心の働きは脳の中だけに閉じているわけではない。手帳、スマホ、身体の動き——それらも思考の一部として機能している。哲学者・認知科学者アンディ・クラークは、この「拡張された心」の理論を通じて、人間知性の新たな姿を描き出した。筆者自身も彼の著作を読むことで、テクノロジーとの関係や「考える身体」の意味を根底から見直すことができた。この記事では、Amazonで購入できるアンディ・クラーク関連のおすすめ本を邦訳中心に紹介する。
- アンディ・クラークとは?――「拡張された心」理論の提唱者
- おすすめ本10選(前編:日本語版1〜6)
- 後編:原書5選(7〜13)
- 7. Supersizing the Mind
- 8. Surfing Uncertainty
- 9. Being There: Putting Brain, Body, and World Together Again (MIT Press, 1997)
- 10. Mindware: An Introduction to the Philosophy of Cognitive Science (Oxford University Press, 2001)
- 11. Natural-Born Cyborgs: Minds, Technologies, and the Future of Human Intelligence (Oxford University Press, 2003)
- 12. Supersizing the Mind: Embodiment, Action, and Cognitive Extension (Oxford University Press, 2008)
- 13. Surfing Uncertainty: Prediction, Action, and the Embodied Mind (Oxford University Press, 2016)
- 関連グッズ・サービス
- まとめ:今のあなたに合う一冊
- よくある質問(FAQ)
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アンディ・クラークとは?――「拡張された心」理論の提唱者
アンディ・クラーク(Andy Clark, 1957– )は、イギリス出身の哲学者・認知科学者で、エディンバラ大学名誉教授。主な研究領域は「心の哲学」「認知科学」「人工知能」「身体化された認知(Embodied Cognition)」などである。
彼の代表的業績である「拡張された心(The Extended Mind)」理論は、1998年にデイヴィッド・チャーマーズと共著した論文で提示された。これは「人間の心的プロセスは脳内に限らず、環境・道具・身体との相互作用によって拡張される」という主張である。例えばメモ帳を使って情報を保持する行為は、外部記憶として心の一部に組み込まれるという考え方だ。
この理論は、従来の「脳中心主義」を超え、AI・ロボティクス・教育・哲学など多分野に影響を与えている。特に近年の「予測処理理論(Predictive Processing)」との統合によって、心と世界の新しい理解が進みつつある。
おすすめ本10選(前編:日本語版1〜6)
1. 経験する機械 ――心はいかにして現実を予測し構成するか(筑摩書房/単行本)
アンディ・クラークの最新邦訳であり、「拡張された心」と「予測処理理論」を統合した集大成的著作。人間の脳は受動的に世界を知覚するのではなく、能動的に「未来を予測する機械」として世界を構築していると説く。思考・感情・知覚のすべてが「予測誤差の最小化」という統一原理に基づいて動いており、心のしくみを数理的に描き出している。
AIや神経科学の最新研究と哲学的洞察が交錯する本書は、まさに「脳を超える知性」を実感できる一冊。特に、自分の世界の見え方が脳の予測の結果であるという視点は、現実の再定義に等しい衝撃を与える。思考や知覚の“外側”に目を向けたい読者に最適だ。
2. 生まれながらのサイボーグ ――心・テクノロジー・知能の未来(春秋社/単行本)
人間とテクノロジーの融合をポジティブに捉えた名著。私たちはすでに「サイボーグ」として道具やデバイスを心の延長として活用している――この大胆な主張が、本書の中心にある。拡張心の理論を一般読者にもわかりやすく説明し、科学と人間性の未来を照らし出す。
クラークは、スマートフォン、義肢、AIといった道具を、単なる補助ではなく「思考の一部」として評価する。その視点は、テクノロジーを恐れるのではなく、いかに共生し、創造的に使うかという未来志向をもたらす。現代の「AI時代の人間観」を考える上で必読の一冊。
3. 現れる存在 ――脳と身体と世界の再統合(ハヤカワ文庫NF)
原書『Being There』の邦訳であり、アンディ・クラークの代表作のひとつ。心・身体・環境を切り離さず、相互作用の中で知性を理解しようとする「身体化された認知(Embodied Cognition)」の基礎を築いた名著だ。AIやロボット研究にも影響を与え、現在の認知科学の方向性を決定づけた。
本書を読むことで、「思考とは身体の延長線上にある」という感覚が掴める。抽象的な理論書でありながら、生活実感に根ざした“動く心”の描写が秀逸。科学と哲学を架橋するクラークの知性が光る。
5. 認知哲学(産業図書/単行本)
認知科学の成立から哲学的課題までを体系的に整理した邦訳入門書。アンディ・クラークの「身体化認知」「拡張された心」への言及も充実している。認知心理学・人工知能・神経科学をつなぐ文脈で、心の哲学の地平を俯瞰できる内容だ。
理論だけでなく科学史的背景にも触れており、デネットやフランシス・クリック、フッサール哲学との比較もなされる。クラーク理論の位置づけを広く理解したい人に最適。
6. 心の哲学入門(ちくま新書/新書)
クラークを含む現代心の哲学の全体像を網羅。デネット、チャーマーズ、フッサールなど主要思想家と並べて「拡張された心」論を位置づけている。思考・意識・身体の関係を多角的に紹介するバランスの取れた一冊だ。
高校生や大学初年次でも理解できる平易な文体ながら、概念は本格的。アンディ・クラークへの導入として最適な入門書であり、専門書への橋渡しにもなる。
後編:原書5選(7〜13)
7. Supersizing the Mind
2008年刊行の原書『Supersizing the Mind』。拡張された心の理論を体系化し、哲学・心理学・AI研究に横断的影響を与えた決定的著作。クラークはここで「心の限界は皮膚ではなく、行為と環境のネットワークにある」と述べる。
邦訳はまだないが、原書は比較的平易な英語で書かれており、哲学・心理学の背景をもつ読者なら十分読める内容。人間とAIの境界を問う現代の議論の原点として、読んで損のない一冊だ。
8. Surfing Uncertainty
「予測処理理論(Predictive Processing)」を中心に、脳の働きを“未来予測システム”として描く近年の代表作。世界は外から入力されるのではなく、脳が生成的に構築している――この考え方は、哲学・心理学・AIの統合的モデルとして大きな影響を与えた。
クラークの理論の中でも特に科学的で、数理モデルに基づく議論が展開される。邦訳未刊だが、筑摩書房から近刊予定とされており、今後の中心書となるだろう。意識・自由意志・現実知覚の再考に挑みたい読者におすすめ。
9. Being There: Putting Brain, Body, and World Together Again (MIT Press, 1997)
邦訳『現れる存在』の原書。クラーク理論の出発点であり、心・身体・環境の統合的理解を打ち立てた古典。心理学・AI・哲学を横断するため、英語原書としても世界中で読み継がれている。
10. Mindware: An Introduction to the Philosophy of Cognitive Science (Oxford University Press, 2001)
認知科学の哲学的基盤を解説した代表的教科書。心のモジュール論から拡張心、予測符号化理論まで幅広く網羅。英語も比較的平易で、心理学・AI・哲学を横断する研究者に必須のリファレンス。
11. Natural-Born Cyborgs: Minds, Technologies, and the Future of Human Intelligence (Oxford University Press, 2003)
邦訳『生まれながらのサイボーグ』の原書。AI・ロボット・スマート技術と人間の共進化を先取りした作品で、現代の拡張心論の象徴。英語版は引用も豊富で、学術研究に便利。
12. Supersizing the Mind: Embodiment, Action, and Cognitive Extension (Oxford University Press, 2008)
「拡張された心」理論を本格的に体系化した主著。行為と環境が知性の中核であることを示す。哲学・神経科学・人工知能研究をつなぐ転換点となった。
13. Surfing Uncertainty: Prediction, Action, and the Embodied Mind (Oxford University Press, 2016)
予測処理理論(Predictive Processing)の決定版。脳が確率モデルを用いて未来を生成的に構築するという視点を提示。AIや知覚研究の新しい枠組みを提供した。
関連グッズ・サービス
アンディ・クラークの理論を深く理解するには、読書だけでなく実践的なツールも活用したい。学びを定着させるには、サービスやデバイスを組み合わせるのが効果的だ。
- Kindle Unlimited クラーク関連の哲学・心理学書の多くが電子書籍化されており、スマホでも読める。通勤中に再読できる点が便利だ。
- Audible 哲学書を音声で聴くと理解が深まる。特に『The Extended Mind』はAudible英語版が聴きやすい。
- 長時間読書でも疲れにくく、注釈やハイライト機能が「拡張された記憶」として活きる。
まとめ:今のあなたに合う一冊
アンディ・クラークの本は、「脳を超える知性」というテーマのもとに、哲学と科学を架橋する。AIやテクノロジーの時代に、心を“拡張”して考える力を与えてくれる。
- 気分で選ぶなら:『生まれながらのサイボーグ』
- じっくり読みたいなら:『経験する機械』
- 短時間で全体像を知りたいなら:『心の哲学入門』
自分の思考をどこまで拡張できるか――その問いこそが、クラークの思想の核心だ。
よくある質問(FAQ)
Q: 「拡張された心」理論とは簡単に言うと?
A: 思考や記憶は脳の中だけでなく、身体や環境、道具にまで広がっているという理論だ。
Q: 初心者におすすめの一冊は?
A: 『生まれながらのサイボーグ』が平易で、哲学的背景を知らなくても読みやすい。
Q: 英語原書を読むならどれが入りやすい?
A: 『Natural-Born Cyborgs』か『Mindware』が比較的易しく、読みやすい文体だ。
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