芥川賞作家・石井遊佳さんのおすすめ本
借金のかたとしてインドで日本語教師として働くことになった主人公が大洪水に遭遇し、過去の記憶と向き合うこととなった「百年泥」が第158回芥川賞を受賞し注目を浴びている石井遊佳さん。
ご本人も日本語教師として働いており、東大文学部でインド哲学仏教を専攻されていた秀才で読書の幅もとても広い様子。幅広い知識を得た方が見る世界はどんなに大きな視点で物事をとらえることができるのでしょうか。
今回は石井遊佳さんの愛読書を紹介いたします。何か大きなものをとらえられる読書体験になるかもしれません。
ラテンアメリカの文学 族長の秋
ガブリエル ガルシア=マルケス (著) (集英社)
「百年の孤独」も愛読書にあがっていましたが、マルケス作品のなかで石川さんが一番好きだと仰っていた作品がこちら。
マジックリアリズムと呼ばれる幻想と日常が交錯が特徴で、ひとりの独裁者である族長の生涯を多視点から語る作品です。淡々とした文章とは裏腹に濃密で細部にいたるまでにおってくる強烈な刺激。漂ってくる精神の孤独の香りが新たなる旅立ちへと誘ってくれます。
愛の渇き
三島 由紀夫 (著) (新潮社)
デビューした頃の三島作品で義父の妾となった未亡人が下男と恋に落ちるという物語。洗練された無駄のない文章が特徴的で、石井遊佳さんが三島作品の中でも特に好きな作品とのこと。
筋書はいたってシンプルですが、主人公の悦子の強烈な嫉妬心や支配欲に振り回される様子や愛を知らない三郎、戦後の混沌とした雰囲気と何かに流されていく強烈な魂が描かれています。
夜の果てへの旅(上・下)
セリーヌ (著) (中央公論新社)
第一次世界大戦のアフリカ、アメリカを軸とし、きれいごとでは語り切れない人間の裏表を赤裸々に語った小説。悲しみや恐怖の先に何が残っているのか、自らの醜さをみせつけられているようで堕落していく世界が懇々と迫りくるような切なさに胸がしめつけられる骨太長編です。石井遊佳さんは何十回も読み返しているそう。読む度に感じられることが変わる作品です。
愛読する本を知れば世界観を垣間見ることができるかもしれません。
今後とも質の高い小説を届けてくれそうな作家さんです。