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【芸能人小説おすすめ10選】読んで驚く!芸人・タレントが書いた本当に面白い小説

芸能人が書いた小説なんて、と最初から敬遠している人も多いかもしれない。けれど、実際に読んでみると、テレビや舞台の裏側で鍛えられた感性や、笑いと痛みを知る視線が、そのまま物語の厚みになっていると感じることが多い。この記事では、芸人・タレント・ミュージシャンなど、芸能の世界から生まれた「これは小説として読んでほしい」と胸を張ってすすめられる10冊を厳選した。純文学好きにも刺さる本格作品から、テンポのいいエンタメ、しみじみと心に残る一冊まで、自分の嗜好に合う一冊を探してみてほしい。

 

 

芸能人が書いた本格小説おすすめ10選

1. 火花 (文春文庫 ま 38-1)

芥川賞を受賞したことで一気に知られるようになった又吉直樹の代表作だが、芸人が書いたという肩書きを一度忘れて読んだほうがいい作品だと感じる。売れない若手芸人と、天才肌だけれど破滅的な先輩芸人。漫才のネタ作りやライブハウスの湿った空気、滑った夜に流れるどうしようもない時間までが、丁寧な文章で描かれている。笑いをつくる側の人間だけが知っている、孤独と承認欲求のせめぎあいがひりひりと伝わってくる小説だ。

芸人の世界に憧れがある人や、夢を追いかけることに疲れてしまった社会人にも刺さる一冊だと思う。頑張ることに意味はあるのか、自分の才能はどこまでなのか、といった問いは、芸人に限らず、多くの仕事や創作に携わる人が抱えるものだ。そうした焦りや嫉妬と付き合いながら、それでも舞台に立ち続ける登場人物の姿は、読み手の人生とも自然に重なってくる。読み終えたあと、自分の今いる場所を静かに見つめ直したくなる。

2. 劇場 (新潮文庫)

同じ又吉直樹の長編だが、「火花」よりもさらに私小説的な苦さが前面に出ている一冊だ。小劇団を主宰する男と、その恋人の関係が物語の中心に据えられている。才能があるのかどうかも分からないまま芝居を続ける男と、その男を支えながらも自分自身の人生を生きようともがく女性。お互いのことを好きでいるのに、関係がうまく噛み合わない感じが、静かな文体の中でじわじわと積み重なっていく。

恋愛小説としても読めるし、創作に人生を賭けることのエゴイズムを描いた作品として読むこともできる。自分の夢を優先してきた人ほど、読みながら耳が痛くなる場面が多いはずだ。読むタイミングによって印象が変わるので、二度三度と読み返す前提で本棚に置いておきたい。

3. 陰日向に咲く (幻冬舎文庫 け 3-1)

劇団ひとりの名を一気に小説の世界でも知らしめた短編集。ホームレスに憧れるサラリーマン、売れないアイドルをひたすら応援し続ける青年、合コンでこじらせたまま大人になってしまった女性など、「ちょっと情けない普通の人たち」を主人公にした物語が並ぶ。笑えるのに、ふとした一行で涙腺をつついてくるバランス感覚が絶妙だ。

大きな成功も大失敗もしていないけれど、どこか人生に行き詰まりを感じている人にこそ読んでほしい。劇団ひとり自身が、芸人としてのコンプレックスや人間観をずっと見つめてきたからこそ書ける温度感があり、「こういう人、身近にいるな」と思わせる人物造形がやさしく響いてくる。

4. 青天の霹靂 (幻冬舎文庫)

こちらは劇団ひとりによるタイムスリップものの長編で、映画化もされた作品だ。売れないマジシャンの主人公が、ある日突然、40年前の浅草に飛ばされてしまう。そこで出会う若き日の両親や、人情味あふれる人々との交流を通して、自分の生まれてきた意味や親子のつながりを見つめ直していく物語だ。

SF的な仕掛けはありつつも、中心にあるのは家族と自分自身の物語。派手などんでん返しよりも、じわっと胸に残るラストが印象的だ。親との関係にモヤモヤを抱えたまま大人になった人、地元や家族から離れて暮らしている人には、時間を忘れて読み進めてしまう一冊になると思う。

5. ゆっくり歩け、空を見ろ (新潮文庫 ひ 26-1)

そのまんま東として知られてきた東国原英夫が、自身の生い立ちや父親との関係、芸人としての道のりを描いた自伝的小説だ。お妾さんの子どもとして育った複雑な家庭環境、破天荒な父親の存在、笑いに救いを求めた少年時代のエピソードなどが生々しく綴られている。重いテーマを扱いながらも、どこか自嘲気味のユーモアが混じっていて、読んでいて息苦しくならない。

自分の家庭や過去に少し複雑な感情を抱えている人ほど、救われる部分が多いかもしれない。立身出世物語ではなく、「それでも何とか生きてきた」人間の足跡として読むと、静かな勇気をもらえる。

6. 蟻地獄 (新潮文庫)

お笑いコンビ・インパルスの板倉俊之によるサスペンス小説。裏カジノ、借金、追い詰められていく若者たち、といった要素が詰め込まれているのに、どこか冷静な語り口で進んでいくのが板倉らしい。ストーリーの構成が非常に巧みで、伏線の張り方や回収の仕方に「芸人のコント構成力」がそのまま生かされている印象がある。

エンタメ小説として一気読みしたい人、サスペンスやクライムものが好きな人にはかなり相性がいい作品だと思う。読後感は決して軽くないが、重苦しさよりも「物語を読んだ満足感」が勝つタイプの一冊だ。

7. 月の炎 (新潮文庫)

同じく板倉俊之によるミステリー寄りの青春小説。皆既日食の日をきっかけに、小学生の少年たちの周囲で奇妙な出来事が起き始める。子どもの視点を通して描かれる不安や高揚感、世界が一気に広がっていく感じがとてもみずみずしい。ホラーとまではいかないが、日常がすこしだけ歪んで見えるような空気が最後まで漂っている。

少年時代の空気感が好きな人や、「ちょっと不穏な青春もの」が好みの人にすすめたい一冊だ。派手なアクションよりも、じわじわと積み重なっていく違和感や、家族・友人との微妙な距離感を味わいたい人に合うと思う。

8. ウメ子 (小学館文庫 N あ- 1-1)

「TVタックル」などでおなじみの阿川佐和子による、子どもたちが主人公の長編小説。ちょっと変わった女の子・ウメ子が幼稚園にやってきたことで、引っ込み思案な少女・みよの世界が大きく揺さぶられていく。昭和の香りが残る町並みや、子どもたちの小さな冒険が、やわらかい視線で描かれている。

子どものころの自分を少し遠くから見つめ直したくなる一冊だ。育児中の親が読んでも、子どもの感情の揺れ動きがリアルに感じられて、思わずページを繰る手が止まらない。阿川佐和子のエッセイが好きな人にも、物語として味わえる作品としておすすめできる。

9. 新装版 父の詫び状 (文春文庫)

脚本家としてテレビ業界の最前線で活躍した向田邦子によるエッセイ集。厳しくて不器用な父親、忙しく家族を支える母親、兄弟たちとの暮らしなど、昭和の家庭を舞台にした短いエピソードが並ぶ。どの話もさりげなく始まり、静かに終わるのに、読んだあとにじわっと胸の奥が温かくなったり、少し痛んだりする。

厳密には「小説」ではないが、文章のリズムや登場人物の立ち上がり方は、良質な短編小説とまったく遜色がない。芸能界と密接につながる脚本家としての視点、人を観察し続けてきた眼差しが形になった一冊として、このテーマの中に入れておきたい。

10. 冷静と情熱のあいだ Blu (角川文庫)

ミュージシャンとして活動したのち作家としても評価を確立した辻仁成による純愛小説。かつて恋人同士だった男女が、フィレンツェを舞台に「過去の約束」と向き合っていく物語だ。静かな語り口と、感情の揺れを丁寧に追いかける筆致が印象的で、派手な展開はないのにページをめくる手が止まらない。

恋愛小説としてじっくり浸りたいとき、少し現実から距離を置いて感情だけを味わいたい夜に読むと、ちょうどいい温度の作品だと思う。映画版しか知らない人があらためて原作を読むと、行間にある息づかいの細やかさに驚くはずだ。

おわりに:芸能人小説は「話題作」以上の読み応えがある

芸能人が書いた小説は、話題づくりの一環として消費されてしまいがちだが、実際には「テレビで顔を知っている人が、ここまでの物語を書くのか」と驚かされる作品が多い。売れることと笑わせることに真剣であり続けた人ほど、人間の弱さや滑稽さ、どうしようもなさをよく知っているからだろう。純文学だけを読んできた人にも、一度だけでもいいので芸能人小説を手にとってみてほしい。思いがけず、自分の中の固定観念を揺さぶられる読書体験になるはずだ。

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