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【行川渉おすすめ本10選】『ソウ』ノベライズから『奇談』『アフタースクール』まで、日常のすぐ隣の恐怖を読む

映画のワンシーンが頭から離れないとき、そのシーンの「心の中」をもう一度たどり直させてくれるのが、行川渉のノベライズだ。スクリーンでは一瞬で流れていく視線や沈黙が、文字になることでじわじわと身体に入り込んでくる。ホラーもサスペンスも、一度ページで味わってしまうと、元の映像に戻れなくなる瞬間がある。

ここでは、『ソウ-SAW』シリーズのノベライズを1作目から最終章まできっちり追いかけつつ、『奇談』『アフタースクール』『美しい夜、残酷な朝』『コワイ女』という異色作もまとめて紹介する。読み終わる頃には、「日常のすぐ隣にある、もう一つの世界」の輪郭が少しだけ鮮明になっているはずだ。

 

 

行川渉とは?──映像と文字のあいだを往復する「ノベライズ職人」

行川渉(ゆきかわ・わたる)は、1970年生まれの文筆家で、映画やドラマのノベライズを多数手がけてきた書き手だ。角川ホラー文庫の『ソウ』シリーズ各作、『奇談』『コワイ女』『美しい夜、残酷な朝』といったホラー作品から、『アフタースクール』のようなサスペンス・コメディまで、ジャンルを横断しながら映像作品を文字へと訳してきた。

行川の仕事の特徴は、「映画のファンが読んでもがっかりしないノベライズ」であることだ。ストーリーラインは原作映画に忠実でありつつ、登場人物の感情や、カメラに映っていない時間のディテールを文字で補っていく。『ソウ』シリーズでは、罠そのもののグロさをいたずらに増幅させるのではなく、「なぜそこまで追い詰められたのか」「その選択をしたあと、胸の内で何が起きているのか」という内側をねちっこく描いている。

もう一つの顔が、『奇談』のようなオカルト・ミステリや、『美しい夜、残酷な朝』『コワイ女』といったオムニバス映画の小説版だ。宗教、家族、ジェンダーといったテーマを含んだ作品を扱っていても、行川の文章は説明に走らず、あくまで「そこにいる人間」を中心に据える。だからこそ、「怖さ」と同じくらい「哀しさ」や「可笑しさ」があとからじわっと立ち上がってくる。

この記事では、そんな行川渉の代表的な10冊を、「単独作品+『ソウ』シリーズ」という構成で紹介する。映画を見てから読むのも、逆に小説から入ってスクリーンに戻るのもありだ。どちらの順番であれ、一度文字を通して映像世界を見直してみると、作品への距離感が変わってくるはずだ。

行川渉おすすめ本10選

1. 奇談 (角川ホラー文庫)

諸星大二郎の傑作コミック「生命の木」を原作に、オカルト色の濃いミステリを小説として再構築した一冊。幼い頃に「神隠し」に遭いながら、そのときの記憶を失っている大学院生・佐伯里美が、失われた記憶を求めて東北の隠れキリシタンの里を訪ねるところから物語は始まる。異端の考古学者・稗田礼二郎、十字架に磔にされた死体、神隠しから戻った少年、そして村に伝わる聖書異伝。すべてがつながったとき、彼らは想像を絶する「奇蹟」を目撃することになる。

映画版はビジュアルのインパクトが強いが、小説版では里美の視点にぐっと寄り添い、彼女が感じる不安や違和感を丁寧になぞっていく。山村特有の湿った空気、よそ者をじっと見つめる視線、夜の闇の奥に潜む何かの気配。読んでいると、自分まで見知らぬ村に一人で泊まり込んでしまったような心細さに包まれる。

行川の筆は、宗教的設定や歴史的背景を「解説」しすぎないところが心地いい。隠れキリシタンの信仰、聖書異伝の意味、稗田礼二郎の過去。すべてに理路整然とした答えを与えるのではなく、登場人物たちが理解しきれないまま巻き込まれていく感覚を、そのまま読者にも味わわせる。だからこそ、ラスト近くの“奇跡”が、理屈ではなく身体感覚として迫ってくる。

オカルト要素のあるミステリが好きな人、宗教や民俗が絡む静かなホラーに惹かれる人には、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。深夜に読むと眠れなくなるタイプの怖さではなく、「世界の見え方がちょっとだけ変わる」種類のざわめきが残る。

2. ソウ-SAW (角川ホラー文庫 111-1)

老朽化した地下室で目を覚ました二人の男。対角線上に鎖で繋がれ、中央には血だまりの中に倒れる一体の死体。記憶は途切れ、自分がなぜここにいるのかも分からない。そんな状況から始まる『ソウ-SAW』は、「ゲーム」と称される残酷な罠と知能戦で知られる映画の第1作をノベライズしたものだ。

小説版の強みは、二人の男──アダムとローレンス──それぞれの視点と内面を細かく切り替えながら進む構成にある。映画では一瞬で流れてしまう「沈黙のあいだの思考」が、文章ではしっかりと描き込まれる。そのため、彼らが下す一つひとつの選択の重さが、より生々しく伝わってくる。

また、「謎の知能犯・ジグソウがなぜゲームを仕掛けるのか」というシリーズ全体の核になる思想も、モノローグや会話を通してじわじわと浮かび上がる。命を粗末に扱ってきた人間に、生きることの意味を突きつけるためのゲーム。あまりに歪んだ論理ではあるが、登場人物たちの過去に触れるほど、完全に否定しきれないグレーな領域が見えてくる。

映画を観ている人にこそ読んでほしいノベライズだ。ラストの衝撃的な種明かしまでの流れを知っていても、文字でたどり直すと伏線の置き方や、キャラクター同士の視線の動きに新しい発見がある。ホラーというより、「極限状況での心理劇」として読み直したくなる一冊だと思う。

3. ソウ2――SAW2 (角川ホラー文庫)

シリーズ第2作『ソウ2』は、密室が一つだけだった前作から一転し、複数の被験者を一軒家に閉じ込める「グループゲーム」の構造を取る。8人の男女が毒ガスの充満した家屋に閉じ込められ、謎の録音テープの指示に従って行動を迫られる。一方、外では刑事エリックがジグソウと対峙し、モニター越しにその様子を見せつけられている。

小説版では、この二つの密室──毒ガスハウスと取調室──が交互に描かれ、読者は二重の息苦しさに晒されることになる。それぞれの被験者が背負っている罪や過去が、断片的な回想として挟み込まれることで、「なぜこのメンバーが選ばれたのか」という謎が少しずつ明らかになっていく構成だ。

行川の筆は、複数人数の視点を切り替える手際が非常にいい。誰が何を見て、何を誤解しているのか。読者は情報量の多さに翻弄されつつも、少し先回りして真相の輪郭をつかめそうな気がしてくる。そこに映画版とは微妙に違う脚色も加わり、「知っているはずの物語なのに、初めて読むサスペンス」として楽しめる。

グループゲームならではの「自己犠牲」と「利己心」のせめぎ合いが濃く描かれるのも、小説版の魅力だ。自分だけが助かりたいのか、誰かを助けたいのか。その判断が一歩遅れただけで、人が死ぬ。SAWシリーズの中でも、人間関係のギスギス感が特に際立つ巻なので、心理戦が好きな読者にはたまらない一冊だ。

4. ソウ3-SAW3 (角川ホラー文庫 111-6)

『ソウ3』では、すでに病状が進行し、自力ではほとんど動けないジグソウと、その「後継者」であるアマンダに焦点が当たる。女刑事ケリーが不可解な殺人現場に呼び出されたあと拉致され、新たなゲームに巻き込まれていく一方で、外科医リンはジグソウの命を延命し続けることを強要される。リンの手術と、娘を失った男ジェフの復讐ゲームが並行して進行する構成だ。

ノベライズ版の真骨頂は、アマンダの内面描写にある。ジグソウに救われたと信じ、その教えを継ごうと必死にもがく一方で、自分の運営するゲームが「純粋な試練」からだんだん逸脱していることに、本人も気づき始めている。その葛藤や劣等感が、行川の手で細かく言語化されることで、映画では「暴走気味の後継者」と見えたアマンダ像が、もっと複雑な人物として立ち上がる。

ジェフのパートも、娘を奪われた父親としての視点が濃厚に書かれる。許すか、見捨てるか。ジグソウ流の「贖罪ゲーム」は、被害者側にさえ残酷な選択を迫る仕組みになっている。小説版では、ジェフがそれぞれの相手と向き合うたびに、胸の奥で揺れる怒りと迷いが丁寧に描かれ、読者も「自分だったらどうするか」を否応なく考えさせられる。

シリーズの中でも、肉体的にも精神的にも負荷の高い一作だが、ジグソウというキャラクターの思想と終着点を理解するうえで欠かせない巻でもある。映像で一度心をえぐられた人ほど、小説で改めて傷口をなぞりたくなるかもしれない。

5. ソウ5 ――SAW5 (角川ホラー文庫 ゆ 1-55)

ソウ5 ――SAW5 (角川ホラー文庫 ゆ 1-55)

ソウ5 ――SAW5 (角川ホラー文庫 ゆ 1-55)

  • 作者:行川 渉
  • 角川グループパブリッシング
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ジグソウの死後も続くデスゲーム。その裏側で暗躍してきたホフマン刑事と、前作で生き残ったFBI捜査官ストラムとの攻防を軸に描かれるのが『ソウ5』だ。ストラムは、ただ一人生還したホフマンこそがジグソウの協力者ではないかと疑い、独自に捜査を進める。一方で、5人の男女を集めた新たなゲームも動き出す。

この巻は、シリーズの「黒幕」をめぐるサスペンスとしても読める。小説版では、ホフマンの過去とジグソウとの出会いが、回想として丁寧に描かれる。その結果、ホフマンは単純な後継者ではなく、「自分なりの正義とエゴを抱えた継承者」としての顔を見せ始める。読者は、彼の冷酷な行動に嫌悪しつつも、どこかで理解したくなってしまう危うい感覚を味わうはずだ。

5人の被験者によるゲームは、協力し合えば助かる余地があったにもかかわらず、互いを信用できずに最悪の選択を重ねてしまう、という構造になっている。行川は、その「ちょっとした不信」が致命的な結果につながっていく様子を細かく描き、読者に「ここでもう少しだけ優しくできたら」と何度も思わせる。

『ソウ5』は、いわゆる「謎の解明」というより、「これまでのシリーズで張られてきた伏線の回収」と「後継者争い」の物語が中心だ。シリーズ全体を俯瞰しながら、ジグソウという存在がどのように人々を巻き込み、歪めていったのかを確認したくなったときに、じっくり読み返したい一冊と言える。

6. ソウ6 ―SAW6 (角川ホラー文庫 ゆ 1-56)

ソウ6 ―SAW6 (角川ホラー文庫 ゆ 1-56)

ソウ6 ―SAW6 (角川ホラー文庫 ゆ 1-56)

  • 作者:行川 渉
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
Amazon

『ソウ6』では、ホフマン刑事がほぼ単独で「ジグソウの後継者」としてゲームを回している状況が描かれる。一方、前作で死亡したストラム捜査官の死に疑問を抱いたFBIのエリクソンが、ホフマンの周辺を調べ始める。さらに、ジグソウの元妻ジルにも遺言と謎の箱が託されており、それが新たなゲームの鍵を握っている。

この巻でターゲットにされるのは、医療保険会社の幹部たちだ。数字とリスクを根拠に「誰を救い、誰を切り捨てるか」を決めてきた人物が、今度は自分自身の命と他人の命を天秤にかける側にまわる。小説版では、彼の過去の判断が具体的な「顔」を伴って襲いかかってくる構成になっていて、読みながら何度も胃が痛くなる。

行川は、保険制度やビジネスの話を細かく説明するのではなく、「一枚の書類のサインが誰かの人生を決めてしまう」という感覚を前面に出す。その「紙一枚の冷たさ」が、ジグソウのゲームの冷酷さと響き合い、単なるスプラッタホラーではない社会批評のニュアンスを帯びてくる。

同時に、ホフマンとジルの駆け引きも本格化し、シリーズ終盤に向けた緊張感が一気に高まる。誰が本当にジグソウの意志を継いでいるのか。そもそも「意志」と呼べるようなものがあったのか。小説版は、その問いを読者の手にそっと渡してくる。

7. ソウ ザ・ファイナル--SAW 3D (角川ホラー文庫 ゆ 1-57)

いったんの完結編となる『ソウ ザ・ファイナル』では、過去のゲームを「生還した」と語り、本まで出して一躍有名人となった男ボビー・デイゲンが主人公として登場する。彼は「サヴァイバー」としてメディアに祭り上げられ、同じくゲームから生き残った人々が集う自助グループの顔としても扱われているが、その過去には誰にも言えない秘密がある。

ノベライズ版の面白さは、「トラウマの商品化」というテーマが前面に出ているところだ。ボビーは血まみれの体験談を売り物にする一方で、本当の意味では何も背負っていない。その偽りが暴かれたとき、彼自身と周囲の人間がどんな目に遭うのか。行川は、その過程を冷静な筆致で追いかける。

また、ゲームの外側で進行するホフマンとジルの最終対決も、シリーズファンにはたまらない部分だろう。誰が生き残り、誰が「ゲームオーバー」を最後に口にするのか。映画で一度見た結末を、小説で改めてなぞると、わずかな行動やセリフの違いが印象を変えてくる。

長く続いたシリーズとの別れ方として、賛否はあるかもしれない。それでも、「ジグソウ・ゲーム」という奇妙な装置が社会やメディアの中でどう消費され、どんな痕跡を残したのかを描くという意味では、非常にメタで、読みごたえのある完結編だと思う。

8. アフタースクール (角川文庫 ゆ 8-2)

アフタースクール (角川文庫 ゆ 8-2)

アフタースクール (角川文庫 ゆ 8-2)

  • 作者:行川 渉
  • 角川グループパブリッシング
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ここで一度、血と罠から少し離れて、サスペンス・コメディの『アフタースクール』を挟みたい。母校の中学校で働くお人好しな教師・神野のもとに、かつての同級生だと名乗る怪しい探偵が現れる。探偵は、神野の幼なじみで今は一流企業に勤める木村を探していると言い、強引なペースで神野を巻き込みながら、「大人の放課後」の調査が始まる。

行川のノベライズは、内田けんじ監督作品らしい「視点の入れ替え」と「時間の組み換え」を、文字のリズムで再現している。多人数の一人称が入れ替わりながら進んでいく構成で、読者は「いま誰の目で世界を見ているのか」を常に意識させられる。その感覚が、「物語の認識を途中でひっくり返される快感」に直結している。

同級生たちの関係性も、大人になったからこそ余計にややこしい。かつては同じ教室で笑っていた三人が、それぞれ違う世界を持ち、誰にも言えない秘密を抱えている。小説版では、神野の内心のツッコミや戸惑いが丁寧に描かれ、映画以上に「自分も巻き込まれている」ような気分になる。

サスペンスとしての驚きはもちろん、読み終わったあと、「自分の同級生たちも、いまどんな人生を歩んでいるのだろう」とふと考えてしまう作品だ。ホラーが続いたあとの「口直し」としても、ちょうどいい苦みと後味を持っている。

9. 美しい夜、残酷な朝 (角川文庫)

韓国・日本・香港の三人の監督が手がけたオムニバス映画『美しい夜、残酷な朝』(「cut」「box」「dumplings」)を、小説としてまとめた一冊。夫の愛と若さを取り戻したい妻が「特製餃子」に手を出す「餃子」、影のある女流作家と箱の悪夢をめぐる「箱」、成功した映画監督のもとに現れた謎の男が、妻を人質にして行う残酷なゲーム「カット」。三つの物語が、それぞれ異なる形で「欲望」と「悪夢」を描く。

行川の文章は、三つのエピソードのトーンの違いをきちんと残しつつ、「人が何かを取り戻そうとしたときに、どこまで堕ちていけるのか」という共通テーマを浮かび上がらせる。餃子のコリコリとした食感、箱の中の冷たい空気、真夜中の撮影スタジオに漂う不穏な気配。それぞれの感触が、不気味なほど生々しく伝わってくる。

ホラーとしてのグロテスクさだけでなく、どの話にも強い哀しさがあるのが印象的だ。誰もが「こんなはずじゃなかった」と思いながらも、戻ることのできない地点をとうに超えてしまっている。読み終えたあと、目を閉じると、それぞれの人物の顔や手の震え方が頭の中に残り続けるタイプの作品だ。

短編ごとに区切って読めるので、時間のないときにも手に取りやすい。とはいえ、一晩で三編まとめて読むと、かなり強い夢を見そうな気がする。夜更かし読書のお供にするなら、読後のクールダウン用に軽めのエッセイも用意しておきたい。

10. コワイ女 (角川ホラー文庫 111-5)

「カタカタ」「鋼」「うけつぐもの」という三つのエピソードから成るオムニバス映画『コワイ女』のノベライズ。タイトル通り、中心にいるのは「怖い女」たちだが、怖いのは幽霊や怪物ではなく、人間の感情そのものだ。日常のちょっとした違和感や、押し殺してきた怒りが、ある瞬間に一気に噴き出してしまう。

小説版は、各エピソードの主人公たちの視点に深く入り込むことで、「なぜここまで追い詰められてしまったのか」を丁寧に描き出す。何気ない物音に怯え続ける日々、恋人や家族のふとした言動に蓄積していく不信感、自分ではどうしようもない環境への苛立ち。その積み重ねが、「コワイ女」を生み出す。

読んでいてぞっとするのは、「加害者」や「被害者」が固定されないところだ。ある場面では被害者だった人物が、別の場面では加害的な行動に出てしまう。その揺れこそが人間らしさでもあり、同時にいちばん怖い部分でもある。行川はそのグラデーションを、さじ加減良く言葉にしていく。

ホラーとしてのインパクトはもちろんだが、男女関係や家族関係の歪みを描いた心理小説として読んでも十分に読みごたえがある。読み終わったあと、軽々しく「女って怖いよな」と笑えなくなるタイプの一冊だと思う。

関連グッズ・サービス

行川渉の作品は、続きが気になって一気読みしてしまうものが多い。夜中に「あと1章だけ」と言いながらページをめくり続けて、気づけば朝方……という経験をしたくなる人もいるかもしれない。そういう読み方をするときは、読書環境をちょっと整えておくと、疲れ方がだいぶ違う。

Kindle Unlimited

対象作品であれば、ホラーもサスペンスもまとめて「試し読み→ハマったものだけ読み切る」という贅沢な使い方ができる。紙の本で集めるにはちょっと気が引けるグロ寄り作品も、電子なら本棚の見た目を気にせず積んでおけるのが便利だ。

Audible

耳で物語を聞くスタイルは、サスペンスやミステリと相性がいい。『アフタースクール』のような群像劇は、声優の演じ分けでキャラクターの違いがさらに分かりやすくなるし、ホラー作品も、あえて昼間に音で聞くと「怖さがちょうどいい」バランスになる。家事や散歩の時間が、小さな映画館に変わる感覚だ。

あとは、ベッドサイドに温かい飲み物用のマグカップと、明るさを調整できるスタンドライトが一つあると、深夜のホラー読書のダメージがだいぶ軽くなる。怖いシーンを読み終えたら、ライトを少し明るくして、マグカップを両手で包み込む。その一連の動作まで含めて、行川作品の楽しみ方だと思う。

まとめ

『奇談』から始まり、『ソウ』シリーズ全7冊、『アフタースクール』『美しい夜、残酷な朝』『コワイ女』まで。行川渉の仕事を10冊分たどってみると、「映像と文字のあいだを往復しながら、人間の揺れを描く人」という顔が見えてくる。「罠」や「怪異」や「トリック」は、あくまでその揺れをあぶり出す装置にすぎない。

気分で選ぶなら、こんな組み合わせもありだ。

  • まず一冊読むなら:『奇談』『ソウ-SAW』
  • シリーズで浸かりたいなら:『ソウ-SAW』~『ソウ ザ・ファイナル』
  • 重たすぎないところから入りたいなら:『アフタースクール』『コワイ女』
  • じわじわ後を引く短編が好きなら:『美しい夜、残酷な朝』

どの本を選んでも、「自分ならどうするか」「自分の中にも同じような闇がないか」と一度立ち止まらされる読書になるはずだ。少し怖い夜を過ごしたいとき、あるいは、日常の輪郭をもう一度確かめたいとき。行川渉の本を一冊、枕元かカバンの中に忍ばせておくと、世界の見え方が少しだけ変わってくる。

FAQ(よくある質問)

Q1. 『ソウ』シリーズは全部読まないと意味が分からない?どこまで追うべき?

正直に言うと、1作目だけでも「極限状況サスペンス」としての満足度は高い。ただ、ジグソウというキャラクターの背景や、ホフマン・ジルといった周辺人物との関係は、2~3作目あたりから一気に厚みを増す。物語全体の流れをしっかり味わいたいなら、『ソウ-SAW』→『ソウ2』→『ソウ3』までは通しで読みたい。そこから先は、ホフマン路線や社会批評的な側面が強くなっていくので、好みに応じて『ソウ5』『ソウ6』『ソウ ザ・ファイナル』と進んでいく形がおすすめだ。

Q2. ホラーは苦手だけど、行川渉を読んでみたい。どの本から入るのがいい?

いきなり『ソウ』シリーズに飛び込むと、描写のハードさにびっくりする可能性が高いので、まずは『アフタースクール』か『奇談』あたりが入り口としてちょうどいい。『アフタースクール』はサスペンス寄りで、笑いの要素もあるし、人間関係のねじれ方が純粋に面白い。『奇談』はオカルト色は強いが、血みどろの描写より雰囲気で攻めてくるタイプなので、じわっと怖さを味わいたい人に向いている。

Q3. 映画を観てからノベライズを読むのと、その逆では、どちらがおすすめ?

どちらも楽しいが、個人的には「映画→ノベライズ」の順番がいちばん気持ちいいと思う。まず映像で全体の構図や仕掛けを浴びておいてから、小説でキャラクターの内側をなぞると、「あのときこんなことを考えていたのか」という再発見が多いからだ。逆に、小説から入るときは、細かい罠の構造やアクションシーンを頭の中で組み立てながら読んで、そのあと映画で「答え合わせ」をする楽しみがある。どちらを先にするかは、好みと気分で決めてしまっていい。

Q4. まとめて読むのに向いたフォーマットやサービスはある?

紙の文庫を積み上げるのが一番雰囲気は出るが、シリーズものを一気に読むなら、対象作品をKindle Unlimitedでそろえてしまうのも手だ。夜中に続きが気になったときに、すぐ次の巻をダウンロードして読めるのはかなり快適。耳で楽しみたい人は、オーディオブックや音声サービスを組み合わせると、通勤時間や家事タイムがそのまま「ホラー&サスペンスタイム」に変わる。

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  • 岡田麿里おすすめ本 ─ 『さよならの朝に約束の花をかざろう』の脚本家。感情のひだを細かくすくい上げる物語が多い。
  • 貴志祐介おすすめ本 ─ 社会の歪みや人間の業をえぐる、本格ホラー・サスペンスが読みたいときに。
  • 乙一おすすめ本 ─ 少年少女のまなざしと、静かな残酷さが同居する短編集・長編が揃う。
  • 雨穴おすすめ本 ─ ネット発ホラーや「読ませ方」にひねりのある怖い話が好きなら相性がいい。
  • 三池崇史おすすめ本 ─ 『奇談』『美しい夜、残酷な朝』周辺の作品世界を掘り下げたい人向けに。

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