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【産業社会学おすすめ本】仕事・組織を学ぶ独学・学び直しの入門書と定番16選

産業社会学を学び直したいと思ったとき、つまずきやすいのは「労働経済」や「働き方論」と何が違うのかが見えにくいことだ。産業社会学の本を読むと、仕事や職場が個人の努力だけで動いているわけではなく、制度、教育、家族、企業文化、移民政策までつながっていることが見えてくる。独学の入口から定番、現代的な論点まで、流れで積み上がる16冊を選んだ。

 

 

産業社会学は、働くことを社会の側から見る学問だ

産業社会学という名前だけを見ると、工場や企業組織の話に限られるように感じるかもしれない。だが実際に読んでみると、この分野が見ているのはもっと広い。どんな人がどんな仕事に入っていくのか、職場では何が当然のものとして受け入れられているのか、雇用のルールは誰に有利で誰に不利なのか。そうした問いを、現場の手触りと制度の構造の両方から考えていく。

面白いのは、産業社会学が「働いている最中」だけを見ないことだ。学校から仕事への移行、学歴と選抜、家族との両立、失業、非正規化、外国人労働、感情労働まで、仕事の前後と周辺を含めて職業人生全体を視野に入れる。読んでいるうちに、職場で感じていた違和感が、自分ひとりの性格や運の問題ではなく、もっと大きな仕組みの中で生まれているとわかってくる。

独学なら、最初は全体像のつかめる入門書から入るのがよい。その次に、日本型雇用や学校から仕事への移行を扱う本で骨格を固め、最後に外国人雇用や感情資本のような現代の論点へ進むと、知識がばらけない。以下では、その流れが自然につながるように並べている。

まずは核の10冊

1. よくわかる産業社会学[第2版](単行本)

最初の一冊を挙げるなら、まずこれになる。産業社会学の輪郭をざっと眺めるだけの本ではなく、仕事、職場、雇用、キャリア、失業、格差といった論点が、互いにどう結びついているかを見せてくれる。読み始めると、ばらばらに見えていた社会問題が、実は同じ地図の上に置けることがわかる。

この本の強さは、抽象的な理論の言葉に飲み込まれにくいところだ。産業社会学の本に慣れていないと、概念だけが先に歩いてしまい、何を見ればよいのか見失いがちになる。その点、この本は論点ごとに視野を開いてくれるので、いま自分がどの地点を歩いているのかがわかりやすい。独学の入門書として手元に置きやすい。

ページを追ううちに、職場で起きていることを個人の性格や気合いの問題として片づける視点が、少しずつ剝がれていく。昇進の仕組み、正規と非正規の差、仕事と生活の配分、失業の意味。どれも日常に近い話なのに、読後には見える景色が少し変わる。いつもの通勤電車の中で読んでも、会社という場がひとつの小さな社会として立ち上がってくる。

何から読めばいいかわからない人、学び直しの入口で遠回りしたくない人には、とても相性がいい。細部に入りすぎる前に、産業社会学の作品一覧を頭の中に作るような感覚で読める一冊だ。

2. 「働くこと」を社会学する 産業・労働社会学(有斐閣アルマ)

「働く」とは何か。その問いを、自己実現や生きがいのようなきれいな言葉だけで済ませず、雇用制度、労働市場、若年就労、非正規、ワークライフバランスといった現実の層にまで降ろして考えさせてくれる本だ。働くことをめぐる語りが個人化しやすい時代だからこそ、この本の社会学的な距離の取り方が効いてくる。

有斐閣アルマらしく、大学の授業にも独学にも使いやすい整い方をしている。だが、教科書的に整っているだけではない。仕事をめぐる問題が、企業の事情だけでなく、教育や家族や福祉ともつながっていることが丁寧に見えてくるので、読み進めるほど「働くこと」を単独で切り取れなくなる。

この本を読んでいると、履歴書の一行や求人票の条件が、急に別の重さを持ち始める。なぜ若者の就労が不安定になりやすいのか。なぜ働き方の選択肢があるように見えて、実際には限られているのか。そうした疑問に対して、感想ではなく筋道のある考え方を与えてくれる。独学で読んでも、ひとつずつ地盤が固まる感じがある。

働くことに対して、漠然としんどさや曖昧さを感じている人ほど読んでおきたい。代表作級の入門書というより、長く使える定番の土台として効く本だ。

3. 新しい産業社会学 仕事をとおしてみる日本と世界(有斐閣アルマ)

産業社会学を「日本の雇用慣行の説明」に閉じ込めず、もっと開いた視野で読みたいなら、この本がよい。題名のとおり、日本の仕事の現実だけでなく、世界の変化も視野に入れながら、働く場がどう変質してきたかを捉えていく。昔ながらの会社中心の見方では収まりきらない時代に、産業社会学の見取り図を組み直してくれる。

読みどころは、変化をただ「新しい働き方」という軽い言葉で飾らないところだ。技術革新、雇用の流動化、組織の再編、グローバル化が、具体的に誰の働き方をどう揺らすのかが見える。大きな変化を語っているのに、足元の仕事の感覚から離れすぎない。この距離感がいい。

一人で読んでいると、自分の働いている場所だけが特殊に見えてしまうことがある。だがこの本を挟むと、日本の職場文化の特徴と、世界的な労働の変化が重なって見えてくる。会議の進み方、評価のされ方、転職の語られ方まで、慣れていたはずのものが少し相対化される。空気のように吸っていた常識に輪郭が出る感覚だ。

入門書を一冊読んだあと、視野を広げたい人に向く。日本型雇用だけで終わらず、仕事そのものの変化を大づかみにしたい人にはとくに相性がいい。

4. 仕事の社会学 改訂版 変貌する働き方(有斐閣ブックス)

働き方が変わった、と人はよく言う。だが何がどう変わったのかを、制度と現場の両方から整理してくれる本は意外と少ない。この本は、その曖昧な変化を丁寧にほどきながら、仕事をめぐる社会制度と職場の実態を結び直してくれる。題名は穏やかだが、読後に残るのはかなり骨太な理解だ。

変化する働き方を扱う本は、流行語の追いかけになりやすい。だがこの本は、変化を目新しさで語らない。雇用の安定、組織の統制、職場の人間関係、専門性、キャリア形成といった古くて新しい論点を押さえながら、いまの働き方のずれを捉える。だから読み捨てになりにくい。

職場で感じる違和感の正体を、少し冷えた頭で考えたいときに向く本でもある。忙しさだけが増える、自由と言われるのに裁量は少ない、評価基準が見えにくい。そうした経験を、個人的な不満として処理せず、社会的な現象として置き直せるようになる。夜遅くに仕事帰りで読むと、自分だけが変な場所にいるわけではないとわかって、少し視界が開ける。

入門の次に置く二冊目、三冊目として強い。現代の働き方をつかみたいが、軽い実務書には寄りたくない人にちょうどいい。

5. 日本的雇用システムをつくる 1945-1995 オーラルヒストリーによる接近

日本型雇用とは何か、と聞かれたとき、多くの人は終身雇用や年功序列といった言葉を思い浮かべる。だがこの本は、その言葉を表面的な特徴として並べるのではなく、戦後の日本でそれがどのように作られ、どんな力学の中で形を取ってきたのかをたどっていく。制度が自然発生したものではなく、人と組織の交渉の産物だったことが見えてくる。

オーラルヒストリーという方法が効いていて、抽象的な制度史になりきらない。制度の背景にいる当事者たちの声が入ることで、雇用システムが固定した仕組みではなく、調整と緊張の積み重ねでできたものだとわかる。産業社会学の読み方が、一段深くなる本だ。

読んでいると、日本の会社で当たり前とされてきたものの温度が変わる。新卒一括採用、内部昇進、企業別のまとまり。ふだん耳にする語が、歴史を持った制度として立ち上がる。その瞬間、いま見えている働き方の問題も、単なる劣化ではなく、ひとつの歴史的転換として考えられるようになる。

日本の雇用の代表作を一冊だけ深く読むなら、かなり有力な候補だ。制度を歴史から理解したい人、日本型雇用を感覚ではなく構造でつかみたい人に向いている。

6. 学校・職安と労働市場 戦後新規学卒市場の制度化過程

学校から仕事へ移る。その移行は個人の進路選択の話として語られやすいが、この本を読むと、それがかなり制度的に組まれてきたことがわかる。戦後の新規学卒市場がどう制度化されていったかを追うことで、新卒採用の仕組みがいかに日本社会の深い部分に食い込んでいるかが見えてくる。

就職活動を経験した人なら、学校推薦、求人票、職業安定所、進路指導といった言葉にそれなりの実感があるはずだ。この本は、その実感を歴史社会学の枠組みに乗せ直してくれる。個人の努力の問題に見えていた移行過程が、制度と組織の働きの中で理解できるようになるのが大きい。

とくに面白いのは、学校という場が教育機関であると同時に、労働市場への接続装置でもあったことがはっきり見える点だ。教室と就職は別々の世界ではない。卒業の季節に空気が変わるあの感じ、進路指導室の静けさ、張り出された求人票の白さ。そうした光景の背後に、制度の長い歴史が横たわっていたことがわかる。

若年労働や就業移行に関心がある人にはかなり刺さる。産業社会学を学ぶとき、労働市場の入口を軽く扱いたくない人にすすめたい一冊だ。

7. 日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学(講談社現代新書)

産業社会学そのものの教科書ではない。だが、日本の雇用を理解する補助線としては、非常に強い一冊だ。雇用だけを切り離さず、教育や福祉とつながった社会の仕組みとして捉えるので、会社の中だけを見ていては見えないものが見えてくる。なぜ日本の働き方はこの形を取りやすいのか、その背景がすっと入ってくる。

新書らしく読みやすいが、中身は軽くない。日本社会の特徴を、単なる国民性や文化論で済ませず、制度と歴史の積み重ねとして描いているため、読後に残る納得感が大きい。産業社会学の本の合間に挟むと、点だった知識が線になりやすい。

働き方を考えているはずなのに、教育制度や福祉制度の話がなぜこんなに効くのか、と最初は不思議に感じるかもしれない。だが読み進めるうちに、仕事だけを見ていても日本の雇用はわからないことが腹落ちする。生活全体の設計と雇用の仕組みが、思っていた以上に深く噛み合っているのだ。

独学で遠回りしたくない人、専門書の前に日本社会の骨組みをつかんでおきたい人に向く。入門のあとに読むと、かなり見通しがよくなる。

8. 学歴主義と労働社会(MINERVA人文・社会科学叢書)

学歴と労働の結びつきは、誰もが知っているようで、案外きちんと考えたことがない。この本は、学歴が単なる個人の努力の証明ではなく、労働社会の秩序そのものとどう結びついてきたかを追う。採用、選抜、キャリア形成、評価の背後で、学歴がどんな役割を果たしているのかを正面から見せてくれる。

学歴主義の本というと、受験競争か教育格差の話に寄りやすい。だがこの本は、労働社会との接点が太い。学校を出ることと仕事に就くことが、別のイベントではなく、一続きの社会的配分の仕組みとして見えてくる。産業社会学にとって、教育が周辺ではなく中核の論点であることがはっきりわかる。

履歴書に並ぶ学歴の行は、紙の上では静かだ。だがこの本を読むと、その静かな数行の背後にある圧力や期待や選別の重さが見えてくる。誰がどの仕事に入れるのか、どこまで上がれるのか、どこで排除されるのか。冷たい現実を煽らずに、しかし逃げずに見せてくれるところがいい。

教育と仕事のつながりを深く考えたい人、学歴社会を感情論ではなく構造で捉えたい人にすすめたい。少し腰を据えて読む価値がある。

9. 高校就職指導の社会学 「日本型」移行を再考する

大学進学者の就職活動はよく語られるが、高卒就職の世界は見えにくい。この本は、その見えにくさを引き受けながら、高校就職指導という制度と実践を通して、日本の労働市場の入口を読み直していく。学校がどのように若者を仕事へ送り出してきたのか、その具体的な回路がよく見える。

読みどころは、「日本型」移行が当たり前の仕組みとして固定してきたものを、再考の対象にしているところだ。安定した移行として称揚されてきたものが、誰にとってどう機能していたのかを丁寧に問い直すので、制度の光と影が同時に浮かぶ。若者支援や就業移行の議論を深めたい人にも役立つ。

進路面談の緊張、先生の言葉の重さ、求人票の少なさや偏り。そうした高校現場の空気を知っている人には、かなり切実に響くはずだ。見落とされがちな高卒就職の現実が、単なるケースではなく、日本の労働市場を理解するための重要な窓として現れてくる。

産業社会学を学ぶなら、大学卒業者中心の視野に偏りたくない。その意味で、この本は読む価値が大きい。若年労働を具体的な制度の場から考えたい人に向いている。

10. キャリア社会学序説

キャリアという語は、自己啓発や転職ノウハウの文脈で軽く使われがちだ。この本は、その軽さをいったん退けて、職業経歴や人生の配分を社会構造の中で考え直す。キャリアを自己責任の物語に回収しないところに、この本の価値がある。

仕事の連続や断絶が、個人の意志だけで決まるわけではない。雇用制度、性別役割、学歴、家族責任、景気変動といった条件が、進路の選択可能性を狭めたり広げたりする。この本は、その当たり前なのに見落としやすい事実を、静かだが確かな筆致で示してくれる。

働いていると、「どんなキャリアを築くか」という問いに、どこか息苦しさがまとわりつくことがある。上を目指せという圧力、好きな仕事を選べという圧力、安定も失うなという圧力。この本を読むと、その息苦しさの一部が、個人の弱さではなく、社会がキャリアに背負わせている重さだとわかる。肩の力が少し抜ける読み心地がある。

転職や昇進のテクニックではなく、職業人生そのものを考えたい人に合う。産業社会学から一歩先へ進みたいときの定番として置きたい一冊だ。

現代の現場と論点を深める追補6冊

11. 外国人雇用の産業社会学 雇用関係のなかの「同床異夢」

いまの日本の産業社会学で、外国人雇用は避けて通れない論点になっている。この本は、企業と外国人労働者が同じ雇用関係の中にいながら、同じ未来を見ているわけではないことを描き出す。期待、利害、時間感覚、そのすれ違いが具体的に見えてくる。

読みどころは、外国人労働者を単なる受け手として置かず、雇用関係そのものの中で発生する緊張を見るところだ。企業側の管理や戦略だけでなく、労働者側の希望や判断も丁寧に拾うので、安い善悪の図式に落ちない。現代の職場が抱える複雑さが、よく伝わる。

職場に外国人の同僚がいる人なら、日々の会話や沈黙の意味を少し違う角度から考えられるようになるかもしれない。同じ現場に立ちながら、働く意味も滞在の見通しも異なる。そのずれが、現場の空気をどう変えるのか。読後には、職場の風景が少し立体的になる。

現代日本の職場を具体的に考えたい人にはかなり実践的だ。制度の話で終わらず、雇用関係の内側まで降りたい人に向いている。

12. 外国人労働者受け入れと日本社会 技能実習制度の展開とジレンマ

技能実習制度をめぐる議論は、ニュースでは見かけても、構造まで整理して理解するのは難しい。この本は、その難しさを正面から引き受けて、制度の展開と現場のジレンマを丹念に追っていく。なぜ問題が繰り返されるのか、どこに矛盾が埋め込まれているのかが見えてくる。

制度批判だけに傾かないところもいい。制度には制度なりの設計思想があり、現場には現場の事情がある。そのうえで、受け入れの仕組みがどのように労働力需要と結びつき、何を見えにくくしてきたのかを描く。制度と現場の両輪で読むべきテーマだとよくわかる。

産業社会学の本を読んでいると、職場の問題がしばしば制度の問題へつながっていく。この本は、その接続がとくにはっきりしている。工場や農場や建設現場の奥で起きていることが、政策の文言や制度設計と直結している。遠い話ではなく、社会の中心で起きていることとして迫ってくる。

移民労働や技能実習の問題を、感情的な賛否ではなく、構造として理解したい人にすすめたい。現代日本の労働問題を考えるうえで外しにくい一冊だ。

13. 建設労働と移民 日米における産業再編成と技能

建設という具体的な産業に降りることで、移民労働、技能、産業再編成の関係がぐっと鮮明になる本だ。抽象的な移民論や雇用論では捉えきれない現場の厚みがあり、日米比較という視点が入ることで、日本の特徴も浮き彫りになる。産業社会学らしい実証の強さがある。

建設業は、技能の継承、現場の統制、下請け構造など、働くことの核心が剥き出しになりやすい。そこに移民労働が重なると、労働市場の分断や再編の動きがはっきり見える。この本は、その複雑さを整理しながら、現場の具体性を失わない。机上の議論だけでは届かない場所まで連れていってくれる。

現場という言葉は便利だが、便利すぎることもある。この本を読むと、現場が単なる比喩ではなく、技能や身体や危険や序列がぶつかる場所だとわかる。土埃の匂いまで感じるような具体性の中で、産業再編の大きな流れを読む体験になる。

具体的な産業の中から社会学を学びたい人、移民労働を技能の問題まで含めて考えたい人に向く。周辺論点に見えて、かなり中核に近い本だ。

14. 産業変動の労働社会学 アニメーターの経験史

アニメ産業という一見特殊に見える世界から、産業変動が働き方にどう刻まれるかを読む本だ。だが読んでみると、これはけっして特殊な話ではない。技能の評価、不安定就労、仕事への情熱と搾取の近さ、産業の変化に揺さぶられる職業経験。多くの現代労働に通じる問題が詰まっている。

経験史というアプローチが効いていて、産業変動が数字や政策だけでなく、人の職業人生にどう入り込むかがよく見える。好きだから続ける、続けたいのに続けられない、誇りがあるのに報われない。そうした感情の襞まで含めて、労働の変化を読ませるところに独自性がある。

クリエイティブ産業に関心がある人はもちろん、そうでない人にも刺さる。働くことが自己表現や夢と結びついたとき、どんな種類の不安定さが生まれるのか。その問いは、いま多くの仕事に広がっている。夜更かしして読んでいると、画面の向こうの華やかさとは別の、静かな疲労が伝わってくる。

産業社会学を古典的な工場労働の話で終わらせたくない人にすすめたい。現代の産業変動を具体的な仕事から捉えるうえで、かなり印象に残る一冊だ。

15. 働く人のための感情資本論 パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学

職場のしんどさが、いつのまにか心の持ち方の問題へ押し込まれていく。その流れに違和感があるなら、この本はかなり効く。パワハラ、メンタルヘルス、自己管理、ライフハックといった現代的な語を通して、感情がどのように資本として動員されているかを読み解く。働くことの痛みを個人の弱さへ回収しない視点がある。

読みどころは、しんどさを単に告発するのではなく、それがどう社会的に組み立てられているかを見せる点だ。明るさや前向きさが求められ、回復さえ自己責任化される職場文化の中で、感情が管理されていく。その構造が見えると、ふだん口にしている「頑張る」「整える」という言葉の意味まで変わってくる。

疲れているときに読むと、刺さりすぎるかもしれない。だが、それでも読んでよかったと思える本だ。寝る前にスマホで仕事術の記事を流し見してしまう夜、無理に気分を上げようとして空回りする朝、そうした時間の背後にある社会の圧力が見えてくる。読後には、自分を責める角度が少し鈍る。

現代の働き方の痛みを考えたい人、感情労働やメンタルヘルスの問題を社会学で捉えたい人に向く。いま読む意義がかなり大きい本だ。

16. 労働社会学者・河西宏祐と労働者の共同性 「生活者としての労働者」の理論

入門をひと通り読んだあと、もう少し理論の足場を固めたくなったときに開きたい本だ。河西宏祐の仕事を手がかりに、労働者を単なる生産の担い手ではなく、「生活者としての労働者」として捉える視点をたどっていく。働くことを賃金や生産性の話だけに縮めないための理論がここにある。

共同性という言葉には、いま少し古びた印象を受ける人もいるかもしれない。だが、この本を読むと、その語が持つ厚みが見えてくる。職場の人間関係、連帯、生活世界、労働者の経験。そうしたものを切り捨てたままでは、労働をうまく理解できないことがわかる。産業社会学の系譜をたどるうえでも重要だ。

現代の働き方を考えていると、個人化の言葉ばかりが増えていく。自律、選択、キャリア、最適化。その中で、この本は別の重心を思い出させる。人は働く存在である前に生活する存在でもある。その当たり前のことが、理論として読み直されると、妙に新しく感じられる。静かな本だが、芯に残る。

産業社会学の定番を一段深く読みたい人、日本の労働社会学の系譜に触れたい人にすすめたい。最後に置く本としてよい重さがある。

読む順の目安

独学なら、次の流れがいちばん入りやすい。

1 → 2 → 3 → 4 で全体像をつかむ。
そのあと 7 → 5 → 6 → 8 → 9 → 10 で、日本の雇用、教育、移行、キャリアの骨格を固める。
最後に 11 → 12 → 13 → 14 → 15 → 16 と進むと、現代の論点と理論的な奥行きまできれいにつながる。

最初から全部を同じ密度で読む必要はない。まずは入門4冊のうち2冊、次に日本社会のしくみと日本的雇用システムを押さえるだけでも、産業社会学の地図はかなり見えてくる。その地図を持ってから現代課題へ入ると、話題ごとの断片知識で終わりにくい。

関連グッズ・サービス

本を読んだ後の学びを生活に根づかせるには、生活に取り入れやすいツールやサービスを組み合わせると効果が高まる。

通勤や移動の時間に少しずつ読み進めたいなら、電子書籍の読みやすさはやはり大きい。入門書と新書を中心に回す時期ほど、持ち運びやすさが効いてくる。

Kindle Unlimited

理論書は紙で腰を据えて、概説や周辺テーマは耳で入れる、という使い分けも相性がいい。産業社会学は概念が多いが、音声で先に耳を慣らしておくと本文に戻りやすい。

Audible

もうひとつあると便利なのは、線を引くための細めの付箋だ。産業社会学は、本同士のつながりが見えてきた瞬間に理解が深まる分野なので、学歴、移行、雇用、移民といった論点を色分けしておくと、あとで読み返したときに地図が崩れにくい。

まとめ

産業社会学の本を読む面白さは、仕事を「毎日の用事」から「社会のしくみ」へと引き上げてくれるところにある。入門書では、働くことが個人の資質だけで決まらないとわかる。日本型雇用や学校から仕事への移行を扱う本では、その仕組みが歴史の中で作られてきたと見えてくる。外国人雇用や感情資本の本まで進むと、いまの職場の揺れや痛みが、もっと広い社会変動の一部として感じられるようになる。

読む目的がはっきりしているなら、入り口は少し変えてよい。

  • まず全体像を知りたいなら、1 → 2 → 4
  • 日本型雇用の骨格を押さえたいなら、7 → 5 → 6
  • 若者の移行や学歴が気になるなら、8 → 9 → 10
  • 現代の外国人労働や職場のしんどさを考えたいなら、11 → 12 → 15

仕事の見え方が変わると、社会の見え方も変わる。遠回りに見えて、かなり実用的な読書になるはずだ。

FAQ

産業社会学の入門として、最初の1冊はどれがいいか

迷ったら『よくわかる産業社会学[第2版]』が入りやすい。論点の範囲が広く、仕事、職場、雇用、失業、キャリアまでを一冊で見渡せるからだ。もう少し「働くこと」そのものに寄せて入りたいなら、『「働くこと」を社会学する 産業・労働社会学』でもよい。どちらも、専門用語だけが先に走りにくい。

労働経済や経営学の本と、産業社会学の本はどう違うのか

労働経済は賃金や雇用の動きを数量や制度から捉えることが多く、経営学は組織運営やマネジメントの視点が強い。産業社会学は、そこに職場文化、移行、学歴、家族、移民、感情労働のような要素まで含めて、働くことの社会的な成り立ちを考える。数字や制度を軽視するわけではなく、それだけではこぼれる経験や構造を拾い上げる学問だ。

独学で16冊全部読む必要はあるか

全部読む必要はない。まずは入門4冊のうち2冊と、『日本社会のしくみ』を押さえるだけでも基礎はできる。そのあと、自分の関心に応じて分岐すればよい。日本型雇用を掘るなら5と6、若者の移行なら8と9、現代の外国人雇用や職場の痛みを考えるなら11、12、15が強い。産業社会学は、順番さえ外さなければ独学でもかなり積み上がる。

いまの働き方や転職の悩みに直結しやすい本はどれか

いちばん直結しやすいのは『仕事の社会学 改訂版 変貌する働き方』と『キャリア社会学序説』、それから『働く人のための感情資本論』だ。前者は働き方の変化を制度と職場の両面から整理し、後者二冊は職業人生や心のしんどさを自己責任で終わらせない視点をくれる。転職のノウハウ本の代わりというより、その前提を整える読書として効く。

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