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実在の事件を題材にした小説

 「事実は小説よりも奇なり」とよく言いますが、作家たちも実際に起こった事件にインスピレーションを得て作品をつくることもよくあります。読後感は良くないものの、ひとつひとつ丁寧に取材をしたうえで、何かしらの問いや答えを私たちにもたらせてくれます。もちろん正解はありません。事件の裏には被害者がおり、今もなおいたましい気持ちを抱えて生きておられます。事件を起こした犯人でさえ、何かしらの事情があったりするかもしれません。
 言語道断、人の命や尊厳をおろそかにするのは大間違いですが、事件を他人事のようにとらえ、自分が被害者・加害者側になることもあると考えたうえで消化していくのが正しいことではないでしょうか。
 今回は実在の事件を題材にした小説を紹介いたします。ノンフィクションが好きな方、社会派小説が好きな方にもおすすめです。

 

彼女は頭が悪いから

彼女は頭が悪いから

 姫野 カオルコ (著) (文藝春秋)
 実際に起こった東大生の集団暴行事件を題材にした小説。実際に被害者女性はなぜかネット上で勘違い女とたたかれることになりました。題名となった「彼女は頭が悪いから」は実際に犯人が裁判で口に出したセリフだそうです。
 もちろん多くの東大生がそんな傲慢な思考を持っているわけではなく、それぞれの分野の一流として活躍されている方もいらっしゃいます。一概に「東大生だから」というのもまた違った偏見を生み出していることと思います。東大という言葉にとらわれず、男女格差、学歴への偏見など、多くの人が悪気なく相手を見下している無意識さを自覚してみてください。

 

グロテスク

グロテスク 上 (文春文庫)

 桐野 夏生 (著) (文藝春秋)
 東電OL殺人事件を題材にした作品。女性の、人間のグロテスクな内面をここぞとばかりに描き出す長編小説です。階級社会がによって意識せざるおえない他人との比較と承認欲求。求め続けるあまり、空回りして暴走する自意識。自己を保とうとあがき、否定し、優越感と劣等感に振り回されながら娼婦の世界へと堕ちていきます。
 バブル時代の設定ですが、今読んでもなお変わることのない人間の冷酷さや堕落加減がリアルに恐ろしいと思える長さを感じさせない小説です。

 

うつくしい子ども

うつくしい子ども (文春文庫)

 石田 衣良 (著) (文藝春秋)
 神戸児童殺傷事件を題材にした作品。自分の弟が殺人事件の犯人だったという設定で描かれる少年犯罪という衝撃、加害者の家族にふりかかる世間の冷たい目に耐える辛さ。真相を追及していくなかで得たものはいったい何か。だれもが「うつくしい子ども」だった。それでも犯罪は起こってしまった。マスコミのいやらしい動き方や加害者側の人権も考えさせられる一冊。起こってしまった事件は一人の責任なんだろうか、止める手立てはなかったのかと胸がつまる作品です。

 

 自分のなかで消化できないような大きな問題。失われた尊厳や命。自分が、身の回りの人が犯罪に巻き込まれないように、しっかり人間の根底を見つめなおすいい機会になります。

 

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