『郊外少年マリク』
M・ラシュディ
この物語はアルジェリア系フランス人の物語です。団地には60年代に主に移民労働者の受け入れ用に建てられ今では移民とその子どもたちといった低所得者層が住み着いています。
半ばゲットーになっていて、主人公マリクも母子家庭で育ち“貧乏人学校”に通っています。幼いころ小説を読み、神経性無食欲症になり、学校の課題『夜間飛行』を購入しなかったために教師に攻撃され、友人が持っていた砂糖をドラッグと勘違いされ不当に逮捕され、そうになります。 就職活動ではフランス風に丸くと改善するように言われそうやっていた仕事はコネがないためにクビになり、生活保護の世話になります。
このような悲惨な少年時代を描きつつも、輝きの隙間から移民問題、民族問題、人種差別、失業、宗教様々な問題の中でも笑いと希望と強さを失わない希望が描かれているので現実に打ちのめされかけている新社会人や進路に迷っている大学生にもオススメです。最後に出世した友に向かって彼が言うセリフがグッときます。「俺が自分で選ぶ、俺の人生がある」と。
『おれのおばさん』
佐川光晴
主人公は中学2年生、東大合格者数ナンバーワン誇る中高一貫校に通っています。ところが突然降ってきた災難、大手都市銀行の副支店長だった父が愛人に貢ぐために顧客の金を着服して逮捕されてしまったのです。主人公は母と離れ札幌の児童養護施設に預けられます。母の姉である恵子おばさんが運営する施設です。諸事情で親と暮らせなくなった中学生だけを預かるグループホームなんだけど母と恵子おばさんはずっと連絡を取ってなくて、今回が20年ぶりっていうんだからこの先の展開が思いやられます。
でも父の事件がなかったら学べなかった人生の色々なこと。高校受験から仙台の高校に進んだ主人公のその後を描く続編もおすすめですよ。
『口笛の聞こえる季節』
I・ドリーム
“料理は駄目ですが噛みつきません”。たとえばこんな広告が新聞に入っていたとして、例えばちょうど家政婦を探していたからといって、本当に雇ってしまったりするでしょうか。それはないでしょう。だって変な人だよね思うのですが。それでも本当に雇ってしまう一家の物語がここにあります。
料理がダメと言っても男よりはましだろうという勝手な思いで雇ってしまったのですが、本当に料理がダメだったのです。この風変わりな家政婦を中心に描かれる物語は、人の本質は変わらないし心にしみるものもそう簡単には変わらないという強いメッセージです。信じることの強さがここにあります。是非ともハレー彗星が来た当時の興奮を一緒に味わってほしいです。