労働社会学を学び直したいとき、困るのは「制度の本」「現場の本」「格差の本」がばらばらに見えてしまうことだ。この分野は、働き方そのものだけでなく、雇用、家族、ジェンダー、移民、ケアまでつながっている。まずは入門と定番で地図をつくり、そのあとで現代の争点へ降りていくと、仕事の見え方がかなり変わる。
- 労働社会学とは何か
- 迷ったらこの順で読む
- まずは全体像をつかむ入門・定番
- 日本の雇用システム、不平等、非正規を読む
- ジェンダー、昇進、ケア労働へ視野を広げる
- 外国人労働者、産業変動、これからの労働社会
- 関連グッズ・サービス
- まとめ
- FAQ
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労働社会学とは何か
労働社会学は、職場の中だけを見る学問ではない。会社の制度、賃金の決まり方、正規と非正規の線引き、昇進の仕組み、家事や介護との両立、外国人労働者の受け入れまで、「働くこと」を社会の構造として読む。個人の努力や性格の問題に見えやすいことが、じつは制度、慣行、歴史の積み重ねでできていると見えてくるのが、この分野の強みだ。
たとえば、同じように働いていても、雇用形態が違えば生活の安定感はまるで違う。あるいは、能力の差に見える昇進格差が、長時間労働を前提にした組織文化の差だったりする。労働社会学の本を読むと、職場で感じる息苦しさや違和感に、名前と輪郭が与えられる。目の前の仕事を離れて抽象論に飛ぶのではなく、むしろ日々の働き方を、もう少し正確に言葉にできるようになる。
独学では、最初から細かい実証研究に入るより、全体像をつかめる教科書と、雇用システムや不平等を扱う本を往復するのが読みやすい。そのうえで、ジェンダー、ケア、移民労働、産業変動へ進むと、労働社会学が一つの小さな専門分野ではなく、現代社会そのものを読む窓だとわかってくる。今回の20冊は、その流れが切れないように並べてある。
迷ったらこの順で読む
最初の3冊で全体像をつかむなら、1 → 3 → 7 が安定する。働くことの基本的な見取り図を入れてから、日本の雇用システムへ進む流れだ。
格差や非正規の問題を中心に読みたいなら、8 → 9 → 10 → 11 が効く。制度と実証と生活実態がつながりやすい。
女性労働やケアまで視野を広げたいなら、12 → 13 → 15 → 16 の並びが読みやすい。働くことの背後にある見えにくい負担が立ち上がる。
外国人労働者や産業変動まで追いたいなら、17 → 18 → 19 → 20 で後半を固めると、今の労働社会がかなり立体的に見えてくる。
まずは全体像をつかむ入門・定番
1. 仕事の社会学 改訂版 変貌する働き方(有斐閣/有斐閣ブックス)
最初の一冊をどれにするか迷ったら、ここから入るのがいちばん崩れにくい。労働社会学の本は、制度寄りに傾くと乾いて見え、現場寄りに傾くと断片的に見えやすい。その両方のあいだに橋をかけてくれるのがこの本だ。働き方の変化を追いながら、個人のキャリア、企業の雇用管理、社会の制度変化を同じ地平で見せてくれる。
読みどころは、「仕事が変わった」という感覚を、単なる時代の空気で終わらせないところにある。非正規雇用の拡大、成果主義、キャリアの個人化のような論点が、ばらばらの話題ではなく、同じ流れの中に置かれる。職場で起きていることが、会社だけの話ではなく、教育や福祉や家族のあり方とも結びついていると見えてくる。
文章は教科書として端正だが、硬すぎない。独学で読み進めるときにも、概念だけが空中に浮かず、「自分の働き方にも関係している話だ」と感じやすい。仕事に慣れていない学生にも、働き疲れた社会人にも届く本だ。読後には、職場のルールや評価の仕方が、ずいぶん人工的につくられたものだとわかる。その気づきが、労働社会学の入口として大きい。
2. よくわかる産業社会学(ミネルヴァ書房/やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)
一気に通読する本というより、机の横に置いて何度も引く地図帳のような一冊だ。見開きごとに論点が整理されているので、産業社会学と労働社会学の基本語彙を一度に見渡しやすい。専門書を読み始める前に、「そもそも何が論点なのか」をつかみたい人に向く。
この本のいいところは、浅く広いだけで終わらないところにある。職場、組織、雇用、労使関係、ジェンダー、グローバル化といったテーマが、後で別の本に進むための足場としてきちんと配置されている。知らない用語に出会っても、まずここへ戻れば位置が確かめられる。独学では、この「戻れる本」があるだけでずいぶん楽になる。
読んでいると、働くことが個人の努力論では説明しきれないと自然にわかってくる。会社の中の出来事と、社会全体の制度が、同じページの上でつながって見えるからだ。最初の一冊を読みきる自信がまだない人でも入りやすい。薄く見えて、後から効いてくるタイプの定番である。
3. 「働くこと」を社会学する 産業・労働社会学(有斐閣/有斐閣アルマ)
タイトルどおり、「働くこと」そのものを正面から考える本だ。労働社会学というと、どうしても雇用制度や企業組織の話に見えがちだが、この本は、働くことが人の生き方や時間の使い方、家族との関係、将来の見通しとどう重なるかを丁寧に見せてくれる。
非正規雇用、若者雇用、ワークライフバランスなど、現代の生活に直結する論点が多いのも強い。どれもニュースで見聞きしたことのある言葉だが、社会学の文脈に置かれると、印象論ではなく構造の話として読める。働くことが単なる収入獲得ではなく、承認、所属、自己形成の問題でもあると、じわじわ入ってくる。
教科書系の本なのに、読後の手触りが意外と個人的だ。帰りの電車の中や、遅い夕方のコンビニの明かりの下で、ふと自分の働き方を考えてしまうような余韻がある。制度と日常が近い距離で書かれているからだ。現代的な論点から労働社会学に入りたい人には、とても相性がいい。
4. 新しい産業社会学(有斐閣/有斐閣アルマ)
入門書を一冊読んだあと、視野を少し広げたいときに置くと効く本だ。産業と労働を、国内の職場問題としてだけでなく、より大きな社会変動の中で捉え直す。仕事の内容が変わること、産業構造が変わること、人の働き方が変わることが、別々ではなく同時に進むと見えてくる。
本書の魅力は、理論を押しつけるのではなく、変化そのものの見方を教えてくれるところにある。過去には安定に見えた雇用慣行も、じつは一定の歴史的条件のうえに成り立っていたにすぎない。そうした視点が入ると、「昔はよかった」「今は不安定だ」という単純な比較では足りなくなる。
独学では、ここで一度、働くことを“自分の職場の話”から少し離して考える時間が必要になる。この本は、その距離の取り方がうまい。社会全体の変化を見ながら、同時に個人のキャリアや不安も見失わない。抽象度が少し上がるが、そのぶん後半の本へつながる力が強い。
5. 21世紀の産業・労働社会学 「働く人間」へのアプローチ(ナカニシヤ出版/単行本)
近年の労働社会学の広がりを知るのに向いた編著だ。ひとりの著者の視角に沿って一直線に進む本ではなく、複数の論者がそれぞれの切り口から「働く人間」に近づいていく。そのため、読んでいて風通しがよく、いまこの分野で何が問題になっているのかが見えやすい。
とくにいいのは、働く人を、単なる労働力でも、統計上の単位でもなく、生活を背負った存在として扱っているところだ。雇用、組織、格差、アイデンティティ、周辺化といった論点が、一つの職場の出来事だけでは済まないとわかる。現代の労働問題の複雑さに、無理に一本線を引かない姿勢も信頼できる。
少し発展的だが、教科書だけでは物足りなくなった頃に読むと、一気に景色が広がる。働くことは経済現象であると同時に、文化や規範や感情の問題でもある。そうした当たり前だが見落としやすい点を、静かに何度も思い出させてくれる本である。
6. 経営と労働の社会学(東京大学出版会/単行本)
少し古めの本だが、経営と労働を切り離さずに考える感覚を養うには、いまでも厚みがある。職場の問題を、労働者側の苦しさだけで読むのでもなく、経営の合理性だけで読むのでもない。その緊張関係そのものを社会学の対象として見ようとする姿勢が通っている。
働く現場では、管理はしばしば効率の名で語られ、労働はしばしば権利の名で語られる。そのどちらも必要だが、現実にはいつもきれいに噛み合わない。本書は、その噛み合わなさを、制度、組織、利害の絡み合いとして読ませる。だから、古く見えても今の職場にそのまま重なる部分がある。
新しい本だけで棚をつくると、どうしても現在の言葉だけで分野を理解した気になりやすい。この本を挟むと、経営と労働の関係が、長く続いてきた構造的な問題だと実感できる。腰を据えて考えたい人には、こういう一冊があとから効く。
日本の雇用システム、不平等、非正規を読む
7. 日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学(講談社/講談社現代新書)
日本の雇用を理解したいなら、この本は外しにくい。会社の採用や昇進の話だけでなく、教育、福祉、家族のあり方まで含めて、日本社会がどう組み合わさってきたかを大きく描く。労働問題を単独で見るのではなく、「なぜこういう仕組み全体になったのか」までさかのぼれるのが強い。
読み進めると、正社員中心の雇用慣行が、企業の中だけで自生したものではないとわかる。学校から職場への移行、性別役割分業、家族の支え方、社会保障の設計が、互いを補強しながら回ってきた。その全体像が見えると、働き方改革のような表面的な制度変更だけでは、何が変わりにくいのかも見えてくる。
文章には推進力があり、歴史社会学の本でありながら読みやすい。読み終えるころには、職場の不条理が「たまたまの会社文化」ではなく、日本社会の深い配線の中にあると感じるはずだ。労働社会学を一段深く読むための、かなり重要な定番である。
8. 新しい労働社会 雇用システムの再構築へ(岩波書店/岩波新書)
制度の側から日本的雇用を整理したいときに、非常に頼りになる一冊だ。労働社会学の棚に政策寄りの本を入れると冷たく見えがちだが、この本は制度を通して人の働き方を見ている。そのため、ルールや慣行の話が、ちゃんと生活の話として読める。
長期雇用、職能資格、メンバーシップ型の働き方、非正規の位置づけといった論点が、混線せずに整理されていく。ニュースで耳にする言葉の輪郭がはっきりし、なぜ日本の雇用改革がいつも中途半端に見えるのか、その理由もつかみやすい。制度を知るだけでなく、制度が人をどう縛るかまで見えるのがいい。
少し乾いた語り口ではあるが、そのぶん独学には向いている。感情に寄りすぎず、でも現実離れもしない。職場の慣行を当然と思わず、一度外から眺めるための新書として、とても優秀だ。7冊目と合わせて読むと、日本の雇用の骨格がかなり固まる。
9. 仕事と不平等の社会学(弘文堂/現代社会学ライブラリー)
労働社会学を学ぶと、結局ぶつかるのが不平等の問題だ。この本は、仕事の世界がどう格差を生み、再生産しているのかを正面から扱う。賃金、雇用形態、キャリア、機会配分といった要素が、ばらばらではなく一つの不平等の構造として組み上がっていく感覚がある。
ここで重要なのは、不平等を単純な善悪で語らないことだ。誰かの悪意だけで格差が生まれるわけではなく、制度、組織、慣行、期待の配分が静かに積み上がって差をつくる。その過程が見えると、職場で起きる些細な選抜や役割分担まで、別の意味を帯びてくる。
読むと少し気持ちが重くなる本でもある。だが、その重さこそが必要だと思わせる。努力の物語だけでは拾えない現実が、ここにはある。仕事をめぐる生きづらさに言葉を与えたい人には、かなり刺さるはずだ。
10. 就業機会と報酬格差の社会学 非正規雇用・社会階層の日韓比較(東京大学出版会/単行本)
非正規雇用と格差を、印象ではなく実証で考えたい人に向く本だ。しかも日韓比較という形をとっているため、日本の問題を日本の中だけで閉じずに見られる。比べる相手があるだけで、いつもの制度が急に相対化される。これは独学ではかなり大きい。
就業機会と報酬格差という、一見すると冷たい数字の話が、じつは人生の幅や選択肢の差につながっているとよくわかる。非正規雇用は単に不安定というだけではなく、その後のキャリア形成や社会移動にまで影響する。その連鎖が、丁寧に読み解かれていく。
実証研究らしい緻密さがあるぶん、最初の一冊には向かないかもしれない。だが、入門を読んだあとに手を伸ばすと、労働社会学が“雰囲気の批評”ではないことを実感できる。数字の向こうに、人の時間と可能性が見えてくる本である。
11. 非正規という働き方と暮らしの実像 ジェンダー・法制・労働組合を問い直す(旬報社/単行本)
制度や統計を読んだあとで、この本に入ると空気の温度が変わる。非正規雇用を、単なる雇用区分としてではなく、暮らしそのものにしみ込んだ現実として描くからだ。月末の不安、将来設計の曖昧さ、職場での扱われ方の差が、抽象語ではなく生活の重みとして迫ってくる。
しかも、ジェンダー、法制、労働組合の論点が同時に入るため、非正規問題が一方向のテーマではないとわかる。法制度だけ整えれば済むわけでもなく、職場文化だけ変えれば済むわけでもない。その複雑さを、むやみに整理しすぎずに見せるところに価値がある。
働き方の話を読んでいるつもりが、いつのまにか暮らしの話、承認の話、孤立の話へ踏み込んでいる。そういう本だ。理屈だけでは足りない、でも感傷だけにも流れたくないときにちょうどいい。労働社会学の中盤で読むと、後半のジェンダーやケアの本にも自然につながる。
ジェンダー、昇進、ケア労働へ視野を広げる
12. 21世紀の女性と仕事(左右社/放送大学叢書)
女性労働を学ぶ本としてだけでなく、日本の労働構造全体を見直す本として読める。女性の就業をめぐる問題は、しばしば当事者の選択や意欲の問題に矮小化されるが、この本はそうした見方をきっぱり退ける。教育、雇用慣行、法制度、家族役割の絡み合いの中で、女性の仕事がどう位置づけられてきたかが見えてくる。
読みどころは、女性の働き方を例外的なテーマにしないことだ。むしろ、女性をめぐる問題を読むことで、日本の雇用の“標準”がどんな偏りを抱えているかが浮かび上がる。長時間労働を前提にした昇進、出産や育児と衝突するキャリア設計、非正規への押し込み。どれも個別の不運では済まない。
この本を読むと、働くことの公平さが、表面的な機会均等だけでは測れないとわかる。明るいオフィスや制度の文言では見えない壁が、生活時間の配分の中に沈んでいる。静かだが強い本である。
13. なぜ女性管理職は少ないのか 女性の昇進を妨げる要因を考える(青弓社/青弓社ライブラリー)
タイトルは直球だが、中身は単なる啓発書ではない。女性管理職が少ない理由を、個人の意欲や能力の問題に回収せず、組織内の昇進ルールや評価慣行の側から問い直していく。昇進格差が、見えにくい形でどのように再生産されるのかが丁寧に掘られている。
とくに効くのは、「差別は露骨な排除だけではない」という感覚だ。会議の時間、異動の前提、長く働ける人を標準とする評価、非公式な人脈のつくり方。そうした細部が積み重なることで、結果として管理職の顔ぶれが偏っていく。その構造が見えると、単なる“女性活躍”の掛け声が急に頼りなく思えてくる。
働く現場に身を置いている人ほど、刺さる部分が多い本だと思う。どこかで見た光景、聞いたことのある言い分が、理論の言葉で説明される。読み終わると、昇進の問題は組織の奥行きを測る問題でもあると感じるはずだ。
14. 女性はなぜ活躍できないのか(東洋経済新報社/単行本)
やや一般向けの語り口だが、その分、女性労働の構造問題を一段やわらかくつかみたい人には入りやすい。数字や制度の話が、日常の納得感に引き寄せられて書かれているので、専門書の前後どちらに置いても使いやすい。
この本のよさは、個人を責めないところにある。努力不足でも、意識の問題でもなく、活躍できないように組まれている環境がある。その見方を、肩に力を入れすぎずに伝える。読みながら、自分の職場や身近な組織の景色が自然に重なってくる。
理論書の切れ味とは少し違うが、労働社会学の棚に一冊入れておく意味は大きい。現実の違和感から問題に入れるからだ。専門用語の前に、まず何がおかしいのかを言葉にしたい人に向く。
15. 労働のジェンダー化 ゆらぐ労働とアイデンティティ(平凡社/単行本)
労働そのものが、最初から中立ではなかったと気づかせる本だ。仕事の内容、役割期待、熟練の評価、責任の配分。そうしたものが、性別から自由な基準で決まっているわけではない。むしろ、労働の世界は深いところでジェンダー化されてきた。その構造を考えるうえで、この本は非常に重要だ。
働くこととアイデンティティがどう結びつくのかを読む場面では、とくに印象が残る。何を“向いている仕事”とみなすのか、どんなふるまいが職業的だとされるのか。そうした基準に、性別化された期待が入り込んでいるとわかると、職場の空気の見え方が変わる。
少し考えながら読む本だが、そのぶん読後の視界は広い。ジェンダー論としてだけでなく、労働の価値づけがどうつくられるかを問う本としても読める。独学でここまで来ると、労働社会学がかなり深く身体に入ってくる。
16. ケア労働の配分と協働 高齢者介護と育児の福祉社会学(東京大学出版会/単行本)
労働社会学を読んでいると、どこかで必ずぶつかるのがケアの問題だ。家の中で行われる介護や育児、あるいは専門職として担われるケアは、なぜこんなに過小評価されやすいのか。本書は、その配分と協働を社会構造の側から読み解く。
ここで扱われるのは、単に“やさしさ”の問題ではない。誰がどれだけケアを引き受けるのか、どこまで家族が担い、どこから制度が支えるのか、その境界線が労働の形を決めている。ケアを見ないまま労働を論じると、社会の半分以上を取り落とすとよくわかる。
読後には、働くことと生活を切り分ける発想そのものが、かなり限定的だったと感じるはずだ。忙しい日常の中で当たり前に押し込められている負担が、社会的に配分されたものとして見えはじめる。その見え方の変化は大きい。
外国人労働者、産業変動、これからの労働社会
17. 外国人雇用の産業社会学 雇用関係のなかの「同床異夢」(有斐閣/単行本)
ASIN:4641174849
近年の労働社会学で、とくに外しにくい一冊だ。外国人労働者の受け入れを、人手不足の補完という単純な図式ではなく、雇用関係のズレとして読む。企業、現場、日本人労働者、外国人労働者の思惑が少しずつ食い違いながら、それでも制度が動いていく。その「同床異夢」という見方が鋭い。
読みどころは、外国人雇用を善悪の二項対立で捉えないところにある。必要だから受け入れる、でも対等には扱われない。期待はする、でも権利やキャリアは限定される。そうした矛盾が、雇用関係の具体の中でどう生まれるかが見えてくる。
いまの日本の労働を考えるなら、このテーマはもう周辺ではない。職場の多国籍化、技能実習や特定技能をめぐる議論、地域社会との摩擦まで、論点は広い。だが本書は、それらを散らさず、雇用関係という芯で束ねている。後半の柱としてかなり強い本だ。
18. 越境する雇用システムと外国人労働者(東京大学出版会/単行本)
外国人労働者をめぐる現実を、フィールドワークの手触りから読みたいなら、この本がいい。制度論だけでは見えにくい現場の摩擦、調整、期待のずれが、越境する雇用システムという視点で描かれる。国境をまたいだ労働移動が、単に人の移動ではなく、雇用システムそのものの揺れを伴うとわかる。
読んでいて印象に残るのは、外国人労働者の受け入れが、ただ新しい労働力を足す話ではないことだ。企業の管理の仕方、地域社会との距離、働く側の将来設計、日本の雇用慣行そのものが問われる。つまり、外国人労働者の問題は、実は日本の労働社会の自己像を映す鏡でもある。
17冊目と並べて読むと、制度と現場の両方から視野が深まる。少し専門的だが、そのぶん読み終えたときの解像度が高い。ニュースの見え方が変わるタイプの本だ。
19. 産業変動の労働社会学 アニメーターの経験史(晃洋書房/単行本)
特定産業の変化を、労働社会学でどう読むか。その見本としてとてもいい一冊だ。アニメーターという、創造性と不安定さが隣り合う仕事を通じて、産業変動が労働の経験をどう変えるかを追う。業界本のようでいて、しっかり社会学の本である。
この本が面白いのは、華やかな作品の裏側にある労働の歴史を描いているからだ。技能形成、キャリア、収入、働く誇り、消耗。そうした要素が、産業の変化とともにどう揺れたのかが見えてくる。ひとつの業界の話なのに、読んでいるうちに他の不安定労働へも自然に連想が広がる。
後半にこういう具体的な一冊が入ると、理論や制度の本で学んだことが一気に現場へ降りてくる。仕事とは何か、熟練とは何か、好きな仕事と搾取はどう重なるのか。静かな問いが長く残る本だ。
20. 国際労働移動の社会学 日本の外国人労働者受入れ1985-2025(明石書店/単行本)
最新動向まで視野に入れたい人に置いておきたい新刊枠だ。1985年から2025年までを射程に、日本の外国人労働者受け入れを長い時間軸でたどる。足元の制度変更や社会的議論だけを追うのではなく、受け入れの歴史的な積み重ねとして読めるところが大きい。
労働移動の本は、制度や国際関係の話に寄りすぎると遠く感じられることがある。だが、このテーマは今や介護、建設、製造、外食など、多くの職場の現実と結びついている。だからこそ、長いスパンで日本の受け入れがどう変わってきたかを押さえる意味がある。
記事の最後にこの本を置くと、労働社会学が過去の雇用慣行を整理するだけの分野ではなく、これからの社会を考える学問だとよくわかる。予約枠ではあるが、現代の争点に接続する締めとしてかなりいい位置にある。
関連グッズ・サービス
本を読んだ後の学びを生活に根づかせるには、生活に取り入れやすいツールやサービスを組み合わせると効果が高まる。
移動中や仕事の合間に少しずつ読み進めたいなら、電子書籍の環境があると続けやすい。社会学の本は一気読みより、前後を行き来しながら線を引く読み方が向いている。
耳から入る読書は、制度や歴史の大きな流れをつかむときに相性がいい。通勤や家事の時間に本の輪郭だけでも先に入れておくと、紙で読むときの理解がかなり深まる。
もう一つあると助かるのが、軽い電子書籍リーダーだ。労働社会学の本は章ごとに立ち止まりたくなるので、メモを残しながら読む環境があると独学の定着が違ってくる。夜に少しずつ読み返す習慣がつくと、職場で感じる違和感の言語化が早くなる。
まとめ
労働社会学の面白さは、仕事の話をしているうちに、家族、教育、福祉、ジェンダー、移民までつながってくるところにある。前半の入門書で地図をつくり、中盤で日本の雇用システムと不平等を押さえ、後半でケアや外国人労働者まで広げると、「働くこと」が個人の努力や適性だけでは説明できないとよくわかる。
- まず全体像をつかみたいなら、1・3・7
- 非正規や格差を重点的に読みたいなら、8・9・10・11
- 女性労働やケアまで視野を広げたいなら、12・13・15・16
- いまの日本の変化を知りたいなら、17・18・20
仕事のしんどさに名前がつくと、景色は少し変わる。そこから先は、読んだ分だけ見えるものが増えていく。
FAQ
労働社会学の入門として最初の1冊だけ選ぶなら、どれがいいか
迷いが強いなら『仕事の社会学 改訂版 変貌する働き方』が入りやすい。制度、働き方の変化、個人のキャリアの話が一冊の中でつながっていて、専門書に入りやすい足場になる。見開きで確認しながら進めたいなら『よくわかる産業社会学』を先に置いてもいい。まず地図をつくり、そのあと本格的な本へ進むと独学が途切れにくい。
労働社会学と労働経済学はどう違うのか
労働経済学は、賃金、雇用、労働市場を数量的・制度的に捉えることが多い。一方で労働社会学は、同じ雇用や賃金の問題を扱っていても、家族、ジェンダー、組織文化、承認、アイデンティティのような要素まで含めて考える。数字の差だけでなく、その差がどういう生活や関係の中で生まれるのかまで見るところに特徴がある。両方を行き来すると理解が深まる。
非正規雇用の問題を重点的に読みたい場合はどの本から入るべきか
順番としては『新しい労働社会』で制度の骨格をつかみ、そのあと『仕事と不平等の社会学』で格差の構造を押さえ、『就業機会と報酬格差の社会学』で実証的に確かめる流れがよい。最後に『非正規という働き方と暮らしの実像』へ進むと、制度と数字の話が生活の現実に落ちてくる。単発で読むより、この順で重ねたほうが理解が残る。
ジェンダーやケアの本は、労働社会学の本棚に本当に必要か
必要だ。むしろ、ここを抜くと労働社会学の理解はかなり片寄る。誰が長く働ける前提になっているのか、誰のケア負担が見えないままになっているのか、昇進や評価の基準は誰に有利にできているのか。そうした問いは、仕事の世界の中心にある。『21世紀の女性と仕事』や『ケア労働の配分と協働』を読むと、そのことがよくわかる。
外国人労働者の本は、入門のあとすぐ読んでも大丈夫か
大丈夫だが、先に日本の雇用システムを一冊読んでおくと理解が深くなる。おすすめは、1か3を読んだあとに7か8へ進み、そのうえで17や18に入る流れだ。外国人労働者の問題は、それだけで独立したテーマではなく、日本の雇用慣行や職場文化の特徴を映し出す鏡でもある。土台があると、読みながら論点が立体的に見えてくる。



















