小説に触れる機会はあれど、戯曲に触れる機会はなかなかありません。通常の本屋ではなかなか手に入らず、置いてあったとしてもその種類はごく限られています。
大学生の頃、普通の小説に飽きた私が手に取った戯曲を「オススメの一冊」として紹介します。
戯曲初心者の方にもオススメです。
「わが町」
私が勧めたいのはソーントン・ワイルダー著の「わが町」という戯曲です。こちらの作品を紹介するにあたってまず、戯曲の特徴をいくつか解説します。
戯曲について
戯曲が小説と異なるのは、「地の文」が存在しないという点です。文章の構成として登場人物の台詞と、世界観を補足するいくつかのト書きがあるだけになっており、中でも舞台で上演することを想定した作品の場合は音楽、照明、装置の使用される箇所、変化する箇所の記載があることもあります。
地の文が存在していない「戯曲」というジャンルにおいては、読み手の想像力によって情景を想像することが求められます。裏を返すと、登場人物がどのような場所で会話、行動をしているかということをある程度読み手の自由な発想で補えるというところに、戯曲の面白さはあります。
わが町について
その中でも紹介したい「わが町」は、アメリカのとある町の日常を切り取った、3場面構成の物語となっています。
特筆すべき点としては、その3つの場面において、町で起こる「生活」、「恋愛と結婚」「死」というそれぞれのテーマから人の人生を日常として語っているということです。
人間であれば誰もが通るであろうことを、語り、また作中でさえも「特別なことは起こらない」と語ります。それでも登場人物の会話や、3場における自身の墓前での町の住民たちの会話を通して、人生が一度しかないものであること、ひどいものであること。
しかし、素晴らしいものであることが語られていきます。各々のそれぞれの暮らしが、また別の人の人生と少しずつ関わって行くことで話が流れるというところも、現実の人生と近く、学生だけでなく社会人になっても共感であったり、考えるところのある作品になっています。
Our Town (SparkNotes Literature Guide) (SparkNotes Literature Guide Series)
ここがオススメ
この作品は舞台で上演されることを前提としているため、舞台監督という人間が登場し、ストーリーテラーとして登場しますがそのことが、登場人物に対する私たちの視点を客観的なものとし、人物誰に対しても平等に共感を得られる物語となっています。
ファンタジーやサスペンスなどではないありふれた物を取り上げた作品ではありますが、読後感もよく、温かくも人生において大切なことを考えることのできる、素敵な作品です。