ドリアン助川さんの本
放送作家を経てラジオ局のパーソナリティを務め、言葉の復権をテーマに世の中の森羅万象をロックに乗せて歌い上げるバンドマンとしてなど、多彩な才能をもつドリアン助川さん。小説家としてもその才能を発揮し、ますます注目を浴びている唯一無二の存在です。
ご自身の個性的な生き方とは反対に執筆された小説は大衆の心に響いてくる作品ばかり。心に響く小説を読みたい、人の温かさに触れたいという方におすすめの3作品を紹介いたします。 是非手に取ってみてくださいね。
あん
ドリアン助川 (著) (ポプラ社)
どら焼きやさんの求人広告をみてやってきた老女。彼女の作る餡はたちまち評判となりお店は大繁盛。絶品の餡をつくる指が曲がった老女には壮絶な過去があり…。
ハンセン病をテーマにしたヒューマンストーリー。無知や保身のために人権を奪われてきた患者たちと社会の差別構造が浮き彫りになっており、深く考えさせられる作品です。
映画版では、樹木希林さんが老女役を演じました。映像化されてもじんとくる作品です。
新宿の猫
ドリアン助川 (著) (ポプラ社)
作者の半分自伝ともいわれる小説。バブル真っ最中、色弱のためにテレビ局の就職試験を受けれなかった山ちゃん。これからどうして生きていくんだろうと悩んでいるときにコメディ担当の放送作家に拾われます。
自分の居場所じゃないと感じながらも懸命に勤める毎日に、新宿ゴールデン街のさびれた小さな居酒屋に入り運命の歯車が動き出します。
居酒屋に入り浸る個性豊かな登場人物、居酒屋店員のミステリアスな夢ちゃん、たくさんの猫たち。
人の過ちも大きく包んでくれる良き昭和時代の物語です。
水辺のブッダ
ドリアン助川 (著) (小学館)
ホームレスになるしかなかった望太、母親が再婚した家庭になじむことができなかった絵里。二人の若い魂は、孤独のなかをさまよいつづけます。
自分自身に過ちがなくとも、不運や貧困のなかで不幸の渦に飲み込まれてしまう彼らの姿に悲しみを感じると同時に、かすかなる希望を見出せるラスト。
軽快で柔らかい印象を残すドリアン助川さんの作品とはまた毛色が異なる痛みを感じさせる味わい深い作品です。
ドリアン助川さんが描く人間たちは、社会的弱者が多く登場します。生きづらさを抱えながらも懸命に生き、そして優しいまなざしで包んでくれるような文章に救われる穏やかさが魅力です。読み終わった後には、きっと誰かに優しく寄り添いたくなりますよ。