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狼犬の生き様が描かれたおすすめ本

2016年、アメリカのアリゾナ州で一人の男性が愛犬を前に頭を抱えていました。子犬の頃からきちんと飼育していたが、男性以外の人間にまったく懐かない。男性には従順で大人しいが、躾をしても家中に排泄をし、他の犬の仲間を求め頻繁に脱走を繰り返す。普通の犬なら到底越えられないような高い塀を飛び越えてもです。
近所の苦情もあり、困り果てた飼主家族は動物愛護施にその「犬」を連れて行きました。

 

ウルフドッグ(狼犬)

そしてやっと、何故彼がこんなにも他の犬と違うのか判明しました。
その犬は「ウルフドッグ(狼犬)」、犬と狼の混血でした。

狼犬は野性みが強く、警戒心も強い生き物で、簡単に人を信用することはありません。アリゾナ州では特例を除き飼育が禁止されていた為、件の狼犬は狼犬の保護施設に引き取られました。日本でも2015年に躾が不十分だった狼犬が飼い主を噛んで死亡させる事件が起こっています。
躾が行き届けば他犬種よりはるかに強い絆を築くことができますが、簡単に一緒にいられる生き物ではないのです。
しかし、狼でも犬でもない孤高の存在が、人と歩み、時には牙をむき、そして寄り添おうとする姿を見ると心打たれます。

ここで紹介する狼犬の名は、「犬神」「疾風」そして「白牙」。

どの狼犬達にも象徴されるのが、その存在の「寂しさ」。ひたむきな愛情を注いでくれる犬とはまた違う、狼犬の魅力が詰まったオススメの本をご紹介します。

 

「ベルカ、吠えないのか」

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)

「ベルカ、吠えないのか」(古川日出男著)。これはヒトの傍らで生き続けたイヌ達の壮大な叙事詩であり、そのまま人間たちの20世紀の歴史です。
「イヌよ、イヌよ。今お前は何処にいる」
呼びかけられるのは第二次世界大戦で日本軍に置き去りにされた4頭の軍用犬、そしてその血筋を受け継ぎ、国境も人種も闘争も乗り越え広がっていくイヌ達。その中で異彩を放つ狼犬がいます。彼の名前は「犬神(アヌビス)」、血統に連なる母犬と、狼の父の間に生まれた彼もまた数奇な運命をたどります。愚かな人間の橇犬とし生を受させられた彼が何故「犬神」となったか。孤高の彼が何故最後に人の声に応じたか、そしてその時飛び越えた壁は、赤い星を掲げた国の手によるものだったのは何故か。時代の大きな流れの中、疾走していく狼犬の物語をご覧ください。
「ベルカ吠えないのか」はイヌ達の壮大な叙事詩であり、そしてそれは人間の20世紀、戦争の世紀の物語でもあるのです。
大学生になり、20世紀以降の近代史をフランクに学び直したいという方にもぜひオススメです。

 

「凍える牙」

 

凍える牙 (新潮文庫)

狼犬が事件の真相を握るのは、1996年発行の「凍える牙」(乃南アサ作)。深夜のファミリーレストランで突然男が火だるまになり焼死。その遺体には、獣の牙のものと思われる傷跡が残されおり、その後次々と同じ獣のものと思われる咬殺事件が発生。女刑事はベテラン刑事と捜査にあたり、真相に迫ります。
この物語で最も美しい生き物は、間違いなく狼犬「疾風」です。思慮深く、気高く、威厳のあって美しい姿は、主人公である貴子の心を掴んで離しません。終盤で描写されるバイクに乗った貴子が疾風を追跡するシーンは、狼犬の運動能力の高さ、美しさを見事に描写しています。そして最後に疾風が迎えたエンディングも、狼でもなく犬でもない、その孤高の存在故の決断である言えるでしょう。

狼王ロボを彷彿とさせる彼が何故その終わりを迎えたのか。それこそが「人である飼い主から与えられた務めであったから」という「犬」としてのものだったことが、寂しくも美しい結末として描かれています。
また、主人公の女刑事が警察という男社会で生きていく中で抱えるジェンダー的な悩みも読みどころです。社会人としてふるまう息苦しさ、女性ゆえの仕事上の悩みなど、20年近く前の小説ですが読みごたえがあります。

 

「白い牙」

白い牙 (新潮文庫 (ロ-3-1))

最後に、名著「白い牙」。米国の作家、ジャック・ロンドンが1906年に発表した小説です。
時はゴールドラッシュに沸く米国、そしてこの小説の主人公は狼犬「白牙(ホワイト・ファング)。老オオカミの父と狼犬の母の間に生まれた狼犬です。厳しい自然の中で生まれ落ちた彼は、やがてネイティブ・アメリカンの橇犬になります。しかし狼の血を引いている為、橇犬達から爪はじきにされます。圧倒的な力で犬達を屈服させるものの、そこで選んだのは犬達のリーダーになることではなく、群れに馴れ合わない孤高の道でした。橇犬として生きる為には「神」である人間に逆らわず働けば良い訳で、橇犬達と馴れ合う必要はないのです。白牙の中には「強者のルールに従い生き抜くこと」というルールだけがあり、愛も情も不要でした。体の中に冷たいルールだけを宿したまま闘犬として売られ、そこで瀕死になるまで戦わされます。
しかし、人間への激しい憎悪を募らせながら死にゆく彼を救ったのも、また人間でした。犬の群れにも入れず人にも愛されたことのなかった白牙が、「愛の主人」ウィードン・スコットに心を開いていく様は、犬を飼ったことがある人ならば読むだけで幸せになれるページばかりです。甘える仕草も知らず育った冷たく気高い狼犬が、本当に愛された主人の為に生きていく姿を見てください。

 

さいごに

狼犬3頭の物語は、それぞれがまったく違う生き様です。

人に寄り添わず、犬と群れず、しかしそれでも誰かと何かと寄り添い合おうとする、寂しく気高い狼犬達の物語、是非楽しんでください。

 

 

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