ファブルは殺し屋漫画の革命児!
コマ割りがまるで映画の様でアングルが秀逸
ファブルの第一話を読んで思ったのは、コマ割りがまるで映画の様でアングルが秀逸です。それが読者を惹き込ませて、一気に読ませてしまいます。また、不気味な殺し屋でありながら、日常生活では落差にギャップがあり、そこも好感度があります。
殺し屋が一般社会に溶け込む姿は最高
確かに揚げ足を取るなら、少々Vシネマというか任侠映画的なテイストはあります。また作者のクセなのか、ヤンキーというかヤクザらしいのは継続路線です。しかし、殺し屋偽兄弟が一般社会に溶け込む物語のアイディアは最高ですし、銃の打ち方ひとつ、殺しの種類なども丹念に調べた後が垣間見れます。
※ファブルは「ヤングマガジン」で2014年から掲載され、現在も絶賛連載中。単行本は16巻まで発売しています。
あらすじ
東京で暗躍する謎の殺し屋”ファブル”
東京で暗躍する謎の殺し屋であり伝説の存在”ファブル”。どんな敵でも冷静沈着に殺してしまう殺人の天才であるが、同時に一般常識を兼ね備えていない天然系の青年という一面も併せ持つ。そんな状況を心配したのか、組織のボスが殺し屋から一年間の休業を命令する。
組織のボスから休業命令
その命令とは、「大阪で一般人として社会に溶け込み、普通の生活や感覚を学ぶ」のが目的であった。ファブルと妹役であり良き相棒でもあるヨウコと2人、大阪での新生活がスタートするが、そこには地元ヤクザや別組織の殺し屋など、普通の生活を送るのも難しい状況が待ち受けている。ファブルは殺し屋という顔をばれずに、平穏な生活を送れるのか? また、ボスの本当の狙いは何なのか?
登場人物の紹介!
佐藤明(ファブル)
大阪での偽名が佐藤明で本作の主人公。顔の特徴は、眉と眼が垂れ下がっている。ボスの命令で洋子と兄弟役となり、大阪に行かされる事になる。何かと謎が多い男だが、超人級の運動神経や拳銃の腕前を誇る殺しの達人。同業者などからは、”ファブル”と呼ばれて恐れられているが、一般人には情けなく頼りない若者にしか見えない。その気配を消してしまう能力にも長けている。毎回、強盗が被るようなマスクで顔を隠し任務に当たる。ひょんな事からデザイン事務所で働く事になり、独特なタッチの下手すぎる絵が社長などから好評を得る。意外に頑張り屋で、嫌な仕事も淡々とこなすのも佐藤の性格を物語っている。
佐藤洋子
大阪での偽名が佐藤洋子。東京ではファブルを支える運転手だったが、大阪では佐藤明と兄弟役を演じる事になり妹となる。もう一人の主人公とも言える存在で、ファブル同様に殺しの訓練を受けてきた一人。女性という事で基礎体力的な問題から、ファブルなどに殺しの実践能力では劣るが、通常の範囲ならプロ級の腕前を誇る。運転手なのでドライビングテクニックに優れ、拳銃分解や組み立てにおいてはファブルを凌ぐ。かなりの酒豪で、チャラい男を見ると酔わさないと気が済まない。両親が殺害された苦い過去を持つ。
ボス
佐藤兄弟の親代わりで、殺し屋を稼業とする組織のボス。本人そのものの詳細は不明、また組織の詳細も不明。裏切者には徹底的に厳しい。また、大阪の暴力団組織「真黒組」と付き合いがあり、佐藤兄弟の世話をお願いした。
浜田広志
暴力団「真黒組」の組長。面倒見が良く、佐藤兄弟の事も何かと気をかけている。
海老原剛士
真黒組の若頭。ファブルの面倒を何かと見る事で、次第に打ち解けた関係となる。漢気もあり、若い衆からも慕われている存在。
黒塩
真黒組の組員。将来の有望株の一人で、何かと重宝される存在。ファブルに心酔し、率先して面倒事に関与してくる。佐藤兄弟からは、クロちゃんと呼ばれる仲。
田高田(たこうだ)
デザイン会社「オクトパス」の社長。佐藤明を雇い、何かと心配をしてくれる良き人物。清水岬と佐藤の恋仲を取り繕うとする。
清水岬
元グラビアアイドルで、現在はオクトパスで働く佐藤の同僚。真面目な性格で、仕事を他にも掛け持ちする事情を抱えている。佐藤を男性として意識している。
おすすめポイント
殺しに至るまでの前後が丁寧
殺し屋やスナイパーが主人公の漫画として、例えば「シティハンター」や「殺し屋1」、「今日からヒットマン」、最も有名なのは「ゴルゴ13」あたりとなります。どれも面白いですし、人気になったものばかりですが、この中の作品と比較してもファブルの方が殺しに至るまでの前後が丁寧に描かれています。あまりにも詳しく描き過ぎて、話が進むのが遅いという面もありますが、それを感じさせない個性や魅力が上回っています。
殺し屋キャラの新しい像を確立
銃を撃って、「はい殺しました、終わり」というノリではなく、それぞれのキャラを印象付ける為に、きちんと深い設定としているのが素晴らしい。また、佐藤明が殺し屋として普段も徹底的に常人とは違う生活スタイルを好む点も、殺し屋の新しい像を作るのに成功しています。今後はこのジャンルでは、良くも悪くも必ずファブルと比較される事になるのが、確実です。それぐらい、ファブルは群を抜いた殺し屋漫画の代名詞となる程に、完成度が高いです。
佐藤明の設定として以下の様なことがあります。まるで、本当の殺し屋の生活を取材したのでは、と疑いたくなるほどです。
- 風呂場で普段眠る
- 裸で生活をする
- ゲテモノでも何でも食べる。焼き魚を頭から食べる。
- 嗅覚に優れニオイに敏感
また、山籠もりのサバイバルの回も、あまりにも練られた内容で本当に驚きを覚えたほどです。通常、殺し屋漫画とは、依頼を受けて相手を殺す。それ以外は、あまり掘り下げないものです。ターゲットが有名人や大物、或いは相手も殺し屋というパターンが殆どで、なぜ強いのか? もって生まれたもの、訓練をしたの二択だけです。しかし、ファブルの場合は、単に銃の訓練をしたという稚拙なシーンを描くのではなく、日常が常人離れをしている生活なので、それで訓練シーンなどがなくても強いと納得させる事に成功しています。
もちろん、いくつかのシーンは人間では絶対に無理で限界を超えている。漫画だから許されるシーンというのもあります。それでも説得力があり、もしかしたらこんな殺し屋もいるのかもとまで思わせるのは、ファブルだけの特長です。
繰り返しになりますが、現在、青年向け男性では一番と言っても過言ではない人気と評価を兼ね備えているのが、ファブルになります。人気漫画というカテゴリーほど、趣味嗜好や性別、年齢などが色濃く影響されるものはありません。よって、女性や子供ならファブルを受け付けない事もあります。しかし、20代以上の男性に限れば、ほぼ全員がこの作品を気に入ると断言できます。私も、南勝久氏の前作がダメで苦手作家にランクしていたのに、今では一気に大好きな作家の一人です。読者やファンは現金なものですが、それぐらいファブルは評価を一気に高めた、今こそ読むべき作品と声高に主張します。
各巻毎の感想!
単行本は16巻まで発売され、その中身は、基本的には大阪での真黒組との関係した出来事が柱となります。一つのゴタゴタというか出来事が終了すると、ちょっと力を抜いた佐藤洋子の酔っ払い回などをはさみ、再び次に進むパターンです。
1巻~7巻:佐藤兄弟の救出劇
大阪で生活する事になった佐藤兄弟。兄の明ことファブルはデザイン会社で働き、その同僚である清水岬が真黒組の小島に狙われます。その救出劇が、最大の見どころになります。普通の殺し屋漫画なら、一話や二話で終わる内容をここまで引っ張るのは前代未聞ではないでしょうか? でも、それが嫌味にならず、それどころかもっと引き延ばしてくれ。もしかしたら、解決したらファブルも連載終了と不安な気持ちにさせられたほどです。
7巻~9巻:サバイバル編&酒乱編
清水岬の救出が成功し、束の間の息抜きとして、佐藤明とクロちゃんによるサバイバル編と妹洋子の酒乱編が始まります。殺し屋漫画として、意外な回となりますが、これがアナザーストーリーとして本編に引けを取らない面白さがあります。クロちゃんの天然というか一般人の感覚と、佐藤明の独特の感覚を比較させる事で、如何に殺し屋とはとんでもない感性や能力が備わっているのか肌で感じられます。
また、洋子の酒癖悪さは殺し屋とも思えない展開で、もしかして本当にこの人は単に運転が上手いだけのアル中なのではと疑ってしまいますが、それは今後の展開でその強さが発揮されていきます。このような回をさらっと導入できるのも、南勝久氏の勢いを感じさせます。
9巻~12巻:興信所の殺し屋編
興信所の殺し屋編となります。表向きは興信所だが、裏では殺し屋稼業も行う集団とファブルの対決で、そのスリリングな展開が見物となります。敵の中にも守るべき人物がいたり、ファブルがバイトするデザイン会社も絡んでくるので、一寸先の展開も読めない連続となります。また、やっと妹の洋子も本格的に活躍するので、殺し屋として面目躍如です。
13巻:クリスマス編
これまた束の間の休息として、クリスマス編が入ります。打って変わってほんわかとした、ひたすら酒を飲み酔いつぶれる内容となり、ファブルやデザイン会社の社長や清水岬の会話やり取りが笑わせてくれます。
14巻~16巻以降:ファブルの同門対決編
現在進行形となっているのが、ファブルの同門対決編となります。ボスを頂点するグループの幹部が、命令を逆らい佐藤兄弟に牙を剥きます。これまでの敵よりも圧倒的に殺しとしての能力が高く、流石のファブルもピンチに陥ってしまうのかが、見物となります。これはまだ雑誌で継続中で、単行本までしか読んでないのでどうなるか本当に楽しみです。
まとめ
個人的には、あまり事前情報や周囲からの評判を気にしないで、読んで欲しいのがファブルです。殺し屋というテーマに少しでも興味があれば、確実に気に入るでしょうし、何より練りに練られた物語を追っていくだけでも楽しいです。こんなに充実している作品は滅多になく、2010年代のベスト漫画の一つではないでしょうか? それぐらいの滅多にお目に掛かれない力作です。
誤解を恐れずに言うなら、”ファブル”の作者・南勝久氏に対して、実はあまり期待をしていませんでした。
作者の前作「なにわ友あれ」を全巻一読したのですが、それがどうもダメでした。途中で読むのを止めようと思ったのですが、折角購入したからと言い聞かせ、完読した過去があるからです。ヤンキー特有のケンカ、車、女、仲間などがどうも恥ずかしくて、漫画と分かっていてもダメなのです。ギャグも特有ですし、キャラが似ているのも多く、人望厚くケンカも強い親分肌。それと真逆のとことん性根が悪い対立キャラのオンパレードで、胸が一杯になるほどです。
だから、南勝久氏の新作が始まると知っても、「ヤングマガジン」の飛ばし作品の一つになると、勝手に思い込んでいたのです。また、青春ヤンキーものだろうと高を括っていたら、意外な事に殺し屋が活躍する裏社会作品だったのです。