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【バートレット心理学おすすめ本】記憶は“再構成”される—スキーマ/偽記憶まで網羅の15選

「記憶」とは、過去をそのまま保存しているわけではない。心理学者フレデリック・バートレットは、記憶は“再構成”される行為だと喝破した。自分の経験や知識(スキーマ)に基づいて、思い出すたびに形を変える――それが人間の記憶だ。この記事では、バートレット心理学・記憶再構成・偽記憶・スキーマ理論に関する名著15冊を紹介する。実際に読んで「記憶の仕組みを根底から覆された」と感じた本ばかりだ。

 

 

フレデリック・バートレットとは?

フレデリック・チャールズ・バートレット(Frederic Charles Bartlett, 1886–1969)は、イギリスの心理学者であり、「記憶は再構成される」という発想を初めて体系化した人物だ。ケンブリッジ大学で心理学を教え、『Remembering(想起)』(1932)を発表。この著作で、人間の記憶は過去の出来事を“そのまま再生する”のではなく、個人の経験・文化・価値観に基づいて“再構成”する過程であると示した。

彼は当時主流だった実験心理学の「刺激―反応」モデルを超え、物語再生実験「The War of the Ghosts(幽霊の戦争)」で、人が物語を思い出すたびに省略・変形・再編を行うことを実証した。この研究は後の「スキーマ理論(Schema Theory)」の礎となり、発達心理学のピアジェ、文化心理学のヴィゴツキー、知覚心理学のギブソンらに大きな影響を与えた。

バートレットの思想は、現代では「偽記憶研究」「法廷心理学」「メタ記憶」「AIの記憶モデル」などに継承されている。記憶を“創造的プロセス”としてとらえる視点は、人間の認知を理解する上で今なお最前線にある。

おすすめ本15選

1. 記憶の心理学:基礎と応用(誠信書房/単行本)

アメリカの認知心理学者ガブリエル・ラドヴァンスキーによる、記憶研究の定番テキスト。感覚記憶・短期記憶・長期記憶の区別だけでなく、「再構成的記憶」「スキーマ」「エピソード記憶」「意味記憶」といった現代心理学の主要概念を網羅する。特に第4章では、バートレットの再構成理論をベースに、想起の過程を“生成的推論”として描き出す。記憶を単なる貯蔵庫ではなく“動的な構築プロセス”とする立場を理解できる。

刺さる読者像:心理学部生・教育者・臨床心理士志望者。単なる暗記ではなく、なぜ「思い出が歪む」のかを体系的に知りたい人。

おすすめポイント:読んでから、人の発言やニュースの“思い出し方”を見る目が変わった。自分の記憶も常に更新されているという実感を持てる。

2. 想起:過去に接近する方法(東京大学出版会/単行本)

 

森直久によるバートレット研究の決定版。「Remembering(想起)」を文化的・社会的営みとして再解釈し、人が過去をどう“再構成”するのかを哲学・認知科学・現象学の視点で論じる。ギブソンの生態心理学やヴィゴツキーの文化心理学とも接続し、記憶が個人だけでなく共同体によって形成されることを示す。引用が丁寧で、バートレットの原典に触れる前のガイドとしても最適。

刺さる読者像:記憶研究・哲学・文化心理に興味のある人。原典を読む前に全体像を掴みたい大学院生や研究者。

おすすめポイント:記憶を「過去の再生」ではなく「過去との対話」として描く視点に衝撃を受けた。人の語りがなぜ変わるのかが腑に落ちる。

3. 記憶現象の心理学:日常の不思議な体験を探る(北大路書房/単行本)

 

アン・M・クリアリーによる、錯覚的記憶・既視感・虚偽記憶など“再構成のズレ”に焦点を当てた実験的研究。なぜ「見た気がする」「聞いた気がする」が起こるのか。バートレット以降の再構成理論を神経心理学的に検証する。著者はメタ認知と再認記憶の権威であり、英語論文ベースの知見をやさしい語りで紹介。認知バイアスやAIの誤認知にも応用できる内容。

刺さる読者像:心理学・脳科学・AI研究者。日常的な「記憶違い」を科学的に説明したい人。

おすすめポイント:自分の“うろ覚え”がどれほど創造的かを実感した。思い出すことは、想像することでもあると気づかされる。

4. 記憶と情動の脳科学 ―「忘れにくい記憶」の作られ方(講談社ブルーバックス/新書)

 

ジェームズ・マッガウらが、恐怖・快楽といった情動が記憶の定着に与える影響を解明。アドレナリンと扁桃体の連携が、なぜ“強い記憶”を作るのか。バートレットの再構成論を神経科学のレベルにまで下ろした一冊。脳科学の知識がなくても理解しやすいよう、実験例や動物研究が多数掲載されている。

刺さる読者像:感情と記憶の関係に関心をもつ一般読者・医療従事者・教育者。

おすすめポイント:感情が記憶を支配するという感覚を、科学的に裏づけられた。トラウマやフラッシュバックを理解する手がかりになる。

5. 人間の記憶 ― 認知心理学入門(東京大学出版会/単行本)

 

日本の認知心理学の草分け・佐藤義典による教科書的名著。バートレット以降の記憶モデルを実験データとともに解説する。エピソード記憶・意味記憶・手続き記憶を区分し、「スキーマによる再構成」がどのようにエラーを生むかを示す。図版が豊富で、大学初学者にも最適。バートレット、アトキンソン&シフリン、トルヴィングといった理論を横断的に理解できる。

刺さる読者像:心理学初学者・教育関係者。基礎から記憶の理論をしっかり学びたい人。

おすすめポイント:専門書なのに読みやすい。バートレットの理論がどこに生きているのかが具体的にわかる。

6. 目撃証言

 

認知心理学者エリザベス・ロフタスによる世界的名著。バートレットが提唱した「記憶の再構成」は、法廷心理学の実践にまで及んだ。その最前線に立つのが本書だ。著者は数多くの実験を通して、質問の仕方や言葉のニュアンスが目撃者の記憶をどのように“書き換える”かを示す。事実の記録ではなく、解釈と再構成の産物としての記憶を暴く。

刺さる読者像:裁判・法心理・報道関係者、あるいは「人の証言はどこまで信じられるか」に関心を持つ読者。

おすすめポイント:実際の事件で“虚偽記憶”がどのように生まれるかを理解できる。人間の認知の脆さが現実にどれほど大きな影響を与えるかがリアルに伝わる。

7. 目撃者の証言(誠信書房/単行本)

 

岩男潤二・黒川正流による国内研究の決定版。ロフタス理論を日本文化・司法文脈に適用した貴重な書籍で、バートレットの再構成モデルを法廷でどう扱うかを具体的に論じる。供述調書・取り調べ・尋問といった現場の言語構造が、記憶再構成をどう誘発するかを分析。臨床心理学・社会心理学の視点も交え、法の現場に生きる“記憶”を描く。

刺さる読者像:司法関係者、心理士、公認心理師。現場の聞き取りに潜むリスクを理解したい人。

おすすめポイント:尋問の質問一つで記憶が変容するという現実を突きつけられる。教育・企業ヒアリングにも応用可能だ。

8. 抑圧された記憶の神話:偽りの性的虐待の記憶をめぐって(誠信書房/単行本)

 

スーザン・クランシーによる衝撃的問題作。1990年代のアメリカでは、“回復された記憶療法”を通じて、過去に虐待を受けたという“偽記憶”が社会問題化した。著者は臨床と科学の両側面からこの現象を検証し、記憶の再構成が心理療法の現場でいかに誤用されうるかを明らかにする。バートレット理論が社会倫理にまで波及した事例として必読。

刺さる読者像:臨床心理士、精神科医、カウンセラー。記憶を扱う職業に就く人すべて。

おすすめポイント:患者の語る“思い出”が真実かどうかを問うことの難しさを痛感する。再構成的記憶の倫理的側面を深く考えさせられる。

9. 証言の心理学:記憶を信じる、記憶を疑う(中公新書/新書)

高橋雅延による日本の第一人者による解説書。法廷・教育・日常会話において、私たちは「自分の記憶が正しい」と信じているが、実際には絶えず再構成されている。バートレット理論からロフタス実験、そして現代の脳科学までを通史的に整理。心理学の専門知識がなくてもスムーズに読める。

刺さる読者像:一般読者・学生・ジャーナリスト。人の言葉や記憶を扱う全ての職業人に。

おすすめポイント:短時間で「記憶とは何か」がわかる。自分の証言もまた“創られた物語”かもしれないという気づきを得られる。

10. つくられる偽りの記憶:あなたの思い出は本物か?(DOJIN文庫/文庫)

著者ジュリア・ショウは犯罪心理学者として“人はどのようにして偽の記憶を信じ込むのか”を実証的に追う。読者に“実験”を仕掛けながら、いかにして脳が“虚構の過去”を現実と誤認するのかを体験的に示す。バートレット理論を現代に継ぐ、科学エンターテインメントのような一冊。

刺さる読者像:一般読者・教育者・マーケター。人が「本当だと思い込む」心理のメカニズムに興味がある人。

おすすめポイント:自分の過去も「編集済み」かもしれないと気づく。読み終えた後、記憶の信頼性に疑いを抱くようになるほど衝撃的。

11. 記憶のしくみ 上(講談社ブルーバックス/新書)

認知科学者・池谷裕二の師でもあるラリー・スクワイアによる「記憶の百科」。神経細胞のシナプスから人間の自伝的記憶まで、記憶の構造とメカニズムを横断的に描く。バートレット的な“記憶の再構成”を脳レベルで説明しており、特に扁桃体・海馬・前頭葉の相互作用が「再構成プロセス」を生み出すことを明示している。図版・脳画像が多く、理解しやすい。

刺さる読者像:脳科学・心理学・教育・医療の専門家。科学的根拠に基づいて記憶を理解したい人。

おすすめポイント:理論だけでなく、生物学的実体としての「再構成過程」が見える。読み応えがありながらもブルーバックスらしい平易さが魅力だ。

12. 記憶のしくみ 下(講談社ブルーバックス/新書)

上巻に続き、忘却・想起・再構成の動的メカニズムに焦点を当てる。特に「思い出すたびに記憶は上書きされる」という章は、バートレット理論の神経科学的裏づけとして非常に重要だ。再認・想起テスト、PTSD・トラウマ記憶、創造的想起などを網羅し、応用の幅も広い。

刺さる読者像:心理学・医療・教育関係者。記憶の脆さとしなやかさを科学的に理解したい人。

おすすめポイント:自分の“思い出す癖”がいかに脳の再編集作業であるかがわかる。臨床現場での記憶理解に役立つ一冊。

13. ワーキングメモリ:思考と行為の心理学的基盤(誠信書房/単行本)

アラン・バトリーによるワーキングメモリ理論の決定版。記憶を「短期貯蔵」ではなく「能動的な作業空間」と捉え、思考・理解・推論・感情調整の中心に据える。バートレットの再構成的記憶理論を現代化したモデルといえる。特に「中央実行系」の働きは、スキーマに基づく再構成過程の“制御機構”として理解できる。

刺さる読者像:学習・教育・認知心理学・AI研究に関わる読者。知的活動の基盤として記憶をとらえ直したい人。

おすすめポイント:記憶が単なる保存ではなく、思考を支える“生きた構造”であると実感できる。学び方・考え方が変わる一冊。

14. メタ記憶:記憶のモニタリングとコントロール(北大路書房/単行本)

メタ認知研究の第一人者ネルソン&ナレンスの理論を軸に、記憶の「自分で自分を見張る」仕組みを解説。再構成的記憶が誤る原因と、それを自己修正する力の両方を扱う。学習・教育心理学の実践にも応用され、試験・カウンセリング・リハビリで役立つ理論が満載だ。

刺さる読者像:教育現場の指導者、臨床心理士、自己学習法を磨きたい一般読者。

おすすめポイント:人間の記憶はミスをする。しかし、そのミスを検知し修正する「メタ記憶」が私たちを支えている――その実感を得られる。

15. メタ認知で〈学ぶ力〉を高める:認知心理学が解き明かす効果的学習法(北大路書房/単行本)

学習心理学の観点から、再構成される記憶を“どう活かすか”に焦点を当てた応用書。記憶は不完全だが、それゆえに柔軟に修正・更新できる。本書は、その仕組みを生かした「思い出し練習」「自己テスト」「リトリーバル練習」などの学習戦略を紹介。バートレット理論の実践書ともいえる内容だ。

刺さる読者像:学生・教員・資格試験受験者・社会人学習者。効率よく記憶を定着させたい人。

おすすめポイント:記憶を“再構成できる力”として捉え直す視点に救われる。忘却を恐れず、再構成を味方にする学び方を身につけられる。

関連グッズ・サービス

学んだ知識を生活に定着させるには、読書を体験的に補うツールを組み合わせるのが効果的だ。

  • Kindle Unlimited:本記事で紹介した『目撃証言』『証言の心理学』など一部が対象。通勤中や就寝前のスキマ時間で復習でき、再構成的想起を促す。
  • Audible:耳からのインプットは記憶痕跡を強化する。『記憶の心理学』の類書も聴けるため、理解が立体的になる。
  • Kindle Paperwhite 

    :長時間の読書でも疲れにくく、脳科学書の読了率が上がる。実際に使って「記憶関連書を集中して読めるようになった」と感じた。

 

 

まとめ:今のあなたに合う一冊

バートレット心理学の「記憶は再構成される」という視点は、単なる理論ではなく、私たちの生き方そのものに通じている。記憶は過去の保存ではなく、未来の更新でもある。

  • 気分で選ぶなら:『つくられる偽りの記憶』
  • じっくり理論を学びたいなら:『想起:過去に接近する方法』
  • 短時間で理解したいなら:『証言の心理学』

記憶の歪みを恐れず、“再構成する力”を磨こう。あなたの中の物語は、いつでも書き換えられる。

よくある質問(FAQ)

Q: バートレットの「再構成的記憶」とは何?

A: 記憶を過去の再生ではなく、“スキーマに基づいた再構築”とする理論。人は経験や文化的文脈に基づいて記憶を組み直す。

Q: 偽記憶は誰にでも起こる?

A: はい。質問や映像、会話の影響で、実際にはなかった出来事を思い出したと感じることは多くの研究で確認されている。

Q: 記憶力を高めるにはどうすればいい?

A: 再構成を前提に「繰り返し思い出す練習」が効果的。メタ記憶を活用して、自分の思い出し方を観察するのも有効だ。

Q: Kindle Unlimitedで読める記憶心理学の本はある?

A: 一部タイトルが対応している。対象作品はKindle Unlimitedページで確認できる。

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