ウシジマくんの面白さについて
現代の闇を大量に投入した作品
闇金という裏業界において、壮絶な取り立て、債務者の悲惨さ、過剰な暴力描写、ヤクザ社会、現代の闇など想像できる全てを大量に投入したのがウシジマくんです。まるで、業界のタブーなどをまったく気にしないカルト雑誌(実話ナック○ズ)が、気が付いたら時代の先端を走っていた!
凄惨な事件や事故、薬物スキャンダルなどの背後には、こんな事が隠されていたのかと、半信半疑な中身で溢れるウシジマくんワールド!そんな世界観であり作品を、実は読者が欲していたのでしょう。だから、ウシジマくんが大人気となったのは必然であり、社会がこんなリアル漫画の登場を切実に待ち望んでいたのです。
補足情報
作者・真鍋昌平氏によって、2004年から「ビックコミックスピリッツ」で連載が始まった「闇金ウシジマくん」も、2019年3月4日発売号で最終回となります。全492話、単行本全46巻(現時点では45巻まで発売中)、テレビドラマ化全3作、映画化全4作、主要キャラのスピンオフ漫画3作「やみきんっ・うしじまきゅん」「闇金ウシジマくん外伝 肉蝮伝説」「闇金ウシジマくん外伝 らーめん滑皮さん」、関連書籍1冊「難波功士『社会学ウシジマくん』」と何もかもが、破格のスケールで巨大化し続けました。
あらすじ
超暴利の悪徳金融業者が舞台
丑嶋馨(うしじまかおる)が中学時代の仲間達と経営する金融業者「カウカウファイナンス」は、警察やヤクザ組織からも目を付けられている超暴利の悪徳金融業者でありモグリの闇金業者。しかし、そんな闇金を利用する生活困窮者は後を絶たない。返済日が過ぎれば一円でも妥協せず、必ず回収するのが丑嶋を始めとするカウカウファイナンスの流儀。舐めた態度を取るようなものなら、家族や関係者から全額と利息分を含めて、自宅売却や風俗に落とす事も容赦ない。そんな冷酷な面も併せ持つのが、丑嶋という男です。
丑嶋の巧みな経営センスや人心掌握術
それが結果として、本人達もトラブルに巻き込まれていくのだが、丑嶋の巧みな経営センスや暴力、人心掌握術などで毎回ギリギリのところで踏み止まっている。されど、丑嶋に牙を剥き襲い掛かる連中も一癖も二癖もある強者ばかり。その中には、中学時代の因縁の相手、ヤクザの大物に成りあがった者、人を殺すのも平気な男などとにかくヤバイ連中が絡んでくる。
こんなに危険な商売をいったいいつまで続けられるのか? 中学時代からケンカの強さで不良として頭角を現した丑嶋の一大成長期でもあるのが、ウシジマくんです。
登場人物
丑嶋馨
主人公であり、金融業「カウカウファイナンス」の社長。外見は坊主と丸メガネに顎髭、ドラマや映画では山田孝之氏が演じた事もあり小柄な印象だが漫画ではかなりの大柄で筋骨隆々。
服装はヒップホップ系やストリート系が多く、体格に合わせたファッションが好みと判断できる。性格は粗暴で無口。しかし、部下には慕われる漢気や優しい面もあり、プライベートではウサギを何頭も飼っている。中学時代に敵対する相手を金属バッドで殴り、少年院に入所する過去を持つ。柄崎、加納、戌亥とは同級生。
柄崎貴明
中学時代は丑嶋を標的にして制裁を加えた関係だったが、いつしか同い年の同級生でありながら、誰よりも信頼し尊敬するようになる。闇金業での上司と部下という関係より深い、親分と子分、兄と弟といった信頼関係が二人には築かれ、それが訪れる危機を幾度となく救う。それ故に、何かと理由をつけ、丑嶋に対し好かれるような行動や会話をする癖がある。外見は坊主で小柄、服装はヤンキー系にあたるのか。丑嶋に憧れているので、髪型や車などはそっくり真似をする事が多い。酒好きのギャンブル好きだが、酔うシーンが多いのでそんなに飲めないタイプ。
加納晃司
カウカウファイナンスでは、丑嶋・柄崎に続くナンバー3の実力。従業員が少ないのであまり意味ないが、要所要所では重要な役割を果たす人物。柄崎同様に丑嶋に対し尊敬をするが、キャラの違いなのか、そこまで口にする頻度は少ない。太目の女性がタイプで、終盤では遂に結婚をしていた事実も発覚する。外見特徴は長髪の痩せ型。セリフは少ないが、丑嶋も信頼を置く重要人物。
高田
元ホストで性格も温厚。一見すると闇金で働くには不釣り合いなイケメン。途中で働く事になった加賀勝の面倒を率先してみる優しさがあり、債務者に対しても一番まともな対応を取る。そこが甘さでもあり、丑嶋に指摘されているのを自覚している。過去のホスト時代には苦い思いもあり、それと向き合うのに苦労している。
加賀勝
丑嶋らともめ事を起こし、その経緯から借金返済も兼ねてカウカウファイナンスで働く事になった主要メンバーの最年少。丑嶋の元にいるがそれは恨みを晴らす機会を狙っているだけで、高田に対してのみ心を許している。元ヤンキーという事で、ファッションや口調や態度に如実に表れる。
戌亥
丑嶋の情報源であり、元同級生。職業は情報屋で、盗み撮りや車追跡などを得意とする。丑嶋を何度も助けるが、ヤクザの滑皮秀信にも使われる身であり、実は謎が多い人物。
滑皮秀信
暴走族”悶主陀亞”の元総長、現在は若琥会若琥一家二代目猪背組滑皮組組長。何かと丑嶋に対して圧力や法外な要求を迫る一人。連載を重ねるに連れて度々登場し、ヤクザ社会でのランクを上げている。物語終盤では高級スーツ、高級外車を乗り回し、何かと羽振りが良い生活を送れるほど成り上がる。外見は坊主で全身総入れ墨、食事に対しては拘りが強く料理上手だが食べ方は汚い。筋トレが日課で、丑嶋同様に筋骨隆々。大半の登場人物は、滑皮に恐れを抱いている。
肉蝮(にくまむし)
丑嶋以上の危険人物で、想像を超える筋肉と運動能力を誇る。強盗殺人、強姦など傷害事件のオンパレードで、スピンオフでは刑務所から出所して始まる。外見はとにかく大柄、N-3Bのミリタリーパーカーをこよなく愛し夏でも着用。口調は拙く、小学生がそのまま大きくなり、暴力を誰にでもふるっている感じ。ウシジマくんシリーズの数多い個性派キャラの中でも、いちばん狂っている。
おすすめポイント
「闇金ウシジマくん」はとにかく人気がある作品であり、ウィキペディアやまとめサイトはいくつもあり、それらは大変詳しく解説してあるので、少し違った角度からおすすめ点を挙げてみます。
リアルな悲惨さ、ハッピーエンドの少なさ
先ほども述べましたが、ウシジマくんが他のアウトロー漫画と一線を画すのは、暴力描写や生活困窮者などのリアルな悲惨さを最後まで描き切り、後はハッピーエンドを極端に少なくしたのも共感を呼びました。しかし、これは諸刃の剣でもあり、読者はさらに要求が厳しくなります。もっと過激でアンダーグラウンドな中身を期待するのですが、それに応えてどんどん作品が進化していくのは、真鍋昌平氏が相当苦労をしたのが窺い知れます。
また、個人的には他のアウトロー/借金系にはなく、ウシジマくんだけに備わるというか強く感じさせる要素として、以下の二つをポイントとします。
- 絶望への虚無感
- 過剰説明を排除
絶望への虚無感
ウシジマくんの各回での基本的な流れとして、借金苦となるメインキャラが登場し、カウカウファイナンスを利用する事で始まります。序盤はお金を借りられ金銭苦を抜け出すので状況が多少改善するが、悲惨な最後を迎えるのが王道パターンです。その途中で、借金返済に追われる債務者だけでなく、追い詰める側の丑嶋も絶望と言うか虚無感たっぷりの表情、町並みの風景が描かれます。これを再現できているのがウシジマくんで、他のアウトロー系では暴力や借金経緯などを描くだけで終わっています。まるで、”お金”という存在そのものを否定するのは、闇金を題材にしながら矛盾なのですが、なぜかそこに魅力を感じます。
過剰説明を排除
もう一つは、セリフや状況説明をカットしているのも好感です。物語の流れとは意味のないセリフは多く登場しますが、それは飽く迄も作品への色付けや肉付け的な意味合いです。だから、時々発する丑嶋の言葉がとても重みが出るのです。
各巻毎の感想
1巻~4巻:”ヤンキーくん”、”ゲイくん”登場
まだ、現在に通じるウシジマくんらしさが弱いですが、それでも少しずつ出始めています。”ヤンキーくん””ゲイくん”などの回となり、中でもゲイの回などは、ドラマ化もされて良く仕上がっています。
5巻~9巻:都会の孤独が感じられる
”フーゾクくん””フリーターくん”の回になり、ここで遂に肉蝮が登場します。肉蝮は映画にも登場するかなりの強烈キャラで、この辺りが初期ウシジマくんの傑作となります。風俗で働く女性とその熱烈なストーカー、引きこもりのニート(フリーター)など、扱うテーマもどんどん社会の底辺となり、正にウシジマワールドが全開です。個人的には、この頃から度々”都会の孤独”的なカットが増えてきて、気に入っています。
10巻~13巻:ウシジマくんの世界観が完成
”サラリーマンくん””タクシードライバーくん””出会いカフェくん”の回。もう説明不要なほど、ウシジマくんの世界観が完成しています。お金を借りるキャラは、どいつもこいつも皆、性根が腐っています。そこが魅力であり、同時に恐怖も覚えます。
14巻~15巻:最高傑作”スーパータクシーくん”
”スーパータクシーくん””テレクラくん”で、中でも”スーパータクシーくん”は個人的な最高傑作です。ウシジマくんとしては珍しい、終わり方も余韻があり、この後どうなるのか想像力をかきたてさせます。
16巻~20巻 :丑嶋の因縁の相手
”楽園くん””ヤミ金くん”となり、この回も人気が高いです。ヤミ金くんは、丑嶋の因縁の相手が登場し、柄崎らが拉致され暴行を受けます。街の闇金業から殺し合いに発展し、さらに過激なバイオレンス漫画へ変貌します。ウシジマくんのターニングポイントはここになり、その路線が現在に続いていきます。
21巻~23巻:カウカウファミリーが大活躍
楽園くん、サラリーマンくんに近い”トレンディーくん”、高田がメインとなる”ホストくん”と”元ホストくん”になります。濃いキャラが多く登場し、ちょっと食傷気味ですが、加賀勝の出番も多く、ある意味でカウカウファミリーが大活躍となります。
24巻〜28巻:洗脳をテーマの話が秀逸
”生活保護くん””洗脳くん”となり、中でも洗脳をテーマにした回は、これまた個人的な最高傑作の一つです。記憶が曖昧なので定かでないですが、これが掲載されてから同様のアウトロー漫画で、洗脳&暴力を題材にしたものが増えたと感じています。
29巻~32巻:実在のあの人物を描いた事で話題に
サラリーマンの悲哀を描いた”中年会社員くん”、そして実在のあの人物を描いた事でかなり話題になった”フリーエージェントくん”です。フリーエージェントでは、「秒速1億稼ぐ」がキャッチコピーの与〇翼氏を題材にしたので、訴えられなかったのか心配に感じたウシジマファンも続出した事でしょう。
33巻~46巻(最終巻):殺し合いも厭わない熾烈さの極み
ここからは最終回のウシジマくんへと繋がる、因縁のヤクザ・滑皮との対決までの道中となります。云わば、長く続いたウシジマくん物語のクライマックスへ向け、殺し合いも厭わない熾烈さの極みとなります。なぜ、ここまで痛みを徹底的に表現をするのか? 一応、丑嶋が隠し持っている闇金で稼いだ財産を奪うのと、憎く目障りというのもあります。
しかし個人的には、本物のヤクザは、最近ではどんな問題も全てお金を払って解決するのが常識です。ウシジマくんに出てくるような骨太で、徹底的に相手を痛める人は存在しないようです。それがあるから、ウシジマくんは現実以上にヤクザや裏社会を具現化しているのです。初期では無敵に思えた丑嶋も、本物のヤクザである滑皮やその連中には恐怖を感じ、言いなりになるなど、最後は人間らしい弱味も見せる等、これまた違ったテイストを出しています。
こんな表現も出来てしまうのが、「闇金ウシジマくん」が最高で最強の漫画であり、存在価値なのです。
まとめ
丑嶋とカウカウファイナンスはどの様な最後を迎えていくのか? 闇金悪徳業者の日常を窺え、怖いもの見たさマックスで一度読み始めると止まらない漫画がウシジマくんです。アウトロー系漫画はいくつもありますし、また違ったジャンルでも面白い漫画は多数あります。でも、漫画に対して映画や小説、ゲーム以上の興奮や迫力、そして読後の虚脱感を求めるなら、迷わず取るべき作品はこれだけです。
アウトロー漫画の元祖
今では当たり前となった、裏社会やアウトロー系の漫画ですが、その元祖となるのが本作「闇金ウシジマくん」になります。ウシジマくんが大ヒットしたのにあやかり、雨後の筍ではないですが似たような作品がいくつも登場しました。しかし、本家であるウシジマくんを超えるには至っていません。
厳密に言うなら、ウシジマくんの前にもアウトロー/闇金(借金)系の人気作品は存在して「ナニワ金融道」「極悪がんぼ」「ミナミの帝王」などが代表となります。しかし、このジャンルは身も蓋もない言い方をすれば、ウシジマくんを境にしてその前後の作品がハッキリ区切りができます。云わば、ウシジマくん影響下にある作品か否かです。ミナミの帝王はそこまで詳しくないですが、ナニワ金融道と極悪がんぼはほぼ全シリーズ所有しているので、その立場からしても、ウシジマ君が如何にインパクトを与えたのか、後続の作品で影響が諸に出ています。これは、他のアウトロー系漫画では考えられなかった現象です。