鉄道、列車。何かからの旅立ち。人生の岐路に立つ方へ、鉄道ファンの方におすすめの小説を紹介いたします。毎日の通勤電車のなかで物語の中に入り込んでみるのも良いかもしれません。刻一刻と変わる景色、規則的な振動の音。あっという間に異世界へ旅立つことができます。
「ロスト・トレイン」
(新潮文庫) 中村 弦・作
廃線跡が好きな主人公20代の牧村と根っからの鉄道オタク60代の平間さんは、世代を超え飲み友達。「日本にはまぼろしの廃線跡があり、始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる」と言い残して、ある日突然姿を消した平間さん。平間さんを探しに、旅行代理店勤務の菜月さんと草笛線の跡を歩きはじめます。ミステリーとファンタジーが入り混じった自分探しの旅の物語です。
「ハリー・ポッターと賢者の石 (1)」
J.K.ローリング・作
児童文学として有名な本ですが、シリーズの中でもこちらの一作目は、みなしごハリーが魔法使いとして旅立つ場面が描かれています。イギリスのキングス・クロス駅から発車するホグワーツ特急は9番線と10番線の間にある秘密の9¾番線から発車します。レンガの壁を通り抜け、空を駆ける特急便。このシーンだけのためにハリーポッターシリーズは描かれたといっても過言ではないと思います。旅立ちのドキドキや希望に胸を膨らましながらも戸惑う様子。まさに「青春への旅立ち」です。
「オリエント急行の殺人」
(ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) アガサ クリスティー・作
名探偵ポアロシリーズ8作目。有名な作品で、何度も映像化されているのでトリックやストーリーは知っている方も多いかもしれませんが、文章で読むとその推理が鮮やかで、はりつめる緊張感は古典ミステリーとしても秀悦です。大雪で停車した密室のオリエント急行でおこった殺人事件。一癖も二癖もある登場人物たちの証言。会話主体で進む登場人物たちの心理が揺れ動く様にページをめくる手が止まりません。
旅立ちには過去との決別や未来への不安がつきものです。そこから勇気を出して一歩前進できるような小説です。異世界へと運んでくれる鉄道。読んだ後には新たな旅立ちがそこにあるかもしれません。