突っ込んでしまう。設定の時点で、もう戻れない感じがある。

この作品の強さは、巨大さを景色として見せないところだ。扱うには制御が必要で、制御には設計が必要で、設計には責任が必要になる。読者は「すごいものを見た」で終われず、手順の匂いを嗅がされる。

だから怖い。宇宙的な怪異が、神秘ではなく工学の顔をして迫ってくる。数字や手順が出るほどに、逃げ道が塞がる。逃げ道が塞がったところで、物語はさらに奥へ進む。

読みながら頭の中に、乾いた光の線が一本ずっと残る。まぶしいのに、体温が上がらない光だ。その光が「宇宙の構造」に触れてしまった感覚として読後まで居座る。

ハードSFの醍醐味を、一撃で見せてくれる代表作のひとつだと思う。理屈が好きな人ほど楽しく沈める一方、理屈が好きだからこそ最後に置かれる余白が不気味に残る。

5. 梅田地下オデッセイ(ハヤカワ文庫JA/文庫)

大阪・梅田の地下街が、ある瞬間に「都市の内臓」から「迷宮」へ変わる。舞台が具体的だから、荒唐無稽に逃げない。駅の明かり、通路の曲がり、空気の重さまで想像できてしまう。

閉じ込められた人々のサバイバルが核にあるが、怖さの源は人間の残酷さだけではない。都市インフラが暴走したとき、秩序がどんな速度で剥がれていくか。その剥がれ方が現実的だ。

地下という場所は、情報も噂もこもる。空気が循環しにくいぶん、感情も循環しにくい。物語はその停滞を利用して、読者の呼吸を少しずつ苦しくする。

宇宙規模の作品と違って、ここでの絶望は足元から来る。電気、交通、治安、食料。ひとつずつ失われるたびに、世界は狭くなる。狭くなる世界を、堀晃はやけに冷静に見せる。

舞台性の強いSFが好きなら押さえておきたい。地図が頭に浮かぶ人ほど、読後に地下の暗さが残る。

6. 恐怖省(集英社文庫/文庫)

短編集としての読みやすさがある一方で、内容はひどく不穏だ。表題作だけでなく、世界のほころびを「制度」や「組織」の匂いで語ってくる。恐怖が感情ではなく、運用されるものとして立ち上がる。

この本の魅力は、怖がらせ方が上手いというより、怖さを合理化してしまうところにある。合理化された恐怖は、抵抗しにくい。抵抗できないまま生活に馴染む。その馴染み方が嫌になる。

また、結晶生命体トリニティが絡む連作も含まれ、遺跡調査の冷えた感触がここでも効く。未知と接触することが、必ずしも「発見」や「進歩」に繋がらないという感覚が残る。

短編集は、自分の体調で読み味が変わる。この本は特にそうだ。疲れている日に読むと、怖さが増幅される。元気な日に読むと、怖さが生活に侵入してくる。

後年の短編集と収録が重なる話もあると言われるが、堀晃の冷気を一冊で浴びたいなら、入り口としてまだ強い。

7. エネルギー救出作戦(新潮文庫/文庫)

短い、速い、そして妙に先見的だ。コンピュータ、エネルギー、宇宙といったテーマを、ショートショートの粒で次々と転がしていく。読みながら、脳内のスイッチが何度も切り替わる。

短さは軽さではない。短いからこそ、アイデアの芯が露出する。余計な情緒を削いだ先で、「それでも人はこうする」という人間の癖が残る。その残り方が堀晃らしい。

表題の語感は大げさなのに、物語の手触りはやけに生活寄りだ。エネルギーが足りない、あるいは余る。その状態が社会の表情をどう変えるかを、さっと見せて消える。消えたあと、読者の生活が少し違って見える。

一気読みしてもいいし、数編ずつつまむのもいい。むしろ数編ずつ読むと、世界の温度がじわじわ変わるのがわかる。冷え方が段階的だ。

堀晃の発想の射程を、手早く確認したい人に向く。短いのに、後から思い出してしまう話が混ざっている。

8. マッド・サイエンス入門(新潮文庫/文庫)

小説ではなく、科学エッセイとしての堀晃を浴びる一冊だ。ブラックホールや地震、ロボット、宇宙論といった題材を、最新科学の概観と、マッドな想像力でぐいぐい弄る。

「科学は怖い」と言うときの怖さではない。「科学は面白すぎて危ない」という方向の怖さだ。理屈を知れば知るほど、発想が暴れ出す。その暴れ方を、著者自身が楽しんでいる。

文章のテンポが軽いので、難しい話でも妙に読めてしまう。読めてしまったぶんだけ、日常のニュースや研究の話題が違って見える。世界が、玩具箱みたいに感じられる瞬間がある。

堀晃のハードSFが「硬い」だけに見える人は、ここを挟むと印象が変わる。硬さの裏にある遊び心が見えるからだ。硬い理屈と、無茶な飛躍は敵ではなく隣同士にいる。

物語より先に、頭をほぐしたいときに効く。読み終えたあと、少しだけ笑ってしまうのに、なぜか宇宙は怖くなる。

9. 漂着物体X(双葉文庫/文庫)

宇宙の異常は、だいたい遠い。けれどこの作品の異常は、職業と任務の形で近づいてくる。主人公は表の顔と裏の所属を持ち、宇宙の時間と空間を乱すものを排除する側に立つ。

未知の物体、あり得ない存在、情報を食料にする生命体。要素は派手なのに、読み味は「現場」に寄っている。危機の最中でも、判断の手順と代償が具体的に置かれるからだ。

戦いが熾烈なのに、爽快にはしない。むしろ、勝っても負けても後味がざらつく。宇宙で起きる異常は、誰かの倫理や感情で簡単に片づかない。その冷たさが残る。

ハードSFの作法で、冒険譚を組み立てたような一冊でもある。だから、手に汗を握りつつ、頭の奥はずっと冷えている。熱と冷えが同居する。

宇宙ものの堀晃を、長めの物語として味わいたい人に向く。読み終わってから、空の黒さが少し増して見える。

10. SF街道二人旅(徳間文庫/文庫)

小説の堀晃とは違う、素の速度が見える一冊だ。SF作家同士が旅をしながら、作品や時代、土地の空気を語る。理屈の人が、雑談のなかでどんな視線を持っているかが出る。

創作論というより、生活の周辺からSFに触れる感じがある。車窓の光、食べ物、会話の間。その中に、作家の思考の癖が漏れる。

堀晃の作品は、外から見ると冷たい。けれどこういう本を挟むと、その冷たさが「性格」ではなく「方法」に見えてくる。世界を測るための距離だ、とわかる。

作品を読んで行き詰まったとき、息継ぎとして効く。硬いものを読んだあとに、硬いものの作り手が笑っているのを見ると、読み手の肩が少し下がる。

堀晃の作品世界へ、読者側の足場を増やす補助輪としておすすめだ。

11. 時空いちびり百景(毎日新聞出版/単行本)

関西各地を題材にしたショートショートが並ぶ。土地の具体性があるので、読むと風景がすぐ立ち上がる。そこに「時空」のいたずらが混ざって、現実が一瞬だけ傾く。

旅のガイドではない。街の紹介でもない。生活の端っこにある違和感をすくい上げて、短い物語の形にする。夕刊連載らしいテンポがあって、ひとつひとつが軽く見えるのに、後で思い出すと妙に濃い。

ハードSFの堀晃が好きな人ほど、この軽さに驚くかもしれない。けれど軽いからこそ、世界のズレが強調される。日常を置いたまま、日常を裂く。

数分で読めるのに、街の匂いが残る。電車の音、地下の空気、濡れたアスファルトの反射。そういうものが短文の隙間から出てくる。

堀晃を「宇宙の人」だけにしたくないなら、ここは良い寄り道になる。

12. サイエンス・イマジネーション(NTT出版/アンソロジー)

複数の書き手が「科学」と「物語」の接点を持ち寄るアンソロジーで、堀晃も参加している。個人作品の流れとは別に、同時代の作家たちと並んだときの堀晃の硬さが際立つ。

アンソロジーの良さは、読み手が比較できることだ。同じテーマでも、湿度の高い想像力もあれば、乾いた手順もある。その並びのなかで、堀晃は「現象が先に立つ」書き方をしてくる。

堀晃の作品単体だと、硬さが当たり前になってしまう。ここで読むと、硬さが選択であり、作法であり、強みだとわかる。硬いのは、世界を雑に扱わないためだ。

堀晃を軸に、周辺の作家へ枝を伸ばしたい人にも向く。アンソロジーは地図になる。地図の上で、堀晃の位置が少し正確になる。

短編に強い作家だと再確認したいときの一冊でもある。

13. GENESiS 一万年の午後(東京創元社/アンソロジー)

日本SFアンソロジーの一冊で、堀晃も名を連ねる。こういう編纂ものは、時代の空気を濃縮している。だからこそ、堀晃の「古びなさ」が目に付く。

流行の語彙や話題は変わっていく。それでも「観測と解釈のズレ」は変わらない。堀晃はそこを狙ってくるので、読み手の今と繋がりやすい。

アンソロジーで読む堀晃は、短距離走の強さが出る。長編で築く世界観とは違い、一撃で温度を下げて立ち去る。その立ち去り方が潔い。

堀晃の短編をもっと拾いたい人は、こういうアンソロジーが近道になる。単行本を探すよりも、入り口が多い場合がある。

一作だけでも、堀晃の硬さが体に残る。それがこの作家の強さだ。

14. GENESiS されど星は流れる(東京創元社/アンソロジー)

こちらも日本SFアンソロジーの流れの中にある一冊で、堀晃の短編に出会える。シリーズものの長い読書体力がなくても、短い距離で堀晃の温度を確かめられる。

アンソロジーの読み方は簡単だ。好みの作家を見つけて、そこから逆引きする。堀晃が刺さったら、短編集へ、長編へ。逆に「硬すぎる」と思ったら、別の作家で温度を上げる。

堀晃は、熱を上げるより「冷やす」方向に強い。だから、アンソロジーのなかで読むと、ページの温度差がはっきりわかる。その差が快感になる人がいる。

堀晃を追いかける読書は、どうしても入手難にぶつかりやすい。だからこそ、こういう収録で拾える機会は貴重だ。

作品一覧を網羅したくなる人の、現実的な足場になる一冊でもある。

15. 人工知能の見る夢は AIショートショート集(文春文庫/文庫)

AIをテーマにしたショートショート集で、堀晃も参加している。AIものは、感情の寓話に寄ることも、技術礼賛に寄ることもある。その中で堀晃は、技術の「運用」と人間の「癖」がぶつかるところに置いてくる。

ショートショートは短いぶん、世界観の説明が削られる。削られたところに、読者の生活が入り込む。AIが遠い話ではなく、今日の画面の延長に見えてしまう瞬間がある。

堀晃の短さは、軽さではなく圧縮だ。言い切らないことで、読者の側に計算を残す。計算し始めたときに、怖さが増える。

AIテーマは流行としても読めるが、この一冊は「流行の外側」にある問いも混ざる。人間が判断を委ねるとき、何を捨てるのか。捨てたものはどこへ行くのか。

堀晃の現代性を、短い距離で確かめたい人に向く。

16. 虚構機関 年刊日本SF傑作選(創元SF文庫/文庫)

その年の精華を集める年刊アンソロジーで、堀晃「開封」が収録されている。年刊は、時代の呼吸がそのまま残る。だから、作品単体よりも「当時の読み味」が出る。

堀晃の短編は、場面の明るさに頼らない。暗い場所を暗いまま置き、読者に目を慣らさせる。その目の慣れ方が、じわじわ怖い。

年刊の良さは、堀晃の温度が相対化されることだ。周囲の作品と比べると、堀晃の冷え方が独特に見える。冷たいのに、空虚ではない。硬いのに、鈍くない。

そして「開封」という題名が象徴的だ。封を切ることは、未知への接触であり、取り返しのつかなさでもある。堀晃はその感覚を、派手さではなく手触りで残す。

堀晃を短編で追いかけたい人の、確かな足場になる。

17. 超弦領域 年刊日本SF傑作選(創元SF文庫/文庫)

年刊日本SF傑作選の一冊で、堀晃の短編「回転カマキリ」が収録されている。題名だけでも異様だが、堀晃の異様さは派手な怪物ではなく、理屈のほうから来ることが多い。

年刊で読む堀晃は、長編の文脈から切り離されている分、純度が高い。短編一発で「世界の基礎」が揺れる。揺れたあと、読者の側で元に戻せない感じが残る。

超弦という語は、科学の華やかさを連想させるが、年刊の中身は華やかさだけではない。むしろ、科学が生む不穏のほうが濃い。その不穏の中に、堀晃はよく似合う。

作品一覧を追っていく人ほど、こういう収録を拾っていく作業が効いてくる。入手難を回避しつつ、短編の核心を集められるからだ。

堀晃を「代表作だけ」で終わらせたくない人に向く。

18. 拡張幻想 年刊日本SF傑作選(創元SF文庫/文庫)

年刊日本SF傑作選の一冊で、堀晃「巨星」が収録されている。年刊のテーマが示す通り、幻想は拡張される。けれど堀晃の手つきは、拡張をロマンでやらない。

堀晃の短編は、読者の想像を拡張したうえで、最後に硬い壁を置くことがある。壁があるから拡張が現実になる。現実になった瞬間に、怖くなる。

この巻に限らず、年刊で堀晃を読むと「時代の中での異物感」が見える。周囲がどれだけ軽やかに飛ぶ年でも、堀晃は足場の重さを捨てない。その重さが安心にも恐怖にもなる。

堀晃の短編を拾う作業は、砂金採りに似る。派手な塊は少ないが、光る粒が確実にある。この巻にもその粒がある。

読み終わってから、星という言葉が少し重くなる。

19. 折り紙衛星の伝説 年刊日本SF傑作選(創元SF文庫/文庫)

年刊日本SF傑作選の一冊で、堀晃「再生」が収録されている。読者の感想でも、この一作の雰囲気の違いが言及されることがある。堀晃の「冷え」は一定ではなく、場面によって形を変える。

「再生」という言葉は、優しい。だがSFでの再生は、優しさだけでは済まない。身体、記憶、制度、関係性。どれを再生するのかで、代償が変わる。その代償の匂いが残るとき、堀晃らしさが出る。

この巻は、漫画作品の収録も含めて、読み味の幅がある。その幅の中で堀晃を読むと、堀晃の硬さが「一本調子ではない」ことが見えてくる。硬いのに、単色ではない。

作品一覧を追う人にとって、「年刊のどこに堀晃がいるか」は地味に重要だ。単行本より出会いやすい場合があるし、同時代の作品と並ぶことで理解が深まる。

堀晃の短編の角度を変えて確かめたい人に向く。

堀晃のSFはどこが刺さるのか

ひとつは「大きさ」の扱いだ。宇宙規模の構造やエネルギーを描くとき、ロマンで膨らませるより先に、成立条件と破綻条件を置く。だから、物語のスケールが上がるほど、かえって足元が冷える。

もうひとつは「情報」の怖さだ。見えない雑音、扱いきれないデータ、誤差の蓄積。管理しようとした瞬間に、人間の認識が管理され返す。そこに国家や組織の匂いが混ざると、SFが社会の皮膚に触れる。

そして、読書体験の手触りが独特だ。読みながら胸が熱くなるというより、皮膚の表面温度が少し下がる。ページをめくる指が乾く。その乾きが心地いい人には、堀晃はかなり深く刺さる。

関連グッズ・サービス

本を読んだ後の学びを生活に根づかせるには、生活に取り入れやすいツールやサービスを組み合わせると効果が高まる。

電子書籍で短編をつまみ読みするなら、読み返しが速い。堀晃は短編で刺してくる作家なので、気になった箇所に戻れるだけで体験が深くなる。

Kindle Unlimited

通勤や家事の時間に、エッセイやアンソロジーを流すと、硬い概念が意外と体に入る。読むより先に耳で温度を確かめるのもありだ。

Audible

もう一つは、手元のノート。堀晃は理屈が通ったぶんだけ余白が残るので、読みながら浮いた疑問を一行でメモしておくと、読後の余韻が長持ちする。紙でもスマホでもいい。要点は「短く、捨てずに残す」ことだ。

まとめ

堀晃のSFは、宇宙の広さを派手な景色にしない。制御、計測、運用、誤差。そういう手触りを積み上げて、最後に世界の温度を下げる。その冷えが心地いいなら、読み進めるほど深くなる。

目的別に、入口を選ぶと迷いにくい。

  • 代表作で一撃を受けたい:『太陽風交点』『バビロニア・ウェーブ』
  • 連作で宇宙の不条理に沈みたい:『遺跡の声』
  • 都市インフラのサバイバルが読みたい:『梅田地下オデッセイ』
  • 短編を拾って作品一覧を広げたい:年刊日本SF傑作選、各種アンソロジー
  • 作家の遊び心も見たい:『マッド・サイエンス入門』

読み終えたあと、夜の空気が少し乾いて感じたら、それは堀晃の温度がうつった合図だ。次は短編を一つ、静かに拾えばいい。

FAQ

Q1. どれから読むのがいちばん失敗しにくいか

堀晃が初めてなら、短編の芯が濃い『太陽風交点』か、宇宙工学的スケールを一気に浴びられる『バビロニア・ウェーブ』が安全だ。連作の空気が好きなら『遺跡の声』。都市SFの入口が欲しいなら『梅田地下オデッセイ』。まずは「自分が怖がりたい方向」を選ぶと、硬さが快感に変わる。

Q2. 入手しづらい本が多い。作品一覧をどう追えばいいか

単行本にこだわると、途中で詰まりやすい。年刊日本SF傑作選やテーマ別アンソロジーで短編を拾い、刺さった作品名から逆引きするのが現実的だ。堀晃は短編でも作家の核が見えるので、収録で出会ってから単行本へ戻る読み方でも体験は薄くならない。

Q3. ハードSFが苦手でも読めるか

用語の密度が合わないと感じたら、まず『時空いちびり百景』のような短い話で文体の温度を確かめるといい。理屈を追うより、違和感の残り方を味わう。あるいは『マッド・サイエンス入門』で科学の遊び心を先に入れるのも手だ。堀晃の硬さは「説明のため」ではなく「世界を雑にしないため」なので、慣れると読みやすさに変わる。

Q4. 『恐怖省』『遺跡の声』『地球環』の関係がややこしい

短編集は収録の重なりが起きやすい。まずは今手に入りやすい版で読んで、刺さった連作や題名をメモしておくといい。結晶生命体トリニティ絡みの連作が好きなら、その連作を含む巻を優先する。重複が気になる人は、先に『遺跡の声』『地球環』を固めてから『恐怖省』に進むと、既読感を減らせる。

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