「金閣寺」「仮面の告白」「鹿鳴館」など戦後を代表する日本作家として世界中に名が知れている三島由紀夫。小説や戯曲の執筆のほかにも評論家としても活躍しました。
日本の古典を基にした華美な文章と幅広い知識、政治への関心、悲惨な最期。有名作家ながらもなかなかイメージ的に手にとりにくいといった方が多いのではないでしょうか。今回は、三島由紀夫の難関で風変わりなイメージを覆す作品を紹介いたします。
彼の政治的思想に左右されない文学者としての側面が大きく突出した作品です。はじめて三島作品に触れる方にもおすすめです。
花ざかりの森・憂国―自選短編集
三島 由紀夫(著) (新潮社)
16歳で執筆したデビュー作、郷愁や追憶を語った「花ざかりの森」のほか、「詩を書く少年」「海と夕焼」「憂国」など自選の短編が13編収録されています。ことばのひとつひとつが濃厚で迫力に満ちた描写。ときに美しく、艶めかしく生々しい描写は人間が生きるうえでの一瞬の美を切り取ったかのよう。
著者自身の解説もついているので、より内容を読み取ることができると思います。読んでいると鮮やかな色彩が目の前に広がるかのような描写。三島を知りたいというすべての方におすすめしたい一冊です。
女神
三島 由紀夫(著) (新潮社)
初期から中期に描かれた恋愛に関する短編を11編収録したもの。女性の美しさ、魂の美しさについて触れられています。ユーモラスな場面もありながらの美しさに酔いしれる一冊。短いことばの中に三島の美意識がぎゅっと凝縮されています。起承転結に沿った作品が多いので、読みやすい短編集です。
潮騒
三島 由紀夫(著) (新潮社)
29歳のときに執筆されえた純粋無垢な恋物語。文明から隔離された南の小島、歌島。縄文時代から続く漁で生計をたてている青年と海女さんの少女が恋に落ちるというシンプルでプラトニックなストーリー。三島作品のなかでも異色の作品と呼ばれるハッピーエンドで民話のような構成のものがたり。
人物像が生き生きと描かれており、後期の毒々しさは全く感じられません。純愛ものがたりが好きという方にもおすすめです。
三島由紀夫は人生で九回も書き方を変えたといわれています。有名な「金閣寺」で挫折をしてしまった方も、予備知識がないという方もこれらの作品に触れれば苦手意識が払拭されることでしょう。文学作品の入り口として是非手にとってみてください。