■明治末期の北海道を舞台にした冒険物語!
もうどんな漫画が登場しても驚かなくなっていますが、「ゴールデンカムイ」が登場した時は、その設定に衝撃をうけたのを覚えています。舞台を明治末期の北海道と限定するだけでも、かなり「オー!」と来ましたが、ヒロインはアイヌの子供で、主役は元陸軍の兵士。この組み合わせと設定は、これまでの漫画とは確実に一線を画しています。どんな展開が待っているのか、正に大胆不敵とは「ゴールデンカムイ」のような漫画に対して相応しいのでしょう。
兎にも角にも、「ゴールデンカムイ」には最近の漫画に欠けていた、斬新なアイディアが溢れています。料理漫画は多いですがアイヌ料理は無いですし、そもそも北海道だけを舞台にした冒険活劇にしようとは、ちょっと発想すら浮かばないものです。また、明治末期という時代設定も秀逸ですし、洋画でもないのに元兵士と少女もあまりない組み合わせです。
ちょっと褒めすぎたので冷静に判断すると、この組み合わせは多分映画「レオン」あたりをヒントにして、アイヌを題材にしようと考えると現代では難しいので、明治末期にしたのは元兵士が活躍するなら消去法でそうならざるを得ないです。また、男性登場人物をほぼ全員イケメンにしているのも、女性読者からの支持を得ようとする魂胆が見え隠れし、現にややそっち系にウケる肉体披露などのシーンも回数を追う事に徐々に増えていきます。
最初はワンピースのような子供向けと思わせつつ、実は練りに練られた緻密さがあり、冒険やバトルをテーマにしながらも、どんなジャンルが好きでも気に入って貰えるような全方位向けの漫画が「ゴールデンカムイ」なのです。
登場人物も、男はほぼイケメンやマッチョ、女はアシㇼパだけ幼女にして、それ以外は老女や嫌な女が少し出るぐらいで、本当のヒロイン的なキャラは配置していません。普通の作品なら、必ずと言えるほどセクシーなヒロインを数人は配置するのに、それをしないのは女性ファンへの配慮なのでしょう。この明治末期は、北海道に若い女は殆ど存在しなかったとするほど不自然さはありますが、それを感じさせない冒険劇となっています。
ゴールデンカムイ…作者・野田サトルによって、2014年からヤングジャンプで掲載されている北海道を舞台にした冒険アクション漫画。単行本は2019年3月初旬で16巻まで発売され、総発行部数300万以上を記録する大人気作品。2018年からは東京MXテレビでアニメの放映も開始。
■あらすじ
日露戦争から帰還した杉元は、今後の目標や生きがいを模索していた。知り合った男から、アイヌの奪われた金塊(約8億円)の話を聞き、その為には北海道全土に散っている囚人の背中の入れ墨を集めて、そこに描かれている地図を完成させる必要がある。あまりにも途方な冒険となるが、偶然知り合ったこれまた囚人と因縁があるアイヌの少女・アシㇼパと共に、旅に出るのだが…。
金塊を奪ったのは、通称”のっぺら坊”と呼ばれる不気味な男。この男は、アシㇼパの父とされ、その正体を確かめる目的もこの旅にはあるが、果たして彼は何者なのか? 杉元とアシㇼパは”のっぺら坊”を探せるのか?
囚人の入れ墨を探し金塊を狙っているのは、杉元とアシㇼパだけではない。立ち塞がる敵も多く、最大の敵は陸軍第七師団歩兵第27聯隊と鶴見中尉。何かと杉元やアシㇼパはを狙い、幾度も大ピンチを迎える。他にも、土方歳三や永倉新八など一癖もある連中が、金塊を狙って共存と騙し合いを繰り広げる。時には命の危機も訪れるが、杉元の強靭な強さ、アシㇼパの絶品アイヌグルメ、仲間達の助けもあり、どうにか何枚かの入れ墨を集める事に成功するが、まだ全部の入れ墨を集められていない。そして、そこには大きな落とし穴が二人に待っていた…。
■登場人物紹介!
杉元佐一
主人公であり、元日本陸軍の兵士。銃弾を何発受けてもロシア兵を何人も殺した事から「不死身の杉元」と呼ばれ恐れられる人物。圧倒的な闘争本能があるが、性格は意外に温厚で優しい。顔や体は戦争を物語る傷跡だらけ。白石とは良いコンビとなる。
アシㇼパ
もう一人の主人公でありヒロイン。アイヌ民族の少女で、杉元と冒険を共にする事になる。子供なので体は小さいが、弓矢の腕は一級品で狩りが得意。度胸もあり、杉元のピンチを何度も救う。狩った動物や植物からアイヌ料理を作り上げる。
白石由竹
杉元、アシㇼパらと行動を共にする囚人の一人。”脱獄王”の異名を誇り、大柄な体ながら手足を器用に脱臼させあらゆる場所から抜け出す能力を身に付けている。大金に目がくらみ、杉元らと囚人の入れ墨探しになるが、その性格からトラブルメーカーでもある。しかし、坊主頭と愛嬌さが特徴の憎めないキャラ。
土方歳三
推定年齢70歳前後の新撰組鬼の副長。剣術の実力が超一級の達人。アイヌの金塊を狙う一人で、杉元達とも目的は一緒なので共存しているが…。
永倉新八
新撰組の最強の剣士と呼ばれるだけあり、剣術は土方に勝るとも劣らない実力の持ち主。
牛山辰馬
イケメンキャラが多いゴールデンカムイで、例外的な巨漢の柔道王。土方の手下として、大柄な体に反してマメで忠実に働く。
鶴見
大日本帝国陸軍・第七師団の中尉。圧倒的なリーダーシップと執念を誇る謎多き男。顔を大部分を損傷しているので、不気味なマスクのような物を装着している。残忍で非道、杉元らを出し抜き金塊を取ろうと企てている。
他にも多数の強烈なキャラが多く登場するのが、ゴールデンカムイです。杉元の仲間となるのも多いですが、第七師団側にも個性が強い人物も多く、さらに各地では秘密を知っている灰汁の強い変態的なキャラも登場するので、全部を紹介しきれません。
■おすすめポイント!
漫画とは思わせないタッチで北海道の大自然を堪能でき、その道中では薬草やアイヌ料理を杉元など仲間に振る舞うアシㇼパは、まるで母親の様な風格が出ています。個人的には「ファークライ」や「レッド・デッド・リデンプション」のゲームを漫画で実体験しているみたいで、動植物を採取し、疲れ果てると発見したアイヌの村で寝床を提供してもらう。英気を養うと、再び次の目的の為に仲間と冒険に出掛ける。
その仄々としたシーンが続くと、本来の目的である「お宝狙いの囚人探し」を忘れてしまいそうになります。今では貴重なアイヌ文化や料理、当時の北海道の大自然を伝える使命だけでも、「ゴールデンカムイ」は連載を続ける意義があり、それを毎週達成する事で成立しています。他の漫画とは、奥深さが段違いと認めるしかなく、最大のポイントです。
他には、おまけ要素も実は満載で、普通に読んでいると冒険や戦闘に目がいきますが、更に注意すると往年の名作映画やテレビ番組などのシーンがいくつも発見できます。有名なのは、ネットでも話題となったドリフターズのエンディングシーンを表紙にしたり、「山猫は眠らない」からワンシーンを作画する点などです。まあ悪く言うとパクリですが、作者・野田サトル氏がファンであるなら、影響を受けたやオマージュと言えなくもないです。
物語が進むにつれて、個性派キャラも多く登場します。その多くは異常な変態性欲が旺盛な人物ばかりです。これらは最初は苦手だったのですが、よくよく考えると、北海道という過酷な冬と日露戦争後も重なると、これぐらい狂ってしまうのも有りえなくは無いのかも知れません。
■各巻の感想!
1巻~3巻
金塊を探し見つける冒険活劇の始まりを高々に宣言しています。杉元はどこから見ても勇敢で強く、そしてアシㇼパは可愛いアイヌの少女でありながら、下品な下ネタも好きで、その相反するギャップも見どころです。普通なら顔も傷だらけの杉元こそ下品な役割だと思いますが、そこも反対にする事でゴールデンカムイをこれまでの冒険物と大きくかけ離れさせています。
4巻~6巻
ゴールデンカムイ 4 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
6巻ぐらいまでで、本作の主要な登場人物はほぼ出尽くします。後は、彼らが誰と誰が仲間で、実は騙しを企んでいるなどの駆け引きも始まります。シリアスな展開でも、途中ではアドリブではないですが、息抜きギャグも多くなりどんどんとゴールデンカムイがオリジナルな作品に進んでいきます。6巻では、有名になったドリフのオマージュ的な回が出てくるので、ここはハイライトの一つです。
7巻~9巻
入れ墨の囚人を探すのが目的なのに、それよりもアシㇼパさんの料理を期待してしまっています。回を重ねるにつれて、作者もアシㇼパさんも料理の腕が上達し、また食べるメンバーも増えていきます。まるで、学生の部活のようなノリもありますが、それを含めてゴールデンカムイなのです。9巻は、第三の主人公であり人気者の白石がメインとなる回などは、かなり笑える面白さがあります。また、最後の小心振りも白石らしさと杉元の迫力が滲んでいます。
10巻~13巻
第七師団は鶴見中尉以外はキャラが弱かったのですが、この巻あたりから形勢逆転となります。よくここまで濃いキャラが思い浮かぶと感心するぐらい、途方もない強烈キャラが第七師団からも出てきます。
ゴールデンカムイの弱点を敢えてあげるなら、この強烈キャラが敵味方やサブキャラ関係なく多過ぎる点だと思います。読み返してもところで今、何枚(何人)の入れ墨を集めたのかよく分からないのです。それは、各巻の始めからじっくり読み耽ると理解できますが、飛ばし読みだと強烈キャラにしか目がいかず、中身は理解が難しいです。12巻には、作中で最も変態的な男が登場するので、この回はアニメ化は難しいと思ってしまいました。
14巻~16巻
14巻で遂に、追い求めていた”のっぺら坊”を発見する事に成功します。そこでは、杉元や土方の迫力ある戦闘シーンもあり、クライマックスに確実に近付きつつあるのに、まさかのどんでん返しが待っています。こんな結末を誰が予想したでしょう。もし、ゴールデンカムイがこの後も何十冊も続く長編となるなら、確実に14巻が第一章の終わりであり、第二章始まりとなります。
因みに14巻からは、今度は洋楽ロックへのオマージュも出始め、大物バンドのガンズ&ローゼズやドアーズのアルバムジャケットのゴールデンカムイ流アレンジとして登場します。
■まとめ
お宝探しの冒険物語なのに、そこに様々な要素をふんだんに取り入れた画期的な作品に仕上がっています。確かに取っ散らかりの詰め込み過ぎとも見てとれますが、そのどれもが知識豊富で疑うスキがないのがここまで際立たせる要因と思います。普通はあまり知識がなくても、作品が面白くなればと入れたくなりますが、グルメも歴史認識も北海道大自然もこれだけを一本で絞っても、十分読み応えある作品に仕上げられるのに、「ゴールデンカムイ」として詰め込んで一作品で完成させています。
金塊探しをテーマに掲げながらも、もしかしたら作者の意図するところは、本当のお宝とは金目の物以外で、大自然や人間関係、美味しい料理や歴史や文化であると説いていると思います。「ゴールデンカムイ」の”カムイ”は、アイヌ語で”神”となるので、「黄金の神(様)」となります。しかし、金塊=「黄金の神」とするなら、それを求めて人々が争い、騙し合いを繰り広げるのは、奇妙で滑稽であると指摘していると捉えるのは、深読みでしょうか?