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【音楽好きにおすすめ】歌が印象的な小説3選

音楽は「翻訳の出来ない詩」だと言われることもありますが、小説の中には音楽や歌が印象的な作品が多数あります。今回はそんな小説の中から、それぞれ雰囲気の違う作品を3つご紹介いたします。

 

『草迷宮』

 

草迷宮 (岩波文庫)

泉鏡花

文豪泉鏡花の名作です。
泉鏡花らしい怪異譚であると同時に、母と子の常ならぬ結びつきを描いた作品ともいえると思います。
物語は、重層的な入れ子構造が一種の迷宮を形作る中で進行していきますが、その主軸になっているのが手毬唄です。
幽玄なす物語の世界はやがて手毬唄の奔流によって大団円を迎えることとなりますが、それは泉鏡花独特の美しい文体と相まって圧巻の一言です。
寺山修司監督で映画化もされているので、そちらもおすすめです。

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『ハイ・フィデリティ』

ハイ・フィデリティ (新潮文庫)

ニック・ホーンビィ

レコード屋を営む中年ダメ男が主人公のラブストーリーです。イギリスでは100万部を突破するベストセラーにもなっています。
浮気をしてフラれた主人公が彼女とヨリを戻すまでを描いた物語ですが、様々な音楽ネタが盛り込まれており、その手のマニア、特にネット普及以前の雰囲気を知る人は相当楽しめると思います。
もちろんベストセラ―になるほどの小説なので、マニアでなくとも楽しめます。
皮肉っぽい言い回しなどはまさにイギリスといった感があり、中年のダメ男が主人公なのにもかかわらず、そこはかとないお洒落さやポップさを感じます。
海外作品なので、本作に登場する音楽ネタは洋楽ばかりになってしまうのですが、この本で挙げられているアーティストたちは非常に趣味が良いですし、訳者による註釈も充実しているので未知のアーティストを知るきっかけとしてもおすすめです。
本作も映画化されており、舞台がアメリカになっているなどいくつかの変更点はあるものの、趣味のいい音楽とダメ男のラブストーリーという組み合わせの妙は損なわれていません。
残念ながら文庫版は絶版のようですが、現在でも電子書籍で読むことができます。
音楽マニアの生態や、中年男の情けない男心を知るには打ってつけの一冊ですし、何より肩の力を抜いて楽しく読める作品だと思います。

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『ライ麦畑でつかまえて』

 

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

J・D・サリンジャー

サリンジャーの代表作にして、不朽の名作と名高い一冊です。
若者特有ともいえる敏感な感受性と世の中の「インチキ」に対する反抗心を描いた本作は、多くの国で熱狂的な読者を獲得しました。
本作のタイトルは「故郷の空」の原曲としても知られるスコットランド民謡「Comin Thro' The Rye(ライ麦畑を通りって)」に由来しています。
作中で主人公のホールデンは、ライ麦畑で遊んでいる子供たちが崖の下へ転落しないように捕まえる仕事に就きたいと夢想しますが、そのきっかけになる「Comin Thro' The Rye」の詞が性的な含みのあるものであることと併せて考えると一つの寓意が浮かび上がってくるように思います。
物語の序盤でホールデンは、彼が特別な想いを寄せているジェーンがプレイボーイのストラドレーターとデートに行くという話を聞いてショックを受けます。そしてストラドレーターとトラブルになり退学します。
おそらくホールデンはこの一件で、自分にとって特別な存在のジェーンがストラドレーターに汚されたと感じたのでしょう。だから、ライ麦畑で子供たちが崖下に落ちないように捕まえる仕事をしたいと思ったのではないでしょうか。
同時に、これは当時ベトナム戦争に反対していた若者たちの心情、つまりアメリカが正義のない戦争をしていると感じ、戦争を止めようとしていた若者たちの思いを代弁しているとも解釈できます。
作中では、戦争についても「Comin Thro' The Rye」の歌詞の解釈についてもこれといった言及はありませんが、これらの事情を踏まえて読むと、より奥行のある作品のように感じます。
訳は村上春樹版と野崎孝版がありますが、個人的には、ぶっきらぼうだけどどこか愛嬌のある野崎訳が好みです。

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さいごに

以上、三作品を紹介いたしました。いかがでしょうか?
歌や音楽が巧みに用いられている作品には、文字を追っているあいだ、同時にメロディーがきこえてくるような魅力があります。音楽好きの方はもちろん、普段あまり音楽を聴かないという方も歌に思いを馳せつつこれらの作品の世界を楽しんでいただければと思います。

 

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