自分の生き方が「正しくない」と言われた気がして、胸の奥がずっとざらついている。そんなとき、凪良ゆうの小説は、世間からはみ出した人たちの孤独をそっと抱きとめてくれる。
ここでは、本屋大賞受賞作からBLの名作まで、凪良ゆうの「今、読むことができる」主要作品を17冊まとめて紹介する。恋愛小説としてだけでなく、「生きづらさ」とどう折り合いをつけるかを考えたいときの道標として使ってほしい。
- 凪良ゆうとは?
- 凪良ゆうおすすめ本17選
- 1. 流浪の月(2020年本屋大賞受賞作)
- 2. 汝、星のごとく(2023年本屋大賞受賞作)
- 3. 星を編む(『汝、星のごとく』スピンオフ)
- 4. 滅びの前のシャングリラ(終末世界の群像劇)
- 5. わたしの美しい庭(屋上神社の再生ストーリー)
- 6. 美しい彼(BL・ドラマ&映画原作)
- 7. 神さまのビオトープ(幽霊の夫と暮らす連作短編集)
- 8. 憎らしい彼 美しい彼2(大学編)
- 9. 悩ましい彼 美しい彼3(社会人編)
- 10. interlude 美しい彼番外編集(番外短編集)
- 11. すみれ荘ファミリア(訳あり下宿の連作短編集)
- 12. おやすみ、またね。(記憶障害を抱えた青年と作家の純愛)
- 13. 未完成(アイドルと同級生の純愛)
- 14. 積木の恋(崩れやすくも愛おしい大人の恋)
- 関連グッズ・サービス
- FAQ(よくある質問)
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凪良ゆうとは?
凪良ゆうは、京都在住の小説家。もともとはBLジャンルでキャリアを積み、「美しい彼」シリーズなどで熱心なファンを獲得してきた。その後、一般文芸にフィールドを広げ、『神さまのビオトープ』を経て、『流浪の月』『汝、星のごとく』と立て続けにヒットを飛ばすようになる。
2020年に『流浪の月』で本屋大賞を受賞し、映画化。続く『汝、星のごとく』でも2023年本屋大賞を受賞し、二度の受賞という快挙を成し遂げた。「本屋で売れている作家」であると同時に、「BLから読んできた読者がずっと追いかけている作家」でもあるという、少し特別なポジションにいる。
作品世界を貫いているのは、「正しさ」から外れてしまった人たちの、地道でささやかな再生だ。誘拐事件の被害者と“加害者”、社会からこぼれ落ちた家族、隕石衝突前夜の若者たち、スクールカーストの最底辺と頂点の少年同士の恋…。どの物語も、分かりやすいハッピーエンドではなく、「それでも生きていくしかない」現実の手触りを残して終わる。
だからこそ、読み終えたあとに残るのは「希望」という言葉だけではない。悔しさや妬み、諦めきれない思いも含めて、「この感情を抱えたままでも生きていていいのだ」という、奇妙に静かな肯定だ。人生が一度はぐしゃぐしゃになった経験がある人ほど、彼女の物語に救われる瞬間が多いはずだ。
凪良ゆうおすすめ本17選
1. 流浪の月(2020年本屋大賞受賞作)
『流浪の月』は、誘拐事件の「被害女児」と「加害者」として世間からラベリングされた二人の、その後を描く物語だ。幼いころ、家にも学校にも居場所がなかった更紗は、たまたま出会った大学生・家内更紗の部屋で心安らぐ日々を過ごす。しかし世間はそれを「誘拐」と断じ、二人は引き裂かれる。十数年後、大人になった二人はふたたび再会するが、今度は「普通」の恋人関係が求められる。
表面的にはラブストーリーの形をしているのに、この物語は「恋人になること」だけをゴールにしていない。むしろ、「世間から見て分かりやすい関係性」に押し込められ、ねじれていく二人の姿が痛いほど描かれる。彼らを心配するはずの周囲の人々が、結果的に二人の尊厳を奪っていく構図が、読んでいて本当にしんどい。
凪良ゆうのうまさは、「加害者」「被害者」といったラベルを徹底して疑い、当事者の身体感覚から世界を描き直していくところにある。この作品でも、世間が規定した「事件の真相」と、本人たちが感じている「真実」のズレが、緻密な会話と行動の積み重ねで浮かび上がってくる。
個人的には、更紗の婚約者・亮くんや、文の恋人の姿も忘れがたい。彼らは決して「悪役」ではない。それでも、善意と常識で相手を救おうとするほど、二人を追い詰めてしまう。その構図が、私たち自身の日常にもそのまま重なってしまい、読みながら何度も胸がざわついた。
この本は、「分かりやすい悪人が出てこない物語」が好きな人に特に刺さると思う。誰もがそれなりに正しく生きようとしているのに、すこしずつ取り返しのつかない方向へ進んでしまう、あの感覚を知っている人には、深く響く一冊だ。
「普通の幸せ」を手に入れられなかったことを、どこかで悔やんでいる大人にこそ、静かに開いてほしい。
2. 汝、星のごとく(2023年本屋大賞受賞作)
『汝、星のごとく』は、瀬戸内の島を舞台に、暁海と櫂という二人の人生を15年にわたって追いかける物語だ。家庭環境に恵まれず、親の恋愛や暴力に翻弄されて育った二人は、互いにとって唯一の「味方」であり続けようとする。しかし現実は、高校卒業後の進学や就職、親の介護、経済的な格差など、容赦なく二人を引き離していく。
「わたしは愛する男のために人生を誤りたい」という暁海の言葉は、とても危うく、それでいてどうしようもなく切実だ。無償の愛を称える物語というよりも、「親の呪い」や「貧しさ」といったどうにもならない要素の中で、それでも愛を選び取ろうとする二人の執念が描かれている。
瀬戸内の海や島の風景描写が、ただの背景にとどまらないのも印象的だ。穏やかな海が、時に逃げ場のない閉塞感を象徴し、またある場面では、二人をかろうじてつなぐ記憶の舞台にもなる。凪良ゆうの文体は決して派手ではないが、海風の湿り気や、夏の夜のざわめきまで、身体で感じられるように書かれている。
読み終えた直後は、決して「爽やか」とは言えない余韻が残る。自分ならどうしただろう、と何度も考えさせられるし、「正しさ」と「幸せ」を両立させることの難しさを突きつけられる。それでもページを閉じるころには、不思議と前より少しだけ世界を肯定したくなる。
10代で読めば「大人たちひどすぎる」と怒り、30代で読めば「親の側の言い分も、分かってしまう」のかもしれない。人生のどの時期に出会うかで、見える景色が変わる一冊だと思う。
3. 星を編む(『汝、星のごとく』スピンオフ)
『星を編む』は、『汝、星のごとく』の「その先」と「別の角度」を描く連作短編集だ。暁海と櫂の物語を軸にしつつも、編集者や子どもたちなど、周囲の人物に視点が移り変わることで、本編では描ききれなかった余白がふわりと埋められていく。
本編を読んだとき、あまりに濃密でヘビーな時間を一緒に歩いたせいで、読み終えてからもしばらく彼らのことが頭から離れなかった。『星を編む』は、その「その後」を確かめに行く小旅行のような本だ。彼らがどうやって仕事を続け、暮らしを立てているのか。親との関係は、完全には癒えなくても、どこまで折り合いがついたのか。
印象的なのは、「物語を紡ぐこと」をめぐる視点の多さだ。書き手だけでなく、読み手、編集者、親としての視点が交錯し、創作がいかに誰かの生き方と結びついているかが丁寧に描かれる。本を愛している人ほど、「自分が読んできた物語たち」に思いを馳せてしまうだろう。
本編の余韻を大切にしている人には、読むタイミングを少し迷うかもしれない。けれど、暁海と櫂の歩みが「途中で終わった物語」ではなく、「続いていく人生」であることが分かるのは、思いのほか大きな救いだ。
『汝、星のごとく』を読み終え、「この二人のことをもう少しだけ見守りたい」と感じたときに手に取ると、心地よい後日談として響く一冊だと思う。
4. 滅びの前のシャングリラ(終末世界の群像劇)
『滅びの前のシャングリラ』は、「一か月後に小惑星が地球に衝突する」という設定で始まる終末ものの群像劇だ。ニュースで「一ヶ月後に人類滅亡」と告げられた世界で、ゲームセンターの常連少年、元人気子役、家庭を持つ大人たちなどが、それぞれの場所で「最後の一ヶ月」をどう生きるかが描かれる。
終末ものと聞くと、派手なパニックや反乱を想像しがちだが、この作品に描かれるのはむしろ「いつもとほとんど変わらない日常」だ。学校に行き、ゲームをし、コンビニに寄り、それでも会話の端々に「あと何日か」という意識がにじむ。静かな日常の描写の中に、ふとした瞬間、死の影が差し込んでくる。
凪良ゆうらしいのは、「どう生きるか」と同じくらい、「どう別れるか」が丁寧に描かれていることだ。大切な人に真実を打ち明けるべきか。憎しみを抱えたまま別れてしまっていいのか。自分の人生を最期まで引き受けるとはどういうことなのか。登場人物たちの選択を追っていると、読者自身も、今の自分の生活を静かに振り返らざるをえなくなる。
個人的には、この作品を読んでから、日常の何でもない瞬間に「もし世界が一ヶ月後に終わるとしたら」とふと考えてしまうクセがついた。いつものスーパーの光景や、通勤電車のざわめきが、少し違って見える。その感覚を味わってしまったら、この本はもう手放せない。
大きなカタルシスよりも、「小さな覚悟」の物語を読みたいときにおすすめの一冊だ。
5. わたしの美しい庭(屋上神社の再生ストーリー)
『わたしの美しい庭』の舞台は、マンションの屋上にある小さな神社。そこには「縁切りさん」と呼ばれる神さまが祀られ、さまざまな縁を断ち切ってほしい人たちが、こっそりと願掛けにやって来る。物語は、そこで暮らす少年と周囲の大人たちの視点から、「生きづらさを抱えた人々の再生」を描いていく。
印象的なのは、「縁を切ること」が必ずしも悪いこととして描かれていない点だ。毒親との関係、重すぎる期待、しがみついているだけの夢…。そこから離れることは、一見逃げのように見えて、実はその人が生き延びるための最低限の選択だったりする。凪良ゆうは、その痛みを決して軽く扱わない。
登場人物たちは決して立派ではないし、読んでいて「いや、それはダメでしょ」と突っ込みたくなる場面も多い。けれど、そのだらしなさや弱さに、読者はどこかで自分を重ねてしまうはずだ。生きていれば、誰だって、美しい選択ばかりはできないからだ。
読んでいると、マンションの屋上に吹く風が肌に触れる感覚まで伝わってくる。夏の夕暮れ、人々の願いがミルク色の空に薄く溶けていくような、静かな読後感。激しい物語に疲れたとき、「それでも世界はそこそこ優しいかもしれない」と思わせてくれる一冊だ。
6. 美しい彼(BL・ドラマ&映画原作)
『美しい彼』は、クラスの最底辺にいる吃音持ちの男子・平良一成と、スクールカーストの頂点に立つ絶対王者・清居奏の関係を描くBL小説だ。平良は清居に対して、恋愛感情なのか崇拝なのかも分からない感情を抱き、ひたすら彼の後ろを追いかける。やがて告白をきっかけに、奇妙な主従関係のような距離感が生まれていく。
この作品がただの学園BLにとどまらないのは、「美しさ」と「劣等感」の関係を徹底的に描き込んでいるからだ。平良は、自分のことを徹底的に「醜い」と思っている。その彼が、完璧な容姿と才能を持つ清居を崇めるように愛しながらも、どこかで「自分にはふさわしくない」と思い続けている。そのねじれが、読んでいて痛いほど伝わってくる。
清居の側にも、また別の孤独がある。周囲からの期待、世間的な成功、才能があるがゆえのプレッシャー。凪良ゆうは、彼を単なる「高嶺の花」として描くのではなく、「美しいがゆえに、他人から見られることをやめられない人間」として描いている。
BLに慣れていない読者でも、この作品は案外すっと読めるかもしれない。恋愛の形こそ同性同士ではあるものの、「誰かを一方的に崇めてしまった経験のある人」なら、痛いほど身に覚えがある感情ばかりだからだ。
ドラマや映画から原作に入る人も多いと思うが、活字で読むと、平良の内面の声がより鮮明に胸に刺さる。映像で二人を好きになった人にこそ、ぜひ原作にも触れてほしい一冊だ。
7. 神さまのビオトープ(幽霊の夫と暮らす連作短編集)
『神さまのビオトープ』は、「幽霊になった夫と暮らす妻」という、一歩間違えばホラーになりそうな設定から始まる連作短編集だ。事故死した夫・鹿野くんの幽霊と一緒に暮らすうる波。彼の存在を秘密にしていたが、大学時代の後輩カップルに知られたことをきっかけに、さまざまな「愛のかたち」が浮かび上がってくる。
「幽霊の夫」と聞くと突飛に思えるが、読んでいると、これは「亡くした人を手放せないまま生きる」すべての人の物語だと分かる。うる波にとって鹿野くんは、もはや「現実か幻か」よりも、「一緒に生きていきたい存在かどうか」の方が大事になっている。その感覚は、多かれ少なかれ、誰もが心のどこかで抱いているものかもしれない。
連作それぞれに、ロボットと少年、小学生の恋愛ドラマに夢中な子ども、罪悪感を抱えたまま生きる女性など、多様な人物が登場する。どの物語にも共通しているのは、「社会的には理解されにくいけれど、本人にとっては切実な愛」が描かれていることだ。
個人的に好きなのは、人間関係の「矛盾」をさらっと書き込むセリフの数々だ。「人は見た目で判断してはいけないと言われるけれど、ちゃんと話をしても人なんて分からない」といった一文に、凪良ゆうの冷静なまなざしがにじむ。
派手さはないが、何度も読み返したくなるタイプの本だと思う。「正しさ」よりも「その人にとっての幸せ」を大事にしたい人には、じんわり染みる一冊だ。
8. 憎らしい彼 美しい彼2(大学編)
『憎らしい彼』は、『美しい彼』の続編で、舞台を大学時代に移した第二弾だ。高校を卒業し、それぞれの進路を歩み始めた平良と清居。表面上は「恋人」になったはずなのに、二人の関係は相変わらずいびつで、すれ違いが続いていく。:
高校編では「圧倒的上位」と「底辺」という構図が分かりやすかったが、大学編になると、世界が少し開ける。その分、二人の関係の歪みも、より細かいニュアンスで描かれるようになる。仕事や将来の不安がちらつき始め、「ただ好きでいるだけでは足りない」空気が漂うのだ。
この巻の面白さは、「恋愛とキャリア」が絡み合い始めるところにある。特に、役者として将来有望な清居の側の葛藤は、BLでありながらも、リアルな職業小説として読めるほどだ。平良は平良で、「自分は清居にふさわしいのか」という問いからなかなか抜け出せない。
若いころ、誰かを必死で追いかける恋をしたことがある人なら、大学編特有の「夢と現実のギャップ」に心当たりがあるはずだ。高校編で二人を好きになった読者には、ぜひ続けて読んでほしい。
9. 悩ましい彼 美しい彼3(社会人編)
シリーズ第三弾の『悩ましい彼』では、二人はすでに社会人になっている。清居は若手俳優として脚光を浴び、平良はカメラマンとして彼を撮る立場になる。仕事と恋愛、パブリックな顔とプライベートな関係。その狭間で、二人の関係はまた新たな段階へと進んでいく。
「売れていく恋人を支える側」の苦さが、とてもリアルだ。平良は清居を誰よりも愛しているからこそ、彼の成功を心から喜びたい。しかし、同時に、世間の目に晒されていく彼を見ていると、不安と劣等感が膨らんでいく。その矛盾した感情が、丁寧に描かれる。
一方の清居も、決して「余裕のある天才」ではない。仕事のプレッシャーや、自分のイメージを守らなければならない窮屈さの中で、平良という存在に甘えきれないもどかしさを抱えている。二人が互いを大切に思えば思うほど、すれ違ってしまうのが切ない。
社会に出て、恋愛に割けるエネルギーが減ってしまった経験のある人には、とても刺さる一冊だと思う。学生時代のような「恋と人生がほぼ同義」の時期を過ぎても、それでも誰かを好きでい続けるというのは、どういうことなのか。そんな問いを投げかけてくる。
10. interlude 美しい彼番外編集(番外短編集)
『interlude 美しい彼番外編集』は、その名の通り、「美しい彼」シリーズの幕間を集めた短編集だ。本編では描かれなかった日常の断片や、脇役たちの視点から語られるエピソードが詰まっている。シリーズを通して読むと、「あのとき、彼らは実はこんなことを考えていたのか」とニヤリとさせられる場面が多い。
恋人になった後の、ささやかな喧嘩や、何でもない休日。ドラマチックな事件は起こらなくても、「誰かと暮らす」とはこういう積み重ねなのだと実感させられる。BLの番外編としてだけでなく、長年付き合っているカップルの日常譚としても楽しめる一冊だ。
本編を読み終えて、「もう少しだけ二人の世界に浸っていたい」と感じたときの、贅沢なデザートのような本。シリーズ読者なら、迷わず本棚に置いておきたい。
11. すみれ荘ファミリア(訳あり下宿の連作短編集)
『すみれ荘ファミリア』は、訳ありの下宿「すみれ荘」を舞台にした連作短編集だ。人付き合いが下手な管理人・一悟と、そこに集う、不器用な大人たち。仕事で挫折した人、恋愛に疲れた人、家族と距離を置きたい人…。みんな少しずつ傷を抱えて、すみれ荘の一室にたどり着く。
ひとつひとつの部屋に、それぞれの物語がある。夜更けにベランダで風を浴びる音、誰かが階段を上る足音、キッチンから漂う料理の匂い。共同住宅ならではの「なんとなく他人の生活の気配がする感じ」が、温かくもあり、どこか切なくもある。
印象的なのは、「完全に救われた人」がほとんどいないことだ。問題が劇的に解決するわけではなく、誰もが相変わらず不器用なまま生きていく。それでも、すみれ荘での時間を通して、「少なくとも以前よりは、少しだけ自分を許せるようになった」ように見えるのだ。
ひとり暮らしが長く、ふとした夜に誰かの気配が恋しくなる人には、この本の空気はたまらないと思う。読んだあと、自分の部屋のドアの向こう側にも、誰かの小さな物語が続いていることを、少し優しい気持ちで想像できるようになる。
12. おやすみ、またね。(記憶障害を抱えた青年と作家の純愛)
『おやすみ、またね。』は、十年来の恋人に振られた小説家・つぐみと、「なんでも屋」として働く青年・朔太郎との関係を描くBL作品だ。保証人もいないつぐみに、朔太郎は自分が管理するアパートの一室を貸すことを申し出る。しかし朔太郎には、つぐみには言えない重大な秘密があった。
この物語は、「今日の大切な記憶が、明日もちゃんと続いているとは限らない」という不安を抱えた青年と、それでも彼を愛そうとする作家の恋を描いている。記憶障害という重いテーマを扱いながらも、お涙頂戴に走らず、淡々と日常を積み重ねていく筆致が印象的だ。
読んでいると、「いつか、この関係も終わってしまうかもしれない」という不安に、読者自身もじわじわと蝕まれていく。それでもページをめくる手が止まらないのは、その不安を引き受けてでも「そばにいたい」と願う、登場人物たちの想いがまっすぐだからだ。
「永遠」を信じきれない人にこそ読んでほしい一冊だと思う。恋愛に限らず、あらゆる関係はいつか終わる。それでも、その時間に意味がないわけではないのだと、この物語は静かに教えてくれる。
13. 未完成(アイドルと同級生の純愛)
『未完成』は、完璧なアイドルと、その秘密を知ってしまった同級生との関係を描くBL作品だ。輝くステージの上で「理想の自分」を演じているアイドルと、その裏側の素顔を知るただ一人の存在。表と裏のギャップ、ファンの期待、事務所との関係…。さまざまな重圧の中で、二人の距離はもどかしく揺れる。
芸能界もののBLは数多いが、凪良ゆうは「ファンからどう見えるか」よりも、「当人が自分をどう感じているか」に徹底してカメラを向ける。主人公は、アイドルとしての自分を「完成された商品」として扱われる一方で、自分の中にある幼さや弱さを「未完成な部分」として抱えている。そのアンバランスさが、読んでいて非常に痛々しい。
そんな彼を見ている同級生の視点は、時に読者の視点にも重なる。憧れと心配、恋愛感情と友情の境界線。その曖昧さの中で、「この人のそばにいたい」と願う気持ちが、少しずつ形を変えていく様子が丁寧に描かれている。
「推し活」をしている人が読むと、胸がちくりとする場面も多いかもしれない。ステージで輝く誰かの「裏側」を想像したことがある人には、ぜひ触れてほしい一冊だ。
14. 積木の恋(崩れやすくも愛おしい大人の恋)
『積木の恋』は、「大人になりきれない」不器用な男女(あるいは男女の組み合わせに近い関係)の恋を描いた物語だ。積木で作った塔のように、ちょっとした拍子に崩れてしまいそうな関係。仕事、家族、過去の恋愛…。外からの力が加わるたびに、二人の距離は揺れ動く。
凪良ゆうの筆は、恋愛の「きれいな部分」だけではなく、みっともなさや情けなさも、容赦なく描き出す。理性では「別れたほうがいい」と分かっているのに、身体がどうしても相手を求めてしまう瞬間。表面的には落ち着いた大人でも、心の真ん中ではいつまでも未熟なままなこと。
読みながら、「これはフィクションだから」とどこかで笑い飛ばしたいのに、自分の恋の失敗談がちらついて、妙に真顔になってしまう。そんな種類の痛さがある。
恋愛小説に「後ろめたさ」を欲するタイプの読者には、とても相性がいい一冊だ。
関連グッズ・サービス
本を読んだ後の余韻を、日々の生活の中でもう少しだけ長く味わいたいときは、読書まわりのツールを組み合わせると体験が深くなる。
たとえば、凪良ゆう作品の多くは電子書籍化されているので、シリーズを一気読みするならサブスクも相性がいい。
耳で小説を味わいたい人には、朗読で物語のニュアンスが立ち上がるサービスも心強い。特に『流浪の月』『汝、星のごとく』のように感情の振れ幅が大きい作品は、声で聞くとまた違う表情を見せる。
学生読者なら、学割のある総合サービスを使っておくと、書籍だけでなく映画化作品もあわせて楽しみやすい。映像版『美しい彼』や『流浪の月』をチェックする休日を作ってもいい。
Prime Student
あとは、単純に「お気に入りのマグカップ」と「読みかけの本を伏せておけるブックカバー」がひとつあるだけで、読書時間はぐっと自分だけの儀式になる。凪良作品のように感情を揺さぶられる小説こそ、そんな小さな儀式と一緒に読むと記憶に残りやすい。
FAQ(よくある質問)
Q1. 凪良ゆうを初めて読むなら、どの一冊から入るのがいい?
「一般文芸から入りたいか」「BLも抵抗なく読めるか」で大きく変わる。一般文芸なら、『流浪の月』か『汝、星のごとく』がやはり入り口として分かりやすい。前者は「ラベルからこぼれ落ちた関係」、後者は「家族と愛の呪い」について徹底的に描いた一冊だ。
BLにも興味があるなら、『美しい彼』から入ると、作家としての原点のような部分まで一気に味わえる。そのうえで、一般文芸とBLを行き来しながら読むと、同じテーマを別の角度から書いていることがよく分かっておもしろい。
Q2. 凪良ゆうのBLと一般文芸、どちらから読んでも大丈夫?
どちらから読んでも問題はないが、「どんな物語を求めているか」でおすすめ順は変わる。恋愛小説としての高揚感やときめきを重視するなら、まず『美しい彼』や『365日』などBL作品から入ると、作家の「情の描き方」に掴まれやすい。
一方、「人生そのものを揺さぶられる読書」を求めているなら、『流浪の月』『汝、星のごとく』『滅びの前のシャングリラ』といった一般文芸から入るといい。実際に読んでみると、両方のラインで繰り返し扱われているテーマ(居場所、再生、歪んだ家族愛など)が見えてきて、作家としての芯が立ち上がる。
Q3. 重いテーマが多そうで不安。読後にしんどくなりすぎない一冊は?
確かに、凪良ゆうの代表作はどれも決して軽くはない。ただ、その中でも比較的「救いの光」が強いのは、『わたしの美しい庭』と『すみれ荘201号室』あたりだと思う。どちらも、生きづらさを抱えた人たちが、ゆっくりと居場所を見つけていく物語で、読後にほのかな温かさが残る。
重めのテーマと優しい読後感のバランスを取りたいなら、まずはその二冊から入り、余力がある日に『流浪の月』や『汝、星のごとく』に進むのが安心だ。
Q4. 映像作品と原作、どちらから楽しむのがおすすめ?
『流浪の月』『美しい彼』などは映像化されているが、個人的には「どちらからでもいい」が正直なところだ。映像から入ると、登場人物の感情が視覚的に理解しやすくなり、そのあと原作を読むと、内面のモノローグの豊かさに驚くはず。
逆に原作から入ると、自分の中でイメージした人物像と、ドラマや映画のキャストの解釈の違いを楽しめる。それぞれ違う角度から同じ物語を見られるので、「好きな方から、でもできれば両方」を勧めたい。
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凪良ゆうの作品は、一冊読むごとに少しだけ自分の価値観の輪郭が変わる。その揺れを楽しみながら、今の自分にいちばん近い一冊から、ゆっくり手を伸ばしてみてほしい。













