バイリンガルでハスキーな歌声をもつ宇多田ヒカルさん。作詞作曲も手掛け、デビュー当時の切ないラブソングやポップスのほかにも、子ども向けの歌も作曲されているマルチな才能の持ち主です。
そんな宇多田さんは自ら「文学は永遠に私の情熱である」「飢えた獣のように本にむしゃぶりつき」ながら読むというほどの読書通でも有名。自身のHPやメッセージ、雑誌などで私たちに様々な本を紹介してくれています。
今回は宇多田さんが影響を受けたという本を紹介いたします。ファンの方はもちろん、創作活動をされている方のインスピレーションが湧くヒントになるかもしれません。是非手に取ってみてくださいね。
沈黙
遠藤 周作 (著) (新潮社)
禁教令の敷かれた江戸時代、熱い思いを胸に日本に密入国したポルトガルの若き宣教師の苦悩の物語。布教が禁止された日本に捕まり、神の教えについて自問自答を繰り返します。「宗教」とは「神」とは「信仰」とは何かを考えさせられる名作。ドロドロと暗い雰囲気が続きますが、人間の奥底に眠る本性を描き出す筆力はさすが。キリスト教の知識がなくても読むことができます。映画化もされているので、合わせてお楽しみください。
異族―中上健次選集〈2〉
中上 健次 (著) (小学館)
遺作となり、未完のまま残された超大作の天皇小説。差別部落である「路地」出身の男、在日二世の男、アイヌの男という三人の男たち。胸に青いアザを持っていることから義兄弟の契りを交わしますが、彼らを支援する右翼系の大物にそのアザは旧満州の地図だと教えられ、満州国建国を唱えるようになっていきます。もちろん、利用されていることは分かっていながらも、現実と理想のはざまに追い込まれていく若者たち。それぞれの思考が交錯し、混乱していく様子に、思想とは何かを考えさせられる作品です。
細雪
谷崎 潤一郎 (著) (中央公論新社)
戦中の大阪を舞台とした没落した名家の藤岡家の四姉妹を主人公のメロドラマ。上中下巻にわたる大作ですが、こちらの文庫版は一冊にされたもの。ため息しかでないほどの描写の美しさ、ことばのなめらかさが素晴らしい作品です。
純文学は難しそうと嫌煙している方は是非気楽に手にとってみてください。ちなみに宇多田さんは「エロスを追求したい時に読んでいる本」とコメントされています。
どの作品も長編で社会的な問題意識を育ててくれるような骨太な本ばかり。様々な人たちの状況や感情を取り入れて作品をつくられていることが分かります。時間のとれるときに、是非読んでみてくださいね。