お正月の絵本は、行事の名前を覚えるためだけのものではない。おもちを食べる音、おせちを囲む空気、干支の話を聞く時間まで、年のはじまりを子どもの感覚に残してくれる。ここでは、大人も一緒に季節を味わえるお正月の絵本を6冊に絞って紹介する。
お正月の絵本は、何から選ぶといいか
お正月の絵本を選ぶときは、「何を知りたいか」よりも「どんな時間に読みたいか」で選ぶと失敗しにくい。年末の台所や居間の空気に近い本もあれば、新年の笑いに向いた本、行事の意味をゆっくり知る本もある。
小さな子どもと明るく読みたいなら、まずは1.おもちのきもちや5.10ぴきのかえるのおしょうがつが入りやすい。お正月らしい食べものや家族の雰囲気を味わいたいなら、2.新装版 おせちのおしょうがつ、3.14ひきのもちつきがいい。干支や正月文化まで広げたいときは、4.お正月さんありがとう、6.十二支のはじまりへ進むと、行事が少し立体的に見えてくる。
お正月の絵本おすすめ6選
1.おもちのきもち(講談社)
お正月の入口に置くなら、まずこの一冊が強い。お正月といえばおもち、と大人は簡単に言うけれど、絵本の中でおもち自身が気持ちを持ちはじめると、いつもの食べものが急に生きもののように見えてくる。
この本のよさは、行事を説明しようとしすぎないところにある。おもちの由来や正月文化をきちんと学ぶ本ではない。むしろ、つるんと白くて、ぷくっとふくらみ、びよんとのびるおもちの存在感そのものを、笑いに変えてしまう。子どもは理屈より先に、「おもちって、こんな顔をしているかもしれない」と感じる。
かがくいひろしの絵本らしく、線はやわらかいのに、動きの勢いがある。ページをめくるたびに、おもちがただの食べものではなく、なにか言いたげな相手になっていく。読んだあとに食卓でおもちを見ると、少しだけ目が合うような気がする。それがこの本の楽しい後味だ。
幼児には、言葉のリズムと表情の変化だけでも十分に伝わる。小学生くらいになると、「食べられる側」の視点で描くおかしさにも気づく。大人が読むと、正月の定番をこんな角度から描けるのかと、少し笑ってしまう。
年末年始は、どうしても大人が忙しくなる。買い出し、掃除、帰省、料理、挨拶。そんな慌ただしさの中で、子どもに「お正月とは何か」を説明しようとすると、かえって言葉が硬くなる。この本は、その硬さをほどいてくれる。まず笑う。そこから、おもちを焼く匂いや、のびる感触へ自然につながる。
お正月の絵本を初めて選ぶ家庭にも向いている。行事絵本にありがちな「勉強っぽさ」が薄いから、読み聞かせの最初の一冊にしやすい。冬休みの朝、まだ部屋が少し寒くて、こたつの上にみかんがあるような時間に読むと、場の空気までゆるむ。
この本から入ると、お正月が「ちゃんとしなければいけない行事」ではなく、「へんなことを笑いながら、みんなで迎える時間」に変わる。おもちの絵本として楽しいだけでなく、行事への入口をやわらかくしてくれる一冊だ。
2.新装版 おせちのおしょうがつ(世界文化社)
おせちは、子どもにとって少し不思議な料理だ。ふだんの食卓にはあまり出てこないものが重箱に並び、色も形も名前も少し特別に見える。黒豆、数の子、伊達巻、えび。大人は意味を知っていても、子どもには「なぜこれを食べるのか」がまだ遠い。
『新装版 おせちのおしょうがつ』は、その距離を縮めてくれる絵本だ。おせちをただ料理として並べるのではなく、新しい年を迎えるための願いや、家族で食卓を囲む気配として見せてくれる。お正月の文化を知る本として使いやすいが、説明だけに寄りすぎないところがいい。
おせちの絵本は、知識を入れようとすると少し窮屈になる。料理の意味を一つずつ覚えること自体は大切だが、それだけでは子どもの中に残りにくい。この本は、重箱の中の色や形を眺める楽しさが先に来る。赤、黄、黒、白。いつもの皿ではなく、箱の中に小さな世界が詰められているように見える。
大人が一緒に読むと、お正月の食卓にある「願い」の多さにあらためて気づく。健康、長寿、豊かさ、よろこび。おせちは、料理というより、言葉になる前の祈りに近い。子どもにすべて説明しなくてもいい。ページを見ながら、「これは何だろう」「食べたことあるかな」と話すだけで、十分に行事の入口になる。
年始の食卓で、子どもが料理に手を伸ばさないこともある。見慣れないものに警戒するのは自然なことだ。そんなとき、この絵本を先に読んでおくと、食べるかどうかとは別に、おせちを眺める目が変わる。食べものの名前を知るだけで、目の前の重箱が少し近くなる。
この本は、保育園や幼稚園、小学校低学年の行事前読み聞かせにも向いている。正月休みの前に読むと、家庭で実物を見たときに「あの本に出てきた」とつながる。絵本と生活が往復する瞬間があると、行事は子どもの記憶に残りやすい。
お正月を文化として味わいたい大人にも合う。忙しい年末年始には、料理を用意する側の大変さばかりが目につくことがある。この本を読むと、重箱の中に込められた願いを、少しゆっくり見直せる。おせちを「食べるもの」から「年のはじまりを整えるもの」へ変えてくれる一冊だ。
3.14ひきのもちつき(童心社)
お正月の絵本の中でも、家族で迎える季節感を味わいたいなら『14ひきのもちつき』は外しにくい。いわむらかずおの「14ひき」シリーズは、にぎやかな大家族の暮らしを、細かな手仕事と自然の移ろいの中で描いてきた。ここで描かれるもちつきも、ただのイベントではなく、家族の一日そのものだ。
臼と杵を用意し、米を蒸し、力を合わせてつく。ぺったん、ぺったんという音が、ページの外まで聞こえてくるような絵本である。現代の子どもにとって、餅は袋に入った切り餅として出会うことが多い。だからこそ、もちができるまでの手順を絵で見られることには意味がある。
この本の魅力は、作業の説明よりも、そこに集まる身体の温度にある。大きい子、小さい子、おじいさん、おばあさん。誰か一人が主役になるのではなく、みんなが少しずつ動いている。湯気が立ち、手が伸び、足元で小さなねずみたちが忙しくする。画面の隅まで目を追いたくなる。
読み聞かせをしていると、子どもはストーリーだけでなく、絵の中の小さな発見に反応する。あの子は何を持っているのか。こっちでは何をしているのか。そうやってページを何度も行き来するうちに、もちつきが「昔の行事」ではなく、自分もそこに混ざれそうな時間になる。
大人にとっても、この本は少し懐かしい。実際に臼と杵でもちをついた経験がある人はもちろん、そうでなくても、年末年始の台所や親戚の家のざわめきを思い出す。行事の中心にあるのは、完成した料理だけではない。準備する手、待っている時間、みんなで食べる瞬間なのだとわかる。
餅つき行事に参加する前に読むのにも合う。初めて見る杵や臼に驚く子どもでも、絵本で一度出会っておくと、音や動きが怖さだけで終わりにくい。反対に、行事のあとに読むと、自分の体験をページの中でなぞるような楽しさがある。
静かに季節を味わいたい家庭にも向いている。派手な笑いではなく、少しずつ新年へ向かっていく空気を感じたいとき、この本はよく効く。台所から湯気が立ち、外の空気が冷たく、家の中だけが明るい。そんな冬の記憶を、子どもの中にそっと残してくれる。
4.お正月さんありがとう(岩崎書店)
お正月は、元日だけでできているわけではない。大掃除をしたり、飾りを出したり、年が変わるのを待ったりする時間があって、ようやく新しい年がやってくる。『お正月さんありがとう』は、その「迎えるまでの時間」を感じさせてくれる一冊だ。
子どもにとって、お正月は楽しいことの集まりに見えやすい。お年玉、親戚、遊び、ごちそう。けれども大人の側には、暮れから年明けへ向かう独特の静けさがある。部屋を整え、古い年を送り、新しい年を迎える。その感覚を子どもに説明するのは難しいが、絵本なら、空気として渡すことができる。
この本は、正月準備を単なる作業としてではなく、時間の流れとして見せてくれる。何かを飾る。何かを待つ。人が動き、家の中が少しずつ変わる。行事の意味を言葉で理解する前の子どもでも、「いつもと違う日が来る」という気配を感じられる。
読みどころは、にぎやかな正月の表面ではなく、その手前にある落ち着きだ。年末の夕方、外が早く暗くなり、家の中の灯りだけがあたたかく見えるような時間に読むとしっくりくる。派手さはないが、正月という行事の芯に近い。
大人にもすすめたいのは、この本が「準備する人」の気持ちに寄り添うからだ。お正月は、子どもにとっては待つ行事だが、大人にとっては整える行事でもある。掃除も飾りも料理も、義務に見えてしまう日がある。けれど絵本の中で見ると、それらは新しい時間を迎えるための小さな所作になる。
子どもと一緒に読むなら、年末に読むのが特にいい。元日を迎えてから読むよりも、少し前に読んだほうが、生活の中の変化に気づきやすい。しめ飾りを見たとき、鏡餅を見たとき、掃除をしている大人を見たときに、絵本の記憶がふっと戻ってくる。
お正月の絵本というと、食べものや遊びに目が行きやすい。その中でこの本は、行事の時間をゆっくり整える役割を持っている。子どもに正月文化を押しつけるのではなく、「今年もここまで来たね」と感じる場所を作ってくれる。年の終わりに読むと、部屋の空気まで少し澄んで見える一冊だ。
5.10ぴきのかえるのおしょうがつ(PHP研究所)
幼児と読むお正月絵本として、明るさとわかりやすさを大切にしたいなら『10ぴきのかえるのおしょうがつ』が向いている。シリーズものの安心感があり、正月の行事を重くせず、子どもが物語として楽しみやすい。
10ぴきのかえるたちがいるだけで、画面にはにぎやかなリズムが生まれる。正月らしい飾りや遊びが出てきても、それが説明のための道具になりすぎない。かえるたちの動きに合わせて、子どもは自然に「お正月って、こんなことをするんだ」と受け取っていく。
この本のよさは、行事を子どものサイズまで下げてくれるところにある。大人にとってのお正月は、歴史やしきたりが絡む大きな文化だが、幼い子どもにはまず「楽しい」「にぎやか」「みんなで何かをする」という感覚が大事だ。そこを飛ばして説明から入ると、行事が遠くなる。
正月遊びの雰囲気を知りたいときにも使いやすい。凧、こま、羽根つきのような昔ながらの遊びは、家庭によっては実際に触れる機会が少なくなっている。絵本で見ておくと、保育園や幼稚園で正月遊びに出会ったときにも、少し親しみが湧く。
読み聞かせの場では、難しい説明を足しすぎないほうがいい。かえるたちの表情や動きに合わせて、「何してるのかな」「楽しそうだね」と声をかけるだけで十分だ。子どもが笑ったところ、指をさしたところが、その子にとってのお正月の入口になる。
年始は、生活リズムが少し乱れやすい。帰省や来客で落ち着かず、子どもがそわそわすることもある。そんなとき、この本のように明るく親しみやすい絵本は助けになる。正月の特別感を残しながら、読み聞かせの時間をいつもの場所へ戻してくれる。
深く文化を学ぶ本ではない。だからこそ、小さい子にはよく届く。お正月を「意味」からではなく、「遊び」と「仲間」と「にぎやかさ」から感じたいときに手に取りたい一冊だ。後でおせちや干支の絵本へ進む前の、やわらかい橋にもなる。
6.十二支のはじまり(教育画劇)
お正月の話をしていると、どこかで必ず干支に行き着く。今年は何年か。どうして動物の順番が決まっているのか。ねこはなぜ入っていないのか。子どもがふと疑問を持ったとき、『十二支のはじまり』は、その疑問を物語として受け止めてくれる。
干支は、ただ年賀状や飾りに描かれる動物ではない。昔話として語られると、動物たちの性格や駆け引きが見えてくる。足の速いもの、知恵を使うもの、うっかりするもの。順番を覚えるだけなら表で足りるが、物語で読むと、干支の並びに感情が宿る。
この本は、お正月記事の中で知識の軸になる。おもちやおせちの絵本が食卓や暮らしの感覚を広げるのに対して、干支の絵本は時間の感覚を広げてくれる。年が変わるとは、数字が変わるだけではない。動物の名前を借りて、一年を数える文化があるのだとわかる。
子どもは、干支の話に意外なほどよく反応する。自分の生まれ年の動物を知ると、急にその動物が身近になる。家族の干支を聞いて、年齢や順番に興味を持つこともある。絵本を読み終えたあと、家族の干支を話すだけでも、物語が生活へ戻ってくる。
大人にとっても、十二支の由来をあらためて読む時間は悪くない。知っているつもりの昔話でも、子どもに説明しようとすると案外あいまいな部分がある。絵本で読み直すと、昔話の中にあるユーモアや、動物たちの人間くささが見えてくる。
この本は、正月の少し後に読んでもいい。元日当日より、年賀状を見たり、干支の飾りを片づける前だったり、学校や園で「今年の干支」の話題が出たあとに読むと、子どもの中でつながりやすい。行事の余韻を、知識へゆっくり移してくれる。
お正月の絵本を6冊で組むなら、最後にこの本を置く意味がある。食べもの、準備、遊びで正月の空気を味わったあと、干支の物語へ進むと、行事が家の中だけでなく、昔から続く時間の中に広がる。子どもにとっては楽しい昔話として、大人にとっては文化をもう一度見直す本として読める一冊だ。
関連グッズ・サービス
本を読んだ後の学びを生活に根づかせるには、生活に取り入れやすいツールやサービスを組み合わせると効果が高まる。
読み聞かせの本を探す入口
季節の絵本は、時期を逃すと探しにくくなることがある。気になるテーマを見つけたときに、ほかの行事絵本や昔話もあわせて探しておくと、次の季節の読み聞かせが少し楽になる。
移動中に物語の時間を作る
帰省や年始の移動がある家庭では、耳で物語を聞く時間も助けになる。絵本そのものは紙で楽しみつつ、昔話や児童書を移動中に聞くと、正月休みの空気が途切れにくい。
読み聞かせ記録ノート
お正月に読んだ本を一言だけ残しておくと、翌年の本選びが楽になる。「よく笑った」「おせちに興味を持った」「干支を聞きたがった」くらいの短い記録でいい。毎年同じ季節に読み返すと、子どもの成長も見えてくる。
まとめ:お正月の絵本は、笑いから文化へ進むと読みやすい
お正月の絵本は、最初から行事の意味を全部教えようとしなくていい。まずは『おもちのきもち』で笑い、『10ぴきのかえるのおしょうがつ』で正月遊びのにぎやかさに触れる。小さい子には、この二冊だけでも十分に季節の入口になる。
食卓や家族の空気を味わいたいなら、『新装版 おせちのおしょうがつ』と『14ひきのもちつき』を合わせて読むといい。おせちは願いの詰まった料理として、もちつきは家族で手を動かす行事として、同じお正月でも見えるものが変わる。
年末から新年への時間そのものを感じたいなら、『お正月さんありがとう』が合う。派手なイベントではなく、家を整え、新しい年を待つ気持ちを子どもに渡せる。干支の由来まで広げたいときは、『十二支のはじまり』へ進むと、正月が昔話や暦の世界へつながっていく。
- 最初の一冊に迷ったら、『おもちのきもち』
- 食べものから行事を知りたいなら、『新装版 おせちのおしょうがつ』
- 家族で季節を味わいたいなら、『14ひきのもちつき』
- 年末年始の空気を整えたいなら、『お正月さんありがとう』
- 幼児と明るく読みたいなら、『10ぴきのかえるのおしょうがつ』
- 干支の話まで広げたいなら、『十二支のはじまり』
お正月は、毎年同じようでいて、子どもの年齢によって見え方が変わる行事だ。去年はおもちに笑い、今年はおせちの意味を聞き、来年は干支の順番を覚えるかもしれない。絵本を一冊そばに置くと、新しい年のはじまりが少しゆっくり残る。
FAQ
お正月の絵本は何歳くらいから読めるか
絵を見て楽しむだけなら、幼児期から読める。小さい子には『おもちのきもち』や『10ぴきのかえるのおしょうがつ』のように、動きや表情がわかりやすい本が向いている。おせちや干支の意味まで知りたくなるのは、年中から小学校低学年くらいが多い。年齢で区切るより、食べもの、遊び、動物など、その子が今反応しやすい入口から選ぶといい。
大人にも楽しめるお正月の絵本はどれか
大人が読むなら、『14ひきのもちつき』と『お正月さんありがとう』が特に味わいやすい。前者は家族で手を動かすあたたかさがあり、後者は年末から新年へ向かう静かな時間を感じられる。お正月の絵本は、子どもに行事を教えるためだけではない。忙しさの中で流れてしまう季節の手触りを、大人が思い出すための本にもなる。
おせちや干支を子どもに説明するには、どの本がいいか
おせちは『新装版 おせちのおしょうがつ』、干支は『十二支のはじまり』が使いやすい。どちらも、先に意味を暗記させるより、絵本を読んでから実物や会話につなげるほうが自然だ。おせちなら食卓で「これ、絵本にあったね」と話す。干支なら家族の生まれ年を聞いてみる。絵本と生活がつながると、行事の知識は子どもの中に残りやすい。
年末に読む本と元日に読む本は分けたほうがいいか
分けられるなら、年末には『お正月さんありがとう』や『14ひきのもちつき』が合う。準備する時間、待つ時間、家の中が少しずつ変わる感じを味わえるからだ。元日以降は、『おもちのきもち』や『新装版 おせちのおしょうがつ』のように、実際の食卓とつながる本が読みやすい。干支の話は、年賀状や正月飾りを見たあとに読むと入りやすい。
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お正月の絵本を読んだあとは、冬の行事や食べもの、昔話の絵本へ広げると、季節の読書が続けやすい。





