バラエティ番組で“読書芸人”が特集されるほど、お笑い芸人の中にはディープな読書好きの方が数多くいるようです。また、自らが書いた小説作品で権威ある文学賞を受賞したピース又吉氏もよく知られていますよね。
そこで私がおすすめしたいのは、現在も第一線で活躍しているお笑い芸人が上梓した著作です。『人を笑わせる』という難しい職業でその名を成した方たちの観点や感性を、文章を通して感じ取ってみてはいかがでしょうか。
「社会人大学人見知り学部 卒業見込み」
一冊目は「社会人大学人見知り学部 卒業見込み」(若林正恭 著)。
『M-1グランプリ2008』において敗者復活枠から見事に準優勝を果たし、一躍人気芸人となったオードリー。そのツッコミとネタ作りを担当し、相当な読書家、そして人見知りとしてよく知られる著者が綴った渾身のエッセイ本です。
肥大化し暴走する自意識と取っ組み合いながら、自分の内面を掘って掘って掘り下げ続けた人間にこそ書くことのできるだろうエピソードの数々には、読んでいてグッとこずにはおれません。特に“黒ひげ危機一髪”“RPG”の言い得て妙な例えにはハッとさせられました。ものを見る視点をちょっとだけ変えてみたい人には、ぜひとも読んで頂きたい一冊です。
「架空升野日記」
二冊目は「架空升野日記」(バカリズム 著)。
独特のセンスと瞬発力に定評がある芸人・バカリズム。2006年頃に彼が“架空のOLになりきって更新していた”謎の公式ブログを、一冊にまとめたのがこちらの本です。後に『架空OL日記』と改題し続編と併せて文庫化され、ご本人の主演・脚本でドラマ化もされました。
架空の女性が語る架空の日常が、なぜこんなにも魅力的なのでしょうか。この本に出てくる人々が実在しないなんてとても信じられないほど、現実感と生活感に溢れた日記には戸惑ってしまうこと間違いなしです。日常と狂気が交錯する卓越したセンスを体感したい方はぜひ、一度手に取ってみて下さい。
「14歳」
三冊目は「14歳」(千原ジュニア 著)。
千原兄弟として、ピン芸人として活躍を続ける著者が1998年頃、本名の『千原浩史』名義で月刊カドカワに連載していた自伝的小説です。時を経た2007年、手直しはされずにあえて当時の文章のまま、待望の書籍化となりました。
受験を勝ち抜き進学した中学校に通うことを自らの意志で止め、自分の部屋にこもる14歳の主人公。そうすることで、自分の・自分だけの世界をどうにか掴み取ろうともがき続けているのです。単純に周囲の全てを拒絶しているわけではなく、祖母との温かい交流に感じ入る姿や、実兄の差し伸べた手へのリアクションから、著者のどこまでも純粋で真っ直ぐな信念を感じ取ることができます。
熱く尖った初期衝動が、鮮度100%で真空パッケージされたような名著です。硬く狭い自分の殻を突き破りたい、と強く願う学生や社会人たちに、特におすすめしたい一冊です。
以上が、私がおすすめする「お笑い芸人が上梓した著作」です。どの本も内容が濃く、あっという間に読めてしまう本ばかりでおすすめです。TVのバラエティ番組だけでは窺い知ることの出来ないお笑い芸人の頭の中を、著作を通じてほんの少しだけ覗いてみるのはいかがでしょうか。