結婚したくはないけれど、なんだか放っておけないダメンズたち。ニートやひきこもりといった自己愛的なものじゃなく、その生き方自体が不器用でついつい助けてあげたくなる人間味、泥臭さ。そんな魅力ある人物が登場する小説を紹介いたします。
「夫婦善哉」
織田 作之助・作
貧しい実家を助けるため、芸者になり、妻子ある柳吉と駆け落ちして一緒になった蝶子。次々に商いをはじめるも、金がたまると逃亡するボンボン気質の夫、店を担保にいれての賭け事と典型的なダメ男ぶりを発揮します。それでも夫婦として認めてもらおうと、惚れた弱みと笑い飛ばしてたくましく生活をたてなおしていく蝶子の強さには同じ女性からみても惚れ惚れします。今はイクメンなどと家事に協力してくれない男性は認められないそうですが、夫婦という形で「共に生きる」ということは、何をしてくれるとかしてくれないとか損得勘定だけではないと思わせてくれる作品です。
「麻雀放浪記」
阿佐田哲也・作
文豪・色川武大は娯楽小説を書くときは阿佐田哲也というペンネームで執筆していました。こちらの作品は麻雀を知らない方でもぐいぐい引き込まれる賭博小説です。ただの賭博について描かれたものではなく、戦後の東京で腕一本で生きていく熱い男の姿、駆け引き、埃っぽいドヤ街の姿など、とにかく濃厚な空気、粋な生き様が心地よく、サバイバルな生き方は手に汗を握ります。
「ばかもの」
絲山 秋子・作
芥川賞作家である著者の長編恋愛小説。年上の恋人にベタ惚れの大学生の男の子。彼女は他の男と結婚してしまい、悲しみのあまりアルコール中毒になってしまう。ドロドロの転落人生、再生。どうしようもない「ばかもの」たちも明日に向かって生きていかなければならない。転落していくのはあっという間。それでも愛のある「ばかもの」たちの人と人との信頼関係が唯一の救いでもある。圧倒的なスピード感で生々しい文章もさらりと読め、読んだあとは爽やかな疾走感が残ります。映画化もされているので合わせてチェックしてみてはいかがでしょうか。
人間、生きていると綺麗ごとだけではいかないのも現実。そんな中でも不器用にあがき続ける男たちにふと魅力を感じてしまうことも。くれぐれも小説のなかだけでお楽しみください。