都市人類学を学びたいと思っても、都市論、社会学、文化人類学、移民研究が入り混じっていて、どこから手をつければよいか迷いやすい。そこでこの記事では、都市人類学そのものの入門書から、都市民族誌、市場研究、移民都市、空間人類学までを一本の流れでつなぎ、学び直しにも独学にも使いやすい本を、手に取りやすい順にまとめた。
- 都市人類学とは何か
- 都市人類学のおすすめ本20選
- 1. スマートシティはなぜ失敗するのか 都市の人類学(早川書房/ハヤカワ新書)
- 2. ストリート人類学 方法と理論の実践的展開(風響社/単行本)
- 3. 都市を飼い慣らす アフリカの都市人類学(河出書房新社/単行本)
- 4. ゲマインシャフト都市 南太平洋の都市人類学(風響社/単行本)
- 5. 〈都市的なるもの〉の現在 文化人類学的考察(東京大学出版会/単行本)
- 6. 都市を生きぬくための狡知 タンザニアの零細商人マチンガの民族誌(世界思想社/単行本)
- 7. グローバル都市を生きる人々 イラン人ディアスポラの民族誌(春風社/単行本)
- 8. 貧困と連帯の人類学 ブラジルの路上市場における一方的贈与(春風社/単行本(ソフトカバー))
- 9. 天津の鬼市 路上古物市場をめぐる〈空間〉と〈場所〉の人類学(風響社/単行本)
- 10. 築地(木楽舎/単行本)
- 11. 雲南ムスリム・ディアスポラの民族誌(風響社/単行本)
- 12. 移民都市(人文書院/単行本(ソフトカバー))
- 13. 友情と詐欺の人類学 ネパールの観光市場タメルの宝石商人の民族誌(晃洋書房/単行本)
- 14. チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学(春秋社/単行本)
- 15. チョンキンマンション 世界の真ん中にあるゲットーの人類学(青土社/単行本)
- 16. 左大文字の都市人類学(弘文堂/ハードカバー)
- 17. ストリートの精霊たち(世界思想社/単行本(ソフトカバー))
- 18. 東京の空間人類学(筑摩書房/ちくま学芸文庫)
- 19. イタリア都市の空間人類学(弦書房/単行本)
- 20. 地中海都市の空間人類学(古小烏舎/単行本(ソフトカバー))
- 関連グッズ・サービス
- まとめ
- FAQ
- 関連リンク
都市人類学とは何か
都市人類学は、都市のなかで人びとがどのような関係を結び、どんな文化的実践を営み、政治・経済・移動・記憶の力が都市の形をどう変えていくのかを問う分野だ。都市を巨大な制度として眺めるだけではなく、路地、広場、市場、雑居ビル、移民街、祭礼空間といった具体的な場所に身を置き、そこを生きる人の言葉や身ぶりから都市の輪郭をつかんでいく。英語圏では1960年代に都市人類学という呼び名が定着し、日本語圏でも都市の濃密なコミュニティや場所性をめぐる議論が積み上げられてきた。
この分野の面白さは、都市を冷たい機械として見ないところにある。高層ビルやインフラや再開発だけではなく、露店の駆け引き、移民の交渉、祭礼の熱、通りの空気、地形に残る古い記憶までを同じ視野に入れる。数字で説明できる都市と、そこに暮らす人が体で知っている都市はしばしば違う。そのずれを読み解くと、毎日歩いている街の見え方が少し変わる。
迷ったら、まずは1、2、6で都市人類学の眼をつくり、次に7、12、15で移民とグローバル都市へ進み、最後に18、19、20で空間の読み方を深めると、ばらばらに見える本が一本の線になる。
都市人類学のおすすめ本20選
1. スマートシティはなぜ失敗するのか 都市の人類学(早川書房/ハヤカワ新書)
都市人類学の入口として、いま最も入りやすい一冊だ。都市をデータで最適化する発想がなぜ空回りするのかを問いながら、街が本来もっている雑音、記憶、偶然の出会い、公共性の厚みを丁寧に取り戻していく。難しそうな題名に見えて、読んでいること自体はとても具体的だ。
この本のよさは、スマートシティ批判を単なる技術批判で終わらせないところにある。効率のよい都市は必ずしも住みやすい都市ではない。検索性の高い都市が、居心地のよい都市とも限らない。その当たり前のようで見落としやすい感覚を、知識の配置や図書館、道路、スクリーン、監視といった身近なものから掘り返していく。
都市人類学をまだ一冊も読んでいない人でも、この本なら「都市を見る目」を先につかめる。制度や政策の議論に入る前に、まず街に漂う声の多さを受け止める感覚が育つからだ。再開発やプラットフォーム都市に違和感がある人には、特に刺さる。読み終えると、便利さの裏で何が削られているのかを、自分の生活の言葉で考えたくなる。
2. ストリート人類学 方法と理論の実践的展開(風響社/単行本)
街路とは何か。人が通る場所、商いの場所、危険な場所、政治の現場、表現の舞台。そのすべてを引き受けながら、ストリートを人類学の中心に据えて考える骨太の基本文献だ。入門書というより、都市人類学を本気で学びたい人の背骨になる本と言ってよい。
読みどころは、街路を単なる背景ではなく、関係が生まれ、崩れ、再編される場として捉える視点にある。露天商、移民、若者文化、治安、境界、身体感覚。都市のあらゆる論点が、路上という細い場所に凝縮していることがよくわかる。理論書に見えるが、現場から離れていないので、読んでいて地面のざらつきが残る。
独学だと少し重いが、だからこそ価値がある。軽い読み物だけでは見えない、都市人類学の方法と射程がここに詰まっている。街を歩くことと、街を読むことは同じではない。その差を知りたい人に向く。読後は、ふだん素通りしている駅前や商店街が、急に研究対象のように立ち上がってくる。
3. 都市を飼い慣らす アフリカの都市人類学(河出書房新社/単行本)
都市の過酷さを前にして、人はただ押し流されるだけなのか。この本は、アフリカ都市の苛酷な現実のなかで、人びとが都市を少しずつ自分の側へ引き寄せ、生き延びるための知恵を編んでいく過程を描く。題名の「飼い慣らす」という言い方が、読み終わるころにはとても強い実感を帯びてくる。
都市人類学という語を正面から掲げた本だけあって、分野との一致度が高い。しかも、抽象的な都市論ではなく、出稼ぎ民の生活、互助、儀礼、閉じた世界と開かれた世界の往復といった具体的な営みが厚く描かれる。都市が暴力的であることを認めたうえで、それでも人が工夫し、耐え、関係を作る場であることを見失わない。
都市の貧困や周縁を、哀れみでも英雄視でもなく読みたい人に向いている。読むと、都市の強さはビルの高さではなく、そこに暮らす人の生活実践の厚みで決まるのだと思わされる。派手ではないが、長く残る一冊だ。
4. ゲマインシャフト都市 南太平洋の都市人類学(風響社/単行本)
都市は匿名性と流動性の世界で、共同性は薄い。そんな通俗的な都市像を静かに崩してくれる本だ。南太平洋の都市を通じて、共同性の濃い都市、顔の見える都市、関係の編み直しが都市の内部で続いている現場を描く。
都市人類学を学ぶとき、多くの人は「都市化=共同体の解体」という筋書きをどこかで前提にしてしまう。この本は、その単線的な理解に待ったをかける。共同体的なものは都市の外に残るのではなく、都市のなかで変形しながら生き続ける。その感覚がつかめると、都市の読み方はかなり豊かになる。
理論先行ではなく、地域研究としても面白い。しかも、個別地域の特殊例として閉じず、都市一般を考える補助線として効いてくる。都市とは何かを定義で覚えるより、思い込みを崩しながら理解したい人に合う一冊だ。
5. 〈都市的なるもの〉の現在 文化人類学的考察(東京大学出版会/単行本)
都市人類学を一冊で広く見渡したいなら、この大部の論集はかなり頼もしい。各地の都市の具体例を束ねながら、都市を生きる人びとの視線、実践、空間経験を面で捉えていく。都市を一つのモデルで説明しようとせず、多様な事例のあいだに思考の回路を作ってくれる本だ。
論集は読みづらいと思う人もいるが、この本はむしろ独学向きだ。ひとつの地域やテーマに縛られず、市場、宗教、移動、公共空間、日常生活と論点が散らばっているので、自分の関心の入口を見つけやすい。都市人類学がどこまで広がる分野なのか、その輪郭をつかむのに向いている。
最初から通読してもよいし、気になる章を飛び読みしてもよい。腰を据えて学びたい人にとっては、何度も戻れる拠点になる本だ。街の断片を寄せ集めたときに、そこからどんな都市像が立ち上がるのか。その手触りが残る。
6. 都市を生きぬくための狡知 タンザニアの零細商人マチンガの民族誌(世界思想社/単行本)
都市民族誌の面白さを一冊で味わいたいなら、この本はかなり強い。路上で商いをする零細商人たちが、嘘や駆け引きや人間関係を使いながら不安定な都市を渡っていく。その切迫感と機転の鋭さが、生々しい体温をもって伝わってくる。
ここで描かれるのは、単なる貧困の記録ではない。都市で生きるための知恵がどのように身につき、誰と誰のあいだで共有され、どこで裏切られ、どこで助けになるのか。その動きが立体的だ。市場を経済学の図表ではなく、関係と読み合いの場として捉えたい人には非常に効く。
文章にも推進力があり、専門書なのに読む手が止まりにくい。理論のための理論ではなく、都市で食べていくことの現実が先にある。独学で都市人類学へ入るなら、こういう民族誌を早めに読んでおくと、抽象概念が急に地面を持ち始める。読み終えたあと、駅前の露店や行商の風景が軽く見えなくなる。
7. グローバル都市を生きる人々 イラン人ディアスポラの民族誌(春風社/単行本)
都市人類学が面白くなるのは、都市を国境の内側だけで見なくなったときだ。この本は、イラン人ディアスポラの暮らしを通して、グローバル都市が移動、記憶、喪失、再編成の場であることを教えてくれる。都市とは住む場所であると同時に、複数の世界が重なる接点でもあるのだとわかる。
移民研究の本に見えて、実際には都市の生活世界を読む本でもある。離散した人びとがどのように街のなかでつながりを作り、自分たちの位置を交渉し、外から見える民族性と内側の複雑さのあいだで生きているのか。その繊細な層が見えてくる。
都市を国籍や行政区画ではなく、越境の経験から考えたい人に向いている。ロサンゼルスのようなグローバル都市の表面だけではなく、そこに生きる人の揺れを読みたいときに頼りになる。静かな本だが、読後の余韻は長い。
8. 貧困と連帯の人類学 ブラジルの路上市場における一方的贈与(春風社/単行本(ソフトカバー))
路上市場は、ものを売り買いする場所である以上に、関係の密度が試される場所でもある。この本は、ブラジルの市場を舞台に、貧困と連帯がどのように絡み合い、互酬性だけでは説明しきれない贈与のかたちが立ち上がるのかを追う。市場を冷たい交換の場としてしか見ていなかった人ほど、読み応えがある。
都市人類学を学ぶとき、市場研究はとても重要だ。そこには都市の速度、信頼、噂、助け合い、搾取が凝縮されている。この本のよさは、連帯を美談にしないことだ。むしろ一方的な与え方、返礼の不均衡、関係の重たさを含めて描くから、都市のリアルが見えてくる。
貧困をめぐる議論を倫理だけで語りたくない人に向く。数字や政策の外側で、日々の関係が人をどう支え、どう縛るのかを考えさせられる。読むと、市場の喧騒のなかに、見えにくい贈与の線が何本も走っている気がしてくる。
9. 天津の鬼市 路上古物市場をめぐる〈空間〉と〈場所〉の人類学(風響社/単行本)
都市空間を「空間」と「場所」に分けて考える発想はよく知られているが、それを路上古物市場という具体的な現場に落とし込むと、こんなにも生きた議論になるのかと思わされる一冊だ。天津の鬼市という場の濃度が高く、理論と民族誌がうまく噛み合っている。
古物市場には、歴史の残り香、都市の記憶、流通の裏道、目利き、うさんくささ、居場所づくりが同時に詰まっている。この本は、それらを観念的に処理せず、そこで実際に起きているやり取りに引きつけて読ませる。都市のなかで人がどのように「場所」を感じ取るのかを学ぶには、かなりよい題材だ。
市場研究と空間論をつなぎたい人におすすめしたい。静かな本だが、視野は広い。古物の手触り、露店の配置、ひとの滞留の仕方まで気になり始めると、都市を見る目が少し変わる。
10. 築地(木楽舎/単行本)
市場の都市人類学として、これは外しにくい定番だ。築地という巨大な魚市場を通して、流通、制度、相場、食文化、職人の身体知、人間関係がどう都市を動かしているのかを、驚くほど立体的に見せてくれる。市場を単なる物流拠点ではなく、一つの社会として読む感覚が育つ。
都市研究の本でありながら、読むあいだずっと手触りがある。競りの緊張、流通の速度、顔なじみの信頼、世界市場との接続。ローカルな市場が、じつはグローバルなネットワークの結び目になっていることがよくわかる。都市の中心とは、行政の中心や観光の中心とは限らないのだと気づかされる。
日本の都市を人類学の視点で読みたい人には特におすすめだ。巨大な制度が、結局は人の経験と習熟で動いていることが見えてくる。台所に並ぶ魚の向こうに、ひとつの都市の厚い息づかいが透けてくるような本である。
11. 雲南ムスリム・ディアスポラの民族誌(風響社/単行本)
移民、イスラーム、商い、ネットワーク。その組み合わせだけで、すでに都市人類学の重要な論点がいくつも入っている。この本は、雲南ムスリムの移動と商業実践を追いながら、越境する人びとが都市空間でどのような結びつきを作っていくのかを丁寧に描く。
面白いのは、ディアスポラを単なる離散の物語として扱わないところだ。移動は痛みを伴うが、それだけではない。商いの機会、宗教実践、親族や知人の連絡網、都市ごとのふるまい方の違い。そうした細部が積み重なることで、都市が「通過点」ではなく、つぎの拠点として立ち上がってくる。
グローバル都市という言葉を、もっと生活の密度から理解したい人に向く。目立つ派手さはないが、読んでいくほどにネットワークの複雑さが見えてくる。都市は固定された器ではなく、人の移動とともに輪郭を変えるものだと実感させる本だ。
12. 移民都市(人文書院/単行本(ソフトカバー))
ロンドンの移民青年たちを追うアーバン・エスノグラフィーとして、とても現代的な強度をもった一冊だ。排外主義、国境管理、ポストコロニアルな歴史、日常の共生。そのすべてが都市のなかでどう交差するのかを、人の声に寄り添いながら描いていく。
この本がよいのは、移民を統計の対象にしないことだ。若者たちは被害者としてだけでも、希望の象徴としてだけでもなく、複雑で矛盾した生を送っている。都市の多文化性とは美しいスローガンではなく、衝突や気まずさや親密さを含んだ毎日の技術なのだと伝わってくる。
都市人類学を現代の争点と結びつけて読みたい人に合う。理論にも開かれているが、決して空中戦にならない。読むと、駅やバス停ですれ違う多様な人びとの背景に、見えていなかった長い歴史が重なり始める。
13. 友情と詐欺の人類学 ネパールの観光市場タメルの宝石商人の民族誌(晃洋書房/単行本)
観光市場は、笑顔と値札の裏で、信頼と欺きが同時に走る場所だ。この本は、ネパールの観光市場タメルを舞台に、宝石商人たちのセールストーク、関係づくり、疑い、友情の演出を追っていく。都市の観光地を、表面的な消費空間ではなく、人間関係の綱渡りとして読ませてくれる。
都市人類学の面白さは、こうした曖昧な場所をまっすぐ見るところにある。詐欺か友情かという二択ではなく、そのあいだの灰色の領域にこそ都市の実践知がある。だましと親しみが絡み合うからこそ、取引は続き、街の秩序もまた生まれる。そのねじれた現実がよく見える。
観光都市やサービス労働の現場に関心がある人にとって、とてもよい一冊だ。読後には、旅先で交わした何気ない会話の温度を思い返したくなる。都市の親密さは、いつも少し危うい。
14. チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学(春秋社/単行本)
香港の雑居ビルを舞台にしたアングラ経済の民族誌。題名だけでも惹かれるが、中身はさらに濃い。正規と非正規、合法とグレー、地元と越境が入り混じる場所で、人びとがどのように商いを成り立たせ、他者を見分け、機会をつかんでいくのかが描かれる。
都市研究では、制度の外側にある経済活動はしばしば周縁として処理される。だが実際には、そうした活動こそ都市の柔軟さやしぶとさを支えている。この本は、そのことを頭でなく場の匂いとともに理解させてくれる。雑居ビルの通路、客引きの声、商談の気配までが生きている。
都市のグレーゾーンに関心がある人、あるいは「非公式経済」という言葉をもっと具体的に知りたい人に向いている。読み終えるころには、秩序の外に見えたものが、実は別の秩序を持っているとわかる。
15. チョンキンマンション 世界の真ん中にあるゲットーの人類学(青土社/単行本)
ひとつの建物のなかに、ここまで世界の縮図が詰まるのかと驚かされる本だ。チョンキンマンションを通じて、移民、商業、旅行者、難民、違法すれすれの流通、グローバル化の実像が一気に見えてくる。都市人類学の読み物として、非常に強い吸引力がある。
この本の魅力は、ゲットーという語に回収されない複雑さにある。危険で雑多で、しかし同時に機会に満ちている。世界経済の周縁に見える人びとが、むしろ世界をつないでいる。その逆説が、建物の内部の動線や商売の仕組みから腑に落ちる。
都市の高密度な混交空間に関心がある人にはとてもおすすめだ。読んでいるうちに、雑居ビルという建築形式そのものがひとつの世界システムに思えてくる。都市は広場だけでできているのではない。狭い廊下と階段のなかにも、巨大な世界がある。
16. 左大文字の都市人類学(弘文堂/ハードカバー)
都市祭礼を軸に、都市の共同性や象徴秩序を読んでいく古典寄りの一冊だ。都市人類学というと移民や市場や路上が先に思い浮かびやすいが、この本は祭礼を通して、都市が記憶と儀礼の重なりでできていることを教えてくれる。
祭礼は一時的な非日常に見える。だが実際には、ふだん隠れている関係や境界を露わにする装置でもある。誰が担い、誰が見物し、どの場所が聖化され、どこで共同性が確認されるのか。そうした問いをたどるうちに、都市が単なる生活の器ではないことが見えてくる。
日本の都市人類学の系譜を押さえたい人にはとても重要だ。現代都市の議論だけを追っていると見えなくなる、都市と儀礼の深い結びつきがここにある。街の祭りを、ただのイベントとして眺めなくなる本だ。
17. ストリートの精霊たち(世界思想社/単行本(ソフトカバー))
方法論の厳密さより、まずは街路の熱に触れたい。そんなときに手に取りたい本だ。エチオピアのストリートを舞台に、物売り、芸能者、ガイド、周縁に置かれた人びとの生が、濃い空気をまとって立ち上がる。読むというより、通りのざわめきの中へ連れて行かれる感覚がある。
都市人類学は、ときに概念の学問に見える。しかし本来は、人の声、視線、沈黙、歩き方の近くにある。この本はそのことを思い出させてくれる。街路にいる人びとを問題として処理するのではなく、表現や生の技法を持つ存在として見る姿勢がよい。
人類学の本としては読みやすく、入口にもなりやすい。学び直しの途中で少し息苦しくなったとき、この本を挟むと都市への感覚が戻ってくる。読むほどに、ストリートはただの通路ではなく、無数の物語が擦れ合う舞台だとわかる。
18. 東京の空間人類学(筑摩書房/ちくま学芸文庫)
東京という巨大都市を、地形、記憶、町割り、宗教性、近代の都市造形の積層から読み解く定番だ。文化人類学の教科書というより、都市空間を読むための文法書に近い。東京に住んでいる人ほど、読んだあとに歩き方が変わる。
この本の強さは、東京を現在の便利さや再開発の論理だけで見ないところにある。坂、川、台地、低地、江戸の記憶。そうした古い層が現在の都市空間のなかにどのように残り、変形し、ふるまいを左右しているのかが鮮やかに見えてくる。街が急に平面図ではなく、時間の厚みをもった場所になる。
都市人類学を日本の街に引き寄せて学びたい人にはとても向く。遠い海外の民族誌だけではなく、自分の足で確かめられる都市の本があると、学びは深くなる。散歩が好きな人には、特に相性がよい。
19. イタリア都市の空間人類学(弦書房/単行本)
都市空間を、建築や景観の話に閉じず、人びとの営み、記憶、信仰、地形感覚まで含めて読む。その実践を豊かに示してくれる本だ。イタリア都市論の集大成という顔を持ちながら、空間人類学の入門としてもよくできている。
広場や路地、袋小路、教会、コミュニティ。イタリアの都市は観光写真では何度も見ていても、この本を読むとまったく別のものに見えてくる。都市の美しさはデザインだけで成立しているのではなく、人が長く住み、記憶を重ね、場所に意味を与え続けてきた結果なのだとわかる。
民族誌の泥くささとは少し違うが、都市人類学の射程を広げるうえで重要な本だ。都市空間を「読む」楽しさを覚えたい人、建築や都市史の関心を人類学につなげたい人にすすめたい。
20. 地中海都市の空間人類学(古小烏舎/単行本(ソフトカバー))
最後に置きたいのがこの一冊だ。イタリア一国からさらに視野を広げ、東西の文化が交差する地中海都市の多様性をたどりながら、都市の原点に近い問いへ戻っていく。迷宮のような街路、自然との関係、異文化の重なり、そのどれもが都市の魅力をつくっている。
都市人類学を深めると、都市は単なる人口集積ではなく、長い時間の堆積だとわかってくる。この本はその感覚をじっくり育てる。市場や移民やストリートの本を読んだあとに手に取ると、それらがどんな空間的基盤のうえで起きているのかが見えてくる。
独学の締めにふさわしい本だ。都市を急いで説明せず、歩き、眺め、層を感じる力を養ってくれる。読み終えると、旅先で最初に見るものが駅前の便利さではなく、地形や路地の曲がり方に変わっているかもしれない。
関連グッズ・サービス
本を読んだ後の学びを生活に根づかせるには、生活に取り入れやすいツールやサービスを組み合わせると効果が高まる。
紙の本で都市空間をじっくり追うのが合う分野だが、通勤や移動の合間に周辺分野へ触れるなら、電子書籍の読み放題サービスは相性がよい。気になった本の周辺まで広げて拾いやすい。
移民、都市論、フィールドワーク論の周辺を耳から入れたいなら、音声のほうが続く人も多い。街を歩きながら聞くと、都市を見る目が少し変わる。
もうひとつ相性がよいのは、小さめのフィールドノートだ。気になった交差点、匂い、店先の会話、建物の影の落ち方をその場で書き留めるだけで、読書が街歩きへつながる。机の上だけで終わらない学びにしたい人ほど、この相棒は効く。
まとめ
都市人類学の本は、都市を大きな仕組みとして説明する本ではなく、そこにいる人の手つきや視線から街の輪郭を浮かび上がらせる本だ。前半では入門と総論で眼を整え、中盤では市場、移民、アングラ経済、観光都市の現場に降り、後半では祭礼と空間の層へ潜っていく。読み進めるほど、都市は便利さの集合ではなく、関係と記憶の束だとわかってくる。
- まず全体像をつかみたいなら、1、2、5から入る。
- 現場の熱を感じたいなら、6、14、17を選ぶ。
- 移民とグローバル都市を深めたいなら、7、12、15が強い。
- 日本の街を自分の足で読み直したいなら、10、16、18が効く。
- 空間そのものの厚みを味わいたいなら、19、20まで進みたい。
都市は遠くにある研究対象ではない。明日歩く道が、そのまま入口になる。
FAQ
都市人類学の入門として最初の1冊を選ぶならどれがよいか
いちばん入りやすいのは『スマートシティはなぜ失敗するのか 都市の人類学』だ。現代の都市政策やテクノロジーの話から入れるので、学問の前提知識が少なくても読みやすい。そのあとに『ストリート人類学 方法と理論の実践的展開』か『都市を生きぬくための狡知』へ進むと、理論と民族誌の両方がつながる。
社会学の都市研究と都市人類学はどう違うのか
重なる部分は多いが、都市人類学は現場の近さに特徴がある。統計や制度を扱うだけでなく、路上の会話、商いの駆け引き、祭礼の身体感覚、移民の細かな交渉といった、生活のミクロな厚みから都市を読む。大きな構造を否定するのではなく、その構造が日常でどう経験されるかに強くこだわる学び方だ。
日本の都市を学びたい場合はどの本から読むべきか
まずは『東京の空間人類学』がよい。地形や記憶の層から都市を読む感覚が身につく。次に市場の都市として『築地』、都市祭礼の側から『左大文字の都市人類学』へ進むと、日本の都市を空間、制度、儀礼の三方向から読める。海外の民族誌と行き来しながら読むと、日本の街の特異さも見えやすくなる。
難しい理論書が苦手でも読めるか
読める。都市人類学は民族誌の力が強い分野なので、現場を描いた本から入るほうがむしろ自然だ。『都市を生きぬくための狡知』『ストリートの精霊たち』『チョンキンマンションのボスは知っている』のような本は、人物や場面が動くので入りやすい。そこから総論や空間論に戻ると、理論が急に頭に入りやすくなる。



















