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【バレット心理学おすすめ本】感情は脳がつくる【構成主義的情動理論】

感情は脳が自動的に「感じる」ものではない。実は脳が経験や概念をもとに「構成する」ものだ――。この記事では、リサ・フェルドマン・バレット博士による「構成主義的情動理論(Theory of Constructed Emotion)」を中心に、感情と脳の新しい理解を深めるためのおすすめ書籍を9冊紹介する。実際に読んで、自分の「感情」の見方が根本から変わったと感じた本ばかりだ。

 

 

リサ・フェルドマン・バレットとは?

リサ・フェルドマン・バレット(Lisa Feldman Barrett, Ph.D.)は、米ノースイースタン大学の心理学者であり、現代の「情動研究」を再構築した第一人者だ。彼女の理論は、従来の「感情は生得的で普遍的」というダーウィン以来の立場を根底から覆す。

バレットによれば、怒りや悲しみ、喜びといった感情は脳にあらかじめプログラムされているわけではない。脳は外界からの刺激を直接「怒り」として感じ取るのではなく、過去の経験や文化的知識、身体感覚、言語ラベルを組み合わせて、「いまの状態を怒りと名づける」という“構成”を行っている。これが「構成主義的情動理論」だ。

この理論は、神経科学・心理学・哲学・人工知能の領域にまで影響を与えた。情動を「推論」や「予測」のプロセスとして理解することで、AIの感情モデル、心身医学、教育、組織マネジメントなど応用範囲は急速に広がっている。

以下では、そんなバレット博士の思想を体系的に理解できる日本語訳および原書を紹介していく。

おすすめ本10選

1. 情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論(紀伊國屋書店/単行本)

 

本書は、バレット理論の中核をなす一冊だ。脳は外界を受動的に「感じ取る」のではなく、絶えず未来を「予測」し、それを検証しながら世界を構築しているという。「怒り」「悲しみ」「恐怖」といった感情は、固定された生物学的反応ではなく、脳が文脈的に作り出す“概念的出来事”だと説明される。

著者は、心理学・神経科学・哲学を横断しながら、これまで常識とされてきた「基本感情」理論を徹底的に再検討する。ダーウィン、エクマンらの普遍的情動説と比較しつつ、「感情は文化によっても異なる」という視点を科学的データで示しているのが特徴だ。

こんな人におすすめ: 自分の感情をコントロールできないと感じている人、感情を生理反応と捉えていた人にこそ読んでほしい。読後には、「感情はコントロールするものではなく、理解し直すものだ」と気づく。

バレット理論のエッセンスを初めて学ぶなら、この本から始めるのが最適だ。

2. バレット博士の脳科学教室 7½章(紀伊國屋書店/単行本)

 

本書は、子どもから大人まで楽しめる“脳の哲学入門”として書かれた短篇エッセイ集だ。7章+半章というユーモラスな構成のなかで、バレットは「脳は世界を知覚する機械ではなく、世界をつくる機械だ」と語る。

神経科学の知見を、詩的な語り口で描いている点が魅力。たとえば「あなたの脳は、あなたが眠っている間にも未来を練習している」という章では、脳がどのように予測を使って身体を調整しているかを、直感的に理解できる。

こんな人におすすめ: 専門書に抵抗がある人、科学と日常を結びつけたい人。哲学的でありながら温かい文体に癒される。

感情理論に入る前の“前菜”として読むと、脳と心の関係がぐっと身近に感じられる。

3. How Emotions Are Made: The Secret Life of the Brain(Picador/英語原書)

 

世界的ベストセラーとなった原書。邦訳『情動はこうしてつくられる』の原典であり、英語版ではニュアンスがさらに精緻に伝わる。特に「Conceptual Act Theory(概念行為理論)」という用語を通じて、感情の生成を「脳の概念化作業」として捉える視点が明確に示されている。

心理学、神経科学、文化人類学、言語学などの知見が縦横に展開され、「感情とは何か?」という問いを再定義する。 「脳が作る世界」というテーマは、哲学的でもあり、AI・教育・医療・ビジネス領域への応用にも通じる。

こんな人におすすめ: 原著で理論を直接理解したい読者、あるいは科学英語のリーディング教材を探している人。英語表現は明快で、章ごとの要約も丁寧だ。

読めば「感情」を“脳の予測モデル”として捉える感覚が腑に落ちる。

4. Seven and a Half Lessons About the Brain(Picador/英語原書)

 

『バレット博士の脳科学教室』の原書版。平易でリズミカルな英語が特徴で、一般読者向けに書かれている。 本書では「あなたの脳は、あなたではない」という挑発的な一文から始まり、脳の進化・予測・社会性を7章半で描く。

脳を単なる情報処理装置ではなく、「身体と世界をつなぐ予測エンジン」として紹介し、バレット理論の背景を理解する上で理想的な入門書だ。

こんな人におすすめ: 科学をストーリーテリングで学びたい人。高校生・大学生のリーディング教材にも最適。

読後、「脳は過去の統計から未来を構築する存在だ」という一文が心に残る。

5. The Psychological Construction of Emotion(Guilford/学術書・原書)

 

こちらは学術的な理論編。バレットとジェームズ・A・ラッセルが編纂した論文集で、構成主義的情動理論の土台となる研究が集約されている。感情を「心理的構成物」として扱うための神経生理学・概念心理学・文化心理学の実証研究が豊富だ。

特に第1章「The Conceptual Act Model of Emotion」は、バレット自身が理論を定式化した重要なテキスト。感情を「カテゴリー」ではなく「推論プロセス」として扱うアプローチが示されている。

こんな人におすすめ: 大学院レベルの心理学・神経科学を学ぶ研究者、またはAI感情認識などの専門分野に関心がある人。 難解ではあるが、理論的裏づけを深く理解できる。

学術的厚みを求めるなら、本書は必携だ。

6. Handbook of Emotions, Fourth Edition(Guilford/学術書)

 

「感情研究の聖書」と呼ばれるハンドブックの最新版。バレットは共同編集者として、構成主義的情動理論を国際的に定着させた。本書では従来の「基本感情理論」「二要因理論」「社会的構成主義」などの主要アプローチを横断しながら、脳科学の最新研究を体系化している。

バレットが担当した章では、感情を「神経ネットワークの再利用」という観点から再定義し、脳のモジュール構造ではなく、動的ネットワークの可塑性を重視している。つまり「怒りの中枢」などは存在せず、文脈によって構築されるのだ。

こんな人におすすめ: 感情研究の全体像を俯瞰したい心理学者、大学院生、研究志向の読者。 最新理論を体系的に整理したい人にも最適だ。

学問的にも歴史的にも、バレットの立場が世界標準となった転換点を理解できる。

7. The Mind in Context(Guilford/原書)

 

本書は「心は文脈の中に存在する」という構成主義的視点を深める論文集だ。バレットを含む複数の心理学者が、社会的文脈・文化的背景・認知的推論がどのように「心の内容」を決めるかを論じる。

構成主義的情動理論において、「文脈」は中心的なキーワードだ。感情は固定的反応ではなく、周囲の状況・他者の意図・言語によって形を変える。 読者は、心が社会的に編まれているというバレット理論の根幹をより広い視野で理解できる。

こんな人におすすめ: 文化心理学、社会神経科学、AI倫理など、文脈依存性を扱う分野の研究者。 「心と環境の相互作用」を探りたい人に刺さる。

一見専門書だが、理論の背景を理解するうえで極めて有用だ。

8. Emotion and Consciousness(Guilford/原書)

 

意識と情動の関係を扱う重要書。バレットはここで「意識とは感情的推論の結果である」という視点を提唱している。 意識が感情を支配するのではなく、感情こそが意識を構築する基盤だという逆転の発想が展開される。

近年の神経科学では、「意識=脳の予測誤差を最小化するシステム」と理解されつつあるが、本書はその先駆的議論を含んでいる。 構成主義的情動理論を意識研究へ拡張するうえで必読の一冊だ。

こんな人におすすめ: 意識研究、哲学、人工知能の分野に関心がある人。 フリストンやクラークらの「予測符号化モデル」と並行して読むと理解が深まる。

読めば「感情と思考の境界がいかに曖昧か」を痛感するだろう。

9. The Wisdom in Feeling: Psychological Processes in Emotional Intelligence(Guilford/原書)

 

感情知能(Emotional Intelligence, EI)を理論的に再定義する一冊。バレットとピーター・サロヴェイ(EI概念の提唱者)が編者として参加している。 感情が「賢さ」を支える認知的基盤であることを、心理学実験と理論の両面から描く。

構成主義的情動理論の視点から読むと、感情は単なる反応ではなく、「知的判断」の一形態と理解できる。つまり感情は知性の欠如ではなく、知性そのものだ。

こんな人におすすめ: EQ理論、感情教育、組織心理に興味のあるビジネスパーソンや教育者。 「感情を賢く使うとは何か」を深く考えたい人に向いている。

感情を敵ではなく味方として扱う考え方を学べる。

 

関連グッズ・サービス

学びを深めるには、読書体験を日常に広げることが大切だ。ここでは、バレット理論をさらに理解しやすくするためのツールを紹介する。

  • Kindle Unlimited ― 邦訳『情動はこうしてつくられる』の試し読み対応タイトルもあり、関連する脳科学・心理学書を横断的に読める。移動中のリーディングにも最適。
  • Audible ― 原書『How Emotions Are Made』の英語オーディオ版が配信中。著者本人によるナレーションは理解を助ける。
  • iPad

     ― 学術書PDFや英語原書を読むには電子端末が便利。マーカー機能で引用管理もしやすい。

バレット理論は読むたびに新しい発見がある。声で聴き、目で読むことで、概念が立体的に定着する。

 

 

まとめ:今のあなたに合う一冊

「感情は脳がつくる」という視点は、私たちの生き方をも変える。バレット心理学は、感情を“制御”するのではなく、“理解して構築する”ための科学だ。

  • 気軽に読みたいなら:『バレット博士の脳科学教室 7½章』
  • 体系的に学びたいなら:『情動はこうしてつくられる』
  • 専門的に掘り下げたいなら:『The Psychological Construction of Emotion』

感情に振り回されるのではなく、感情の仕組みを味方につけよう。 それが「自分の脳を自分で使う」第一歩だ。

よくある質問(FAQ)

Q: 構成主義的情動理論は初心者でも理解できる?

A: 『バレット博士の脳科学教室 7½章』や邦訳『情動はこうしてつくられる』は平易な言葉で説明されており、専門知識がなくても読める。

Q: バレット理論は他の感情理論と何が違う?

A: ダーウィンやエクマンの「基本感情理論」が感情を生得的反応とみなすのに対し、バレットは「脳が文脈的に構成する」と考える点が最大の違いだ。

Q: 原書を読むメリットは?

A: 翻訳では省略される科学的説明や比喩が理解できる。特に英語版『How Emotions Are Made』は語り口が明快で、哲学的ニュアンスも感じ取れる。

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