日本の文豪がえがいた魅力的な女性。透きとおるような儚く美しい、どこか影のあるような妖しく美しい日本女性。そこに存在するのかしないのかさえ分からなくなるような幻想的な世界観と女性の美しさがあいまって、不思議な世界観をつくりだしている小説です。
「桜の森の満開の下・白痴 他十二篇」
(岩波文庫) 坂口 安吾・作
坂口安吾ほど人間の本能や本質を巧みに描く作家はいないと思っています。こちらは安吾の短編集ですが、この中でも「桜の森の満開の下」と「夜長姫と耳男」は清らかな自然描写と人間の底知れぬ恐ろしさ、そこに垣間見られる美しさが、理性と本能の間で揺れ動くギリギリの境界でひときわ輝いてみれます。桜の森の女、夜長姫の純粋無垢な狂気には読んでいると魂を奪われそうになるくらい美しい作品です。
「草迷宮」
(岩波文庫) 泉 鏡花・作
幻想文学の原点ともいえる古典の傑作。怪異、耽美、哀愁が漂う魔界の世界。幼き頃に聞いた母の手毬唄に導かれ、青年がたどりついたのは妖怪と美女が住む荒屋敷。時間や空間を行き来しつつ繰り広げられる夢幻の世界観。美しいだけではなく、時に力強く、艶めかしい文章に読者は引き込まれていきます。山本タカトさんの繊細で美しい挿絵が掲載されている岩波文庫版がおすすめです。
「砂の女」
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安部 公房・作
戦後文学の代表作ともいえる不条理文学作品。タイトルは知っていても手にとったことがない方は多いのではないでしょうか。昆虫採集にでかけた男が砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められ、そこに暮らしている女と暮らしながらも自由を求めて脱出をひたすら試みる男。女の妖艶な表情や砂のざらざらとした質感が息苦しくなるほど。比喩表現が素晴らしく、まるで蟻地獄に放り込まれた気分になります。不条理な環境のなかでも自己を確立し、小さな幸せを積み重ねる女がたくましくもあり、恐ろしくも感じます。
世界中でも翻訳されている日本の古典文学を紹介いたしました。日本独特の妖艶ともいえる女性の美しさを堪能できる作品です。「移ろいゆく美」とでも表現できそうな繊細で心の底から感情が揺さぶられる作品です。是非手にとってみてください。