古来、人間の乗り物として活躍してきた馬。その美しさや力強さから家畜としての存在以上に愛着がある人が多い動物です。
そんな馬について書かれた物語をご紹介します。
『北の馬と南の馬』
著・前川貴行
表紙をひらくと、広い緑の草原のあちこちで、馬の群れが草を食べています。青空に白い雲が広がり、あたたかい風が吹いているようです。
反対の表紙をあけると、雪原に白い馬が1頭、じっと立っています。雪の上に雲のかげが長くうつっています。この2種類の馬たちは、九州に生息する御崎馬と青森県の寒立馬。
どちらも日本古来の面をついでいる「在来馬」です。長いあいだ、人間のなかまとしてくらしてきた馬は、ほかの野生動物とはちがった歴史があります。
日本の在来馬2種の歴史と生態をとりあげた写真絵本で、読みごたえがあります。美しく興味深い写真がたくさん入っていて乗馬、競馬ファンなど馬を愛するすべての人におすすめです。
『タチはるかなるモンゴルをめざして』
タチ―はるかなるモンゴルをめざして (評論社の児童図書館・文学の部屋)
著・ジェイムズ・オールドリッジ
想像してみてください。あなたは野生の雄馬です。もう絶滅したと思われていた馬です。人間にとらえられ、何千キロも離れたところに連れていかれました。そこは、たしかにふるさとに似ていますし、やさしい雌馬もいます。
あなたは、そこで満足してくらしますか?この物語のタチは、満足しませんでした。雌馬のピープとともにイギリスの野生動物保護地を脱走して、ふるさとモンゴルをめざします。
そのようすが、モンゴルの少年とイギリスの少女との手紙のやりとりで、語られています。
タチとピープについてふたりの往復書簡が続いていき、おばさんに英語訳してもらって手紙を出していたバリュートが、最後の手紙は自分で英語を書いています。キティーも、蒙古野馬のセミナーに参加するために、モンゴルにいくことになります。ふたり子供たちの成長も読みとれる作品になっています。
『星の牧場』
著・庄野英二
モミイチには、大好きな馬のツキスミのひづめの音が聞こえます。ほかの人には聞こえずに、モミイチにだけ聞こえるのです。牧場で育ったモミイチは、兵隊になり、戦争に行き、馬の蹄鉄をつくるかじ屋の仕事をしました。
そこで、ツキスミに出会ったのです。ツキスミはモミによく懐き、さらさらとしたたてがみで、モミイチの顔をくすぐったりしました。
ツキスミと離ればなれになり、けがをして、やっと戦争からかえってきたモミイチは、記憶をなくしてしまいました。
少女の弾くヴァイオリン、ハチカイの吹くクラリネット、はずむようなティンパニの響き、鈴の音色と、ツキスミの蹄の音。さまざまな音が響きあい、牧場をわたる風にのって聞こえてくるという、幻想的な物語です。
もしかしたら馬って、人間の言葉をしゃべらないだけであって、考えていることは人間以上に深いのかもしれない。
そんなことを考えてしまうような名作です。