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【トールマン心理学とは】認知地図・目的論的行動主義がわかるおすすめ本10選【潜在学習・迷路実験】

行動主義の黄金期に、「刺激→反応(S–R)」だけでは行動を説明しきれないと主張したのがエドワード・C・トールマン(Edward C. Tolman, 1886–1959)だ。彼は動物や人間が環境を“地図のように”表象し、目的・期待・信念といった媒介過程を使って行動を選ぶと考えた。この立場をトールマンは目的論的行動主義(Purposive Behaviorism)と呼び、のちの認知心理学や人工知能、空間認知研究の源流となった。

 

エドワード・C・トールマンについて

1. トールマンの提唱した「目的的行動」とは

トールマンの核心は、行動が単なる刺激反応ではなく、目的(purpose)によって方向づけられているという考えだ。彼の代表的な著書『新行動主義心理学―動物と人間における目的的行動』では、行動とは環境に対する単純な反応ではなく、個体が環境を予測しながら目標を達成する過程であると論じられている。

行動は「目標指向的」であり、報酬はその達成を強化する要因にすぎない。つまり、ラットが迷路を進むのは報酬をもらうためだけでなく、「報酬のありか」を心の中に地図として保持しているからだ。この仮説を裏づける実験が、トールマンを心理学史上に残した。

2. 認知地図(Cognitive Map)と潜在学習(Latent Learning)

トールマンの有名な迷路実験では、ラットは単なる運動反応の連鎖ではなく、環境の構造を“地図”として学習していた。報酬を与えない期間に自由に探索させ、後に報酬を与えると、彼らは即座に最短経路を選んだ。これが潜在学習であり、学習は常に報酬を必要としないことを示した。

この「認知地図(Cognitive Map)」の考えは、後に心理学のみならず神経科学やAI(強化学習)の分野にまで影響を与える。たとえば現代の“海馬の場所細胞(Place Cell)”研究は、トールマンの仮説を神経レベルで裏づけた成果として知られている。

3. S–O–Rモデル:行動を媒介する「有機体(Organism)」

トールマンはワトソンやスキナーが重視した「S–Rモデル(刺激–反応)」に、O(有機体:Organism)という概念を加えた。 これにより、行動は「S(刺激)→O(内部過程)→R(反応)」という三段構造で理解される。Oの中では、期待、目的、仮説、信念などの認知的プロセスが働き、個体は単なる機械ではなく、意図をもった存在として行動する。

この考え方が、のちの認知心理学の誕生を導く。つまり、トールマンは行動主義と認知主義の橋渡しをした存在だといえる。

4. 実験心理学から現代心理学への架け橋

トールマンの研究は、迷路実験・空間学習・探索行動など、実験心理学の伝統の中で培われたが、その本質は哲学的でもあった。 彼のいう「目的」とは、単なる主観的意図ではなく、行動システムに内在する秩序や方略性を指す。そのため、行動主義者としての客観性を保ちながら、心の働きを科学的に扱おうとする点で、極めてバランスの取れた立場にあった。

この「中庸の行動主義」は、現代の心理学史においても重要な転換点とされている。行動を“意味あるもの”として捉え直すこの視点が、AIのエージェント設計、ナビゲーション理論、教育心理学などにまで影響を及ぼしている。

5. トールマンを学ぶ最短ルート

  • まず邦訳の原典である『新行動主義心理学―動物と人間における目的的行動』で彼の思想を体感する。
  • 次に『学習心理学への招待 改訂版』で、古典的条件づけからトールマン理論までの体系を整理。
  • 最後に『認知地図の空間分析』など現代的研究で、その影響の広がりを追う。

この三段階をたどることで、トールマンの「目的をもつ行動」から「心をもつ行動」への進化の道筋が見えてくる。次章では、Amazonで入手できる主要な関連書籍を具体的に紹介する。

 

おすすめ本10選:トールマン心理学(認知地図・目的論的行動主義)を学ぶ

ここでは、トールマンの理論を体系的に理解できる書籍を10冊紹介する。Amazonで現在も購入可能(新品または中古)なタイトルを中心に、原典・解説・関連分野をバランスよく選定した。

 

1. 学習心理学への招待 改訂版(ナカニシヤ出版)

 

 

古典的条件づけ・オペラント条件づけ・潜在学習・観察学習といった学習理論の流れを一冊で学べる定番教科書。トールマン理論は第5章「潜在学習と認知地図」で丁寧に紹介されており、行動主義の限界を乗り越えた発想として位置づけられている。

トールマンの「目的論的行動主義」を、スキナーやハルらとの比較で理解できる構成になっており、心理学の基礎理論を再整理するのに最適。図表が多く、初学者でも体系的に理解できる点が魅力だ。

おすすめポイント: トールマンが提唱した「サイン・ゲシュタルト仮説」を現代的視点から解説しており、単なる過去の理論としてでなく「今なお使える学習モデル」として読める。学部~大学院レベルまで対応するバランスの良い一冊。

 

2. 流れを読む心理学史〔補訂版〕—世界と日本の心理学(有斐閣アルマ)

 

 

行動主義の誕生(ワトソン)から新行動主義(ハル/トールマン)を経て認知革命へ至る“大きな潮目”を一気に掴める定番テキストの補訂版。2000年以降の動向が加筆され、国内外の受容史も抑えが効いている。トールマンは「行動主義の内部から心を回復した転回点」として位置づけられ、潜在学習・場所学習・S–O–Rの意義が同時代の方法論と併せて理解できる。章末の要点整理と年表・索引が強力で、原典に降りる前の“最短ルートの地図”になる。

  • こういう人に刺さる:まず全体像を固めたい/研究計画書に歴史背景を入れたい/ワトソン→トールマン→認知心理学の線を1冊でつなぎたい
  • 実感:この1冊で“潮目”を掴んでから各専門書に進むと、理解速度が段違いに上がる

 

3. 認知地図の空間分析(若林芳樹)

 

 

「認知地図(cognitive map)」概念を、心理学・地理学・行動科学の横断領域から掘り下げた学術書。トールマンの理論を現代の空間認知・都市心理学・環境行動研究へと接続する。地図という比喩が、単なる空間表象を超えて「人間の行動意思決定のモデル」として展開されている点が特徴だ。

都市構造の理解やナビゲーション研究にも応用可能で、地理情報科学(GIS)や環境心理学に興味のある読者にも刺激的。トールマンが提唱した「内的地図」の現代的展開を知るなら必読。

4. 環境の空間的イメージ(ロジャー・M・ダウンズ/ダビッド・ステア)

 

 

トールマンの「認知地図」理論をベースに、人間の空間的イメージと行動の関係を分析した古典的名著。人が街を歩くとき、どのように空間を構成し、記憶し、選択しているのかを明らかにする。環境心理学の基礎文献として定評があり、トールマン理論の“現代版迷路実験”ともいえる内容だ。

実験・調査・理論のすべてを統合しており、地理心理学・都市設計・建築行動学にも応用できる。心理学を超えて、人間の空間行動を理解したい人におすすめ。

 

5. こころへの認知マップ(山下清美・山下利之)

 

 

トールマンが示した「認知地図」を、臨床・教育・発達の実践に橋渡しする貴重な一冊だ。理論紹介にとどまらず、個人の体験世界を地図化する具体手順、描画・語り・再構成というプロセス設計、そしてセッションでのフィードバック技法までを丁寧に解説する。空間表象を比喩に用いながら、価値観やライフテーマ、対人関係の距離、環境ストレッサーの位置づけを図式化し、意味ある再編集を促す点が新しい。記憶の再配置、選好の可視化、問題行動の“抜け道”探索といった介入に使える。臨床現場で悩ましい“言語化の限界”を、図式化で突破する設計思想が強みだ。認知行動療法やナラティブ・アプローチとの相性もよく、ホームワーク化も容易。教育場面では学級経営やキャリア指導、特別支援の個別支援計画にも応用可能だ。トールマンの「サイン・ゲシュタルト」を、個人史の“地形”に置き換える発想が読みどころだ。

刺さる読者像:臨床心理士・公認心理師。学校現場のスクールカウンセラー。進路・キャリア面談の指導主事。CBTにイメージワークを足したい実践家。来談者の語りを構造化できず困っている人。虐待・トラウマ文脈で生活世界の見取り図が必要な人。家族療法で同席者の認識差を可視化したい人。セルフヘルプとして自己理解を深めたい一般読者。コーチング実務で内省の“手ごたえ”を高めたい人。支援計画の合意形成を図りたい多職種チーム。発達特性のある子の“苦手な環境”を可視化したい保護者。組織開発で心理的安全性の阻害地形を見つけたい人。

おすすめポイント(実感):面接で堂々巡りになりがちな語りが、地図化すると一気に進む。セッション後に来談者が自分の“抜け道”を指でなぞって説明してくれたとき、トールマンの認知地図が臨床の言葉になったと感じた。

6. 失われゆく我々の内なる地図(マイケル・ボンド)

 

 

GPS依存が“心の地図”を弱らせるという警鐘を、多彩なフィールドワークと神経科学で描く。先住民のナビゲーション文化、海馬の場所細胞・グリッド細胞、発達期の空間遊びの重要性、都市設計が方位感覚に与える影響など、心理学・人類学・建築を横断する叙述が魅力だ。トールマンの仮説を、現代の脳科学がどう裏づけたかが平易にわかる。迷いやすさは性格ではなく訓練で改善できる、という実践的メッセージも心強い。紙地図の思考負荷、道しるべ(ランドマーク)とルートベース記憶のバランス、方略転換の条件など、日常の意思決定に直結する示唆が多い。子ども向けの遊び方、職場の動線設計、災害時の避難行動にまで話が伸び、トールマンの「目的—地図」モデルの現代的射程が見える。

刺さる読者像:空間認知を鍛えたい保護者・教育者。都市計画・建築・ UXリサーチ従事者。登山・アウトドア愛好家。運転や出張が多く地理勘を取り戻したい人。位置情報サービスの企画者。迷いやすさに悩む当事者。高齢者の認知機能支援に関心のある介護職。災害時の避難設計に携わる自治体職員。探索行動や内的モデルに興味のあるAI/ロボティクス研究者。

おすすめポイント(実感):スマホ地図なしで歩く練習を1週間続けただけで、知らない街の“骨格”が見え始めた。トールマンの「場所学習」が生活技術として戻ってくる感覚がある。

7. 流れを読む心理学史(有斐閣アルマ)

 

 

ワトソンの初期行動主義から、ハル—トールマン—スキナーの新行動主義、そして認知革命までを“流れ”で理解できるテキストだ。トールマンの章では、潜在学習・場所学習・S–O–Rの位置づけが、同時代の方法論(演繹モデル/帰納モデル)とともに整理され、なぜ彼が“行動主義の内側から心を回復した”と評価されるのかが腑に落ちる。歴史叙述に偏らず、現在の学習・記憶・意思決定研究への接続が示されるため、理論の“生きている部分”が見える。日本の心理学史にも触れており、国内文脈での受容史を押さえたい読者にも有益だ。章末のまとめ、主要概念の簡潔な定義、参考文献の導線が秀逸で、学部〜院レベルの講義にも耐える構成になっている。

刺さる読者像:心理学の全体像を短期で掴みたい初学者。研究計画書で理論背景を的確に書きたい大学院受験生。授業設計の骨格を探す教員。トールマンを“点”でなく“線”で理解したい実務家。AI/行動経済学に心理学史の根を与えたい人。

おすすめポイント(実感):個別理論の暗記では見えなかった“潮目”が把握できる。トールマンが単発の迷路屋ではなく、方法論転換の中心にいた事実が腹落ちした。

8. 心理学史への招待(新心理学ライブラリ15)

 

 

通史の堅牢さに加えて、主要理論の“何を解決しようとしたのか”という問題設定を明晰に提示する名著。トールマンを扱う章では、潜在学習の実験論理、サイン・ゲシュタルト仮説、期待の概念など、実験と理論の対応関係がていねいに辿られる。さらに、スキナーがなぜ“内的変数”を忌避したのか、ハルがなぜ“媒介変数”に傾いたのかという周辺人物の動機づけが語られ、トールマンの独自性が立体化する。脚注・参考文献が手厚く、一次資料へ降りる導線も確保されている。授業の下支えや、卒論・修論の理論枠組みを書く際の“背骨”として役立つ。

刺さる読者像:理論間の“ズレ”を正確に把握したい人。原典を読む前に設計図を欲する人。研究史をレポートに落とし込みたい学生。臨床・教育実践に理論的裏づけを与えたい実務家。

おすすめポイント(実感):トールマンの文章を読む前にここで“要石”を押さえておくと、原典の主張が驚くほどスムーズに入ってくる。読書コストを大幅に下げてくれる一冊だ。

9. 心理学史―現代心理学の生い立ち(コンパクト新心理学ライブラリ)

 

 

薄いが侮れない。キーワードと因果線の引き方が巧みで、トールマンの理論的寄与を数ページで把握させる編集力がある。S–O–R、潜在学習、目的概念の導入が、行動主義の“何を補ったのか”という観点で簡潔にまとまる。試験前の総整理にも最適。通史を網目のように辿るレイアウトで、重要人物の相互参照がしやすい。

刺さる読者像:短時間で骨格だけ掴みたい人。試験や面接で“要点だけ”を外さず話したい学生。原典には踏み込まないが背景は知っておきたい実務家。導入講義の副読本を探す教員。

おすすめポイント(実感):この本で流れをつかみ、他の専門書で深堀りする“二段読み”が効率的。トールマン周辺の人名・年表の確認にも重宝する。

10. 環境心理学 第2版(ライブラリ実践のための心理学 5)

 

 

トールマンの認知地図から現代の環境心理学へと発展した知見を、実務視点で体系化する。建築・都市・職場・学校・医療空間・災害時の動線設計まで、場に即した“人—環境”の相互作用を扱い、配置・サイン計画・視認性・密度・パーソナルスペースなどの設計因子を心理指標で読み解く。行動観察、質問紙、ウェイファインディング課題などの測定技法も押さえられ、研究と実装を往還できる。トールマンの「目的」「地図」を、環境デザインでどう活かすかが具体化されるため、理論が現場言語に変換される手応えがある。

刺さる読者像:建築・都市計画・内装設計の実務家。オフィスのABW導入に関わる人事・総務。病院・高齢者施設の回遊性設計に携わる方。避難誘導・防災計画の担当者。商業施設の回遊動線を改善したいマーケター。学校の掲示計画・動線整理を見直す教員。UX/サービスデザインで“空間×行動”を扱う研究者。

おすすめポイント(実感):サインの位置と視線の“癖”を調整しただけで、迷いと滞留が目に見えて減った。トールマンの“近道仮説”がビジネス現場のKPI改善に直結する体験だった。

 

 

関連グッズ・サービス

学びを定着させるには、読んで終わりにせず「地図化・言語化・反復インプット」を回すのが効果的だ。以下はトールマン(認知地図・目的論的行動主義)の理解と実践に相性がいいサービス/ツールだ。

  • Kindle Unlimited:学習心理学や心理学史の基礎文献を横断的につまみ読みできる。紙と併用して要点ハイライト→ノート化の循環が作れた。
  • Audible:心理学史や空間認知の一般書は“ながら聴き”と相性がよい。散歩しながら聴くと、身体感覚で「場所学習」が入ってくる実感があった。
  • Kindle Paperwhite  迷路図や図表が多い章は紙も良いが、辞書・ハイライト・ノート出力で反復が進む。夜間の“寝る前10分”インプットが習慣化した。
  •  ドット方眼

    (A4/ミシン目つき)
     “こころの認知マップ”をササっと描いて破って壁に貼れる。面接・授業後のふり返りで、サイン・ゲシュタルトの再配置が捗る。
  • ホワイトボードシート 貼って剥がせる粘着式

    (壁面用)
    家庭や研究室の壁を“思考の迷路”に変える。近道仮説や方略の分岐を書き出すと、潜在学習の“地形”が見えてくる。

まとめ:今のあなたに合う一冊

「トールマン心理学(認知地図・目的論的行動主義)」の本は、古典から現代の環境心理・空間認知まで射程が広い。最初の一冊を迷うなら、目的に合わせて選ぶとよい。

「目的をもつ行動」と「地図をもつ心」を軸に、理論→図解→現場で回すと定着が早い。まずは一冊、今日の行動に落として試してみるとよい。

よくある質問(FAQ)

Q: トールマンの「目的論的行動主義」は、従来の行動主義と何が違う?

A: S–R(刺激–反応)だけでなく、O(有機体=Organism)の内部過程を明示的に置く点が決定的に違う。目的・期待・仮説などの媒介変数を導入し、行動の“方略性”や“意味”を扱える。これが後の認知心理学への橋渡しになった。

Q: 「認知地図」とはナビアプリの地図のこと?心理学ではどう使う?

A: 心の中に形成される“環境の表象”を指す。迷路や都市を歩くとき、位置関係・近道・ランドマークを内的に保持して方略を切り替える。臨床・教育では、生活世界や対人関係を地図化して再配置(リフレーミング)に使う。

Q: 初学者は原典から入るべき?まず教科書がよい?

A: まずは『学習心理学への招待 改訂版』などで枠組みを掴むのが効率的だ。その後に原典訳へ降りると、潜在学習・場所学習・S–O–Rの文脈が立体的に読める。

Q: 日本のAmazonだけで揃えたい。英語原典は必須?

A: 日本Amazon限定でも十分学べる。英語原典は研究を深めたい段階で検討すればよい。まずは邦訳・教科書・関連分野(環境心理・空間認知)で足場を作るのが現実的だ。

Q: 仕事(UX/建築/教育)にどう生かす?

A: 「人は地図で動く」という前提で設計する。例:オフィスのサイン計画、病院や商業施設の回遊動線、学校の掲示・導線、アプリの情報設計。近道仮説・ランドマーク配置・視認性を揃えると迷いが減り、KPIに直結する。

関連リンク:行動主義から認知心理学へ

トールマンは、ワトソンの徹底的な行動主義とスキナーの行動分析の間に立ち、「目的」「期待」「地図」といった心的過程を行動科学の言葉で説明しようとした人物だ。 この3人を続けて読むと、心理学が“心なき科学”から“心を含む科学”へと進化していった軌跡が明確に見える。

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