疲れた日に読む絵本は、元気を無理に足すものではなく、固くなった心を少しゆるめてくれるものがいい。ここでは、大人が一人で読んでも、親子で夜に読んでも余韻が残るリラックスできる絵本を6冊に絞って紹介する。
読む目的別の入り口
- 不安をやわらげたいときは、まず1.だいじょうぶ だいじょうぶと5.よるくまから入るといい。
- 自分の欠けや孤独を静かに見つめたいときは、3.ぼくを探しにと2.おおきな木が深く残る。
- 考えすぎた頭をゆるめたいときは、4.いいからいいからと6.ふたりはともだちが読みやすい。
リラックスできる絵本を選ぶときに大切なこと
リラックスできる絵本といっても、ただ甘くて明るい本ばかりが向いているわけではない。疲れているときには、にぎやかな励ましより、こちらの速度に合わせてくれる本のほうが手に取りやすい。ページをめくる間に、呼吸が少し遅くなる。言葉の数が多すぎず、絵の余白に目を置ける。そういう本は、子どものためだけでなく、大人の夜にもよく合う。
今回選んだ6冊は、同じ「やさしい絵本」でも役割が違う。不安を受け止める本、愛情の重さを考える本、欠けた自分と向き合う本、笑いで肩の力を抜く本、夜の心細さに寄り添う本、友だちとの距離にほっとする本。どれも一気に気分を変えるというより、読み終えたあとに少しだけ部屋の空気がやわらかくなるような本だ。
疲れた心にやさしく残る絵本6冊
1.だいじょうぶ だいじょうぶ(講談社)
『だいじょうぶ だいじょうぶ』は、不安を抱えた日に最初に置きたい絵本だ。世界は小さな子どもにとって、知らない音や見慣れない人、思いどおりにならない出来事でいっぱいだ。主人公の男の子も、成長するにつれて少しずつ外の世界を知り、同時に怖いものにも出会っていく。そんなとき、そばにいるおじいちゃんが静かに言う。「だいじょうぶ だいじょうぶ」。その言葉が、物語全体をゆっくり包んでいる。
この絵本のよさは、不安を消し去ろうとしないところにある。怖いものは怖いまま、知らないことは知らないまま残っている。それでも、誰かの声がそばにあるだけで、世界との距離が少し変わる。無理に強くならなくていい。すぐに平気なふりをしなくていい。そう言われているような余白がある。
子どもに読んであげる本として知られているが、大人が読むと別の層が開いてくる。子どものころに誰かから言ってもらいたかった言葉としても読めるし、いま誰かに渡したい言葉としても読める。仕事や家事や人間関係で、何でも自分で抱え込んでしまう日に読むと、胸の奥に置いていた力が少し抜ける。
絵と言葉の運びは、とても静かだ。大きな事件で読ませる本ではない。けれど、その静けさが疲れた心にはちょうどいい。ページのなかを歩く男の子とおじいちゃんの姿を追っていると、こちらの時間も少しずつ遅くなる。焦っていた頭が、縁側に腰を下ろすような感じになる。
不安が強いときには、細かい理屈よりも、短い言葉が支えになることがある。この本の「だいじょうぶ」は、軽い慰めではない。何かが起きても、心配があっても、それでも歩いていけるという、経験のある人の言葉だ。だからこそ、読む側の年齢が上がるほど響き方が変わる。
リラックスできる絵本を探している人には、まずこの本をすすめたい。気分を明るくするというより、心の揺れを否定しない本である。寝る前、病院の待ち時間のあと、子どもを叱りすぎてしまった夜、自分にも誰かにもやさしくできなかった日。そういう日に、そっと開くといい。
2.おおきな木(あすなろ書房)
『おおきな木』は、ただ「癒される」とだけ言うには、少し複雑な絵本だ。一本の木と少年の長い関係を描いた物語で、木は少年に実を与え、枝を与え、幹を与え、最後までそこにいる。読む人によって、無償の愛の物語にも見えるし、与えることと受け取ることの偏りを考える物語にも見える。その揺れが、この本を長く読み継がれる一冊にしている。
疲れている日に読むと、木の静けさが胸に残る。木は大きな言葉で自分を語らない。ただそこにいて、少年の変化を受け止め続ける。少年は子どもから大人になり、欲しいものも変わっていく。遊び、豊かさ、家、旅、休む場所。人生の段階ごとに、人は何かを求める。そのたびに木は差し出す。
けれど、この本は気軽な安心だけをくれるわけではない。読み終えたあと、少し痛みが残る人もいるはずだ。自分は誰かから受け取ってばかりではなかったか。誰かに与えすぎて、自分の枝を失っていないか。そんな問いが、絵本の白い余白から静かに立ち上がる。
だからこそ、大人向けのリラックス絵本として入れておきたい。疲れた心に必要なのは、ただ甘やかされることだけではない。自分が大切にしてきた関係や、長く見ないふりをしてきた寂しさを、少し離れた場所から見直す時間も必要になる。この本は、そのための静かな椅子のような存在だ。
絵は簡潔で、言葉も多くない。ページの余白が広いぶん、読む人の記憶が入り込む。子どものころに好きだった木、実家の庭、学校帰りの道、誰かの膝の上。そんな個人的な風景が、いつの間にか物語のなかに重なっていく。
読むタイミングは少し選ぶ。ひどく消耗していて、何も考えたくない夜には重く感じるかもしれない。けれど、心の奥にある感情をゆっくり触りたいとき、誰かとの関係に名前をつけられずにいるとき、この絵本は深く残る。リラックスとは、何も感じなくなることではなく、感じても大丈夫な場所に戻ることなのだと思わせてくれる。
3.ぼくを探しに(講談社)
『ぼくを探しに』は、自分の中にある「足りなさ」と付き合うための絵本だ。丸い形をした主人公には、ひとかけら欠けている部分がある。その欠けた部分にぴったり合うものを探して、主人公は転がりながら進んでいく。とても単純な線で描かれた物語なのに、読み進めるほど、大人のほうが立ち止まってしまう。
何かが足りない気がする。もっと合う場所があるはずだ。自分にぴったりの誰か、仕事、暮らし方、言葉を見つければ、今より満たされるはずだ。そう思いながら日々を進めている人には、この本の寓話がまっすぐ届く。主人公の旅は、かわいらしくもあり、少し切なくもある。
この本がリラックス絵本として優れているのは、「欠けていること」をすぐに悪いものとして扱わないところだ。欠けがあるから歌える。欠けがあるから花に気づく。欠けがあるから誰かと話す時間が生まれる。完璧に丸くなって速く転がることが、必ずしも幸せとは限らない。そんな気づきが、余白の多い絵のなかに置かれている。
疲れているとき、人はつい自分の足りないところばかりを見る。もっとできたはず、もっと優しく言えたはず、もっとちゃんと暮らせたはず。そうやって一日の終わりに自分を責めてしまう夜がある。この絵本は、その責める声を少し遠ざけてくれる。足りないまま歩いてもいい。探している途中でもいい。そう思えるだけで、呼吸はだいぶ変わる。
シェル・シルヴァスタインの絵本は、やさしい顔をしながら、大人の心に鋭く入ってくるところがある。『ぼくを探しに』も、子どもには楽しい形の旅として読めるが、大人には自己受容の物語として読める。しかも、説教のようにはならない。丸や三角や線だけで、心の癖をそっと見せてくれる。
自分を整えようとして疲れた人に向いている。何かを達成してもまだ足りない気がする人、誰かと比べて自分の欠けを数えてしまう人、人生の速度が速すぎて景色を見落としている人。そういう状態のときに読むと、物語のゆっくりした転がり方が、こちらの歩幅を戻してくれる。
4.いいからいいから(絵本館)
『いいからいいから』は、考えすぎた頭を笑いでゆるめてくれる絵本だ。何かが起きても、おじいちゃんは「いいから いいから」と受け止める。ふつうなら慌てたり、怒ったり、理由を探したりする場面でも、この言葉がふわっと空気を変えてしまう。深刻なことを深刻なまま抱え込まない、独特の力がある。
リラックスしたいときに、静かな本だけが必要とは限らない。むしろ、心がこわばっているときほど、少し間の抜けたユーモアが助けになることがある。笑うほどではないけれど、口元がゆるむ。怒っていたことの輪郭がぼやける。そういう小さな変化が、この本にはある。
おじいちゃんの「いいから いいから」は、何でも雑に済ませる言葉ではない。相手を責めるより先に、まず受け止める言葉だ。失敗してもいい。変なことが起きてもいい。思いどおりに進まなくても、とりあえずお茶でも飲もう。そんな生活の知恵が、絵本の中で大らかに動いている。
子どもに読むと、くり返しの面白さが残る。大人が読むと、自分がどれほど毎日を細かく裁いているかに気づく。正しいか、間違っているか。迷惑か、効率的か。ちゃんとしているか、していないか。そういう物差しを握りしめている手に、この本は「まあ、少し置いておこう」と言ってくる。
絵のにぎやかさもいい。きれいに整った癒しではなく、人の家の匂いや畳の感触がある。どこか懐かしく、少しとぼけていて、深刻になりすぎた気分を日常の側へ戻してくれる。読むと、肩に入っていた力が一段下がる。
仕事で小さなミスを引きずっている日、家の中が思いどおりに片づかない日、子どもの予想外の行動に振り回された日。この本は、立派な答えをくれるわけではない。ただ、「いいから いいから」と言ってくれる人が心の中に一人いるだけで、ずいぶん楽になる。リラックス絵本の中でも、笑いで緩ませる枠として大切な一冊だ。
5.よるくま(偕成社)
『よるくま』は、夜に読むリラックス絵本として外せない。眠る前の時間には、昼間とは違う不安が顔を出す。部屋は暗くなり、音は小さくなり、心の中のさびしさが少し大きくなる。この絵本は、その夜の心細さを無理に消さず、やさしい物語の中へ連れていく。
男の子のもとに現れる「よるくま」は、母さんを探している小さなくまの子だ。男の子はよるくまと一緒に夜の世界を歩いていく。黒く深い夜、灯りの気配、眠っている町、誰かを探す心。酒井駒子の絵には、子どものころの夜の匂いがある。暗いのに怖すぎず、やさしいのに甘すぎない。
この本は、親子で読むとあたたかい。けれど、大人が一人で読むと、別の寂しさに触れる。誰かを待つ気持ち、帰る場所を探す気持ち、眠る前にふと胸の奥が冷える感じ。そういう言葉になりにくい感情が、よるくまの小さな体に重なる。
リラックスできる理由は、物語が不安を抱えたまま進むからだ。夜はただ明るく塗り替えられるわけではない。暗さは暗さとして残っている。けれど、その暗さの中にも、手をつなぐ相手がいて、探しに行く道があって、最後に戻れる場所がある。その順番が、寝る前の心に合っている。
絵本のページをゆっくりめくっていると、部屋の照明まで少し落としたくなる。大きな声で読むより、小さな声で読むほうが似合う本だ。子どもが眠る前に読んでもいいし、大人が一日の終わりに読み返してもいい。疲れきった夜ほど、短い物語の中に入れることがありがたく感じられる。
不安で眠りに入りにくい日、誰かに甘えたいのにうまく言えない日、家の中にいるのに少し心細い日。この本は、そういう夜に向いている。読み終えると、夜そのものが敵ではなくなる。暗さの中に、やわらかい毛並みのようなぬくもりが残る。
6.ふたりはともだち(文化出版局)
『ふたりはともだち』は、関係性に癒される絵本だ。がまくんとかえるくんの短い物語が収められていて、どの話にも、少し不器用で、少しおかしくて、かなりやさしい時間が流れている。派手な出来事は少ない。けれど、手紙を待つ、なくしものを探す、春を迎える。そんな小さな日常が、読む人の心をゆっくりほぐしていく。
この本のリラックス感は、友情がきれいごとではないところから生まれている。がまくんは落ち込みやすく、少し頑固で、思い込みもある。かえるくんはやさしいが、完璧な聖人ではない。二人の距離には、笑えるズレがある。そのズレがあるから、読んでいて安心する。人と人は、ぴったり合わなくても一緒にいられるのだと思える。
特に大人が読むと、かえるくんのさりげない優しさが沁みる。相手を変えようとせず、そばにいる。落ち込んでいる友だちに、理屈ではなく行動で寄り添う。手紙が来ないと悲しむがまくんのために、手紙を書く。その単純な行動の中に、関係を温めるための大事なものが詰まっている。
疲れているとき、人付き合いそのものが重くなることがある。返事をしなければ、気を遣わなければ、ちゃんと感じよくしなければ。そんなふうに考えて、人に会う前から疲れてしまう。この本を読むと、関係はもう少し素朴でよかったのだと思い出す。いっしょに歩く。待つ。声をかける。おかしなことを笑う。それだけでも十分なのだ。
言葉は短く、絵は落ち着いている。だから、子どもへの読み聞かせにも向いているし、大人の再読にも耐える。読むたびに、がまくんとかえるくんの表情の小さな違いが見えてくる。雨の日、少し早く布団に入った夜、誰かとけんかしたあと。そういう時間に読むと、物語のあたたかさがゆっくり戻ってくる。
最後に置く一冊として、この本はちょうどいい。ここまでの絵本が不安、愛情、欠け、夜の寂しさを扱ってきたとすれば、『ふたりはともだち』は、また誰かと関わる方向へ心を戻してくれる。リラックスは一人で休むことでもあるが、安心できる関係を思い出すことでもある。そのことを、がまくんとかえるくんが小さな声で教えてくれる。
関連グッズ・サービス
本を読んだ後の余韻を生活に残すには、読む時間そのものを少し整えるといい。絵本は短いからこそ、寝る前の数分や、休日の朝の静かな時間に置きやすい。
電子書籍で読める本を探したいときや、気になった本を広く試したいときに使いやすい。
耳で物語を味わう時間は、目が疲れている夜にも向いている。絵本そのものとは別に、児童文学や物語作品へ広げたいときにも使いやすい。
紙の絵本を読むなら、強すぎない読書灯も相性がいい。部屋全体を明るくするより、手元にだけ小さな灯りを置くと、ページの余白までゆっくり見える。
まとめ:疲れた心に合う絵本は、読む順で変わる
リラックスできる絵本を探すときは、「やさしそうな本」をまとめて読むより、自分の疲れ方に合わせて選ぶほうがいい。不安が前に出ているなら、最初は『だいじょうぶ だいじょうぶ』が合う。夜の心細さがあるなら、『よるくま』を寝る前に読むと、暗さへの感じ方が少し変わる。
自分の欠けや孤独を静かに見つめたいときは、『ぼくを探しに』から入り、そのあとに『おおきな木』を読むといい。どちらも短いが、大人の心に残る問いは軽くない。すぐに元気になりたい日ではなく、少し立ち止まりたい日に向いている。
反対に、考えすぎて疲れているなら、『いいからいいから』を先に読むといい。深呼吸より先に、笑いで力が抜けることがある。そのあとに『ふたりはともだち』を読むと、人との距離まで少しやわらかく見えてくる。
- 不安をやわらげたいなら、『だいじょうぶ だいじょうぶ』から読む。
- 寝る前に読みたいなら、『よるくま』を選ぶ。
- 自分を見つめたいなら、『ぼくを探しに』と『おおきな木』を続けて読む。
- 笑って力を抜きたいなら、『いいからいいから』がいい。
- 人との関係に少し疲れたなら、『ふたりはともだち』が静かに戻してくれる。
絵本は短い。けれど、短いからこそ、疲れた日の心に入りやすい。長い説明を読めない夜でも、数ページなら開ける。その数ページが、明日の自分を少しだけやさしく扱う入口になる。
FAQ
大人がリラックス目的で絵本を読んでもいい?
もちろんいい。絵本は子どもだけのものではない。むしろ大人になってから読むと、短い言葉や絵の余白に、自分の記憶や疲れが重なりやすい。小説や実用書を読む気力がない日でも、絵本なら最後まで読めることがある。疲れた夜の読書として、かなり相性がいい。
寝る前に読むならどの絵本がおすすめ?
寝る前なら『よるくま』と『だいじょうぶ だいじょうぶ』が読みやすい。どちらも強く励ます本ではなく、不安や心細さをそのまま包むような絵本だ。親子で読むなら声を少し落として、大人が一人で読むなら部屋の灯りを弱めて読むと、物語の静けさが残りやすい。
落ち込んでいるときは、明るい絵本を選ぶべき?
落ち込み方による。気分を少し変えたいなら『いいからいいから』のようなユーモアのある本が合う。自分の気持ちを無理に明るくしたくないときは、『ぼくを探しに』や『おおきな木』のように、静かに考えられる本のほうがいいこともある。明るさより、今の心に無理をさせない本を選ぶといい。
子どもへの読み聞かせにも使える?
今回の6冊は、子どもへの読み聞かせにも大人の一人読みにも使いやすい。ただし『おおきな木』や『ぼくを探しに』は、大人のほうが深く受け取る部分もある。親子で読むなら、感想を急いで聞かず、読み終わったあと少し黙っていてもいい。絵本の余韻は、言葉にしない時間にも残る。





